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リアクション
【Battle・6 闇の中でも目標を見失わなければなんとかなる】
続く第六戦目。
「さあ、次の訓練もどうなるか見ものですぅ……ふわぁ」
(だったらあくびしないで欲しいな、まったく)
○イコンチーム
水城 綾(みずき・あや)とウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)のイーグリット、
リュート・エルフォンス(りゅーと・えるふぉんす)とエリス・フォーレル(えりす・ふぉーれる)のイーグリット、
天御柱生徒のイーグリット一機、コームラント二機。
○巨大化チーム
リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)、
師王 アスカ(しおう・あすか)とルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)、
ニック・フィッツジェラルド(にっく・ふぃっつじぇらるど)、
イルミンスール生徒が一名。
開始の合図と共に、リースはイコンチームの元へと駆け。
やがてイコン五機がすべて視界に入ってくる。
まだ移動前であることに喜びつつ、距離を見計らって闇術を展開させた。
(暗ければ、銃は使いづらいはず。さあここからどう戦うべきでしょうか……え?)
思案を巡らせるリースだったが、そこに容赦なくビームが脇をかすめ、リースの纏っていた魔法使いのマントを軽く焦がした。
あてずっぽうにしては、的確にこちらを狙ってきたことに目を見張るリース。
「甘いよ。視界が黒に染まっても、イコンにはセンサーがあるんだ」
ビームライフルを構えたイーグリット操縦中の天御柱生徒が言うように、イコンの熱センサーは、陽炎のようにゆらめく人型を確かにとらえていた。
パイロットの顔は見えなくとも、明らかに嘲笑されているようにリースは感じた。
「ふふ……私をあまり甘く見ないほうがいいですよ?」
今はまだ闇の中ゆえ誰かが認識することはできなかったが。大きく開いていたリースの目が細まり、色は徐々に赤く染まっていく。
(本当は使うなって言われてたけど、しかたないか)
やがてなにかを決意し、自身の身体から光条兵器である剣を引き抜いた。
「目覚めなさい【ジャスティスブレイカー】彼の正義をずたずたに引き裂きに行くよ!」
そんな叫びを聞きながら、天御柱生のひとりはやはり嘲笑していた。
(大声出してたら、音声センサーにもひっかかっちゃうのに。やれや……れ?)
今度は彼が目を見張る番だった。
まず機体の腕部分が損傷を訴えた、なので自然とそちらにカメラを向けるが、そこには誰もおらず。かすかにセンサーは反応していたが、そこから現状を分析しようとした頃には、既に次の斬撃が今度は足部分に損傷を与える。
「あはは。私の剣、とくと味わうが良いわ……!」
闇に隠れてのリースのヒットアンドアウェイは、確実に彼を翻弄しつづけていた。
確かにイコンには、闇の中でも敵を見つけられるセンサーやレーダーが搭載されている。
が、パイロットがそれを十分に活用して戦えるかどうかは別問題なのだ。
結果。せっかくのイコンの高性能を生かしきれず、彼はそのまま機能停止させられた。
「さぁ、次は誰の番かな?」
悠々と剣を構えるリースは、場の闇術がきれてきたのでもう一度かけ直そうとして。
目の前の機体が、三機しかいないことに気づいた。倒したイーグリットを入れて四機。
つまり、
「見事な戦いぶりでしたけど、こちらも負けるわけにはいきませんので」
「姿を潜めるのは、そっちの専売特許じゃないんだぜ」
「!」
驚くリースの遥か頭上には、小さく綾とウォーレンの機体が見えた。
(いつの間に上に!? しまった、このままじゃ……)
他の機体からもビームライフルの攻撃を受け、退避しようとしたリース。
だが上空より高速で急降下してきたイーグリットのビームサーベルが、既に彼女の眼前にまで迫っていた。
「ふぅ。これで数はイーブンに戻ったわね」
「でも今の攻撃はさすがにムチャだったみたいだな、機体がガタガタ言ってる気がする」
傍らで気絶しているリースを見つめつつ。
微妙に間接部の動きが悪い機体を休ませながら、綾達は息をつき思案をめぐらせていた。
「ねぇ、ウォーレン。イルミン生ってことは魔法使い系の人が多いのかな?」
「かもな。でも分が悪いなら、得意な手段で戦えばいいのさ! 何も相手に合わせる必要はないってことさ!」
「まあ、そうね。そうなんだけど」
「お嬢、今回はシミュレーターだ。力んでないで、気楽に行こうぜ!」
「でも例え練習といっても負けないようにしないと……とにかく。皆さん、私達は上空に戻って索敵を再開します」
味方と連絡をとり、機体に一応の気を配りながら発進させ空へ飛んだ。
相手の視界にとまらない高度を保ちながら、レーダーで敵を追っていくふたり。
「それにしても、シミュレーターなのにとても忠実に再現されてる……。音声や光センサーの他に、サーモグラフィーまでちゃんと機能してるなんて」
「技術の躍進ってのは凄いよな。そのうちできないことなんてなくなるんじゃないか」
と、話すふたりの見ていたカメラのひとつが、人影をとらえた。
それは世界樹の陰に寄り添い、キョロキョロ辺りを見回している巨大化してもどこか儚げな印象の消えない少女、アスカだった。
それでも綾もウォーレンも油断はせず、すぐに味方と連絡をとり攻撃の隙を伺う。
彼女はこちらに気づいている様子はなかった。
