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【2019修学旅行】激突!! 奈良の大仏vsストーンゴーレム

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【2019修学旅行】激突!! 奈良の大仏vsストーンゴーレム

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【第六章 守る者たち】

 エリザベートを先頭に、ゴーレムに騎乗して南大門をくぐった生徒たちは、足元から響き渡る地響きの音にもまして腹にこたえるような鐘の音が、右手の奥から響き渡ってくるのを聞いた。その鐘の音にまじり、おおおお、という低いうなり声も同じ方向から聞こえてくる。
 「みなの者、敵の本陣は目の前ですぅ! 兜の緒を締めてかかれぃぃ!」
 不気味な鐘の音を引き裂くようなエリザベートの甲高い号令が、少しひるみかけた生徒たちの心を再び鼓舞する。月光に浮かび上がる掃き清められた石畳の道の向こうに、目指す大仏殿が黒くうずくまっているのが確かに見えている。その時だった。
 付き従ってきたゴーレムの一群が割れて前に回りこみ、そのうち二体が進路を塞いだのである。
「国宝防衛隊、見参!!!!!」
 名乗りを上げたのは、ゴーレムの肩の上に立ち上がった勇ましい少女、緋桜 ケイ(ひおう・けい)である。
 反対の肩に座っているのは、月光に長い銀髪を輝かせる振袖姿の魔女、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)
 もう一体のゴーレムに騎乗するのは、子供のように身体の小さな金髪の少女、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)。横にはゴーレムと同じくらいの身長の巨大な白熊、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が立っている。
 ケイは鋭い目つきで生徒たちを眺め渡し、
「いくら東洋魔法をライバル視しているからって、何もされてないのに一方的に仏像に攻撃を仕掛けるなんてやりすぎじゃないのか! みんな、目を覚ませ!」
 カナタも続ける。
「仏像に罪はない。むしろ乱暴に扱えばわらわたちに罰が当たるやもしれぬぞ。仏像に込められているのは東洋の魔法だけではない。それを作った人々の思いと、幾年もの間人々から崇められた心が込められているのだからな。おぬしたち魔法を司るものが、この清浄な空気に触れて、その心、感じぬか!」
「『仏の顔も3度まで』って言うくらいだし、一回で手を引けばきっと許してもらえるぜ、校長!」
 ベアの呼びかけに、エリザベートは唇をゆがませ、
「面白いですぅ。止められるものなら、止めてみなさいぃ」
 と静かに言い返した。
「みんな、今のうちですぅ。足止めしている間に、大仏の守護に向かってくださいっ!」
 ソアの声で、背後に立っていた数体のゴーレムたち――一様に体のどこかへ黄色のタオルを巻きつけている――が背を向け、闇の彼方へと消えた。
「ゴーレム、子守歌を歌え!」
 ケイの口から鋭い命令が迸った。刹那、いかめしい顔に似合わない甘やかな、優しい歌声が広い境内に広がりだす。スキルの高いケイの子守歌の効果は絶大で、生徒たちの中にはゴーレムの上で眠りこけ、下に落っこちる者までいた。カナタは更に氷術で、生徒たちのゴーレムの足を地面に縛り付ける。
「よし、ソアとベアは大仏殿の守護に向かってくれ! 俺たちはここでみんなを出来るだけ足止めする!」
「分かりましたです!」
 ソアはベアをともない、一足先に大仏殿に向かった。
 このままいけるか、とケイが思ったときだった。エリザベートの青い髪が翼のように広がりだしたのだ。
「やりますねぇ、今年の生徒はぁ。だが、まだ、あまぁああい!」
 エリザベートが手を振り上げた途端、ピキーン、とガラスの割れるような音がはじけ、そこにいた殆どの者が耳をおさえた。音が鳴り止み、気づくと子守歌は消え、彼方からの低い鐘の音だけが響き続けている。
「な、何を」
 いち早く体勢を立て直した火のように赤い巻き髪の少女、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、足元からゴーレムに号令を掛けた。
「酸を放出しながら前に突っ込め! 受けてみよ、我がアシッドミストの嵐!」
「クッ」
 さすがのケイとカナタも酸の攻撃にひるみ、ゴーレムの体の影に隠れる。後退するしかないか、と感じたとき。
 酸の攻撃が突然やみ、ケイとカナタは驚いて顔をあげる。目の前の生徒たちの表情が変わっていた。
 恐る恐る振り向くと、そこには。
 写真でしか見たことのなかった数々の巨大な仏像が、まるでチェスの駒のように整然と、石畳の上に鎮座していたのだった。

