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突撃! パラミタの晩ごはん

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突撃! パラミタの晩ごはん

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10:30am シャンバラ教導団

 調べられる限りのデータは調べた。
 それで他にそれらしきデータがない以上、「最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」ということだ。
 夏侯淵はこの結論を確かめるために、食堂へ向かった。

 そして、食堂は祭りの真っ最中だった。

「もう全メニュー制覇したんじゃないのか?」
「いや、まだ裏メニューが残ってるらしいぞ」
「裏メニューって……まさか、あの激辛麻婆丼か?」
「歴戦の勇者がことごとく敗北したという、あの100倍麻婆丼だと!?」
 ごった返す野次馬をかき分ける。
「……いったい、こりゃ何の騒ぎなんだよ」
 皆ヒートアップして話が通じる感じではない。ほとんど蹴散らすようにその間を抜けると、学食に飛び込んだ。
「ちょっと聞きたいんだが……」
 一斉に視線を集めて、思わず鼻白む。
 ひたすら食っているセレン。それを撮影しているセレアナ。二人を注視する野次馬。空いた皿を持って呆然としている学食の職員。
 淵はそこで視線を止めて、声をかけた。
「秘伝レシピについて、ちょっと確かめたいんだが」
「秘伝?」
 おばちゃんが不思議そうに聞き返す。
 そして とセレアナが同時に声を上げた。
「……忘れてた」

 ずっしりと厚みのある古びた神束を差し出して、おばちゃんが言った。
「これが「秘伝レシピ」だよ。何もこんな騒ぎをしなくても、先にそう言ってくれればいいのにさ」
 呆れ顔を向けられたセレンはちょっと顔を赤らめる。
「しかし、まさか満漢全席とは……すごいボリュームだな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がそう言って、受け取ったレシピを繰る。
「作れそう?」
 ルカルカ・ルーが心配そうに聞くと、ダリルは不敵に笑って答えた。
「まあ、任せておけ」
「よーし、それじゃすぐ準備して出発だな」

「私たちはどうする?」
 セレアナがビデオのデータを確認しながら、セレンに声をかけた。
「学食の紹介記事には、もう十分だと思うけど……」
 セレンは学食のメニューを食い尽くしたばかりとは思えない勢いで立ち上がった。
「行くわよ、もちろん!……あ、でも」
 また席に座り直して、ちょっと恥ずかしそうに笑う。
「……激辛麻婆丼、制覇してからでいいかな」
 セレアナは思わずため息をついた。



11:30am 蒼空学園 「ぱら☆みた」部室

「いい、頼んだからね!」
 びしっと美夜に指を突きつけて、雅羅は言った。
「あんたが下手を打つと、情報を流した私の責任がまた重くなるんだから」
 「また」の部分を強調して美夜を恨めしげに見る雅羅の表情は、心なしか半泣きにも見える。
 しかし、それは美夜も同じだった。
「くそぅ……校長、鬼だぁ……」
 雅羅が帰って行ったドアを親の敵のように睨みつけて、美夜はウィンナ・オーボエのソロの如く哀れっぽい声を零す。
 唯一の観客役であるエーリヒは、しかし、我関せずといった調子で雅羅に出した空のティーカップを片付けていた。

 涼司からの要請は、極めて明瞭なものだった。
 接近中のドラゴンの足止め、ドラゴンを迎えるにあたっての会場と設備の手配、そして同イベントに関連する安全対策は、校長の責任で行う。
 そして新聞部側は、各校レシピの収集・調査と調理、調理材料と調理人の確保を責任を持って行う。
 加えて、新聞部の業務である「人気メニュー特集」、さらに「伝説のレシピ企画」を含め、この件に関する取材は禁止しないが、あくまで部の責任で行うこと。
 学園上層部ならびに生徒会は一切感知しない……。

「ううう……どうやったって人が足りない……」
「……美夜様」
 哀れっぽく嘆き続ける美夜の言葉を無視して、エーリヒが静かに口を挟んだ。
「掲示板とメールのご確認はお済みですか?」
「あっ……忘れてた!」
 美夜は机に突っ伏していた身を起こすと、PCを開く。
「おおおお」
 掲示板のレス、4件。
 メール2件。
 さっそく1件を開くと、シャンバラ教導団からの「人気メニュー」、「秘伝レシピ」ゲットの知らせだった。
 しかも、人気メニューには取材映像とともに完成原稿まで添えられている。
 ナレーションなので文字起こしが必要だが、一からまとめるより遥かにありがたかった。
「……神だ……女神様がおるとです……」
 美夜は感涙にむせびつつ、セレアナの力作動画に目を通す。
「……えーっと……」
 微かに美夜の意識の端を「常識」という言葉が翳めて行った。が、それも一瞬だった。
 美夜は大きく頷いて微笑んだ。
「オッケー! 大変感動的で素晴らしいルポだわ!」
 そしてコメントの最後にはこうあった。
 <我が校の「秘伝」の調理に協力する為、こちらから生徒数人で伺います>
「一気に戦力もゲットだぁ……お、こっちもだ」
 空京大学と薔薇の学舎からの情報ゲットの報告に、美夜の機嫌はすっかり回復していた。
「ヘッツェル、至急厨房の神崎さんにこの情報とデータを届けて」
「……承知しました」