リアクション
15 サルヴァの置き土産 結論から述べよう。この戦いにおいて契約者たちはヒューベリオンにダメージを与えて活動を一時的に停止させることには成功したが、この巨人を倒しきることはできなかった。 このヒューベリオンに対して戦いを挑んだのは【星小隊】の4機。そして【疾駆】の朝霧 垂(あさぎり・しづり)とライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)の搭乗する黒麒麟と同じく【疾駆】の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が動かす魂剛。そして万が一の時のための抑えの切り札としてその戦力を完全に温存していた桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)とエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の操るセラフィート・セカンドだった。 この7機だけがヒューベリオンに立ち向かった。 無論他のイコンも仕事をしていないわけではない。撤退する米軍を支援するために再び反転攻勢をかけてきたコープスやダェーヴァの怪物たちを必死に押し留めている。ことここに至って、米軍の最優先の目標は一人でも多くの解放された捕虜達を無事に連れて帰ることになり、基地の占領や敵の殲滅は軍事的な目標としては完全に放棄されたのだった。 「とんでもねぇ隠し玉が出てきたな……だが面白ぇ! 【星】小隊、ヤツを抑えにいくぞ!」 『了解』 「司令部、覚醒……ヴィサルガの使用許可を!」 シリウスは司令部に覚醒許可を求める打診するが、今回は準備ができていないということで許可はおりなかった。 『あれを相手に時間を稼げだって!? ……ったく、無茶を言う!』 『とりあえずギガースをだいたい駆逐できていたのは、僥倖ってやつかな。隊長、こんなとこでリアイアはもったいない。ぜひ、みんな無事で帰ろうよ』 朋美がシリウスにそんな言葉を掛けると、シリウスは少し落ち着いたようだった。 『私があの機体? とにかくあの巨人の体勢を崩します!』 そう言って結は高機動で加速しつつ動きまわると、超空間無尽パンチでヒューベリオンを殴りつけようとする。だが、ヒューンベリオンは炎と光で包まれた拳でそのパンチを迎え撃つ。 「うそ! 止めた……?」 無尽パンチは、動きを止められる。さらにヒューベリオンの拳の熱量によって拳が融解を始める。 「いけない! 戻して!!」 美桜の叫び声を聞いて、結はとっさに無尽パンチを引き戻す。 「ええーい! でかいのがなんぼのもんじゃい!! こちとら初陣の相手がインテビショップだったんじゃこらー! 今更あんたなんか怖くないわー!」 そんなふうに叫ぶのは、ダスティシンデレラの通信や索敵を担当するマイだ。 「帝国製魔導フィールド展開。アンチビームファンも! 近づくよ!」 そして、ダスティシンデレラはウィッチクラフトライフルを打ちながら徐々にヒューベリオンと距離を詰める。 それに合わせて朋美のウィンダムもウィッチクラフトライフルと精神感応を利用しながらの有利な位置取りを行って遠距離からの射撃を行いながら援護をする。それは、機体の性能の差が戦力の決定的の差ではないということを体現するような動きだった。 ダスティシンデレラはヒューベリオンに十分に近づくとブレードビットで牽制しつつグラビティコントロールをヒューベリオンに仕掛ける。 「その図体なら、これは辛いでしょ!!」 実際、グラビティコントロールはヒューベリオンの動きをかなり阻害しているように感じられた。 「突如現れた敵の切り札! それを倒す為に戦うあたしら! く〜燃えてきたぜ!」 エヴァはそんなことを言いつつもヒューベリオンの性能や行動パターンを分析する。 すると、若干ではあるが再生能力があることがわかってきた。 その再生能力は超再生、などというほど急速に再生するものではなくゆっくりと、少しずつ回復するというもので、現状では回復力以上のダメージを与えることには成功しているが、エヴァはそれを厄介だと感じたようだった。 『ヤツの再生能力を打ち破るには動きを止めて全員の火力を集中するしかない。そのために俺たちがヤツに一撃入れて動きを止める、後は頼むぞ皆』 連はそんな通信を入れるが、旗艦の方から勝負を仕掛けるのはもう少し待つように通達を受ける。 『何かさらに隠し球を持っていると危険なので、撤退が終了するまではこのまま攻撃を続けつつ時間を稼いでください』 そんな指示を受け、連は戦闘方針を変更した。 だが、ゆっくり戦っているうちにヒューベリオンの周囲の熱量が次第に高まっていた。 「あれは……嫌な予感がするな」 そう呟くのは垂で、その予感に現実性を加えたのはライゼだった。 「まずいよ垂! あいつ大統領を狙ってる!!」 それを聞いた瞬間の垂の決断と行動は早かった。 エナジーバーストと嵐の儀式。そしてアンチビームファンを同時に展開し、実弾の多い敵兵器からの攻撃を防ぐためのによるトリプルシールドを展開すると、漆黒の麒麟はダェーヴァを蹴散らしつつヒューベリオンと大統領のレッドグリフォンの間に位置を取る。 「間に合った!?」 そう。垂は間にあった。