 額に第三の眼、八本の腕を持っているのが特徴の乾漆不空羂索観音立像、「日光・月光菩薩」の名称で知られる、二体の塑造日光・月光(がっこう)菩薩立像。平将門が乱を起こした折、髪紐を蜂にして飛ばし、刺してこらしめたという塑造執金剛神立像。いずれも、国宝である。そしてやはり、そのすべてに黒々とした鹿の角が生えており、そこだけが異様に生々しく、悪夢を見ているような非現実的な印象を与えた。
 守護する側も、攻める側も、しばし言葉を失ってその美しさ、神々しさに見とれた。その静寂を破ったのは、頭上から箒に乗って現れた数人の生徒たちである。彼らは誰よりも早く、東大寺へやってきた、東雲 いちるたちであった。
「罰当たりな校長に、生徒たち! さあ観音様にお仕置きしてもらえ!」
 ヤジロ アイリの声とともに、立ち並んだ像が一斉にこちらに移動してきた。大きさは南大門を守護していた二体の木像と比べるべくもないが、その分動作は機敏だ。体を進行方向に軽く傾け、滑るように足音もなく移動してくる。そのために、接近するまで誰も気づくことがなかったのだ。
 更にいちるやアイリは頭上から雷術や光精の指輪の目くらましを使い、生徒たちをかく乱する。その合間を縫って、いちるはケイとカナタに声を掛けた。
「ここは任せて、あなたがたは大仏殿へ!」
「分かったぜ!」
 ケイとカナタは背中を向けて、大仏殿に向かう。

 ゴーレム集団の先頭、エリザベートのすぐ横のゴーレムに騎乗していた三笠 のぞみは、突然頭上に現れた光に目をくらませられながらもエリザベートのゴーレムにバーストダッシュを掛けた。
「いけー! 校長ー!」
 その声とともに、光の中を校長のゴーレムが遠ざかっていくのが見える。成功だ。のぞみは自分のゴーレムにもバーストダッシュを掛け、混乱を一気に抜けようとする。同じ考えの生徒たちが自分の背後から続くのを感じた。
 人工的な光の渦を抜けると、再び真っ暗な闇が前に立ちふさがる。
(自分を信じるっきゃない!)
 のぞみは高速移動するゴーレムの首にしがみつき、目をつぶった。

 混乱の中で、光の目くらましの影響を受けない生徒が一人いた。何故か顔に紙袋をかぶってこの戦いに臨んだ、愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)である。仏像と戦うのが罰当たりな気がしてどうしようどうしようと悩んだ末、仏様に顔を見せなければいいじゃない! ということを思いつき、顔を隠すためにかぶったのだ。天網恢恢疎にして漏らさず、という老子の言葉にあるように、紙袋をかぶったくらいで仏の目を逃れられるはずもないが、この場合は幸いした。
「よし、今のうちだよゴーちゃん!(あだ名) 腕を振り回しながら大仏殿目掛けて突進だー!!」
 ミサの命令どおり、ゴーレムは団子状になった敵味方の間をすり抜け、誰もいない空間に脱出することに成功した。
「やったあ! 俺の作戦通り! ……あれ、ここ、どこ?」
 そこは周りに敵もいなかったが、味方も、そして目指していた大仏殿もなかったのである。方向感覚の鈍いミサの操るゴーレムもまた、方向感覚があやふやであった。
「まっずーい! 早く戻らなきゃ!」
 ミサはあわてて、ゴーレムの方向を変えさせ、喧騒の聞こえる方角へと後戻りさせはじめた。

