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【2022七夕】荒野の打上げ華美

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【2022七夕】荒野の打上げ華美

リアクション

「アレナ先輩、こんばんはっ」
「こ、こんばんはですぅ……」
 秋月 葵(あきづき・あおい)魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)は、笹飾りの前で、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)と合流した。
「葵さん、アルさん、こんばんはっ」
 アレナがぺこりと頭を下げる。
「すっごい大きな笹飾りですね♪」
 葵は上の方を見上げてみるが、暗くて良く見えなかった。
「はい、皆さんの沢山の願い事を支えてくれる笹飾りなんだそうです」
「うん、それじゃ遠慮なくあたしも願い事飾らせてもらいますね。アレナ先輩はもう飾りましたか?」
「何枚か吊るしました。葵さんとも、百合園の事とか、ロイヤルガードのこととか、いろいろ一緒にお願いしたいことがあります」
「ふふ、そうですね♪」
 笑い合った後、葵は自分の後ろにいるアル・アジフに手を伸ばす。
「ほらほら、隠れてたらちゃんとお話しできないよ」
 そして、彼女を自分の前に押し出した。
 アルは可愛らしい金魚の浴衣を纏っている。
「あ、アレナさんこ、こんばんは……っ」
 アレナを前にして、緊張しながらアルはもう一度挨拶をした。
「はい、こんばんは。可愛い浴衣ですね」
「は、はいっ」
 赤くなりながら、アルは笑みを浮かべた。
 アルはアレナに憧れている。
 今日も葵がアレナと会うというので、お願いしてついてきたのだ。
 でもいざ会ってみたら、緊張してうまく話ができなかった。
「それじゃ、一緒に短冊を書いて、つりさげましょうか」
「はい」
 勢いよく首を縦に振った後、アルは持っていた短冊にペンで願い事を書く。
 彼女の書いた願いは。
『怖い事に巻き込まれませんように』
 であった。
 空いている枝はちょっと上の方だった。
 背伸びをして、見上げながら吊るしていたアルの視界に、大きな短冊が目に入った。
「何見てんだよ」
「!!」
 びくっと震えて、アルは葵に抱き着く。
「短冊がしゃべりましたぁ……っ」
「あ、悪い事をした人も、ここに吊るされてるそうです。一緒に焼却処分するそうです」
 さらりとアレナが言った言葉も、ある意味怖い。
「どうしても叶えたい願いがあるから、短冊になりきって、ぶら下がってるのかもしれないね♪」
 葵はそう説明をし、自らのちょっと大き目な短冊を笹飾りに下げた。
 彼女の短冊には『全ての人が笑顔でいられる世界になりますように』と書かれていた。
 大きな願い事だから、大き目な短冊にしたのだ。
 その隣に、アレナは『皆に楽しいことが沢山ありますように』と、書いた短冊を飾った。
「叶うといいですね」
「はい、叶うといいな♪」
「叶ってほしいですぅ。さっそく怖いことありましたから〜」
 吊り下げられている者達をちらりと見て、アルはまた軽く震える。
「怖くないですよ。悪い事した人も、本当に悪い人じゃないんです。あとでちゃんと謝って、下ろしてもらうはずですよ」
「そ、そうですかぁ」
 アルとアレナがそんな話をしている間に。
 葵はそっと、もう1枚短冊を笹飾りに吊るした。
 その短冊には――。
『アレナ先輩と優子隊長がもっとラブラブな関係になりますように♪』
 そう書かれていた。
(やっぱりアレナ先輩には優子隊長が必要だと思うし〜)
 たまにアレナが陰のある表情を見せる時には、優子と上手くいってないのだろうかと心配になってしまう。
 優子もアレナのことを大切に想っていることは間違いないのだけれど。
(アレナ先輩が遠慮しすぎてるんだよね。優子隊長も……なんていうか、乙女心が分からないところあるし!)
 くすっと1人、葵は笑って。
「それじゃ、他の人の短冊も見てみましょうか。あ、つり下がっている人達の願い事も聞いてみよっかな♪」
 葵は笑顔で2人を誘って、沢山の願い事を見て回る。
 多分、飾られている願いが叶えば――葵の『笑顔』の願いもアレナの『楽しいこと』の願いも叶うだろう。

