リアクション
■□■ タシガン空峡。 雲海を二分するかのように、 『シャーウッドの森』空賊団とフリューネと王国軍が対峙していた。 空族団の中核はリネン・エルフト(りねん・えるふと)。 そして副官にして愛人のフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)である。 フェイミィは愛馬ナハトグランツにまたがり、 フリューネを睨みつけていた。 フリューネはリネンに降伏勧告を行った。 「リネン、今ならまだ戦いを治める事は出来る。 あなたとは戦いたくないのよ」 「なら、フリューネが私たちの仲間になればいい!」 その言葉にフリューネは悲しそうに首を振った。 それはリネンにしても同じことだ。 肥大化した空賊団は、雲海の利権を巡って王国と対立し、 それはもはや避けられない。 お互いに背負っている物が重すぎるのだ。 それでも、リネンは思う。 (どうして、こうなっちゃのかな……) かつては同じ空を愛する仲間であったフリューネとリネン。 10年の歳月はそこに深い溝を作ってしまったのだ。 ■□■ 戦いは始まった。 フリューネが槍を振るい、リネンが剣を振るうたびに、 空賊や王国兵が雲海の底に落ちて行く。 フェイミィはフリューネに肉薄する。 「なんでだよ! あんたの周りには多くの仲間がいるじゃねえか! オレにはリネンしかいねぇのに…… なんでリネンまであんたの方しか見てねえんだよおっ!?」 「私だって戦いたくなんてっ!!」 ナハトグランツと一体で行うフェイミィ渾身の突きを フリューネはかわし、フェイミィの胸に槍を突き刺す。 「あんたはリネンをっ!!」 ナハトグランツとフェイミィはそのまま雲の底に落ちて行く。 手加減できるような相手ではなかったのだ。 以降、戦いは王国側が優勢で推移した。 イコン並の戦闘力で、多くの王国兵を倒してきたリネンだが、 パートナーロストの影響と、 何よりフリューネに刃を向けることは出来なかった。 最終的にリネンは降伏し、フリューネの前に歩み出てきた。 「私を殺せばこの戦いは終わる。 お願い、罪は私が背負うから、恩情を……」 リネンは自分の命を引き換えに配下を助けようとしたのだ。 フリューネはその言葉に、深く頷く。 「分かってる。それ以上言わなくていいわ。 ……さようなら、リネン」 「さようなら、フリューネ。 私、本当はフリューネみたいに……」 フリューネは槍を薙ぐ。 リネンの首は、雲海に飛んだ。 ■□■ 密楽酒家。 空賊たちが集まるこの酒場も、先の戦闘以来、閑散としていた。 「なに、空賊たちのことだ。 ほとぼりが冷めりゃ戻ってくるだろ」 数少ない酔っ払いの一人が声をあげる。 レンのパートナー、ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)だ。 レンは黙々とグラスを洗っている。 寡黙なその様子は単なる酒場のマスターにしか見えない。 そんなレンを見てザミエルは思う。 冒険やギルドを創設し、七龍騎士との戦いやカナンでの冒険。 数多くの伝説を作った男には似つかわしくないと。 だが、レンは見つけたのだ。 冒険の果てに何よりも大切な人を。 その時、密楽酒家の扉が勢いよく開けられた。 ノアとメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が入ってきたのだ。 「レン、久しぶり」 「ああ。すっかり大人っぽいくなったな」 「もう子供には見えないわよね?」 本当はもっと言いたいことがある。 だが、ノアそれを抑えて挨拶だけをした。 「マスターの手料理、食べさせてくれませんか?」 「ハンバーグしか作れないぞ」 「それで構いませんよ」 メティスの言葉にレンはハンバーグを作り始めた。 「ニンニク入れすぎのハンバーグか。 私にも食わせろ」 ザミエルが乱入してきて、久しぶりにパートナー同士の食事になってしまう。 しかし、誰もが言葉数少ない。 分かっているのだ。 もうすぐ、ここに一人の女性が来ることを。 そして、密楽酒家の扉が再び開く。 そこには…… 「……レン」 憔悴しきったフリューネがいた。 レンはカウンターから出て、フリューネに近づく。 「私、友達を殺したわ。 ……それに空賊の仲間も」 密楽酒家は空賊たちの中立地帯だ。 故に手を出す空賊はいないが、 中にはフリューネに鋭い視線を浴びせる者もいる。 だが、 「フリューネ、お帰り」 レンはそれだけ言うとフリューネを抱きしめた。 まるで何事もなかったかのように。 「……ううっ」 フリューネは嗚咽をあげながらも、レンに身を預け続けていた。 ■□■ 太平洋上の小島。 そこはセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)とシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)の二人が住む島があった。 太平洋上の小島に家を持つのはこの時代の契約者カップルの間のブームだったのだ。 「ただいま、帰ったわよ」 セイニィの言葉に、台所で料理を作っていたシャーロットが顔を出す。 「お帰りなさい、セイニィ。ご飯にしますか? お風呂にしますか?……それとも、私?」 「こんな時間から何言ってるのよ! ご飯に決まってるわ!……あ」 ついひねくれた態度を取ったセイニィの言葉に、 シャーロットが少し悲しそうな表情をした。 それを見逃すセイニィではなかった。 セイニィはシャーロットを抱きしめて、キスをする。 そして。 「シャルがいい」 と囁いた。 その時、屋根にゴンッ!と何かがぶつかる音がした。 そしてその何かはゴロゴロと転がって庭に落ちる。 二人はビクッとしたが、 「何でしょうか?」 「気にしなくていいわよ」 と再び甘美な世界に入ってしまった。 それがパラミタから風に飛ばされ、 トワイライトベルトを超えて落ちてきたリネンの首であると気がつくのは、 しばらく後のことであった。 |
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