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リアクション
麻衣にヒールをかけられている亜衣を少し離れた場所でレオン達が見ている。
「大丈夫かな、亜衣」
そう言って様子を見に行こうとしているハインリヒを幻舟がそっと止める。
「亜衣殿は責任感の強い人じゃからのう。今はそっとしといてやるのが一番じゃ」
やがて、麻衣と共に、亜衣がやって来る。
皆の顔を見た亜衣がアハハと笑う。
「ごめんなさい、やられちゃった」
「お姉ちゃん……」
「亜衣……」
皆の発言を遮るかのように、ビシッと指差す亜衣。
「いい? みんなは何としてでも生き残るのよ? じゃなかったら……私、許さないんだから……」
そう言う亜衣の瞳に涙が溜まっていく。
「はーい! それじゃあ亜衣さん、行きましょうか?」
先程まで一徒に腕輪奪取時の状況を聞いていた審判役の飛鳥が、不正なし、との判断を下し、亜衣の元へとやって来る。
「はい……」
亜衣が顔を下に向け、飛鳥と共に去って行く姿をレオン達が見送る。
「オレは……何も、出来なかった」
そうレオンが呟くと、ハインリヒがレオンの肩に手を置く。
「その台詞は亜衣のパートナーであるわたくしのものですよ」
レオンが見ると、ハインリヒが唇を強く噛みしめていた。
「わたくしも、もう行きます。 みなさん、亜衣の分まで生き残ってくださいね?」
ハインリヒはどこか寂しそうに微笑むと、商品を片付けて、夕日の中へと歩いていった。
「生き残る、か……果たしてそれでいいのか?」
「ええ……本当に、別れというのはいつも悲しいものよね?」
「ああ……て、あんた誰?」
レオンが思わず飛び退くと、ハンカチで涙を拭いていたモンクの琳 鳳明(りん・ほうめい)が、はたと顔を上げる。
「すいません、私、こういうのにとても弱くて……」
「いやいやいや……あんた、新入生か?」
「……いいえ?」
そう言い、鳳明は腕に付けた赤い腕輪をレオンに見せる。
「よく頼りないとか言われるけれど、私、在校生なんです」
鳳明の言葉に、レオン達が素早く距離を置く。
「あれぇ? どうしたのよ?」
「次から次へと、よく出てくるぜ……」
すかさず戦闘態勢に入った一同を見渡す鳳明。
「さすがに、一対一の戦いは望めないか……」
「策略無しで来たの? 随分余裕じゃん?」
美悠が鳳明を見て鼻で笑う。
「いいえ? つい先程、志を同じくする方々と一緒に……ね?」
鳳明の背後から、おどおどしながら姿を現すのは、セイバーの水渡 雫(みなと・しずく)である。
「えぇと、この状況は……新入生さん歓迎会ですねっ! 戦士は刃を合わせて互いに語るというやつですよねっ?」
一人で妙に納得しながらも雫は背中から野球のバットを取り出す。
「私も、あのっ、一対一を希望しますっ!」
一瞬、合コンの台詞のように思える雫の発言にレオン達が顔を見合わせていると、それまで黙っていた黒龍がスッと前に出る。
「おまえの相手は私がしてやろう」
「黒龍……あんた、最終的に腕輪を持ってさえいればいいって言ってたのに……」
「だからだよ、いくら在校生と云えども野球のバット如きにやられる私ではないよ」
黒龍がルミナスレイピアを構えて、雫の前に立つ。
「えーっと、私は水渡雫です、あの、あなたのお名前は?」
「天黒龍だ」
「そうですか、じゃあ天さん!」
「……今、発音わざと間違えなかったか? それとも自然に言葉に刃を持つのか?」
黒龍の頭の中に三つ目のスキンヘッドの武闘家が沸き上がってくる。
「むぅ……確かに武器に刃がないですけど仕方ありませんっ。為せば成りますっ!」
「いや、刺があるのは呼び名の方なんだがな」
一方、取り残される形になった幻舟、麗夢、麻衣、美悠らは4人で集まり話を行っていた。
「して、どうするのじゃ?」
「私、お姉ちゃんの仇を討ちたい! だからレオン達に加勢しよう!」
「でもタイマンやるって言ってるじゃん?」
「男ってどうしてああいうのに燃えるのかしらね?」
そこにヨタヨタと疲れ切った顔で歩いて来るのは、英霊でフェルブレイドの典韋 オ來(てんい・おらい)であった。
「あの……実は、避難の途上で逸れてしまいまして……案内して、頂けませんか?」
「避難民? こんな所に?」
麻衣が疑いの目で典韋を見つめる。
「下手な芝居はよしたほうがあなたのためよ?」
子供っぽさの中にもどこか年長者のような貫禄を持つ麗夢が言うと、言葉に詰まった典韋はペロリと舌を出して笑う。
「ま、今のは浅知恵だったわな。新入生同士で一緒に行かねぇかい? 知恵を出し合おうや」
腕に付けた青い腕輪を見せる典韋。
「ちょっと、というかかなり怪しいんだけど」
幻舟に耳打ちする麻衣。
「ですが、今や前衛隊員はセイバーである私だけじゃ。見たところフェルブレイドである彼女を戦力にした方が、残り時間は安全というもの……」
「いいじゃん、男共はここで戦うみたいだし……」
中々、話のまとまらない麻衣達の会話を聞きながら、典韋は平地の茂みを横目で見やる。
平地の茂みの中には即席で掘られた塹壕の中でスナイパーライフルを構えたスナイパーのローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が引き金に指をかけていた。
じっと息をひそめて獲物を狙うローザの腕には赤い腕輪が煌めいている。
「(もうちょっと近くまで連れて来てくれないと、命中率が悪くなるのよ)」
尚、彼女のスナイパーライフルは、簡易サイレンサー代わりにペットボトルの底を刳り抜いた物を銃口に装着してある特殊仕様のものであった。
スッとローザマリアの傍に姿を見せた英霊でローグのグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がローザマリアに囁く。
「ローザ、わらわが囮になり、おびき寄せようか?」
ライザが赤い腕輪をクイッとローザマリアに見せる。
「あんたは私と瓜二つなんだから、撹乱はもうちょっと待ってよ。第一、それを利用するために腕輪もダミーを作ったんだから」
「近くで見ればすぐに分かるシロモノであっても、感覚の混乱した戦場ではそれもわからぬか……しかし、待つ、という作戦はわらわにはやはり退屈以外の何者でもないのう」
「ブラダマンテの立場はどうなるのよ……」
「きゃつは騎士道とか言うのを重んじておるから放っておけばよかろう」
迷彩塗装で姿を隠し、ローザマリアの周囲を警護していた英霊でアーティフィサーのブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)が、ジロリとライザを睨む。
「来たっ!」
小さく歓喜の声を上げるローザマリア、すかさずライザが見ると、典韋が麻衣達を連れてこちらに向かってくるのが見える。
「ライザ、ブラダマンテ、一斉に仕掛けるわよ? これで腕輪を規定数一気にゲットできるんだからね?」
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