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フロンティア ヴュー 2/3

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第10章 Blue eyes Ultimate dragon
 
 
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、ヴリドラを撮影した写真をシボラの国家神アテムに売りつけた後、「いざ追跡開始!」と飛び去って行った。

 アテムは戻る前に近くの集落に立ち寄り、小さな椅子にどっかと座って、屋外の粗末なテーブルに広げた写真を眺めていたのだが、そこへ、後を追ったセルマ・アリス(せるま・ありす)がアテムを訪ねた。
「大穴への調査の際には、加護をつけてくださりありがとうございました」
「なんの」
 礼を言ったセルマにアテムは笑う。
 大穴がナラカに繋がったままだということは確認できた。
 それは変わらず懸念事項だが、今はそれよりも、大穴から出て来たヴリドラという龍の存在が気になり、アテムを追ったのだ。
「あの時アテムさんは『八龍』と口にされていましたが……。
 八龍について俺は、パラミタを護る存在であることくらいしか知らない。
 もう少し、詳しい事情を聞いても構いませんか?」
「わしも大したことは知らんぞ」
 アテムは肩を竦める。そこへ、
「アテム様ですか?」
 此処に彼が居ると聞いて訪ねて来た、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が声を掛けた。
「そうじゃが」
 答えに、詩穂は一礼する。
「あの、シボラから八龍が出現したと聞いて来たのです。
“青眼の究極竜”と呼ばれているとか……。
 それは、何か他の八龍とは一線を画すような特徴があるのでしょうか?
 もしよろしければ、他の八龍についても、ご存知のことをご教授願えないでしょうか」
 詩穂は、そう言って、パートナーの清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が持つ、龍覇剣イラプションをちらりと見た。
 それは、八龍の力が込められていると謳われる剣だ。
「ふむ……」
「もしも八龍が存在するのなら、目覚めさせてみたいんです。
 パラミタを守護する力を持つのであれば、パラミタの危機に対抗できる力を持っているのではないでしょうか?
 可能性に賭けてみたいんです」
 ドージェがパラミタを支え、大陸崩壊の危機は去ったとはいえ、先日、ナラカで現れたソウルアベレイター達や、ヴァイシャリーに現れた光条世界の者達……と、故石原肥満が予見していた通り、パラミタに新たな危機が訪れつつある。
 地球側と繋がっているが故に、より不安定だったシャンバラを支える為に祈りを捧げ続けていたシャンバラの女王アイシャも、未だ外に出てきていない。
「うーむ」
 アテムは唸った。
「ひとつ訊きたいんじゃが、大穴付近の地震は、龍頭事件の影響が続いとる、とわしは思っとったんじゃが、シャンバラの認識は違うんか?
 何か色々動いとるようじゃが、わしの知らない情報を持っちょるんなら、教えて欲しいんじゃが」
 パラミタの世界樹、そして聖剣のことは、アテムは知らないようだった。
 この件は、シャンバラが、冒険者の一個人として非公式に動いているとしていることだから当然かもしれない。
 詩穂は、世界樹や聖剣を得る為に、巨人族の秘宝を探していたことを、アテムに説明した。
「時に、シボラの世界樹アウタナは、コーラルネットワークに加入するというご検討はされておりませんか?」
 詩穂のパートナー、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が訊ねた。
「うん? 勿論入っとるが」
 パラミタの世界樹は、全てコーラルネットワークに属している。
 それは、かつて化石樹であったアウタナも同様だ。
「そうでしたか」
 セルフィーナは頷く。
「それはともかく、八龍じゃろ」
 青白磁が話を戻した。
「そのヴリドラちうのが、ポータラカを守護してた八龍ということでいいんじゃろ。
 それがナラカから上がって来たのは、どういう意味があるんじゃ?」
「八龍……って、どのような危機に対して、どのようにパラミタを護る存在なんですか?」
 セルマのパートナー、ゆる族のミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が訊ねた。
「八龍ってことは、八体いるってことだよね……。
 シャンバラの八龍はオープン……まさか、ティフォン学長のこと……?」
「何じゃい、知らんかったんか?」
 アテムはあっさり頷く。
「ワシも全員知っとるわけじゃないがの」
「じゃあ……あと思い当たるのは、カナンのティアマトさんとかくらいだけど……」
 うむ、とアテムは頷く。
「シボラの八龍さんは?」
「今は何処にいるのやらじゃのう。
 動けん八龍もおる。価値観が違う奴もおるじゃろうし、味方にはならん奴もいるじゃろ。
 期待せん方がええじゃろな」
 と、アテムは詩穂に向かって言った。
「最近も、八岐大蛇が暴れたそうじゃしの」
「八岐大蛇!? あれも八龍だったの!?」
 詩穂は目を見張った。
 ツァンダでその名の龍が暴走した件は、耳に入っている。
「連中にも、色々あったし、色々あるんじゃ。
 ずーっと長い間、パラミタを護って来た年月の間にはのぉ」
 アテムは言った。
「では……ヴリドラは?」
 セルマが問う。
「アテムさんのご存知の範囲で教えてください」
「遥か昔、ニルヴァーナの技術で生み出された龍、だとは聞いとる」
 セルマは、まるで映像のようだったあの容姿を思い出す。
「ポータラカの民も、ナノマシンで形成されていると言いますし、それに近いのでしょうか……」
 ポータラカが崩落した時に、ナラカに渡ったのだろう、とアテムは言った。
「それは、崩落に巻き込まれてそうせざるを得なかったのか、それとも自らの意思で降りて行ったのでしょうか?」
「解らん。
 奴がポータラカを見捨てたのか見捨てられたのか、護れなかったのか、護らなかったのか、わしには、何もな」
「アテムさんは、ヴリドラが何処に飛び去ったのか、思い当たるあてはありますか?」
 アテムは首を横に振った。
「目的があるのか、誰かに呼ばれたのか、ナラカに飽きたのか……。
 わしにはさっぱりじゃのう」
 そうですか、とセルマは答える。
 何にしろ、嫌な予感しかしなかった。