 眩しい光の目くらましが消えた南大門前では、ゴーレム軍対仏像軍の本格的な戦いの火蓋が斬って落とされた。
「燃やされたい奴は来るがよい! 消し炭にしてくれるわ!」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は文字通り炎のような巻き髪を激しく揺らしながら、口から強力な酸を吐くゴーレムを観音像向けて突進させた。その足元では、機晶姫のジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が白い瞳をらんらんと輝かせながら、辺りを見回して歓声を上げている。
「マスター! ニホンって凄いでありますね! 彫像が動き回ってるであります! 動く石像であります! すごい! ほしい! 格好いい! ほしい!」
 言葉と裏腹に発射する爆炎波の威力は凶悪だ。激しい炎の渦に、その向こうの観音像もうかつに近づけないでいるのか、動かない。
「ジェーンも乗りたいであります! マスター! うごくせきぞう!」
「だめじゃ! 夢いっぱいすぎるおぬしが乗ったらいくらゴーレムでもつぶれるわ!」
 前を行くエリザベートを援護しようとゴーレムに直進の命令を出そうとしたとき、一体の観音像が二人の前に立ちふさがった。高さはおよそ三メートル半、両手で合わせた一対の手のほか、六本の手を持ち、放射状に広がった光背もまばゆい、黄金の観音像。乾漆不空羂索観音立像である。ふっくらとした頬の横、ふくよかな耳の上には、鹿の黒くとがった角が突き出ている。
「相手に不足なし、じゃな」
 不敵な笑みを浮かべるファタの額から、一筋の冷や汗がつたった。だがジェーンには相変わらず全く、緊張感がない。
「美しい! みごと! あれ貰っていいのですか!」
「馬鹿! 早う爆炎波じゃ!」
「え? アレ壊すんでありますか?」
 ぎっときつい目つきでにらみつけると、ジェーンはしゅんとした顔になり、観音像目掛けて特大の爆炎波を放った。よし、と思った瞬間、観音像の光背が凄まじいスピードで回転を始める。
「な、何い!」
 炎は回転する光背から発生した風に巻き上げられ、二人に向けて跳ね返ってきた。付近があっという間に炎の渦に包まれる。
「ジェーン! ゴーレムの影へ!」
 ファタもひらりとゴーレムの影に隠れ、炎から身を守る。一瞬にしてストーンゴーレムは真っ赤に燃える石の塊になった。まずい、そう思ったときだった。
 一陣の氷の風が吹き、二人の隠れているゴーレムを包み込んだ。急激に冷やされたゴーレムの表面からすさまじい蒸気があがり、ピシピシ、と石のひび割れる音がする。
「大丈夫!」
 駆けつけたのは、すらりとした容姿の勇敢な少女、十六夜 泡であった。彼女は【魔導人形兵団】とともにエリザベートの護衛として行動していたが、ファタたちの危機を目にして一旦隊列を抜け、駆けつけたのである。
「かたじけない!」
「今度は私が、『魔闘拳術』で全身に炎を纏って突っ込んでみるわ。相手は金属だから、氷術で凍らせた後に火術で吹っ飛ばしてドラゴンアーツでとどめ、でどうかしら」
「いや、不空羂索観音立像は金属ではないぞ。乾漆造といって材質は殆ど木と土のようなものじゃ。だから火は有効なはずじゃが、軽い分動きは素早い。さらにあの回転する光背、八本の腕、生身で突っ込むのは危険じゃ」
「やっぱり、ゴーレムを使うのが一番よさそうね」 
 観音像は光背の回転を止め、穏やかな微笑みを浮かべたまま、わずかに空中に静止している。
「酸を浴びせても跳ね返してくるじゃろう……どうすれば……」
 その時だった。ファタの視界の端に、真っ赤に燃え上がったゴーレムを直進させ、その横を併走する茅野 菫の姿が映った。
「おお、これじゃ!」
 ファタは立ち上がると、ゴーレムに「酸を吐きながら体当たりせよ!」と命令を下し、泡とジェーンには体当たりの瞬間、再び火術と爆炎波をぶつけろと指示した。
 燃え上がったストーンゴーレムは口から酸を吐きながら観音像に向けて突進していく。光背を高速回転させて酸を防ぐ観音像は動きが鈍く、ストーンゴーレムを回避できない。
「今じゃ!」
 二つの影が重なりあった瞬間、泡とジェーンは炎の威力をそこへ叩きつけるように放った。激しい爆発音とともに、二つの像が炎のなかで砕け散る。
「やった……!」
「マスター、こっちのゴーレムも壊れちゃいましたでありますね」
 あほ毛をしょんぼりと垂らしたジェーンの頭を、ファタは優しく撫でてやった。
「ゴーレムはなくなったが、戦いはまだまだ続くぞ。校長を追いかけるのじゃ、急げ!」
「私も隊列に戻らなきゃ!」
 三人は立ち上がり、大仏殿目指して走り出した。

