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小ババ様の一日 旅立ち編

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小ババ様の一日 旅立ち編

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 やっと追いかけられなくなったので、小ババ様は蒼空学園へとむかいました。
 ちょうど、蒼空学園に隣接している蒼空学園初等部にさしかかったときです。校庭で、子供たちがだるまさんがころんだをして遊んでいました。
「だーるーまーさーんーがーこーろんだ!」
 子供たちと遊んでいるディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)さんという人がそう言うと、ルーナ・リェーナ(るーな・りぇーな)さんという人を始めとする子供たちがじりじりと動いて、ぴたっと止まりました。釣られて、小ババ様も、小ババ様専用イコンをぴたっと止めてしまいました。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ!」
 再びディアーナ・フォルモーントさんが目を隠して言う間に、ルーナ・リェーナさんたちと一緒に小ババ様が走ります。
 もうちょっとで鬼にタッチというところで、ちょっと焦ったルーナ・リェーナさんが転んでしまいました。
「いたあーい」
「大丈夫、ルーナ!」
 いったん遊びを中断して、ディアーナ・フォルモーントさんが駆け寄ります。
「大丈夫だよ。血なんか出てないもん」
 自分で立ちあがると、ルーナ・リェーナさんが元気に言いました。ちょっとどろんこになりましたが、お子様はこれぐらいへっちゃらです。さすがは、新一年生です。幼稚園生徒とはもう違います。
「えらいですわ。じゃあ、遊びを続けましょう」
 ルーナ・リェーナさんが鬼の位置に戻ります。さすがは、大学部の児童学科で保育士を目指しているだけのことはあります。おこちゃまの扱いは慣れたものです。
 このまま動きを止めていると蒼空学園には辿り着けそうにもないので、名残惜しいですが、小ババ様はその場を後にしました。
 
    ★    ★    ★
 
 とりあえず、一応、校長先生に挨拶しにむかってみます。他の学校では校長先生たちは忙しくて会えませんでしたが、蒼空学園はどうでしょうか。一応、また叩き潰されてはかなわないので、背中に「ONLY ONE」と書いた幟を背負っていくことにします。
「あら、小ババ様。いらっしゃいませ。もしかして、校長室に御用ですか?」
 途中の廊下で一緒になった火村 加夜(ひむら・かや)さんという人が小ババ様に挨拶してきました。
「こばあ」
 そうだよっと、小ババ様が答えます。
「じゃあ、御一緒しましょう」
 小ババ様のお返事を肯定だと受け取った火村加夜さんが、小ババ様を校長室に案内してくれました。
「校長先生――涼司くんいますか?」
 校長室の扉を開けると、火村加夜さんが中をのぞき込んで聞きました。けれども返事はありません。誰もいないようです。
「やっぱり忙しいのかなあ。入りましょう、小ババ様」
「こばあ」
 校長室に入ると、応接用の低いテーブルの上に火村加夜さんがお弁当を広げました。
「ええと、卵焼きなら、サイズ的に食べられますか?」
 そう言って、火村加夜さんがお弁当のおかずの卵焼きを小ババ様サイズに箸で切り分けてくれました。
「こばこばこば……」
 もぐもぐと、小ババ様が卵焼きにかぶりつきます。美味しいです。
「こばあ。こばこばこー」
 満腹になって小ババ様がぽんぽんを叩いていると、校長室の扉が開きました。
「誰かいるのか?」
 どうやら、校長の山葉 涼司(やまは・りょうじ)さんが戻ってきたようです。
「お帰りなさい、涼司くん。お昼はまだ……」
 火村加夜さんが顔を輝かせて聞きました。
 邪魔しては悪いので、小ババ様はそのまま校長室を後にしました。
 
