リアクション
05 バロールとスルト 戦場に投入された新たなるギガースは、3つの目を持っているが、額にある第三の目は閉じられており、それには鈎のついた鎖のようなものが引っ掛けられていた。 そして、その鎖の先には普通の人間サイズの何かがおり、巨人の肩に乗っている。 「あれは……?」 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は不思議に思いながらその巨人を注視する。セリスがそれを発見したのはカイザー・ガン・ブツの機内オペレーター席で敵の様子を観察していたからだったが、見つめているうちに肩に乗っている人間サイズの何かが鎖を引っ張り始めた。 すると次第に巨人の第三の眼が開き始める。 「さーて、ビーム・愛! をいこうかあああ!」 マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)が空気を読まずにそう叫んだことが、幸いした。 「ビームアイ……いかん! 全軍に通達! 回避行動!!」 セリスの警告が早かったことにより、米軍も契約者もなんとか回避行動を取ることが出来た。そして次の瞬間、瞳が開ききった巨人から、とんでもない熱量の光線が発射される。 それは、艦載用大型荷電粒子砲にも匹敵するほどの威力を誇っており、逃げ遅れた米軍機やイコンが洒落にならないほどの損害を受ける。 「……あれは、まるで邪眼のバロールのようでありんすね」 大統領専用パワードスーツ【レッドグリフォン】を操りながら、アナザーハイナはそんな言葉を漏らした。 「バロールって〜とケルトのあれですか? お嬢」 だれか、知識があったのであろう米兵がハイナに尋ねる。 「そう。あれはおそらくバロールをモチーフにして開発されたギガースでござんす」 「たしか、原典だとバロールの目が開いた時、敵は死ぬとの事だったはずですが、あのビームですとまさに伝説のとおり、といったところですね。では、該当のギガースの呼称は今後はバロールということでよろしいですか?」 「よござんす。全軍に通達。今後、あのギガースの呼称はバロールで統一いたしんす!」 更に、目が開き始めたら回避行動を取るようにとも通達される。 「戦車、及びタイプF前へ! 航空機は支援! 目標! バロール!!」 米軍の将校が命令を出すと、米軍はすぐに動き始めた。 航空機からのミサイルが大量にバロールに飛来する一方で、主力戦車たちは遠くはなれたところからの行進間射撃を行う。 通常の射撃はもちろん、スラローム射撃、あるいは後退しながらの射撃は、最新式の戦車故に可能な高難易度の技術でもある。もはや、戦車が足を止めて撃ちあう、という時代は過去のものとなっているのだった。 更にその小柄さを利用してパワードスーツ部隊が巨人の足元から大火力の射撃を浴びせる。 12.7mmの大口径重機関銃が、F型一体につき2問から4問装備されており、それが集中運用された時の火力は推して知るべし、といったところである。 パワードスーツ部隊の恐ろしいところは、通常の兵士では携行不可能な大火力を持ち歩いて運用できるところにあり、この機関銃は50kg程度の重量を備えている。 また、重機関銃を2問しか装備していないF型パワードスーツ兵は、重量25kgほどの対物ライフルを2丁所持しており、本来は寝そべって扱うこの大威力の銃を、2丁同時に使用することが可能となっている。 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 それらの集中砲火を受けたバロールは、大気を震わすほどの叫びを上げながら、全身から白い体液を垂れ流す。 と、再びバロールの第三の眼――伝説では魔眼――が開き始める。 「総員、退避行動!!」 その指令とともに、米軍の全て、契約者の全てがバロールの前方及びその周囲の空間から離れ始める。 「さぁ、かかってくるがいい我には囮になる覚悟は十分にある!」 セリスのパートナーであるマネキ・ング(まねき・んぐ)がそう叫びながら機体を操作。バロールを挑発するような機動を始める。 実際のところ大仏を模したこのイコンで目立ちたいだけなのであるが、それでも平均的なイコンの2倍から3倍の数値を誇る機甲は、生半可な攻撃は通さないと自負していた。