 エリザベート校長の左右を守るようにして直進を続けていた峰谷 恵(みねたに・けい)織機 誠(おりはた・まこと)の騎乗するゴーレムの前に立ちはだかったのは、まるで鏡に映したように左右対称の塑造日光・月光(がっこう)菩薩立像、二体の黒い菩薩像であった。恵はうっすらと微笑を浮かべて立つ菩薩像をにらみつけ、啖呵をきった。
「でたわねー! エリザベートちゃ、ごほんごほん。校長先生たちの邪魔はさせないよ!」
 誠も赤いペイントをほどこし、見事な角状のモヒカンを天辺に植えつけたゴーレム「誠専用マグロ」の上から三メートルを超える菩薩像めがけ指をつきつける。
「ゴーレムの大きさの違いが、戦力の決定的差ではないということを……教えてやる。さあここは私達に任せて、先へ!!」
 二人はゴーレムから飛び降りる。
「アシッドミスト!」
 恵のゴーレムの口から酸の嵐が発射され、二体の銅像の足止めをする。その間に、校長をはじめとするゴーレム軍は二人の後ろを回り込み、先へと向かった。二体の菩薩像はその動きに反応し、後を追おうとする。
「させるか! いけっマグロ、敵仏像に抱きつけ!」
 赤いゴーレムは黒い月光菩薩の腰の辺りに抱きつき、ぎりぎりと締め上げた。ディフェンスシフトの付与されたこのゴーレムは通常の三倍の固さ、だと誠は思っている。ところが。月光菩薩の腕が動き、じわじわとゴーレムの腕を広げ始めた。
「ええい、仏像軍の仏像は化物か。これだけの攻撃で……!」
 槍を構えたままぎりぎりと唇をかみ締める誠を、恵がどんと押した。
「どいて!」
 恵は掌から雷術を放ち、月光菩薩を感電させた。誠のマグロごと、月光菩薩の動きが止まる。そしてそこへ、恵のゴーレムが体当たりをした。
 どおん、と激しい地響きを立てて、マグロと月光菩薩が倒れる。三倍の固さ(?)になっていたマグロに押しつぶされ、月光菩薩は地面の上に潰れて動かなくなった。
「さあ、もう一体、行くわよ!」
「ふふ、戦いとは常に二手、三手先を読んで行うものだったな」
 不敵な微笑みを浮かべ、マグロを起き上がらせた誠は、恵とともに残る日光菩薩と対峙した。