    ★    ★    ★
 
 御飯を食べたので、ちょっとお菓子がほしくなった小ババ様です。
 蒼空学園のカフェに行ってみることにしました。
 水羊羹と抹茶セットを食べていると、お隣のテーブルの会話が聞こえてきます。
「今日の夕食のリクエストはありますか?」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)さんという人が、むかいに座っている御神楽 環菜(みかぐら・かんな)さんという人に訊ねています。
「そうねえ。たまには一緒に作るって言うのはどうかしら?」
 なんだか、御飯の話のようです。
「こばー」
 小ババ様が、プリンアラモードをおかわりしました。
「無事に新路線は開通しましたが、次はどこへ拡張するかですね」
「ヴァイシャリーからヒラニプラ経由で空京まで路線が延びたわけだから、利便性を考えたらザンスカールだけれど、イルミンスールの森の中に線路を引くのは問題が多すぎるわね。空京からツァンダにのばすのが無難と言えば無難だけれど」
「うーん、やはり会議にはかってからと言うことになりますね」
 なんだかお隣は難しいことを話しているようです。
「あれ? あそこにいるのは小ババ様でしょうか。珍しい」
 御神楽陽太さんが小ババ様に気づいて、軽く会釈をしました。御神楽環菜さんもそれに倣います。
「そういえば、小ババ様も以前参加していたペットレース、あれの次回開催はいつなんでしょうねえ。張り切っている人もいるみたいだし」
「元はイルミンで開催していたあれ? 後でちょっと確認してみましょうか」
 お隣のお話はまだまだ尽きないようですが、小ババ様の別腹は満たされたようです。
「ふふふ。蒼空学園内でバッチリ写真は撮れました。私をまこうなんて、まだまだですよ、小ババ様」
 離れた席から、小ババ様の食べっぷりを画像に収めた六本木優希さんがちょっと勝ち誇りました。
 
    ★    ★    ★
 
 蒼空学園を出発した小ババ様は、進路を北にむけました。後は、タシガンからキマクを経由してイルミンスールに帰るだけです。
 小ババ様専用イコンで上空を進んで行くと、雲の中に何かおっきい物がいます。ちょっと近づいて確かめることにしました。
 おっきな何かは機動城塞オリュンポス・パレスでした。雲の中に隠れています。その窓の一つにぺたっとくっつくと、小ババ様は中の様子を見てみました。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! ククク、我らオリュンポスの超巨大秘密地下基地・冥府タルタロス建設予定地の調査活動も順調のようだな!」
 なんだか、部屋の真ん中でドクター・ハデス(どくたー・はです)さんという人が、一人で笑っています。変です。
「――いや、ちょっと違うな。フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! この空の城塞オリュンポス・パレスに続いて、ニルヴァーナの地下に我らの秘密基地・冥府タルタロスが完成すれば、全宇宙征服まで後一歩というものだ! ――うーん、もうちょっとインパクトが……」
「ちょっと、兄さん。いったい何を練習しているんですか」
 そこへ、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)さんという人がやってきました。
「いや、なに、この秘密機動要塞を公表したときに言う口上をだなあ……」
「だから、公表したら秘密基地じゃなくなるって言ったでしょうに。それ以前に、超巨大秘密地下基地なんて造る予算、どこにあるんですか! このオリュンポス・パレスの維持費だって大変なんですからねっ! だいたい、この要塞買ったのだってローンでしょ、ローン。いったい完済まで後何年あると思っているんですか。しかも、内緒で私を保証人にしてしまうなんて。なんと悪辣な……」
「はははは、褒め言葉として受け取っておこ……こ、こひゃ、ひゃへんか!」
「そういうことを言うのはこの口ですか……。この前なんか、メガフロートを買って水上要塞造るとかこの口は言ってませんでしたっけ? それを、今度は、ジオフロントですか。ええい、ええい! しばらくはお小遣いはなしですからね。いいですね!」
 ドクター・ハデスさんの口を引っぱったまま高天原咲耶さんが叫んでいます。
 どうやら、世知辛い話のようです。なんだかかわいそうになって、小ババ様はそっと窓から離れていきました。
 
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 やや高度を落として進んで行くと、森が見えてきました。確か、以前獣人の村という物があった場所です。
 いいえ、今は復興も進んで、元よりも大きい村になりつつあるようですね。
 それに、なんだかいい匂いもします。その匂いに引かれて、小ババ様は地上に下りていきました。
「さてと、細かく刻んだ人参を入れてと……。ちょっと味見を……。ぐはあっ! オーバーキィルゥゥゥゥ! だ、誰なんだもん、こんな所に刻んだジョロキアをおいたのは! あっ、あたしかな?」
 なんだか、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)さんという人が、「子供の家こかげ」の厨房で恐ろしい物を作っています。
「よし、今度は大丈夫だよ。まさか、子供たちに変なカレーは食べさせられないもん」
 ちゃんと味見して、今度はネージュ・フロゥさんも安心です。
 なんだかんだで、ちゃんとしたカレーライスができあがったようです。細かく刻まれた野菜を煮込んだカレールーの上に、ツナとコーンの入ったミニハンバーグがいくつも載っかっています。ちょっと美味しそうです。子供たちに配るため用でしょうか、プラスチックの入れ物にいくつも小分けされています。配るものであれば一つもらっても問題ないでしょう。小ババ様は一つだけカレーライスを失敬すると、旅を続けていきました。