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リアクション
カサンドロスと刀真との戦いが、一方的に終わる。
ゆかりの銃撃は全く通用せず、刀真は諦めずに、月夜の身体から、覚醒光条兵器を抜き取る。
「野蛮だな。遺跡が傷んだりしないといいが」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が溜息をついた。
「何であの人、あんなに俺達に敵意を向けるんだろう……」
相手が敵意を見せているからと言って、こちらも即座に敵対行動、というのは早計過ぎるとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も思ったが、話し合いが出来る状態ではないとも確かに思った。
仕方なく、カサンドロスの相手は彼と戦うという人に譲り、エースは彼が連れていた娘を見る。
「あの人に話を聞こうか。
可愛いお嬢さんには花を渡したいし、名前も知りたいしね」
やれやれ、とメシエは肩を竦めたが止めなかった。
「こんにちは、可憐なお嬢さん。俺はエース・ラグランツ。あなたの名は……」
自己紹介をして、名前を聞こうとしたエースの喉元に、剣先が突きつけられる。
もう一人いた。気配に全く気がつかなかった。
「悪いね」
ぎょっとして固まったエースとメシエに、その男は笑う。
「別に殺すつもりはないんだけど、今のところ何か敵対してるみたいだからさあ。
味方じゃないってことで」
「あ、あのっ、トゥレン……」
「あー、気にしない気にしない。ま、でも後でうるさいからね」
何か言いかけた娘に軽薄に言って、トゥレンは剣を引く。
「でもちょっと待ってね」
と、ひらひら手を振りながら、歩み出して行った。
「ジールって言うんだね」
ようやく事が収まって、改めて、エースはジールに話しかけた。
「ええ」
「改めて訊きたいんだけど、この先に何の用事があるの?
ちなみに俺は、パラミタの世界樹に興味があるんだよね。植物が好きなの」
「私は……聖剣を得る為に」
ジールは、ぎゅっと拳を握り締める。
「聖剣?
でも、君剣士じゃないよね。この人達が使うの?」
エースは、傍らのカサンドロスとトゥレンを見る。
ジールの護衛として居るらしいカサンドロスは、不機嫌を隠しもせずにそこにいて、居心地が悪いと言ったらなかったが、おろおろするジールの傍にはトゥレンも居て、彼等を取りもっている。
「副団長、ジールが思いっきり困ってるんですけど、その仏頂面やめてくんない」
「嫌なら帰れ。止めぬ」
「冗談でしょ。
副団長と二人じゃジールが可哀想だから一緒にいてやってんじゃん、っていう状況が正に今でしょ」
トゥレンはケラケラ笑って、都築達を見た。
「昔ね、皇帝候補が二人出る、って予言があったんだって。
それは前の皇帝の時に出るだろう、って話だったんだけど、結局出なかったんだよね。
で、でアスコルド帝が即位した」
「もしかして、その時の、もう一人の皇帝候補が、この人なのか?」
都築の問いに、ジールは頷いた。
「だって私は、まだ十三歳の子供だったし、アスコルド様はとても強い皇気を持ってて、私なんかが太刀打ちできる人じゃなかったもの」
名乗りを上げることもなく、ひっそりとジールは身を引いた。
それは正しかった、と今でも思っている。
「でも今回、新しい皇帝候補が二人出たって聞いて、そんなの嘘だって思って……。
だって予言の「もう一人」は私なのに。
しかも、二人とも、まだ子供だって……」
かつて、自分だったかもしれない光景が、今そこにある。
もしかしたら自分が皇帝だったかもしれない、という思いは、完全に消えることなくずっと、心の奥底で燻っていた。
それが、今回のことで一気に膨らんでしまった。
勿論皇帝ではなく、正式な皇帝候補でもなかったジールは、普通の人間に過ぎない。
それは衝動的な思いだったが、運命が皇帝候補に選ぶほどの潜在的な力は、かつての皇帝を、ナラカから召喚してしまったのだ。
かつて、この国に二人の皇帝候補が存在した時代の皇帝を。
「龍神族の谷でジールを見つけた龍騎士が、マザードラゴンに引き会わせてね。
マザードラゴンも何か、精神に干渉してくるような、チリチリするものを感じてたらしいよ。
んで、谷で暇してた副団長を護衛につけて、聖剣取って来いって言ったんだって。
とりあえずマザードラゴンが知ってる、ジールでも皇帝を何とかできそうな方法の心当たりってのが、聖剣取ってくることだって」
「マザードラゴンとは?」
メシエが訊ねる。
「八龍って知ってる?
エリュシオンの八龍、エギドナって言うんだけどね、一万年以上前の戦争の傷が未だに治らなくて隠居中」
一万年以上前ということは、ニルヴァーナが滅びたあの戦争の時、ということだろうか。
「成程……」
「そういうワケなんで、最優先は、聖剣入手。
副団長、契約者殲滅してる場合じゃないんですー」
呉越同舟、ということか。
思うところはあるようだが、これ以上カサンドロスがこちらを攻撃して来ることはなさそうだ。
都築達の方に、彼等と共にいるメリットは無いわけだが、断れば、或いは被害が出ることになるのだろうか。
「何故、シャンバラの契約者をそんなに敵視するんだ?」
彼等の深い事情を知らない某が訊ねた。
「それはねー、まあ色々あるんだけど、シャンバラの契約者に部下とか龍とか殺されたから」
完全に無視するカサンドロスの代わりに、トゥレンが答える。
カサンドロスの乗る龍は、他の龍騎士の龍よりも上位種だった。
そして、死んだ時には、故郷である龍神族の谷に転移するようになっていた。
国境の防衛戦で深い傷を負ったカサンドロスは、その後谷に戻り、自分の龍の骸を探し出して弔い、そのままそこに留まっていたという。
「まあ攻めたのこっちだし、そんなのお互い様だと思うだろうけど。
解ってても、はいそうですね、って思えるようには出来てないんだよね。
ま、この人には近づかないでくれればいいから」
過去の遺恨、ということか。それは厄介だな、と某は思う。
トゥレンの言う通り、人の感情とは、理屈だけで片付けられるものではない。そんなことは解っている。
「……だからって、契約者ってだけでいきなり敵意向けられてもなあ……」
ぼそり、と康之が某に囁いた。
とばっちりもいいところだ。全く歯が立たなかったのもむかつく。
龍騎士とは、こんなにも強いのか。いや、彼等の部隊は解体されて、今は彼等は龍騎士ではないそうだが。
「やれやれ。本当にエリュシオン勢が出てくるとはな」
都築の小さな呟きを、ぎりぎりで追いついた叶白竜が拾った。
「少佐?」
おっと、と、都築は人差し指を口元に当てて声をひそめる。
「……立場上はな、最優先は『世界』にしろって話だが、やっぱり、世界を救う聖剣があるって聞いたら、純粋に欲しいと思うだろうが」
「それは、そうかもしれませんね」
「折角『冒険者』をやってんだ。
建前云々は置いといて持って帰りたかったんだが、どんなもんかな」
都築は肩を竦めて苦笑した。
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