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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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第一章 オッス! オラ脱獄者!

「あ、ははは……そうだこれは夢だ……夢なんだ……」
 少女は夢を見ていた。悪夢だ。
 看守という職務を忠実に遂行していたはずが、檻の囚人があろうことか蹴りで電子ロックを破壊するという夢特有のブッ飛んだあり得ない事をやらかし、自分を人質にするという内容だ。
 だがこれは夢。目が覚めると暖かい布団で自分は寝ており、忙しい一日が始まる。
 そう、少女は思っていた。

「……おーい、現実逃避してんじゃねーぞ人質、とりあえず名を名乗れ、な?」

 どっこい現実だった。
 ポムポムとナオシが看守の少女の頭を軽く叩きつつ笑みを見せる。その笑みは少女にとって恐ろしい物に見えたのだろう。実際安心させるような物ではなく、もっと恐ろしい邪悪な笑みであった。
「ひぃッ!? わ、私の名前はウヅ・キですぅ!」
 涙目で少女――ウヅ・キが名乗ると「よーしそれでいい人質」とナオシが満足げに頷く。
「さて人質、さっきも言ったが船のある場所を教えろ。ついでにここの構造もな」
 邪悪な笑みでナナシに迫られると、ウヅ・キは涙目になりつつ施設の構造を紙に書いて説明する。
 現在、モリ・ヤの漁船と捕らえた時の武装艦がドッグにあるそうだ。
「……随分と離れているな」
 モリ・ヤが図を眺めて呟く。ドッグは今いる牢からかなり離れた場所にあった。
 更にウヅ・キが言うには施設内は傭兵達が巡回しており、大体は電撃を伴った弾を放つ電撃銃を装備しているとの事だ。実弾ではない為殺傷能力は低いが、食らえば行動不能は免れないとの事である。
「その間に見つかると不味いな。さて、どうしたもんか……」
 ナオシが腕を組んで考える。
「ちょっと待て、さっきから聞こえていたが……逃げる、とかいったか?」
 ヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)が会話に割って入る。
「ああ、言った……てかそう言ってるじゃねぇか」
 ナオシがジトっとした目で睨み付ける。だがヴァンビーノは漫画家体操をしていて全く聞いていなかったのだ。
 ちなみに漫画家体操とは、

1、両手をあげ、手首を90度に保つ
各指は曲げずに真っ直ぐに保つ

2、息を吐きつつ、両腕を開き正面に持ってくる
手のひらは前へ、肘も真っ直ぐ
この時の手の角度は直角に保ったまま

3、両手の指を一本ずつ数えながら折る
全ての指を数え終えたら今度は一本ずつ開いていく
この状態で少し待機

4、力を抜き、首を回しつつ、腕と手首をぶらぶらさせて終了

というヴァンビーノが漫画を描く前及び心を落ち着かせるための手指の体操である。ちなみに他にもバリエーション有。そして今回の話とは一切無関係である。
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ! いくら誤解からとはいえ牢にぶち込まれたっていうのに逃げるって言うのか? それって『牢破りっていう別の罪に問われるかもしれない』って事だろう!?」
「だから捕まったら殺されるって言ってるじゃねーか。で今人質から話を聞いてるんだろうが」
「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア! 人質って……僕はマイナーな青年雑誌のとはいえ子供に夢を売ってる職業だぜ? その僕が犯罪の手助けをしろと? 僕の漫画を楽しみにしている読者だっているんだ……逮捕されて打ち切り、なんて知らせを見た読者の気持ちは想像もできないッ!」
 ナオシはヴァンビーノに溜息を吐くと、四の五のを言わせぬ睨み付けた目で言った。

