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白薔薇争奪戦!

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三幕二場:タシガン空峡:上空

 空峡上空は今だ混戦状態にあった。おおむね護衛側が押し気味ではあるのだが、なにぶん今日が初顔合わせの寄せ集め。個人個人の技量では空賊を圧倒しているのだが、統制力では空賊側に一日の長がある。護衛の網を抜けて、何機かの飛空艇が飛行船へ接舷してしまった。
 接舷した飛空艇から空賊が降りて行き、窓などの開口部から船内へ侵入していく。
「拙いですね……」
 そう言いながら、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は手にした凶刃の鎖を飛ばし、飛行船に取り付こうとしていた空賊の首を縛り上げる。
 ぐぇ、とカエルの潰れたような声を上げた空賊を、陽子はおっとりとした口ぶりとは裏腹に、容赦無く鎖で振り回し始める。
 封印解凍によって発揮される力でもって振り回され、鎖で繋がれた空賊はまるでおもちゃのように空中で円を描く。振り回されることで発生するGに耐えきれず早々に白目を剥くが、陽子はそんなことお構いなしで、その身体を他の空賊へ向かって叩きつける。
 叩きつけられた方もたまったものではなく、飛空艇から振り落とされないようにするので精一杯だ。
 が、そこへ突如帯状の炎が襲いかかる。
 陽子と同じパートナーを持つ、月美 芽美(つきみ・めいみ)が駆るレッサーワイバーンのブレスだ。
 なんとか飛空艇に留まった空賊も、炎のブレスを受けてはひとたまりもなく、焦げた機体と共に落下していく。
「何、思ったより手応え無いわね」
 つまらなそうに呟き、芽美はワイバーンを操って他の飛空艇へと狙いを定める。
 ヒロイックアサルトを発動すると、黒い狂気が芽美の身体を包む。そのまま手にした龍殺しの槍を構えて突っ込むと、飛空艇の上の空賊を刺し貫く。
 しゅう、と鮮血が散る。
 そのまま芽美は空賊の身体を船外へ放り投げ、前方の席で固まって居るもう一人の空賊も、振り向きざまに貫いた。
 突如飛散した鮮血の色に、辺りの空賊達は一瞬動きを止める。
 ここへ来ていい加減、空賊達も契約者達の手強さに感づき始めていたが、撤退することは空賊としてのなけなしの意地が許さなかった。しかして、目の前で鮮血の飛沫を上げる仲間を見て平穏で居られるほど、死線をくぐってきた者達ではない。結果、固まることしかできずに居る。
 が、そこへ間髪入れず飛行船の上に立った紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が、手にした妖精の弓を放つ。サイコキネシスによって速度を上げ、軌道修正の成された矢は、見た目こそ慎ましやかであるが、そこいらの空賊達が持つ銃などを軽く凌ぐ攻撃力で持って、正確に次から次へ空賊達を襲う。
 睡蓮の矢に気を取られている空賊達の間を、魔鎧の姿となったプラチナムを纏った唯斗がレッサーワイバーンに乗って駆け抜ける。
 なんとか睡蓮の矢を逃れようとふらふらしている飛空艇に取り付くのは容易く、ワイバーンの背を蹴って飛空艇の動力部近くに飛び乗ると、手にしたアサシンソードをそこへ突き立て、ニンジャならではの身のこなしで機体を蹴り、ワイバーンの背へ戻る。
 唯斗がワイバーンの手綱を取って離脱した瞬間、飛空艇は爆発、四散した。

 魅世 蓮(みよ・はす)は、空飛ぶ箒でもって戦場のど真ん中に飛び込んで居た。
 はじめは飛行船に空賊が飛び移ろうとしたところを叩こうとしていたのだが、まどろっこしくなったのか混戦のど真ん中へと箒を進めていた。
 空賊と対峙した蓮は、何を思ったかいきなり空賊の飛空艇に飛び移ると、飛空艇本体を攻撃し始めた!
 取り付かれたことに最初は色めいた空賊達だったが、特に動力部を一撃で狙う、という訳でもない蓮の行動に一瞬驚いた様だったが、すぐに「なんだコイツ」という目で蓮を見る。
 なかなか壊れることのない装甲に苛立ちながらもガツンガツンと攻撃をやめない蓮に、空賊達は目を見合わせて頷き合い、どうやら無視することに決めたらしい。
 操舵手がぐんと速度を上げる。
 急にGに襲われ、蓮はひとたまりもなく振り落とされた。
 あわや空峡の藻屑、というところで、先ほど乗り捨てた空飛ぶ箒に引っかかる。
――役立たずとは、このことか……!
 遠ざかっていく飛空艇を見詰めながら、蓮は熱くなる目頭を必死に押さえるのだった。