「今年も、環菜と七夕デートができて幸せです」
 本当に幸せそうに微笑む御神楽 陽太(みかぐら・ようた)をちらりと見て、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、「そうね」とそっけなく答える。
 どんなにそっけない言葉でも、同調の言葉であることに違いはなく、陽太は更に幸せに包まれていく。
 今年も2人で浴衣を着て出かけた。
 隣にいる妻は、凄く魅力的で……陽太は少し周りの目を気にしてしまう。
 彼女を見ている人がいるのは、環菜が有名人だからなのか、綺麗だから、なのか。
 互いに片手には、屋台で買ったミックスジュースが握られているが。
 もう一方の2人の手はしっかりと繋がれている。
 だけど人前なので、それ以上引き寄せたりはしない。
 手の温もりを感じあいながら、歩いてきた。
 さほど人が多くはない場所で、2人は座って空を見上げる。
 満天の星空は息をのむほど綺麗で。
 時間を忘れて、見入ってしまう。
「あ……」
 華美が打ち上がった音に、2人の意識がそちらへと向いた。
「なんだか、良く知っている人が飛んで行ったような気が……」
「そうだったかも」
 空を見ながら、陽太と環菜は言う。
 高く打ち上げられたその人物は、遠くに落ちていったようだ。
 キャッチしてくれる人がいたかどうかは分からない。
「それにしても、凄い催しですね」
「そうね。でも、契約者を集めるつもりなら、これくらいのイベントはやらなきゃね」
「環菜も飛びたいですか?」
「必要ないわ。飛びたくなったら、パートナーと飛ぶし。陽太の運転で、飛空艇に乗るのも、悪くないしね……夏の終わりに、百合園の屋上で花火を見たこともあったわね」
 その時の帰り道のことを、環菜は思い出していた。
 こんな日が……彼と夫婦になる未来は、まだイメージできていない頃のことだ。
「そうですね。行きたいところがあったら、連れて行きますよ」
 ぎゅっと握っている手に力を籠めると、環菜はこくりと首を縦に振った。
「環菜は笹飾りに下げる短冊は持ってきましたか?」
「……持ってきたわよ」
 答えて、環菜はバッグの中から短冊を取り出した。
「まだ書いてないけれど、鉄道王になる決意でも記そうかと思ってるわ。願い事じゃないけど。陽太は?」
 何を願うの? という問いに。
「環菜と同じです」
 そう答えた。
 願いが同じなのではない。
 願いではなく、決意を吊るすということが、同じなのだ。
『愛する妻を絶対に幸せにし続けます!』
 陽太が吊るす予定の短冊には、しっかりとした字でそう書かれている。
「……ところで、陽太」
「はい、何でしょうか」
「変な話だけど」
「はい」
「今日は、あなたがいつもより……魅力的に見える」
「えっ?」
 突然の環なの言葉に、どきっとして陽太は彼女を見た。
 彼女は少し、潤んだ目をしていた。
「今日『は』だけど」
「『は』でも嬉しですよ」
 陽太は言葉通り、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「そう……。それじゃ、もう少し、いいのよ」
 陽太は言葉の意味が分からず、聞き返しそうになるが。
 もしかして、自分と同じことを考えているのではないかと、思えて。
 好きという気持ちを込めた笑顔で、彼女を見つめながら。
 手だけではなく、身体が触れ合う位置に移動した。彼女に、近づいた。
「そう、これでいいのよ。……まだ足りないくらいだけれど」
(なんだか、今日の環菜は少し違いますね。素直というか……か、かわいい、というかっ)
 抱きしめたい衝動に駆られるが、陽太は深呼吸をして自分を落ち着かせる。
(でも、これ以上は自粛、自粛、自粛……)
 心の中で、陽太はつぶやき、そっと環菜の髪を撫でた。
 環菜は、心地よさそうに目を細める。
 抱きしめるのは、2人の家に帰ってから。
 環菜はきっと、拒みはしないだろう。

