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リアクション
各学校にて依頼を受けた学生たちがエルデの町にやって来る。
上空から確認する限り、ジャイアント・アントたちもこのエルデの町のある方へ向けて行軍を開始していた。
●第1章 エルデの町で住民避難と……?
「この町の近くにジャイアント・アントが巣を作り、今まさにこちらの方角に向かって、行軍を開始しているようです」
町に着くなり御凪 真人(みなぎ・まこと)たちは自警団を訪れ、事情を説明する。
「巣穴の確認はして警戒していたが、ついにこの町を見つけてしまったか」
真人の言葉に、頷きながら団長らしき男が応えた。
「すぐにでも住民を護衛しやすいよう、1箇所に避難させた方が」
続くセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の言葉に、そうだな、と頷く。
「公民館や劇場の講堂みたいに、人がたくさん入れて、入口が少ないところがあれば良いんだけど」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が避難先の提案をした。
「地下室もあれば、地上が襲われたとしても隠れておけるだろ」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)の言葉に、男は少し考える。
「町の東部よりに講堂がある。そこなら町の皆が入れるだろう残念ながら地下があるような建物はこの町にはないのでな」
言いながら、町の案内図を広げ、ここだ、と講堂を指差す。
ジャイアント・アントが確認されたのは町の西部に広がる草原だ。
「早速、住民の皆さんに伝えて、講堂に避難してもらうであります!」
アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)のその一言に、団員たちや学生たちが動き始めた。
「遙遠たちは町の西部に向かうな。アントが来るのはそっちだから一番に避難しておく必要があるだろ!」
そう言い、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)と紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)は自警団の建物を飛び出す。
「私たちは中央の広場へ向かうであります!」
アイリスの言葉に、霜月が頷き、2人も建物を出て行く。
「セオボルトさん、軍人であるあなたに、避難の際の注意点とか、陣形とか聞いておきたいのよね、教えてもらえる?」
歩が建物から出て行く前に、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)に訊ねた。
「陣形はともかく、落ち着かせることが大事でしょうな。混乱のまま、移動しては押されて転倒して怪我人続出、などありましょうから」
答えてから、セオボルトもまた、建物を出ようと入り口の扉に手をかけた。
「では住民を安全に避難させるべく、厳しく、凛々しく、整然と対処に当たるとしましょう。教導団のナイスガイ(自称)であるこの自分が!」
そう言い放ち、彼は出て行った。
中央の広場に着いた霜月とアイリスは、その中央にある噴水の前に立った。アイリスが静かに歌い出すと住民が足を止め、彼女らの周りに集まり始める。
「皆、落ち着いて聞くんだ!!」
1曲歌い終えたところで、霜月が声を張り上げた。
「この町の近くにジャイアント・アントが巣穴を作り、餌を求めてこちらまで向かってきている! 町の外でも自分の仲間たちが中に入らないよう食い止めてはくれるが、合間を縫って町の中に入ってくる個体もいるだろう! そこで自警団と話し合った結果、護衛がしやすいよう町の東の講堂に集まってもらうことになったんだ!」
霜月の言葉に、住民たちは騒然とした。
早く逃げなければと慌てふためく者たちも出てくる。
「落ち着くであります! 皆さんに安全に避難してもらうために、町の各所にワタシたちの仲間が居るであります。彼らに従い、慌てずに講堂に避難してほしいであります!」
アイリスも声を上げ、住民たちを落ち着かせる。
まだ完全に落ち着いたわけではないけれど、その場にいる住民から順に東の講堂へ向かってもらうことにした。
「東の講堂に避難してくれ!」
「ジャイアント・アントが町に近付いてきているんだ!!」
町の西部の住宅街に向かった遙遠と遥遠は声を上げて、住民へと避難を呼びかける。
片っ端から民家の扉を叩き、中に居る住民たちへも声をかけた。
住民たちは呼びかけに慌てて、民家から出てきて東の講堂へと向かい出す。
「こんなもんか?」
一番西側の通り、全ての民家の扉を叩き終え、住民たちが避難していくのを見ながら遙遠は呟いた。
「おそらくな」
遥遠が頷き、答える。
「蟻の方は大丈夫だろうか?」
「まだ外は騒がしくないから、近付いてきてはいないのだろうが……」
住宅街を抜け、町の外を見れば、外側でジャイアント・アントを待つ学生たちの姿が見えた。ジャイアント・アントの姿はまだないようだ。
「警戒を怠らないようにして、逃げ遅れた者が居ないか、探すんだ!」