 白薔薇の騎士・ララと、黒薔薇の魔導師リリは、飛行船に取り付こうとする空賊達を防いでいた。
 前線で戦う面々が大分防いでくれているとはいえ、それでも半数程度は飛行船の元までたどり着いて居る。
 空飛ぶ箒に跨るリリがサンダーブラストで空賊達を怯ませる。そこへ、ララが乗るペガサス・ヴァンドールのバックキックが決まり、空賊は雲の合間へと落ちていく。
 一方その隣では、フライングポニーに跨ったもう一人の白薔薇の騎士、クリスティーが、手にしたセフィロトボウを構え、パートナーのクリストファーがワイバーンのブレスで足止めした飛空艇に、正確に矢を打ち込んでいく。
「なかなかやるのだ」
「そっちもね」
 リリがクリスティーに声を掛ける。
「だが、負けないのだよ」
 挑発的に言って、リリは箒を前へと進める。
 と、そこへ横から新たな空賊が飛んでくる。後ろに搭乗する空賊の手にした銃が、リリを狙う。
「リリさん危ない! 前に出過ぎちゃだめだ!」
 それに気付いたクリスティーが声を張り上げる。
 え、とリリが空賊の方を振り向くが、呪文の詠唱が間に合わない。
 ダメか、とリリは覚悟を決める。
 が、そこへひゅっと空を裂く音。
 次の瞬間、クリスティーの放った矢が空賊の手を貫た。ひとたまりもなく、空賊は手にした銃を取り落とす。
 その隙を逃さず、リリはサンダーブラストを放つ。無数の雷に打たれ、空賊達は飛空艇のコントロールを失った。
「……助かったのだ」
「当然のことをしただけだよ。気にしないで」
 それよりも今は空賊を、と視線を互いのパートナーの方へ戻す。
 と、クリスティーの目に、クリストファーの背後から迫る空賊の姿が目に入った。
「クリストファー!」
 クリスティーの声にクリストファーも気付いた様だったが、ワイバーンの進路が思うように変わらない。クリストファーの顔に焦りが浮かぶ。
 クリスティーが矢を引き絞るが、いくらセフィロトボウとは言え矢が十分な威力を持って届く距離には思えない。
 が、いち早く反応したララが、ヴァンドールの手綱を取って、クリストファーと空賊の間へ割り込む。
 すかさず繰り出される轟雷閃の前に、空賊の飛空艇はまっぷたつに切り裂かれ、落ちていく。
「助かったぜ……」
 九死に一生を得、思わずクリストファーは安堵の息を吐く。
「ドラゴンライダーになれたからって、浮かれてたな。クリスティー、やっぱり前衛は頼むぜ」
「ああ、解った」
 クリストファーは大人しくワイバーンをリリの隣へと並べる。その代わり、クリスティーがフライングポニーを駆ってララの隣へと並んだ。
「やあ、なかなかやるね。やはりイエニチェリの名は伊達じゃないってことかな」
「ララさんこそ。さすが、ルドルフさんの眼鏡に適うだけの事はあるね」
 互いのパートナーを助けられた事で、わだかまりも解けたらしい。
 ふたりの白薔薇の騎士は並んで、飛んでくる空賊達と対峙した。

 パラ実生ガートルードは、次々と落とされていく空賊達の姿に心を痛めていた。
 少しでも護衛になればと光る箒で飛び出しては来たが、広範囲にわたる空中戦の全てをカバーすることはできない。なんとか手の届く範囲に居る空賊達への攻撃は或いは盾になり、或いはシューティングスター☆彡で攻撃手を攪乱したりはしているものの、あまりに微力だ。
 それでも何もしないよりは、と飛び回るガートルードの行く手を、ワイルドペガサスに乗った武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が塞いだ。
「待て! お前、何故空賊共に力を貸す!」
 見るからに空賊とは縁遠そうなガートルードの姿に疑問を抱きながらも、空賊に手を貸す行為を見過ごす事はできない。牙竜は腰の龍骨の剣を構える。
「徒に討伐されるばかりの仲間を捨て置くことはできません」
 対するガートルードも、手にした漆黒の杖を牙竜へと向ける。
 二人の視線がぶつかる。
「空賊に味方するというのなら、見逃す訳にはいかない! 行くぞ!」
 牙竜が吼えた。
 それを合図に、二人は一直線にぶつかっていく。
 牙竜の剣がガートルードの頬を掠める。
 間一髪でそれを避けたガートルードは、至近距離からファイアストームを放つ。
 慌ててペガサスの手綱を取って回避行動を取る牙竜に、シューティングスター☆彡の追撃を喰らわせるが、ペガサスの機動力の前には致命傷を与えるに至らない。
 牙竜は攻撃を避け、ペガサスの鼻先をガートルードへ向ける。
 ガートルードの攻撃は魔法が中心、対して牙竜の得物は己の拳と剣。離れていては牙竜が不利だ。
 牙竜はペガサスの機動力をもってガートルードへ突っ込んでいく。詰められては不利なはずのガートルードは、しかし表情を変えずに正面から牙竜を迎え撃つ。
 牙竜は腕を振りかぶると、正義の鉄槌をガートルード目掛けて叩き込む。
 しかしガートルードは身体を捩って直撃を避け、ヒロイックアサルトを牙竜へ打ち込む。
 ばんっ、と力と力のぶつかる音がした。
 次の瞬間、モロにヒロイックアサルトを喰らった牙竜は腹を押さえ、苦い顔で戦線を離脱していく。
 が、一方のガートルードも空飛ぶ箒から振り落とされ、右手だけでぶら下がっている状態。追撃は不可能だった。その空飛ぶ箒も衝撃でヒビが入って、いつ壊れるか解らない。
 ガートルードの頬を冷や汗が伝う。
 と、そこへ飛行船へ仲間を下ろした空賊の小型飛空艇が通りかかった。顔合わせをしていたのが幸いしなんとか拾って貰うことができたが、ガートルードは苦々しげに牙竜の飛び去った空を見上げた。

