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小ババ様の一日 旅立ち編

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小ババ様の一日 旅立ち編

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    ★    ★    ★
 
 小ババ様がやっと工作室に戻ってくると、小ババ様専用イコンができあがっていました。
 見た目は、アーデルハイト・ワルプルギスさんそっくりです。でも、元がイコプラなので完全な人間の姿をしているわけではありません。あちこちはメカメカしくなっています。特に、角のついた帽子とローブは布製ではなくて金属製です。帽子の所はハッチがあって、そこがコックピットになっていました。大きな透明な窓があって、そこから外が見られるようになっています。当然、外からも小ババ様の姿が見えるため、一目で本物のアーデルハイト・ワルプルギスさんでないと分かります。操縦方法は、各学校には内緒で各種技術を流用したようで、魔法などで小ババ様でも簡単にコントロールできます。もっとも、極端に複雑な動きをしない小ババ様専用イコンだからできることでしょうけれど。
「さっそく乗ってみてくれよ」
「うむ、早く早く」
 後藤山田さんやアレーティア・クレイスさんたちに急かされて、さっそく小ババ様はイコンに乗り込むことにしました。
 しゃきーん!
「おお、ちゃんと動いたやん」
 グランギニョル・ルアフ・ソニアさんが拍手しました。
「このときを待っていた!」
 突然、工作室のドアが蹴破られました。
 見るとリモコンを手にした戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)さんという人が立っています。その前には、人の大きさのティーカップパンダ型イコプラがいました。ちゃんと、戦部小次郎さんのペットであるおしゃべりティーカップパンダの影虎さんも頭の上のコックピットに乗っています。でも、これはペット虐待ではないのでしょうか。
 急ごしらえらしく、無限軌道で動く大きなティーカップに、パンダの巨大プラモデルが乗っかったものです。でも、一応、両腕が男の子のロマン、ツインドリルになっています。結構危ないと思います。
「小ババ様がイコンを開発すると聞いて、いてもたってもいられなくなったのだ。私の作った、ティーカップパンダ専用イコンと、どちらが優れているか勝負してもらおう。ゆけ、ジャイアント影虎ロボ!」
『パ!』
 戦部小次郎さんが、リモコンを操作してロボを前進させました。さすがに、ティーカップパンダさんに操縦させるのは無理だったようです。
「いけ、小ババ様。小ババ様専用イコンは無敵です」
 自信を持って久我浩一さんがたきつけました。
「こばー!!」
 がしょこんがしょこんと、小ババ様専用イコンも前進します。おお、歩いた!
「こばん!!」
 小ババ様イコンが、ひょいとかがんで頭の角を突き出しました。その先端が、ティーカップパンダロボに接触します。そのとたん、電撃が放たれました。あっという間にティーカップパンダロボがショートして壊れます。おしゃべりティーカップパンダさんも、少し感電したらしく気絶してしまいました。やっぱり、飼い主の虐待です。
「あああ、影虎!」
 戦部小次郎さんが、あわててティーカップパンダさんを救助します。
「はははは、こんなこともあろうかと、両側の角にスタンスタッフを仕込んでおいたのよ」
 葛葉明さんが勝ち誇りました。
 小ババ様専用イコン、初勝利の瞬間でした。
 
    ★    ★    ★
 
「大丈夫ですか。知らない人についていったりなんかしたらだめですよ」
 いよいよ小ババ様が出発するというので、飛空艇発着場にはたくさんの人が集まっていました。風森 望(かぜもり・のぞみ)さんが、とてもついていきたそうにしながら、せめて自分の代わりにとたくさんのお菓子をランドセルに詰めてくれます。ビデオカメラもつつもうとしましたが、さすがにそれはもう搭載されていました。
「このお菓子も持っていってくださ……」
「わーい、お菓子ですわ。ついでに、小ババ様もゲットですわ!」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)さんもクッキーをもう一つのコンテナに入れようと持ってきましたが、そこへエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)さんが突進してきました。お菓子と、ついでに小ババ様も捕まえるつもりのようです。
 お菓子危うし! いや、小ババ様危うし!
「エイムちゃん、かむひやーですぅ!」
 すかさず、神代明日香さんが、魔鎧のエイム・ブラッドベリーさんを呼びました。真っ赤なエイム・ブラッドベリーさんの髪が、腕や足や身体に巻きついていき、五つの輝く真っ赤な鎧になりました。それが、ぴゅんと飛んで神代明日香さんの身体をつつみます。
『あーん、これではお菓子を食べられませんわ』
「食べなくていいんですぅ。あれは、小ババ様用のお菓子なんですぅ。ぷんぷん」
 食欲全開のエイム・ブラッドベリーさんを、神代明日香さんが叱りました。
 さて、いよいよ出発です。
「いってらっしゃーい」
「気をつけてー」
「がぉー」
そこ、邪魔です
 風森望さんが、カメラに入るからとテラー・ダイノサウラスさんを脇に押しのけました。
 マント型のフローターを展開して飛んでいってもいいのですが、一応、空飛ぶ箒型の小型飛空艇というややこしい物が標準装備となっています。小ババ様の魔力を消費しないでも飛べるようにと、イコンホースで作られた物の用です。それにまたがる形で、小ババ様専用イコンが離陸しました。
 ふわりと飛びあがったと思いましたが、がくんと急降下です。まだあまりうまく操縦できないのでしょうか。
「なむなむなむなむ……いてっ! 何様でぇい、俺様の自慢のモヒカンを潰すとは……大ババ様!?」
 世界樹近くの小さなお墓にミルクを供えていたゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)という人が、小ババ様専用イコンにモヒカンを潰されてすっごく怒っています。
 ここは、アーデルハイト・ワルプルギスさんの花妖精さんのお墓のようです。
『こばあ』
 ごめんなさいと、小ババ様がコックピットの中から謝ります。
「小ババ様? なんだ、メカか!?」
 すかさず本能的にゲブー・オブインさんが小ババ様専用イコンの胸を揉もうとしましたが、当然固くて揉めません。
『こばこばー』
 ランドセルについている補助アームを使ってコンテナからシャンバラ山羊のミルクアイスを取り出すと、小ババ様はゲブー・オブインさんに手渡しました。
「これを供えてくれって言うのか。うっうっ、泣かせるじゃねえか。よし、ちゃんと供えてやるからな。後で乳揉ませ……」
 ゲブー・オブインさんが、いいことの後に台無しになることを言おうとしたので、小ババ様は出力全開で出発していきました。
 速い速い!
 ビューンと小ババ様専用イコンが飛んでいきます。これならば、あちこちを回るのも楽でしょう。
 おや、何やら前の方から、二人乗りの箒がやってきます。
「ほんとに手伝わないつもり?」
「あたりまえであろう。ザナドゥくんだりまで一緒に行ってやるだけでもありがたく思うのだよ」
 何やらもめているようです。あれは、アルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)さんという人と、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)さんという人でしょうか。どうやら、世界樹からザナドゥに行く途中のようです。
「あ、なんか来るよ。撃ち落としてもいいかな?」
「大ババ様? まさかね。イルミンでは、変な物に手を出さないのが生き残る秘訣なのだよ。さっさと世界樹に行くのだ」
 物騒なことを言うアルテミシア・ワームウッドさんを、毒島大佐さんが諫めました。
『こばー』
 すれ違い様に挨拶をすると、小ババ様は先へと飛んでいきました。