「了解だ!」
通りの左右に分かれ、扉を叩いて、中に人が残っていないかを探す。
半分ほど来たところで、遥遠が叩いた扉が中から開いた。
「おお、若いの。手伝ってくれんか。寝たきりのばあさんが居るんだが、わし1人ではどうにもならんでな」
現れたのは壮年の男性。彼に導かれるままに家の奥へと入れば、ベッドに寝たままの女性の姿がある。
すぐに遙遠を呼び、彼女をを背負うと男性を含めた4人は東の講堂へと向かい出した。
「ウサちゃん、忘れちゃった〜!」
「今は避難するのが先よ!」
避難途中の子どもが忘れ物をしたと泣いている。母親が宥めて諦めさせ、講堂へと歩を進めていた。
「お家の場所と、どんなウサギさんなのか、教えてもらえるかな?」
その母子にそっと近付いた真人は、子どもの前に屈むと同じ目線になって訊ねる。
「おっきいウサちゃんなの」
「2つ先の角を右に曲がってすぐです。でも……取りに帰ってたら、遅くなりますから」
子どもが両手に抱えるくらいのウサギのぬいぐるみだということを教えてくれて、母親が家の場所を簡単に説明してくれた。
「気にしないでください。お2人は東の講堂へ」
真人は微笑んで、2人を送り出す。
「さて、もう一回りしてきますか」
先ほどまで避難誘導の合間に確認を兼ねて小型飛空挺で巡回を行っていたというのに、間を置かずまた巡回に行こうと飛空挺に乗り込もうとする。
「あの子の忘れ物、取りに行くのよね」
一緒に乗り込みながらセルファが訊ねた。
「ついでですよ、ついで」
飛空挺を動かしながら真人が言う。
「真人も十分素直じゃないわよね」
くすと笑いながらセルファが笑えば、真人は照れながら、飛空挺を発進させた。
セオボルドは軍用バイクに乗り、町の中を巡回していた。
避難している住民たちから少し後方に、それを追いかけるように避難している壮年の男性の姿を見つけた。脚が悪いのか、杖を突いて歩いているようだ。
「歩いて避難するのは大変でしょう。さあ、サイドカーに乗ってくださいな」
セオボルドはバイクをその男性の傍につけるように停めると、そう声をかけた。
「おお、ありがたや。世話になりますぞい」
男性がサイドカーに乗ると、セオボルドは一路、講堂へと向かう。
「ありがとうのう、若いの。アント退治だけでなく、わしら住民にまで気を遣ってくれて嬉しいぞい」
サイドカーに座る男性は不意に、そう告げた。
「いえ。自分は教導団のナイスガイ(自称)として、動いているだけです。お気になさらないでくださいな」
「はは。では、気兼ねせずに世話になるかのう」
軽く笑って、頷きながら男性は応える。
そんな会話を交わしているうちに講堂の前に着いた。
「着いたようですな。慌てず、ゆっくり降りてくださいな」
入り口は避難してくる住民たちで混み合っているため、そこから少し離れた場所へバイクを止める。
男性は、ゆっくりとサイドカーから降りると「ありがとう」と繰り返しながら、講堂へと入っていった。
(街は幾らでも建て直しがきくが、人だけは取り戻せん。たとえ少しでも人を守れる力がある以上、守らない理由もない。被害など出させてなるものか……)
白砂 司(しらすな・つかさ)は避難する住民たちの1グループの殿につき、後方からジャイアント・アントが襲い掛かってきたときに備える。
1グループが講堂に着くことが出来れば、また次のグループの殿を務めに向かった。
「司の慎重さは、やや少し行き過ぎたところがあると思うがな……」
司の様子を見ながら、空飛ぶ箒に跨って彼の上空を旋回しながらロレンシア・パウ(ろれんしあ・ぱう)はぽつりと呟いた。
そこへ外の護衛の間をぬぐって入ってきたのだろう、1匹のジャイアント・アントが路地の陰から現れた。
「皆さん、落ち着いてそのまま講堂へ向かうんだ」
司はジャイアント・アントと対峙するとランスを構えた。
勢いよくランスを突き出し、ジャイアント・アントへと攻撃を繰り出す。
「援護する!」
ジャイアント・アントの視界に入ってしまわないよう、素早く建物の陰へと隠れたロレンシアは、エンシャントワンドの先に炎を生み出すとそれをアントに向けて放った。
繰り出されるランスの攻撃と、何処からともなく飛んでくる炎の玉に、ジャイアント・アントは戸惑い、回避しきれないようだ。
あっというまに炎に包まれ、絶命し、その場に巨体が沈んでいく。
「力仕事なら任せて下さいませ。こう見えて力持ちですのよ」
145センチという小柄な身体ながらに荒巻 さけ(あらまき・さけ)は小さな子どもを背負って、避難を手伝っていた。
避難所である講堂に着き、子どもを下ろすと、また避難の手助けへと向かう。
その途中、町へと入り込んだジャイアント・アントに追い掛け回されている住民を見つけたさけは、魔法的な力場を使った高速ダッシュでジャイアント・アントと住民との間に入った。
迫り来るジャイアント・アントの鋭い牙をカルスノウトで防ぐ。
間に入ったことにより、己の後ろに隠れるような形になった住民は、降り注ぐかと思われていた一撃がやって来ないことに不思議に思ったか、恐る恐る顔を上げた。
「もう大丈夫ですわ、早くお逃げください!」
牙を受け止めたままのさけが肩越しに振り向いて、笑みを浮かべている。
