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フロンティア ヴュー 2/3

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第11章 dwarves
 
 
 ドワーフ達から情報を得る、という名目で、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、巨人族の遺跡、アンドヴァリの所に留まった。
 本音はといえば、技術屋魂がうずうずと疼き、話が聞きたかっただけであるが。
 他にも叶 白竜(よう・ぱいろん)が、情報を整理する為に残っている。

「ところで、この遺跡はとても古い時代のものだと思いますが、その間ずっとドワーフさんの一族が管理を?」
 遺跡補修の手伝いをしたいと申し出て、ドワーフ達の仕事を手伝いながら、アリーセの問いに、アンドヴァリは、まあそうじゃの、と頷いた。
「管理というほどのものでも無いがの。
 折角作ったものじゃ。壊れたら直したいじゃろが。まあ趣味の一環みたいなものじゃが。
 巨人族の建築は、殆ど失われてしまったからのう。せめて遺っているものくらいはの」
「ドワーフさんの寿命ってどれくらいなんです?」
「んー、そうじゃなあ、大体二百年くらいかのう」
 わしはもうちょっと長生きしとるがの、とアンドヴァリは笑う。
「……では、アルゴスという名の巨人に心当たりはありますか?」
「アルゴス? うーむ、いや、ワシは知らんが……。巨人族?」
「はい。最近知り合いました」
「ほお。まだ生き残りがおったのか! それは是非会ってみたいものじゃのう」
 残念ながらアルゴスは、現在シャンバラで収監中だが。
 アリーセは、シャンバラに来た時には面会手続きを取りますよ、と言った。



「こんな時の白竜は、軍人というより地質学者の顔だなあ」
 それにしても、と世 羅儀(せい・らぎ)は、白竜の様子を見て、苦笑まじりの感想を抱く。
「遅れて此処に到着する者が居るかもしれない。
『門の遺跡』に移動という旨の情報が伝わるよう、周辺の集落の人達に伝言を頼んでおきましょう」
 自分達が、巨人族の遺跡を荒らしに来たわけではないことを伝え、彼等が不安がらないよう、配慮もしておかなくてはと思った。
「後続への伝言?
 そんなもん、此処に来た連中にはわしが伝えてやっとくのにのう。
 わしらは此処を直し終わるまで居るが、お前さんら、後続を待ってやっとる場合じゃなかろうに」
 白竜の根回しを聞いて、アンドヴァリは、そんなことを言う。
「できれば、音叉の音のデータが欲しいんですが……」
 白竜は、巨大な音叉を見上げて言った。音叉から直接放たれる音と、脳裏に伝わる音は違うような気がする。
 耳から聞こえるのは音なのに、脳裏に伝わるものは“歌”なのだ。
「まあ、気持ちは解るがの。
 地球には、こんな時にぴったりの、素晴らしい格言があるじゃろが」
「格言?」
「『考えるんじゃない。感じるんだ』!」
「……それは格言ではありませんが」
 このじいさん、地球に旅行に行ったことがあるそうだが色々何やってたんだろう、と羅儀は思った。

 周辺の集落を当たる際に、音叉の音に関する伝承も得られないだろうかと考える。
 羅儀は、交渉材料として、双眼鏡やバンシー印の水筒を持って、彼等が興味を示すようなら、それを渡す。
 もしもの時の為に、インフィニティ印の信号弾も、使い方を教えた上で預かって貰った。
 ドワーフ達にも何かお礼として渡せるものがあればと必要物資を訊いてみたが、
「必要なものは自分で調達するから構わんよ」
と返事が返る。
「では、ヒラニプラにあるジャンク街にお誘いします。
 きっと満足していただけるのではないかと」
 アリーセがそう言うと、目を輝かせて興味を示した。
「面白そうじゃの。
 此処が済んだら行くから、その時は案内を頼んでいいかの」
 歓迎します、とアリーセは請け負った。



