リアクション
「でゃああああーっ!!」
黒いショートヘアを激しく揺らしながら、槍術中心の戦い方でレオンを追い詰めていく鳳明。
「くっ! 負けられるか! もう逃げも隠れも絶対しねぇぇぜぇっ!!」
「そうですね、それでこそ、軍人です」
既にアサルトカービンを叩き落とされていたレオンは防戦一方となる。
「これでも食らいやがれっ!」
コンバットアーマーの内ポケットから小型の手榴弾を出したレオンがピンを抜き、鳳明に投げる。
「でも、たまには、私だって先輩風吹かしたいしー!」
謎の掛け声と共に、ロングスピアの切先で手榴弾の軌道をちょいと逸らす鳳明。
「なにぃぃぃーっ!!」
「甘いよ? レオンさん!!」
「黒龍! そっち行ったぞ!」
少し離れた所で、黒龍と激しく刃とバットを合わせている雫が楽しげに笑う。
「何を笑う? 余裕か、先輩?」
「違いますよ、天さん。あなた達を見ていると、一つ違いの故郷の弟思い出して何だか嬉しいです」
ふと「黒龍! そっち行ったぞ!」との叫び声が聞こえる。
黒龍が振り向くと、綺麗な放物線を描いた手榴弾が黒龍と雫の真上から落下してくる。
「バカッ!!」
そう叫んだ黒龍が雫を見ると、雫が怪しげな構えでバットを持っている。
「……一本足打法?」
「葬らぁぁーーん!!」
――カッキィィィーーンッ!!
雫のバットが手榴弾を再びあらぬ方向へとかっ飛ばす。
それは丁度、典韋が麻衣達を連れて歩いていくその先で着弾した。
――どごおおおーんっ!!
パチパチと燃える茂みの中から、若干ススで汚れた顔をしたローザマリアとライザがすこぶる不機嫌そうに出てくる。
「最悪……」
「まさか、爆破されるとは……」
ハッとした顔でローザマリアが振り返る。
「ブラダマンテは?」
「私はここですわ」
と、謎のハンドルを持って炎の中から現れるブラダマンテ。
「ハンドル?」
「ええ、茂みの中に隠して置いた小型飛空艇のものですわ……私、今言いようのない怒りが沸き上がってきてます……」
「離脱は不可能……と。どうする? 一旦、態勢を立て直すか?」
ライザの言葉に、ローザマリアがじっと正面にいる麻衣達を見る。
いつの間にか空はオレンジ色に染まり、炎のような太陽が地平線に沈もうとしていた。
「もう時間がないの……実力行使で行くわよ!」
そう言うとローザマリアはスナイパーライフルにつけていた簡易型のサイレンサーをポイと投げ捨てる。
彼女たちの視界に、典韋が麻衣達に問い詰められているのが映る。
「行くわよ!!」
その言葉と同時に、隠れ蓑と光学迷彩で姿を消したライザとブラダマンテが麻衣達に向かって飛びかかっていくのであった。
「そこまで!!」
ゼェゼェと息を切らし、埃と土まみれになった新入生達と在校生達が一斉に声の主を振り返ると、マーゼンと飛鳥が凛々しい顔で立っている。
「本時刻を持って訓練は終了した。今より速やかに三郷キャンパスへと移動する。戦闘はやめたたまえ!!」
「はいはーい! 終わりですよー?」
「審判か……」
「終わったぁぁー!」
歓声と安堵の溜息があちこちから響く。
そんな中、マーゼンににじり寄るのは典韋であった。
「ちょっと、おまえ、良い所なんだから邪魔するなよ! 戦闘が始まったら最後まで戦うのがシャンバラだろうに!?」
チラリと典韋を見たマーゼンが咳払いする。
「むしろ、私の忠告は君にとってはありがたいものだと思うがな」
「何でだよ?」
「その腕輪……調べさせてもらっても?」
ハッとした顔で典韋が腕に付けた青い腕輪を隠す。
「ルール上、チームで行動する場合は腕輪は一つだと言ったハズだぞ? つまり、偽物を所持している場合も、これに抵触するのではないかね?」
パンパンと手を叩く飛鳥が言う。
「はいはーい! 速やかに移動しないと、みんな泥だらけで汗臭いままのご飯になっちゃうよ?」
「ご飯?」
そのフレーズに先程まで地面で大の字で寝ていたレオンが起き上がる。
「ご飯、いや、メシがあるのか?」
飛鳥がレオンを見てニコリと笑う。
「さっさとシャワー浴びて、三郷キャンパスで歓迎会だよ?」
「「ウオオオオオーッ」」
レオンや近くにいた新入生達から、地鳴りのように歓声が上がるのであった。
第五章:宴
