リアクション
09 鷹の目のピーターソン 「さてさて、司令室はどこですかねー。見取り図の通りならいいんだが……」 そう呟くのは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だ。 恭也はパワードスーツ隊{ICN0005589#ヴィルヘルム}の輸送機であるアーセナルバードを、突入の際に使い捨てる覚悟で自爆装置を搭載し、そこに機晶支援AI【シューニャ】をインストールしておいた。 当初は大統領の救出などが成功して撤退が終わったら自爆させて、そこからビッグバンブラストを起動させる予定でいたのだが、全体の方針としては基地はそのまま占領したいとのことであったので、京屋が行ったそれらの措置は最終手段――何らかのトラブルが起きた場合の保険――ということになったのであった。 そして、恭也はパートナーのエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)、および義理の姉でもある柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)とともに司令室を目指して基地の内部を移動していた。 司令室ならば戦術データリンクの総合管理してる可能性も高いし、敵新兵器データも閲覧出来るかもしれないというもくろみだ。 恭也はダェーヴァがコープス程度の兵器しか用意してない筈がないと考え、それらを探るためにも司令室を目指していたのだが、道はなかなかに険しかった。何しろ敵の数が多い。 恭也はポイントシフトやディメンションサイトを使いつつも【浄土】を使用して空中に足場を築き立体的な機動を行いながらコープスなどを破壊していく。 【浄土】とはエアリアル・アクション・ユニットのことであり、恭也はそれらを足場にしてコープスの頭上などの死角をつきながら戦闘を進めていた。 「っと、データリンクとか面倒な代物を。リンク16か22辺りか?」 恭也がそうつぶやくと、側にいた米兵がリンク29だと教えてくれた。この辺りのシステムはオリジンの米軍よりも進化しているようであった。 「司令室はさすがに遠いな……どこかデータ取りやすそうな場所はないのか?」 恭也が、若干方針を曲げて周囲に尋ねてみる。 「データってなんのデータだ?」 米兵が尋ねる。 「もしかしてサルヴァがなにかコープスと海外の新しい平気を作っているかもしれないから、そういう情報でもあれば、と思ってさ」 すると、米兵はこんな意外なことを言った。 「リンクシステムは各種データを集約して処理する関係上、基地のメインコンピュータとつながってるから、サルヴァがもし基地内部のコンピュータを利用しているならそこら辺のコープスのリンクシステムから侵入できるんじゃないか?」 「なるほど! これは例のウィザードにも連絡してやるか!」 恭也はそう言うと、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に連絡を入れ、米兵から聞いたことを伝える。 「メインコンピュータと基地内部をコントロールシステムが連結しているかまではわからないが、試してみる価値はあるんじゃないか?」 「……なるほど。情報を感謝する」 そして、ダリルはそこら辺に転がっていた多脚戦車コープスの残骸を通じてハッキングを試みる。 活動をすでに停止している多脚戦車コープスだが、運がよいことにまだ通信機能は生きているようだった。 ウィザードクラスのハッカーであるダリルが、米軍からもらった情報を元に作成した戦術リンクシステムを阻害するためのウィルスを、多脚戦車コープスのコンピュータを通じて基地内にアップロードする。 するとしばらくしてから、基地内外の戦車コープス、多脚戦車コープスおよびパワードスーツのコープスたちの活動に異変が現れた。 正確無比を誇っていた射撃の命中率が格段に低下し、巧みな連携のために追い詰められていたはずの契約者や米兵たちの反撃にもこれまでのような効率的な連携での攻撃を行ってこなくなったのだ。 「どうやら上手く行ったようだ」 ダリルは、恭也にそんな報告を入れる。 「それと、少し覗いてみたがダェーヴァは基地内部のコンピュータを利用している形跡が全くなかった。スタンドアローンなのか系統が全く違う技術を使っているのか、ともかく基地内部のコンピュータからダェーヴァの情報を得ることは難しそうだぞ?」 それを聞いた恭也は、パートナーたちにそのことを伝えた。 「それならば長居しても仕方がない。さっさと引き上げるぞ」 そう答えたのは義姉の唯依で、エグゼリカもそれに同意する。 「これ以上の無茶に見合う情報ならばいいのですが、そううまく行くとも限らない。ならば、安全が確保できているうちに打出するのが得策というものでしょう」 パートナーに揃ってそう言われた恭也は、脱出を決意するのであった。 「脱出したいものは脱出するといい。