「脱獄をする」
「だから気に入った」


 ヴァンビーノがニヤリと笑った。
「よし、それ以上はしゃべるな」
 ナオシがそう言うと、ヴァンビーノは満足げに頷いた。
「どうでもいい……いやよくないが急いだ方が良いんじゃないか?」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が少し呆れた様にナオシに声をかける。
「監視役のそのウヅ・キっての以外にも巡回はいるだろ? 恐らく脱走はすぐにバレる。ここであーだこーだ騒いで時間を消費するよりも急いで行動した方が良いと思う。そうだろ、ナナシ「誰がナナシだコノヤロウ!」ぶぉッ!?」
 素なのか、わざとなのかはわからないが、恭也の言い間違いでナオシは一瞬でブチギレ、顔面を蹴り抜いた。これは恭也が悪い。
 吹き飛ばされた恭也が壁にぶち当たった。
「だがコイツの言う通りだ。とっとと船に向かうぞ。ついてきたい奴はついて来い」
「船があるなら力になれるかもしれない。俺も行こう」
 ナオシの言葉に柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が名乗り出る。
「大勢でうろついては目立つし全滅する可能性もある。我々は別ルートで回るが構わないな?」
 モリ・ヤが言うと、ナオシが頷く。
「なら私達はこちらに同行しましょうか。戦力が居た方が良いでしょう?」
 富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)ソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)が名乗り出るとモリ・ヤは「助かる」と頷いた。
「話は済んだか? じゃあ行くぞ」
「ちょっと待て。まだ話は終わってねえ。このまま向かったところで見つかる可能性が高いだろ。作戦とかあるのか?」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)の言葉に、ナオシは「ねぇな」と首を横に振る。それを見て仕方なさそうにラルクは溜息を吐いた。
「……俺はこの通り隠密行動には向かねぇ。だが素手でもある程度は立ち回りできるくらいに覚えはある」
「何が言いたい」
「そういうわけでだ、俺は囮にならせてもらうぜ……ああ勘違いするな。俺はまだお前のことを信用したわけじゃねぇ。脱出する為だ」
 ラルクの言葉にナオシが笑みを浮かべる。
「それでいい、お互い利用させてもらうだけだ。精々役に立ってくれ」
 そう言うとラルク以外にも囮になる事を名乗る出る者が現れた。他にも図を見てドッグへ向かう前に別の場所へ向かいたい、という者も現れる。
「よし、なら船は任せた。先に行かせてもらうぜ……さて、一丁やっかな!」
 ラルクがそう言って一足先に檻から出た。そして出るや否や、着ている物をすべて脱ぎ棄てて行った。
「……なあ、何故彼は全裸になっていったんだ?
 全裸で走り去るラルクを見て、モリ・ヤがナオシに問う。
「俺が知るか。さて、行くぞ人質」
 全裸になったラルクに咄嗟に目を覆ったウヅ・キを、ナオシは小脇に抱える。
「おいおい、女の子はもっと丁寧に扱え! 物じゃねぇんだぞ!」
 その様子を見た紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がナオシに向かって言った。
「そうですよ。あまり手荒に扱わないでください」
 マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)も同意する様に言う。
「うるせーなバカヤロウ。手荒になんて扱わねぇよ」
 五月蝿そうに顔を顰めてナオシが下ろすと、少しばかりウヅ・キが安堵の表情を浮かべる。
「いざという時盾にするくらいだ」
 そしてすぐに絶望した表情になる。
「……あーこりゃ何言ってもダメだな。俺も心配だからこっちについて行くわ」
 唯斗が呆れた様に言う。
「えーっと嬢ちゃん、ウヅ・キだっけ? ついてないなー。まあ俺も似たようなもんなんだけどな」
 そう言って唯斗が話しかけると、ぎこちなさそうにウヅ・キが頷く。
「でも状況が状況だから許してくれよな。この馬鹿がヤバいって言うからには相当ヤバいんだろうし……ところで、心当たりない? こいつがヤバい、っていうくらいヤバい人物に」
「え? いえ……浮かびません」
 唯斗の言葉に困惑したようにウヅ・キは首を横に振る。
「そこまでだバカヤロウ」
 突然、唯斗の頭をナオシが鷲掴みにする。
「それ以上の詮索はやめとけ。こいつまで標的にする気か?」
 そう言われて唯斗は言葉に詰まった。
「よし……ならとっととドックに向かうぞ」
 ナオシの言葉を皮切りに、牢内に残っていた者達が行動を開始した。