シャンバラの三郷キャンパスに疲れ果てた顔で帰ってきた生徒達の前には、質素ではあるが豪華な食事や飲み物が用意されていた。
屋外の立食パーティー会場では、梅琳がグラスを持って皆にこう呼びかけてスタートした。
「皆、訓練ご苦労様。裏方や手伝いに回ってくれた生徒も、本当にご苦労様でした。この経験を元に、競いあって、より良い軍人を目指して下さい! 乾杯!!」
「「乾ぁぁーーいぃぃっ」」
「お帰りなさい!」
ジュースを飲む麻衣と幻舟の肩が叩かれ、振り返るとそこに亜衣がいた。
「お姉ちゃん!? よかったぁー無事で」
「当たり前じゃ、亜衣殿がそう簡単に死ぬもんか」
そう言って笑いあう麻衣と幻舟。
「でも、なんでメイド服なの?」
「あ……う、こ、これは、敗者へのペナルティーだって」
「へぇ……お姉ちゃんがねぇ」
「いや、これはこれで良いものじゃ」
赤面する亜衣を楽しそうに見つめる麻衣と幻舟であった。
そしてそんな亜衣の様子を少しバツが悪そうな顔で見ているハインリヒであったが、後に歓迎会で女生徒に声をかけている所を亜衣のキックで吹っ飛ばされる事になる。
「よう、無事に生き残れたみたいだな?」
黒龍にそう声をかけるのは、瑠樹であった。
「ああ、あんたもか?」
「いやぁ、俺はやられたよ。マティエに気を取られている隙にな」
「何?」
「なぁに、上には上がいる。たまたまそいつが新入生だったてだけだ」
そう笑う瑠樹に黒龍は自然と握手を求めていた。
「恵琳先輩! 素敵であります!!」
「恵琳さん、僕と一枚写真をー!!」
「来るなぁ、そして見るなぁ!!」
必死で後輩たちのラブコールを断りつつ、メイド服のスカートを翻して華麗にテーブルを恵琳が跳躍していく中、レオンは一人、肉をたらふく食べていた。
「おひゃわひっ!」
「おいおい、口の中のモノを飲み込んでから言いな?」
レオンの隣の席に座った真一郎が苦笑いする。
「おへさ……」
言いかけたレオンが口内の肉を飲み込んで言う。
「この学校で何がやりたいか、わかったんだ」
「へぇ、何だ?」
「皆を守れる軍人になる! 全員は無理かもしんないけど、せめて、自分の大切な人や仲間は、命をかけても守る価値が絶対ある、そう思ったんだ」
「……そうか」
「李少尉はだからきっとこういう訓練をしたんだぜ? 守ったり守られたりできる仲間をシャンバラで作るようにって!」
人懐っこい顔でレオンが皆を見回して、力強く頷くのであった。
その後、シャンバラの歓迎会の宴は夜更けまで続き、お開きになる頃には全員倒れるように眠っていましたが、その顔はほんの少し軍人ぽくなっていた気がする、と後にある生徒が語ったそうです。
(完)
こんにちわ、深池豪(みいけ ごう)と申します。
今回のお話はいかがだったでしょうか?
気がつけば私自身、軍人とは? シャンバラ教導団とは一体何であろうか? という疑問を自問自答しながら、新入生のレオンや皆さんのアクションを元に答えを出そうともがき苦しんでしまいました(笑)
さて、今回のお話はシャンバラ教導団の新入生歓迎訓練という事でしたが、数名の方より、在校生の立ち位置がわからないというご指摘を受けてしまいました。
すいません、私のガイドの仕方がちょっと分かりづらかったと思います。
基本的には今回の訓練にて在校生へのメリットはあまりありませんが、そこはシャンバラという軍事学校なので、実際の縦社会よろしく在校生の愛あるシゴキを与えて欲しいなぁと思っておりました。
多くの在校生に参加してもらえて、私は楽しく執筆できた気がしますが、皆さんはいかがだったでしょうか?
(尚、新入生との絡み希望で叶わなかった在校生の方々、アクション不採用の方々、本当にごめんなさい!)
特に、今回は在校生の皆さんのアクションを拝見させて貰っていて、その戦略性の高さにただただ驚くばかりでした。
皆さん、サバイバルゲームとかやられるんでしょうかねぇ?
なにわともあれ、皆さんにも少しでもこのお話を楽しんでいただけたら幸いです。
今回の称号は新入生の方を中心に付けさせて頂きました。
付いてないよ、と言う方は、私がいいネーミングが浮かばなかっただけです。ごめんなさい!
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。