それ故に大統領とハイナを救うことはできた。だが、その代償は大きかった。 ヒューベリオンの目から、膨大な熱量の――バロール以上の――光線が発射される。 『大統領、ハイナ! 逃げて!!』 垂の必死の叫び。 それは、黒麒麟の装甲が溶かされながらの通信だった。 大統領とハイナが逃げ始めることには、黒麒麟の半分以上が溶け始めていた。 『垂!!』 唯斗の叫びも、ただ虚しく響くだけだった。 「くっ……脱出するよ!」 垂は脱出装置を作動させると、ライゼとともに黒麒麟から脱出をしたのだった。 『スター3! 救助に回れ!』 シリウスは第二世代であることも勘案して、朋美に垂とライゼの救助を支持する。 『了解!』 「……ちっ! こいつは厄介だ。全力で行くぞ!!」 唯斗は紺色の鎧武者の姿のイコン、魂剛を操縦すると、対ギガース戦では温存していた神武刀・布都御霊をスラリと抜き放つ。 艦載用荷電粒子砲以上の威力を持つその刀は、鍛冶師達がインテグラルの話を聞きパラミタとニルヴァーナの未来を斬り開く為に種族を超え総力を結集して鍛え上げた至高の一振りだ。 「抜けば玉散る氷の刃……ってか。だが、それじゃまだ生ぬるい! ナカラ送りにしてやるよ!!」 そして、ヒューベリオンの攻撃をかいくぐりながら切りつけたその一太刀は、右腕を肩ごと切り落とす。 だが、ヒューベリオンの細胞は磁石のように切られた腕を求めてゆっくりと伸びて結合させる。しかし、ヒューベリオンの再生力では結合させたはいいもののまだ使いものにならないようであった。 「今しかない!」 そう覚悟を決めたのは煉で、煉も唯斗と同じように神武刀・布都御霊を抜き放つ。 そして高度をひたすらに上げる。 『スマンがやつを釘付けにしてくれ!』 『星小隊、了解!!』 そして、星小隊がヒューベリオンに総攻撃を仕掛けている間に煉はセラフィートが上昇できる限界硬度まで上昇する。 十分な高度を得たところで布都御霊を大剣モードに変更すると、機体にブーストを掛けて急速に降下しつつ、自由落下による位置エネルギーも加えた渾身の一撃を、ヒューベリオンに放とうとする。 無論、敵も黙ってはいない。 ヘリコープスと戦闘機コープスからの空対空誘導ミサイルが豪雨のように降り注ぐ。それは飽和攻撃という言葉すら生ぬるいほどにセラフィートに襲いかかる。不屈の闘志、回避上昇、そしてブレードビットやレーザーマシンガンによる迎撃で、それらを何とかかいくぐろうとする。 少なからぬダメージを受けつつも、セラフィートはヒューベリオンに到達する。 「これが俺たちの……乾坤一擲の一撃だ!」 その一撃は、ビューベリオンの上半身の胸の部分までを切り裂くことが出来た。だが次の瞬間、ヒューベリオンの目から再び光線が発射される。 狙いは―― 『大統領!!』 とっさに反応したのは唯斗だった。何をどう操作したのか、本人ですら覚えていないほどの懸命の操作で魂剛を動かし、大統領の盾となる。 さらには本能的に脱出装置を作動させ、大破する直前の機体から、命からがら脱出するのだった。 『キヒヒヒ……ミーのヒューベリオンをここまで破壊するなんて、オリジンの連中もなかなかやるようだねえ! 褒めてあげるよ!』 突如、空中に立体映像のサルヴァが現れて、スピーカーか何かの音声で戦場全体に聞こえるように話しかけ始めた。 『まあ、大統領は返してあげるよ。クローンも順調だし、【例の装置】はミーの手元にあるしね! それに、オリジンの兵器のデータがたくさん採れたから、今のミーはと〜っても機嫌がいいんだ。お礼に君たちにはプレゼントをあげよう』 サルヴァがそんな風に宣言すると、撃破したはずのコープスに更にダェーヴァが融合し、再起動を始める。さらに、撃墜された米軍の航空機や撃破された戦闘車両、あるいは死亡したパワードスーツ隊員の亡骸にダェーヴァが融合して活動を始めたのだ。 「これだ……我々はこれにやられるのだ」 大統領が、苦虫を噛み潰したような表情をしながら、苦しそうにうめいた。 そして、動き出したコープスたちはヒューベリオンを守りつつも回収するようにしながら撤退を始める。 『今回のところは、ミーの負けだね。まあ、ミーとしては勝ち負けよりも研究するほうが優先だから、せいぜい楽しませてくれよ。それと、一つ忠告をしておこう。ダェーヴァ細胞を融合させたチャーミングなカウガール、ユー、このままその力を使い続けると危険だよ? 心しておくんだねキシシシシシシ』 サルヴァは、そんな不気味な笑いを残しつつ姿を消したのだった。 そして、基地破壊の指令を受けた恭也は機晶支援AI【シューニャ】に指示を送り、ビッグバンブラストを発動させる。 米軍は基地の爆発を背にしつつ、しめやかに退却したのだった。 こうして、北米におけるアナザーの戦役は一応は米軍と契約者たちの勝利という形で決着を見たのだが、その勝利はこれから続く戦いの幕開けでしかなかったのである。 なお、蛇足ではあるのだが捕虜解放において頑張った(頑張りすぎた?)ネフィリムの三姉妹に対して、米軍の中でファンクラブが出来たことを付け加えておく。 担当マスターより▼担当マスター 樹 和寿 ▼マスターコメント
お待たせしました。 |
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