それはセリスも同感であり、ここは演出のために敢えて受けて見ようと考えていた。 マネキはカイザー・ガン・ブツを操作して味方とは正反対の方向に移動を行う。 「oh! ブッダ!! ショッギョムッジョ!」 米兵からはそんな歓声が飛んでいたりする。 なんというかハイナが歪めまくった日本観が米兵にも浸透しているようであった。 そして、開ききったバロールの魔眼から再び艦載荷電粒子砲クラスの熱線が、大仏を模したイコンに襲いかかる。 そのビームが直撃し、派手な爆発が起こる。しかし…… 「にゃーっはっはっは!」 高笑いが戦場に響く。 煙が晴れると、そこには無傷とはいかないものの今だ健在な大仏の姿があった。 「日本からの援軍は、あのビームを受けても健在だ! 今だ! 無防備な背中をねらえ!!!」 米軍将校からそんな激が飛んで、再び一斉攻撃が始まる。 一方の大仏も腕を伸ばす超空間無尽パンチによってバロールを殴りつける。その操作を担当するのはこのイコンのモデルとなった願仏路 三六九(がんぶつじ・みろく)で、どこまでも衆生を救うために伸びる仏の手、などと宣っていたりする。 ともかく、その御仏の一撃を受けた古代アイルランドの神を模した巨人は、その巨体を浮かせて吹き飛ぶ。 巻き込まれたレッド・キャップが百匹単位で潰されるが、誰もその被害に見向きもしない。 「こちらゴスホーク。只今より支援に入る」 そう言ってイコンを飛ばすのは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。 真司は超能力の他に身体能力に依存する技能やスキルをイコンに乗った状態でも使うことができるという特別な機体ゴスホークのその能力を利用して、プラズマライフル内蔵型ブレードにパイロキネシスで生み出した炎をまとわせていた。 「最初から全力全開で行かせてもらう」 炎を纏った剣を振るう巨人は、かなりの注目を集めた。 それは、潜入部隊が動きやすいように派手に暴れるつもりだった真司の思惑通りということになる。 そして、その真司のもとにやってきたのは、炎を纏った剣を持つ、同じく炎に全身が包まれた巨人だった。 「ふむ……あの巨人はスルト。あの剣はレヴァーティンといったところでしょうか?」 ハイナに、そんな通信が入る。やはりこういうものに詳しい人材はそれなりにいるらしい。 「なるほど。では、あのギガースはスルトで統一いたしんす!」 『了解!』 そして、スルトとゴスホークの戦いが始まった。 互いに炎をまとわせた剣を打ち合わせ、文字通り火花を散らす。 ふと、スルトが一歩間合いを取る。 「敵内部に激しい熱源反応!」 パートナーのヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が真司に警告を出す。 信じが回避行動をとった次の瞬間、スルトは炎を含んだ息を吐きだした。 とっさに避けたはずなのに、ゴスホークの表面装甲が少し溶けている。 「なんて高温なんだ……」 とっさに呟く真司。 スルトの周囲の気温は周辺よりも30度位は上昇しており、生身の人間では耐えられないほどの高温になっていた。 「……仏像イコンがスルトとバロールの間に入りましたね」 ふと、周辺をモニタリングしていたヴェルリアが、その状況の変化を信じに伝えた。 「それと、バロールの瞳が開きだしているようです」 「!! なるほど!!!」 それを聞いた真司は、自身もカイザー・ガン・ブツを背にしつつ、スルトの注意を惹きつけるように動き始める。 「バロールの目が開くタイミングをカウントしてくれ!」 「はい!」 そして、カウントダウンが始まる。 「8、7、6……避けてください!」 同時に、ゴスホークとカイザー・ガン・ブツが退避行動を取る。 次の瞬間、バロールから発射されたビームがスルトに直撃した。 響き渡る絶叫。 その瞬間炎の巨人は上半身と下半身が生き別れになった。 「いまだ!」 ファイナルイコンソードが、スルトに振り下ろされる。抵抗もできないスルトはそのまま両断され、体が四分割されて息絶えたのであった。 |
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