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小ババ様の一日 旅立ち編

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小ババ様の一日 旅立ち編

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    ★    ★    ★
 
「ええと……この、人形たち……に、似た機晶姫……を、しりませんか?」
 ヒラニプラの町中で、金襴 かりん(きらん・かりん)さんという人が、の人形を手に人捜しをしていました。
 どうやら、生き別れの兄弟たちを捜しているようです。
「ここ……に、わたしと同じ……名前と、ナンバーの刻印……が、あるはず」
 人形の首筋を示して、金襴かりんさんが説明しています。
 そこを通りかけたイコンに乗った小ババ様に、エミン・イェシルメン(えみん・いぇしるめん)さんという人が声をかけてきました。機晶姫か何かと思われたのでしょうか。
「やあ、旅の邪魔をして申し訳ない。自分のやさしく美しいパートナーのために、ちょっとその桜貝のような耳をかたむけてはくれないかな。トルコ石の様な美しい瞳をむけてはくれないだろうか」
 一言一言はっきりと口を動かして発音しながら、エミン・イェシルメンさんが小ババ様に言いました。機晶姫である金襴かりんさんが音響センサーを損傷しているらしいので、画像解析で読唇しやすいようにしゃべっているようです。でも、それ以前になんだか芝居じみた話し方です。
『こばあ?』
「ええと……」
 せっかく小ババ様が返事をしたのですが、エミン・イェシルメンさんには小ババ様の言っていることがよく分かりません。金襴かりんさんも、小ババ様専用イコンから読唇は無理なので、分からなかったようです。
『こばこばー』
「もし、何か……分かったら、教えて……くださいね」
『こばー』
 金襴かりんさんに、小ババ様は力強く答えました。
 
    ★    ★    ★
 
 そろそろ空京にむかおうと思った小ババ様は、イコンで空中に飛びあがりました。空飛ぶ箒型飛空艇で進んで行くと、ビルの屋上に人影を見つけました。どうやら、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)さんという人と、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)さんという人のようです。
「ここをこうすればもっと破壊力が上がるはず……」
 鋼鉄二十二号さんに装備されたミサイルポッドを、葛城吹雪さんが調整しているようです。少し前にミサイルを全弾消費してしまった小ババ様としては、弾薬がほしいところですが、多分サイズが合いません。
 とはいえ、ちょっと興味を持ったので近づいてみることにしました。ところが、そのとたん……。
「あっ!」
 この「あっ!」は、多分、不吉な「あっ!」です。
 案の定、突然鋼鉄二十二号さんのミサイルが一斉発射されました。
「こ、こばあ!?」
 小ババ様が、ミサイルを急速回避します。
 幸いにして追尾機能はなかったようですが、ミサイルは空高く飛んでいってしまいました。いったい、どこに落ちるのでしょうか。
「やっばあ……。やってもうたであります」
「葛城殿、いったい何を……」
「とりあえず、人が来る前に撤収!」
 戸惑う鋼鉄二十二号さんを、葛城吹雪さんが引きずって姿を消しました。
 このままの場所にいてミサイルが落ちてくると嫌なので、小ババ様は急いで移動しました。
 公園です。ここなら安全でしょうか。
 カップルらしき人たちも歩いています。
 いや、単純に男女が歩いているだけかもしれませんが。
「……何かしら?」
 何かの気配を感じたのか、白柳 利瑠(しらやなぎ・りる)さんという人が振り返りました。
「どうかしたのかい」
 一緒に歩いていた安芸津 梢路(あきつ・しょうじ)さんという人が立ち止まって訊ねました。
 そのとき、小ババ様のイコンのそばを弾丸が通りすぎました。危ないです。
 すぐさまレーダーで探すと、公園のトイレの陰にキルラス・ケイ(きるらす・けい)さんという人がライフルを構えていました。犯人です。
「外れた!? なんだか、リア充じゃなくてとんでもないところへ飛んでいったようだが……」
 キルラス・ケイさんがつぶやきました。さすがに命中させないように撃っていたようですが、そのせいかはしれませんが、狙いが大きく逸れて小ババ様の方へ飛んできたようです。
「あれは、キルラスか? 何をやってるんだ? ああ、またいつものリア充狩りか。まったく懲りない奴だぜ」
 キルラス・ケイさんを見つけて、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)さんという人が近くにやってきていました。
「まったく、俺がこんなに近くまで来ても気づかないなんてな。触らぬ神に祟りなしっと……ん、なんだ!?」
 異変を感じて、柊恭也さんが上を見あげました。
 何か落ちてきます。
 さっきのミサイルです。
「こ、こばあ!?」
 ちゅどーん、ちゅどーん、ちゅどーん!
「うぼあ!」
 流れ弾のミサイルが、トイレを直撃しました。裏に隠れていたキルラス・ケイさんが吹っ飛ばされます。自業自得でしょうか。
「なんで、俺まで……!」
 ああ、運悪く柊恭也も巻き込まれてしまったようです。
「……きゃっ。……けほけほ」
 爆風が襲いかかってきて白柳利瑠さんが咳き込みました。けれども、爆風自体は、とっさに彼女をかばった安芸津梢路さんが盾になって防いでいます。
「……誰かが吹っ飛んでいったみたい……」
「見なかったことにしよう」
 腕の中でつぶやく白柳利瑠さんに、安芸津梢路さんが言いました。
 小ババ様も、見なかったことにして、全速力でその場を離れます。またミサイルが落ちてきてはたまりません。
「ああ、なんということであります。公園でテロ行為が……」
「いやそれは……」
 なぜか通りを全速力で走っている葛城吹雪さんに、鋼鉄二十二号さんが突っ込んでいるのを追い越して、小ババ様はヒラニプラを脱出していきました。