「アンドヴァリやー。客人じゃぞーう!」
 ドワーフの一人が声を張り上げている。
「後続かの?」
 と言いながら向かって見る。
 訪れたのは、黒龍騎士リアンノンだった。黒崎 天音(くろさき・あまね)も、それに同行している。
「アンドヴァリ老でいらっしゃるか」
「そうじゃが、老人呼ばわりはやめて欲しいのう。
 これでもわしは、未だに若い女に目が眩んで失敗しておるピッチピチのピ――歳じゃぞ」
 フォフォフォと笑うアンドヴァリの冗談に表情を変えず、リアンノンは一礼して名乗る。
「私はリアンノンと申します」
「反応せいよ。つまらんのう」
 アンドヴァリはぶちぶちとむくれる。
「貴殿は、かつて巨人族と共に、皇具の精製にも携わったとか」
「そんな時代もあったかの。まあ、手伝った程度のものじゃったが。
 それにわしが手伝った皇具は、ひとつだけじゃよ」
「……皇剣レーヴァティン」
 リアンノンは呟く。
 へえ、と、興味深く二人の話を聞いていた天音がアンドヴァリを見た。
 アリーセは呆れた顔をする。
 少しだけ長生きしているとはよく言ったものである。
 巨人族隆盛の時代に生きていたのなら、現在彼は、軽く四桁の齢を重ねているはずだ。
「現在、その持ち主であったリューリク帝が、皇帝の墓場を出奔された。
 レーヴァティンも、あの御方の手にある」
「……そりゃあまた、大層なことになっとるのう」
「我々にはお止めできなかった。
 ミュケナイの選帝神殿に助力を頂いているが、リューリク帝を連れ戻す、確実な手が欲しい。
 協力して頂けないだろうか」
「そんなことを言われてものう……」
 うーむ、とアンドヴァリは考え込む。
「アレを使ったらどうかね。
 アンドヴァリじーさん、いつだったか、指輪を作っとったじゃろう」
 話を聞いていた別のドワーフが、何かを思い出す。
「おお。『力の指輪』か。しかしあれは、ローレライの人魚達にやってしまっての」
「やってしまった?」
 ドワーフ達はゲラゲラ笑い出す。
「色香に惑わされて、まんまと騙し取られたんじゃろうが!」
「『力の指輪』?」
 天音が訊ねた。
「そうじゃ。
 それをリューリク帝の指に嵌めれば、皇帝の力を封印して連れ帰ることができるじゃろう」
 アンドヴァリの説明に、アリーセが首を傾げた。指に嵌める?
「……それって、『誰が猫の首に鈴を付けに行くのか』という話になるのでは?」
「おお! 上手いこと言うのう!」
 ドワーフ達は、ぽんと手を打つ。
 そこは感心するところだろうか。アリーセと天音は顔を見合わせる。
「ローレライの人魚が、それを持っているのだな?」
 そう確認するリアンノンは、指輪を入手するつもりでいるのだろう、うむ、とアンドヴァリは頷いた。
「しかし、人魚の棲処は川底だしのう。
 しかも人魚どもは、綺麗なもの好きで嫉妬深い。お前さんのような美人が行っても、敵対されるだけじゃろうのう」
「それで、あなたの指輪も欲しがったということなのかな」
 天音が問うと、うむ……とアンドヴァリは言葉を濁す。
「じーさんちやほやされてすっかり鼻の下をのばしおってのー。
 じーさんデレデレして貢ぎまくってのー。
 しかし連中、指輪を手に入れた途端にポイじゃ。
 まあわしらのようなドワーフなど、人魚の美意識じゃあ目の端にも写らんじゃろうしのー」
 周りのドワーフ達が、笑いながら囃し立て、内の一人がリアンノンにある物を渡した。
「これを持って行くといいぞ」
「……これは?」
 それが何だかリアンノンには解らない。
 天音達には解った。が、何故ここにこれが出てくるのかは解らない。
「……メガホンに見えるんだけど」
 それは、メガホン型マイクだった。
 うむ、とそのドワーフは頷いた。
「お前さんら、水中を自在に動ける方法があるのなら不要じゃろうが、無いならこれを使うといい。
 ほれ、これが取扱説明書じゃ。
 効果は一時間ほどしか持たないから、気をつけるんじゃぞ。
 それと、一回使ってしまうと、自然チャージで魔力の充填に半年かかるから、一回しか使えないものと思った方がええの」
「有難く、拝借する」
「指輪はの。二層になっておって、金を下に嵌めると力を与え、銀を下に嵌めると力を封じる。
 皇帝相手にどれくらいもつかは解らんが、皇帝の左手を捕らえたら、銀を下に嵌めて力を封じれば、連れ帰ることができるじゃろ」
 アンドヴァリの言葉に、リアンノンは頷いた。
「ご助力に感謝する」


「もうひとつ、訊きたいことがあるのだけれど」
 話が終わるのを待って、天音はドワーフ達に、最近の地震を起こしている原因である、ウラノスドラゴンの話をした。
「ウラノスの嘆きを鎮める方法を探っているのだけど……」
 ウラノスの嘆きが、対の存在であるアトラスを喪ったことによるものなら、それを鎮める為にはどうしたら良いのだろうか。
 その方法を求めて、天音は此処へ来たのだった。
 口頭の説得しか方法を持たないのは不安が残る。手は複数用意しておきたいと思った。
「ウラノスの嘆きを鎮める為のアイテム、なんて作れないものかな。
 一度限り使用可能、というもので構わないのだけど」
 もしも使えるなら、と天音は、アトラスの灯や、ルーナサズにて『龍王の卵』を削りだした、龍鉱石なども持参しているのだが。
「うーむ……」
 アンドヴァリは難しい顔をした。
「そいつは、わしの手には余るのう……」
 どんな物を作ったらいいのか見当もつかん、と言う。
「わしはあそこに行ったことは無いしのう」
「駄目か……」
 天音は残念そうに呟く。
「ウラノスに介入する第三者の存在、というのも気になっているのだけどね……」