これなら反撃されず仕留めることも可能かもしれない。綾にそんな考えがよぎった直後、
イーグリットの足がギギギギときしむような異音を奏でた。
「いけない!」「しまった!」
直後、バニッシュの光が周囲を包んだ。
行なったのはアスカ以外の誰でもない。
「逃げられる前に、追い詰めないと!」
機体の異常と敵に気づかれたことで焦りが生まれた綾は、若干高度を下げた。
そして。まさにそれに応じるかのようなタイミングで、下から誰かが跳びあがった。
「アスカに手を出させるわけにはいかないのだよ」
現れたのはアスカのパートナーであるルーツ。
彼は濃度を高くあげたアシッドミストを、中空のイーグリットめがけて放出する。
綾たちは慌ててまた高度を上げようと試みかけるが、ルーツが雷術を撃ち込むほうが早かった。
擬似雷雲と化したアシッドミスト内にまだ両の脚部分を残していた綾達の機体は、爆発音と雷鳴音とを同時に轟かせながら、脚の機能を完全に沈黙させた。
「くっそ、ここまでか!」「こうなったら、せめて……」
しかしそこから倒れる勢いを利用して、イーグリットはルーツにのしかかった。
しかも辛うじて動く腕をルーツの背に回し、決して逃すまいとする。
「これ以上の戦闘が無理としても、我を道連れにするつもりか。くっ、アスカ……!」
両者はそのままもつれあいながら、数十もの木をなぎ倒しながら落下した。
十数羽の鳥が騒がしく喚いて、そして、静かになった。
「ルーツ……!」
アスカは両者が相打ちになったことは、見えなくとも理解できた。
様子を見に行きたい衝動にかられながらも、アスカは取り乱すことなく冷静にその場にとどまった。
なにしろ今は、アスカの隣にニックとイルミンの生徒が加わっており。
目の前にリュートとエリスのイーグリットが一機と、天御柱のコームラントが二機既に到着済みなのだから。
「再び、同数になったようでござるな」
ニックの言葉に、イルミン生徒は緊張の色を濃くしながらも杖は両手で握り直した。
「ここで本気を出さずしては、武士道に反する! 例え勝敗がどうであれ、わらわは最後まで戦い抜くでござるよ!」
狩人の弓を引き絞り構えるニック。
「それはこっちも同じだ! いくぞ!」
天御柱生のコームラントも、まず一機距離を詰めるべく勢いよく走り出し。
三歩目でずるりと滑って転んだ。
一瞬で緊迫した状況が台無しになったが。実はこれは、ルーツが大立ち回りを演じている隙に、持ち込んで巨大化させた日焼け止めを、アスカが下に撒いておいた成果だったりする。
「ひっかかったねっ? さぁ、いくよぉ!」
しかもパワーブレスで自分を強化済みな彼女は、既にウォーハンマーを振りかぶっていた。
強化されたその攻撃はまず右腕を叩きに叩いて、数秒で肩との接合部分が破壊された。
「くそっ、そんな間抜けな作戦でやられてたまるか!」
リュートのビームライフル攻撃に、一度下がるアスカ。
その代わりにニックが放つ矢と、イルミン生による奈落の鉄鎖がリュートとエリスの機体をとらえようとしていく。
からまりかけた鉄鎖をブーストで機体を無理やりに加速させ、難を逃れた勢いのまま世界樹に沿って更に上昇していく。
「む。あの者は援護優先でござるか? ならば、目の前の敵を先に殲滅するのみ!」
ニックはそう呟くと、右腕を失いながらも起き上がろうとするコームラントにドラゴンアーツによる拳を叩き込んでいく。
そのピンチに、もう一機のコームラントは大型ビームキャノンを放たんとするが、味方に当たるのを恐れたせいか砲撃はあさっての方向へと飛んでいってしまった。
「クッ、まずい。これじゃ押し切られるのも時間の問題だ」
世界樹の枝葉に隠れつつ、劣勢に歯噛みするリュート。
「リュート君! なにやってんの、このままじゃ負けちゃうよ!」
そこへやや場違いにも思える無邪気なエリスの声が響いた。
「リュート君、なんとかして! 絶対勝たなきゃ! 勝って牡蠣料理だよ!」
エリスの食欲に忠実な応援に、思わずリュートは苦笑しながらも。
眼の色には、力が宿っていた。
「よし、僕の本気の本気を見せてやる! 味方は後ろに下がっててくれよ!」
叫びながらの通信の後、世界樹の上から思い切りダイブするリュート機。
落下のスピードに、ブースターを上乗せし更に速度を速めていく。
あまりにもな特攻に、下にいたほぼ全員が慌てふためき。
そんな混乱にビームライフルでの乱射まで加えていく。
攻撃でまずイルミン生徒が倒れるのを確認しながら、そのまま地面ギリギリまで撃ちつづける。
「よし。ここから、方向、転換!」
リュートは操縦桿と操縦パネルを操作し、墜落寸前で強引に機体を方向転換させ……
……ようとはした。
けれど。
「ぐっ、うわあああっ!」「きゃああああ!」
速度や敏捷性に特化したイーグリットとはいえ、さすがに無理があった。
曲がりきれずに地面を抉り、機体のそこかしこの部品を削り、内部にも大きな振動を与えていく。
これではもうこのまま自滅し大破するだけしか道はないかに思われた。
「まだ、だぁっ!」
けれど。リュートは力を振りしぼり操縦桿を強引に動かした。
「い、いかんでござる!」「きゃ、ちょっ――」
その先には、敵であるニックとアスカがいて。
彼らもろともにリュートとエリスは、散った。
『といっても、あくまでシミュレーターだから死んでないけどね』
『なんにせよ、これで巨大化チームは全滅。天御柱生徒が二名残っているイコンチームの勝利ですぅ』
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