コープス系がまともに機能しない今なら、比較的楽に脱出できるはずだ。だが、大統領を助けだす瞬間を目撃したいものは我らとともに来るのだ! 我に続け!!」 そんな風に煽るのは【獣の牙】のクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)だ。中尉の階級を持つために突入部隊の中でも上位に置かれているクローラは、ダリルが基地の電子的な掌握を行ったことも相まって、これから本格的な攻勢をかけようとしていた。 無論実際に大統領のところに向かうのは別動してひっそりと潜入している部隊の役目ではあるのだが、クローラ率いる一体にもそこまでの道を切り開くためにできるだけ基地内部の敵の戦力を引きつけねばならないという役割がある異常、まだ撤退する訳にはいかないし、解放された人たちの中で暴れたいものがいるならば彼らを引き連れて暴れることも吝かではないのだった。 「さあ、このままダェーヴァにやられたままでは気がすまないものは武器をとれ! 倍返しと行こうではないか!!」 クローラは意気高揚も用いながら、解放された人々に発破をかける。 「2倍とか3倍とかちゃちなことは言わない。どうせなら100倍1000倍にしてやるさ!!」 そう答えた捕虜の一人はリバイバルストライプのメンバーだった男で、元々はアメリカ陸軍の軍曹だったという。 「野郎ども、せっかく助かった命だが、大統領のために掛ける勇気はあるか!?」 「当然だ!」 「当たり前だろ軍曹!!」 その軍曹は、すでに老齢ではあるのだが、自らに新兵の教育係たる責務を課してずっと昇進を拒み続けてきたという変わり者だった。そのために、末端の兵士から高級将校に至るまで、彼の世話を受けたものは数多くいる。その軍曹が戦うと言っている以上、教え子たちに是非はなかった。 「おお、そうだ。外に通信できるんだったら鷹の目のピーターソンを助けたと連絡を入れてくれ。それで少しは外の連中のやる気も出るはずだ」 軍曹――ピーターソン軍曹は契約者たちにそんなことを伝える。 それは契約者たちの通信網を通して外で待機していた凶司を中継して契約者と米軍の全体に伝わる。 「ほう、おやっさんが帰ってきたか」 感慨深げにそうつぶやいたのは、副大統領のトマスだった。 「誰でありんすか?」 「何十年も軍曹を続けている、最古参の教育士官です。私も従軍時代は彼にしごかれたものですよ」 とますはハイナに説明をしてから、全体に通じるマイクを取った。 『全軍につぐ、鷹の目のピーターソンが帰ってきたぞ! 彼は武器を受け取って、捕虜仲間とともに大統領の救出に向かった!! おやっさんが大統領を連れて帰ってくるまでに外のダェーヴァを片付けるぞ!!!』 瞬間、割れんばかりの歓声が戦場を包む。そして、同時に米兵たちの動きが明らかに良くなった。戦意と指揮が大幅に向上した証であった。 「よし、この基地の奪還を、アメリカを取り戻す第一歩としよう。契約者たちは軍曹を中心に進軍! 行こう、みんな!」 基地内部、クローラのパートナーのセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が契約者たちに呼びかける。 「基地内部の監視カメラは我らの魔法使いが掌握した。危険があればすぐに教えてくれる。みんな、慎重に行くぞ! 前進!!」 そして、クローラの号令とともに米兵、契約者、解放された捕虜たちの混成部隊は基地の内部を進み始めたのだった。 一端は撤退を決意した恭也達であったが、この盛り上がりを見て、なおかつクローラとともに董 蓮華(ただす・れんげ)とそのパートナーのスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)などが司令室に向かうということを聞くと、更に考えなおしてそれに同行することにした。 「君達は同じ部隊なのか。どうやらあまり統一された意思で動いていないという感じはするが……」 解放された捕虜の一人が、蓮華にそんなことを尋ねる。 「いくつかの部隊の混成だったり、部隊に所属しないでソロで動いている人もいたり、色々ね。私達は全員同じ部隊じゃないの。とりあえず、私のところは敵の「司令級」って言われる強い相手と何度か直接対決してて「敵をよく知ってる」人がリーダーをやってるし、みんな目的は一緒だけど、部隊や人によってやり方はみんな違ったりするわ」 「なるほど……」 捕虜だった米兵は納得したように頷くと、武器を構えながら走り始める。 「多脚戦車だ!!」 そんな叫びとともに、一斉に銃弾が飛ぶ。 無数の銃弾を浴びて多脚戦車コープスが破壊されるが、後続が来る様子はない。ダリルの工作によってリンクシステムがズタズタになっているのが、実感できるようになってきていた。 |
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