「あっ瑠奈さん!」
「お待たせです〜」
 一番端の屋台の前で、伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)神崎 瑠奈(かんざき・るな)は待ち合わせをしていた。
「浴衣着て来てくれたんですね。す、凄く素敵です!」
 浴衣を纏った瑠奈の姿に、若冲は緊張して赤くなってしまう。
 浴衣を着ている可愛い女の子は他にも沢山いるけれど、どの娘より、誰よりも、瑠奈が魅力的に見えて。
 やっぱり自分は瑠奈に恋をしているのだと、若冲は自覚しながら息をついた。
「若冲さんの浴衣姿も素敵です〜。早速短冊を吊るしましょ〜♪」
 瑠奈は若冲の手を掴んで、巨大笹飾りの方へと歩き出す。
「る、瑠奈さん!?」
 いきなり手をつなぐなんて、それは反則だーと、若冲は慌てまくる。
 だけれど、瑠奈の方は意識していないようで、普段通りの笑顔で歩いている。
(瑠奈さん、自覚がないような気が……。今日もデートだとわかってくれてるんでしょうか)
 少し不安になりながら、若冲は掴まれた手を繋ぎ返して、ドキドキしながら一緒に歩いた。
「沢山飾られてるにゃ……」
 巨大笹飾りを見上げて、瑠奈が呟いた。
「そうですね、オレ達の願いも吊るしましょう!」
 若冲は笹飾りに近づくと、用意してきた短冊を吊るす。
『瑠奈さんともっと仲良くなれますように』
 彼の短冊にはそう書かれていた。
「ん……」
 小さな声に振り向くと、瑠奈はまだ短冊を吊るせていなかった。
(あ……低い場所はもう埋まってますよね。瑠奈さん、身長が足りないんですね……)
 瑠奈は背伸びをして一生懸命吊るそうとしている。
「何をお願いするんですか?」
 若冲は平静を装い、尋ねた。
「秘密です〜っ」
 なんだか瑠奈はちょっと赤くなりながら答えた。
「そ、そうですか。それでは見ないようにします、ね」
 言って、若冲はかなり、かなーり緊張しながら瑠奈に近づいて、彼女を抱えて持ち上げてあげる。
「ど、どうですか? いい場所ありましたか」
「ありがとです〜。高い場所に吊るせるにゃ」
 瑠奈は手を伸ばして、空いている部分に『もっと背が高くなりたい』と書かれた短冊を吊るした。
(うううっ、ドキドキしすぎてヤバイんですけど!)
 声には出さなかったが、若冲は大変な状態だった。
 心臓は飛び出してきそうなほど、高鳴っている。
(静まれ! 静まれ、オレの心臓!)
 目をぎゅっと閉じて心の中で唱えてみるも、こんなに彼女を間近に……密着していたら、静まるわけもなく。
 呼吸が荒くなるのを堪えて、見えないように唇をかみしめる。
(でも、瑠奈さんの心臓の音も聞こえてくるような気が……)
 それは、凄く心地の良いリズムだった。
 緊張はしているけれど、若冲を支配しているのは強い喜びの感情。
(この時間がずっと続けばいいのに……)
「終わりました〜。どうもです〜」
 地面に下りた瑠奈はちょっと照れたような笑みを浮かべていた。
「願い事、叶うといいですね。お互いに」
 若冲は瑠奈よりも照れたような笑みを浮かべていた。
「あ、あの瑠奈さん」
 ポケットの中から、若冲は取り出したものを、瑠奈に見せる。
「さっきそこの屋台で見つけたんです」
 それは、白い椿の髪飾りだった。
「瑠奈さんに似合いそうだと思って。……つけさせてもらってもいいですか?」
 若冲の言葉に、瑠奈は笑顔で頷く。
「それでは、失礼します」
 若冲は瑠奈に手を伸ばして、彼女の茶色の髪に、白い椿髪飾りをつけて。
 少し離れて、彼女を見つめる。
(やっぱりオレの美的センスに狂いはないですね!)
「凄く似合ってます」
 緊張の解けた笑顔で、言うと。
「嬉しいです〜。帰って鏡を見るのも楽しみにゃ〜♪」
 瑠奈はちょっと髪飾りに触れて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
 プレゼントも、こうして一緒にいることも、嬉しくて、楽しくて。
 その後は。
 どちらからかはわからない。
 2人は自然に手をつないで、歩いていた。

「たーまやー」
 打ち上がった華美を見ながら、久途 侘助(くず・わびすけ)が声を上げた。
 侘助は濃紺の浴衣を纏い、頭の横に狐の面をつけ、手には赤い風車を持って、1人で観賞していた。
 面白い企画ではあるが、自分には恋人がいるので彦星にはなれない。
 出来る事と行ったら、水辺に突き刺さっている者を介抱することくらいだ。
「っと、流石にまずいか」
 一般人のパラ実生を優先していたが、泉に突き刺さっている契約者も放ってはおけない。
 契約者とはいえ、このままでは窒息死してしまいかねないから。
 というわけで浴衣の裾をからげ、水の中へ入っていく。
「どんまい。いい花火だったぞ!」
 そう言って、侘助は見事な卒塔婆と化しているネージュを引っ張り出すと、ほとりに寝かせた。
「なんだか晴れやかな顔をしてるな。いい夢を見ているのだろう」
 そんな彼女に、風車をぶっ刺しておく。
 ぶくぶくぶくぶく……。
 もう少し奥の方では、泡が水面に浮いてきて弾けている。
「んしょっと!」
 浴衣が濡れてしまったが仕方がない。水底に頭がつきっさり、水の中に埋もれてワカメと化していた刀真を引っ張り出す。
「よくやった。勇者たちよ」
 などと言いつつ、侘助は彼にも風車をぶっさした。
「皆、あまり落ち込むなよ。これでも飲んで元気出せ」
 それから、屋台で購入しておいたコカ茶を勇者達に振る舞った。
 やけになってごくごくコカ茶を飲んだパラ実生達は、パラ実生同士で告白しあったり、人魚を探すといって、泉の中に入っていったり、水を掛け合った遊び始めたり……とっても楽しそうに過ごし始めた。
「皆、仲良しなんだな!」
 なんだかちょっとおかしいが、侘助には微笑ましい光景にみえた。

 そしてまた天の川に向けて、華美が打上げられる――。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございました。
沢山の華美を打ち上げさせていただきました。
一瞬の空の旅、楽しめましたでしょうか。
恋人や、ご友人との仲も、深まりましたら幸いです。

貴重なアクション欄を割いての私信等、誠にありがとうございます。
全てにきちんとしたお返事を書く余裕がもてず、大変申し訳ありません。

それではまた、次のシナリオで皆さまにお会いしたいです。