「あ、ありがとうございます……!」
その住民はぺこりと一礼すると、講堂のある東に向かっていった。
「さあ、君のお相手はわたくしですわ」
さけの言葉に、ジャイアント・アントは標的を彼女へと変える。
「助太刀するよ!」
先ほど逃げた住民が途中で出会ったのか、時枝 みこと(ときえだ・みこと)がやって来た。右手に光条兵器、左手にカルスノウトを構えているようだ。
彼のパートナーであるフレア・ミラア(ふれあ・みらあ)は出会った住民を避難所へと送り届けてから、合流することになっている。
「ありがとうございますわ」
さけはみことに笑みで答え、カルスノウトをジャイアント・アントの口から引き抜くと、今一度距離を取った。
再び顎を広げるジャイアント・アントに、さけはカルスノウトを構えて近付いていく。剣圧を纏ったその攻撃は、アントに2発の痛みを与えた。
みことはアントの脚の付け根を狙って、攻撃を仕掛ける。けれど、光条兵器とカルスノウトを同時に使うのは困難なことで、上手く痛みを与えることができない。二刀流で戦うことは諦め、カルスノウトを鞘に収めたみことは、改めて光条兵器だけで攻撃を仕掛けた。
時折噛み付かれてしまいそうになるところを避け、受ける傷は軽傷だけで済ませる2人。
みことの狙い通り、片方の脚を中心に攻撃することで動けなくなったジャイアント・アントは、2人が近付いたところを噛み付こうとするが、動けない身体では難しいらしく、みこともさけもその噛み付き攻撃を楽々と交わすことができる。
さけがカルスノウトの先から放った爆炎にてジャイアント・アントを燃やし終えた頃、フレアが合流してきた。彼女が送り届けた住民は何事もなく講堂へと着いたようだ。
ヒールにて受けた傷を癒してもらった2人は、逃げ遅れた住民や入り込んできたジャイアント・アントを求めて、町の巡回を再開した。
「これはもう囮になるしかない!」
「囮ね! 美学ね!」
初島 伽耶(ういしま・かや)とそのパートナー、アルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)は事前に作っておいたハチマキを巻いて、住民の避難の傍らで襲い来るジャイアント・アントを待ち望んでいた。
「日本の美学よ!」
「蒼空学園万歳!」
「蒼空学園万歳! 気合ハイッテキター!!」
2人して万歳三唱をし、気合を入れてから、それぞれの武器を手に構える。
そうして待っていると、1匹のジャイアント・アントが細い路地から現れた。
「こっちよ!」
早速小型飛空挺に乗った伽耶はアントの周りを飛び回る。
最初は触覚を動かしながら飛び回る伽耶の様子を窺っていたジャイアント・アントであるが、大きな口を開くと飛空挺へと噛み付いてきた。
伝う衝撃に耐えながら、伽耶は講堂とは逆の町の西へと移動を開始する。ジャイアント・アントはそれにつられて、動き出した。
「やっちゃうよ?」
「やっちゃえ!」
伽耶のゴーサインを受けて、アルラミナはエンシャントワンドの先に炎を作り出す。それをジャイアント・アントに向かって、数発放った。
一撃目は避けたジャイアント・アントであったが、次々と繰り出された炎の玉を避け切れない。
アルラミナはジャイアント・アントが炎に包まれるまで、その玉を放ち続ける。
避け切れないジャイアント・アントはやがてその身を炎に包まれて、嘆きの声を上げながら、倒れていった。
「おにいちゃん……あそこ……」
宝月 ルミナ(ほうづき・るみな)とパートナーのリオ・ソレイユ(りお・それいゆ)は小型飛空挺に乗り、上空から逃げ遅れた住民が居ないか探していた。
「何か見つけたのかい、ルミナ?」
ルミナが指差す先には1人の男子学生――カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)の姿があった。
彼は学生たちが住民を避難させている間に、火事場泥棒を働こうとしていたのだ。
移動中は隠れながら町の中へと入ったカーシュであったが、民家の扉の鍵開けをしているうちに隠れることを忘れて、その身が晒されたようだ。
「泥棒のようですね。幸い相手は1人……降りましょう、ルミナ」
「うん……」
リオの言葉に、ルミナはその場へと近付きながら降りていく。
「……」
ルミナは小型飛空挺から降りると、アサルトカービンを構えながらカーシュへと近付いた。
「おっと、そう簡単には捕まらねぇぜ」
銃を構えるルミナに怯みもせず、カーシュはリターニングダガーを構えると、ルミナに向かってその刃を振るった。
「……ッ」
「ルミナ、大丈夫ですか?」
掠ったのは刃先だけで、ルミナに傷が残っている様子はない。
リオはその様子にホッとしてカーシュの方を見るけれど、カーシュはそれより早くにスパイクバイクへと乗っていた。
スパイクバイクのエンジンをかけると、早々に去っていく。
「悪事を働く前であったようですけれど……」
「うん……それだけでも、よかったの……」
去っていくカーシュを見送ることしか出来なかったけれど、火事場泥棒などを出す前に止められて良かったと、2人は安堵するのであった。
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