「くそう、何でこんなことになるのだ」
 儀式魔術学科の講師、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は歯をぎりぎりとかみ締めた。彼は、校長の大仏攻撃に反対なのである。そのために思いとどまるよう、旅館でも抗議を申し入れた。だが何かに取り付かれているような校長は全く聞き入れず、仕方なく、なるべく被害を少なくするため、露払い、つまり校長が大仏としか戦わなくてすむよう道を切り開くつもりだった。
 ところが。
 今彼の前に立ちはだかっているのは、仏像を守ろうという同じ意志を強い瞳に湛えた生徒たちなのである。
 助手のエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)、英霊のシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の肩の息も上がっていた。
「お前たち、冬の課題が二倍増量になってもかまわないというのか!」
「構いません! 先生こそ、どうして校長に加担してこのような茶番劇に興じるのですか! 警察沙汰になってもおかしくないんですよ!」
 ひとつにまとめた美しい黒髪を揺らし、赤い瞳でこちらをにらみかえすのは、水神 樹(みなかみ・いつき)である。その隣に立つリリサイズ・エプシマティオ(りりさいず・えぷしまてぃお)も銀色の大きな瞳をさげすむように細めて、言い返してきた。
「他国の国宝を傷つけるなど、言語道断でございます! 我がエプシマティオ家も日本とは浅からぬ繋がりを持っております。このことが知れたら、実家に帰ったときにものすごいお叱りを受けますわ!」
「さっきも言った通り、校長は言葉で止められるタマ、いやお方ではないのだ! だからこのように何とか被害を少なくして」
「能書きは結構! やるんですの、やらないんですの!」
 リリサイズの挑発的な言葉を聴いては黙っていられない。幸い、ゴーレム同士の戦いであれば生徒に傷をつける可能性は少ない。しかも、相手は二体。こちらは一体だ。
「そこまで言うならば受けてたとう」
 アルツールは腕を振り上げると、火術をゴーレムに付与し、高らかに命令を発した。
「ストーン・ゴレーレム、アァァァクションンん! チョクシィィィン!!!!!」
 すさまじい轟音を立て、アルツールのストーンゴーレムが生徒たちのゴーレムに向かっていく。その後ろから素早く、シグルズが更にチェインスマイトを付与した。
「簡単にはやられませんよ!」
 樹のゴーレムが、二人の少女の前を覆うようにして両腕を広げ、立つ。挟み撃ちしようと回り込んできたリリサイズのゴーレムの足を、エヴァが氷術を使って止めた。
「食らえ!ヒンダルフィヤル山おろし二段斬り!」
 シグルスの気合とともに、凄まじい速さで巨大な腕が連続で樹のゴーレムの肩と胸に叩きつけられた。だが、樹のゴーレムはわずかにかしいだだけで、倒れない。
「何い!」
「見た目は同じでも、私のゴーレムにはディフェンスシフトを付与してありますから、簡単にはやられませんよ!」
「なるほど、考えているじゃないか。ではこれはどうだ!」
 アルツールは再び腕を天に突き上げ、大声で命令を下す。
「ファイアァァァ、レェェェェェイ!」
 ゴーレムの口からすさまじい火炎が噴出し、樹のゴーレムを襲う。
「させませんわ!」
 今度はリリサイズが氷術を使い、炎に包まれた樹のゴーレムを救った。
「中々やるな……」
 しばしにらみ合いが続いた、その時。エヴァが突然大声を出した。
「アルツール、あっちを!」
 指差した方向は、二人の女子生徒の背後。そこに、塑造執金剛神立像が立っていた。肌の表にわずかに彩色の残った金剛神像の大きさはゴーレムよりわずかに小さいものの、浮かべた憤怒の顔はまさに怒れる神といった強さと神々しさ、そして猛々しさに満ちている。アルツールの幅広く深い知識は、それがかの有名な快慶による作の秘仏だということを教えた。
 金剛神像は捧げ持った宝具、見た目は小さなダンベルといった具合の金剛杵を思い切り振り下ろした。
 刹那、青い稲光が視界を横切り、地面の石畳にひびわれが走る。
 二人の女性徒が突然の攻撃に悲鳴を上げた。その瞬間。
「ファイアァァァ、レェェェェェイ!」
 今度はアルツール自身が呪文を放った。紙粘土に似た材質で出来た金剛神像が炎に包まれる。しかし。再び、雷を呼ぶ宝具を握り締めた腕が振り上げられた。そこへ、リリサイズの火術が重ねて掛けられる。そして樹の長いハルバードが一閃、金剛神像の宝具を握った腕ごと切り落とした。
 金剛神像は激しい炎のなかで黒く、焼け崩れていく。
「やったー!!!!!!!」
 一斉に喜びの声をあげ、抱き合ったが彼らだったが。
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!(国宝!)」
 こうして、ひときわ大きなアルツールの悲鳴が夜空に響き渡った。