 両勢の飛空艇が入り乱れる空に、一機の小型飛空艇・オイレと、四匹のワイルドペガサスが颯爽と現れた。
「おー、やってるわね」
「ちょっと留守にしてる間に……いい度胸じゃない?」
 ペガサスに跨った五人のうち、中央の金髪をポニーテールにした女性と、その隣の黒髪の少女が口を開く。
 元々タシガン空峡で活動していた「シャーウッドの森空賊団」の団長であるヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)と、副団長リネン・エルフト(りねん・えるふと)だ。
「ちゃんとご挨拶に行かなくちゃ、ね。行くよっ!」
 ヘイリーのかけ声で、一同は混戦状態の空域へと突入した。
「まあ、普通に考えてタダじゃ大将のとこまで通してはくれないよね」
「そうね……ここはひとつ、誰かにご案内願いましょうか」
 リネンの提案に、ヘイリーが頷く。
「そう言う訳だから淳二、ちょっとばかり誰かとっちめましょ!」
 ヘイリーが先頭の飛空艇を操る長原 淳二(ながはら・じゅんじ)に声を掛ける。
 淳二はひらひらと手を振って答えると、飛空艇を加速させた。
 そして、空賊のものとおぼしき飛空艇に向かってアルティマ・トゥーレの一撃を放つ。
 翼を凍らされてあわてふためく空賊達を、ヘイリー達四人が乗るペガサスが取り囲む。
 ずらり、と取り囲まれた空賊は青い顔をしながら武器を手に取る。
「う〜ん、抵抗しようっていう心意気は認めるけどぉ、相手との力量の差くらい見極められなきゃ、生き残れないわよぉ?」
 シャーウッドの森空賊団の一員、師王 アスカ(しおう・あすか)がにこにこしながら、背後に連れた焔のフラワシ・ビッグバン・ホルベックスの手を空賊の髪に軽く触れさせる。
 突然、じゅぅっとタンパク質の焦げる嫌な匂いがして焦げた髪に、空賊はヒィィと喉が引きつったような悲鳴を上げる。
「大人しく案内した方が身のためだぜ?」
 ペガサスを駆る最後の一人、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が手にした大剣・トライアンフをちらつかせると、いよいよ観念したか、囲まれた哀れな空賊は大人しく武器を下ろした。
「オーケー、そのままゆっくり旋回して、大将の船まで案内して頂戴」
 ヘイリーの指示に、飛空艇に乗った空賊はゆっくり機体を旋回させる。
 異変に気付いた周囲の空賊が何機かこちらに向かってくるが、フェイミィがトライアンフでなぎ払い、また淳二が囮となり引きつけた所を、オイレの後に乗るジェミニ・ホークアイ(じぇみに・ほーくあい)がスプレーショットで一機ずつ着実に落としていく。
 その間に、シャーウッドの森空賊団の面々は人質となった哀れな空賊団員と共に、ニクラス空賊団の大型飛空艇へと接舷した。

 その様子を遠巻きに見て居たのは、円と歩、オリヴィアと巡を乗せた二機の飛空艇だ。
 極力戦闘を避けるため、ここまでぐるりと戦闘空域を避けて回り込んで来たのだ。
「よし、今なら行けそうだね!」
 円の合図で、二機の飛空艇はそっと大型飛空艇の方へと飛んでいった。