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【2022七夕】荒野の打上げ華美

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【2022七夕】荒野の打上げ華美

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第3章 語り合い

 年頃の可愛らしい女の子3人と、男性1人というグループがあった。
 散歩のように祭りを回った後。
 星が良く見える位置に敷いたシートに座って、談笑を始めた。
「御堂さんとの話は実りある物だったみたいだね、君達の歌声が聞こえたから……」
 男性、樹月 刀真(きづき・とうま)が、誘った女性達、風見 瑠奈(かざみ るな)ティリア・イリアーノに語りかけた。
「綺麗な歌声だったよ、婚約式に誘ったかいがあった」
「ありがとう」
 いちごのかき氷を食べながら、瑠奈が微笑む。
「実はちょっと勇気が出なくて……自分から行きたいとは言えなかったの」
「どんな顔して会ったらいいのかわからなかったしね」
 ティリアも、アイスティーを手にそう微笑した。
 二人の言葉に頷いて、刀真はこう話す。
「君達はこれからの白百合団にかかりきりになってしまうと思うけど、意気込みを聞いても大丈夫かな?」
「意気込み?」
「んー……」
 瑠奈とティリアが顔を合わせる。
「うん、俺達も手伝えることがれば手伝うから言ってくれ」
「そうね……。とにかく、私が考えるべきことは、どう百合園を守るか、なんだと思う」
「そのためには、パラミタや、世界全体のことも考えていくべきなんだけれど」
 瑠奈とティリアが交互に刀真の問いに答えていく。
「私たちが武器を取るのは、守るための戦いで、攻める戦いは百合園には必要のないこと、でありたい」」
「ただ、私もどちらかというと……攻めは必要だと思うし、百合園生でも必要に応じて攻めに出る子達もいると思う」
「そういう、百合園の勇ましき乙女も、私達にとっては守らなければならない、大切な仲間だから」
「強く美しい団でありたいわ。強さは、力だけじゃなくて」
「心の強さと気高さを、育てていけたらな……って。まずは自分自身の、かもしれないけどね!」
 そう、瑠奈は笑い、ティリアも笑顔でうんうんと頷く。
「樹月さんにお願いしたいことといえば、私達に抑えきれない百合園生を助けて欲しいということかな。神楽崎先輩とかね!」
「あとは、瑠奈に良い男性を紹介してくれるとか」
「えっ!?」
 ティリアの言葉に瑠奈が驚きの表情を浮かべる。
「恋愛とかしている場合じゃないとも思うけれど、瑠奈には支えてくれる人が必要だと思うのよねー」
 ティリアがふうと息をついた。
「ティリアにだって、落ち着かせてくれる存在が必要だと思うわよ」
「……それじゃ、合コンしよっか。それなりの役職についてるメンバー同士で。瑠奈はノーマルだけど、私は可愛い女の子も大好きよ」
 そんなことを言いだすティリアを、瑠奈が止める。
「冗談だから、冗談! 本気にしないでね」
 慌ててそう言う瑠奈と、悪戯気な顔をしているティリアに、刀真に顔にも淡い笑みが浮かぶ。
「……いつもそんな顔をしていればいいのに」
 瑠奈が刀真の穏やかな表情を見て、言った。
「街や、偶然見かけた時のあなたは、冷たい感じがするから。本当は凄く優しいのに」
「俺が、優しい?」
 刀真の問いに、瑠奈はこくりと首を縦に振った。
 刀真は返す言葉に迷い、僅かな時間会話が途切れた。
「刀真」
 会話に入り込めなかった漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が声を上げた。
「折角だから瑠奈達の白百合団の活動が上手くいくよう、祈願の為に打上げ機で打ち上げてもらいなよっ」
「え、あ、うん」
 以外にあっさりと頷いて、刀真は腰を上げる。
「いってらっしゃい」
 月夜は笑顔で見送る。
 瑠奈やティリアと楽しそうに話していることや、彼女達だけ婚約式に誘ったこと、現地で刀真はルシンダにも会ったということに、軽い嫉妬を覚えていて。
 ちょっと悪戯心が湧いてしまった。
 でも、素直に自分の提案を受け入れてくれた彼に対して、嬉しいという感情も湧いていた。
「漆髪さんって、樹月さんと一緒に暮らしてるの? 私生活の彼ってどんなカンジ?」
「なんかパートナーも女の子ばかりよね。皆ナンパされたの?」
「え、えっ?」
 刀真がいなくなった途端、瑠奈とティリアは彼のことを興味津々な表情で聞いてくる。
「全員と付き合ってるの?」
「本命は漆髪さんで、あとの娘達は愛人みたいな立場なのかな?」
「ちが……」
 瑠奈とティリアの質問の勢いに、月夜は押されてしまっていた。
 ボンッ
 刀真が打上げられてからも、ガールズトークは続いて。
 全員、星となった刀真を見逃してしまった。

「可愛い子は結局、契約者に横取りされちまうんだよな!」
「てか、可愛い子には大抵彼氏いるしな」
「やっぱ普通にナンパするしかねぇのか」
 屋台の側に設けられた椅子に、不良っぽい少年達が集まっていた。
「綿あめ出来ましたよ」
 綿あめ屋の看板娘、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が、注文分の綿あめを完成させ、少年達に声をかける。
「ねーちゃん、こっちまで運んで」
「その浴衣可愛いね、全身見せてよ!」
「仕方ないですね」
 メティスはくすりと笑みを浮かべながら、美味しく可愛く仕上げた綿あめを手に、少年達の元に歩み寄った。
「さ、こっちに座って」
「真ん中に決定だな」
「ささ、飲んで飲んで」
 近づいてきたメティスの腕を引っ張って、真ん中に囲むように座らせる。
「これって……ビール?」
 少年がメティスに注いだのは、紛れもなくビールだった。
「生ぬるかったらごめんなー。誰か、あっちの屋台から氷貰って……あてっ」
 ビールを注いでいた少年のおでこが、固いもので叩かれる。
「氷だ。メティスはいいが、お前達は飲むなよ」
 氷の塊で少年を叩いたのは、レン・オズワルド(れん・おずわるど)だ。
 彼は若葉分校所属者として、鳥むね肉の鉄板焼き屋を開いていた。
「もし、隠れて飲んでいるのを見つけたら……」
 氷を持つ手と反対の手には、熱々のヘラが握られている。
 飲酒を見かけたらこれで殴るぞと言わんばかりに。
「わ、わかったよ。差し入れに持ってきただけだって! ……別にいーじゃねーか、こういう時くらい」
 ぶつぶつ言いながらも、少年はアルコール類は全てレンとメティスに差し入れとしてプレゼントする。
「華美はまだまだこれからだ」
 よしっとばかりに、レンは少年の頭をぽすっと叩いて。
 アルコールを置きに屋台に戻り、代わり分厚いむね肉のステーキを持ってきた。
「これから綺麗どころを受け止めるんだろ。力が出ませんなんて言い訳はさせないからな」
 笑いながら、少年達に肉を差し出す。
「うおっ、さんきゅぅ!」
「女の子もいいけど、ダチとの屋台巡りも捨てがたいんだよな」
「うめー。こういうトコで食う料理ってなんで美味いんだ〜」
 綿あめに、肉に、ジュースを飲みながら少年達は明るい笑顔を浮かべている。
「沢山食え、ただ食いすぎて動けませんと言われても困るがな」
 人数分、レンはステーキを少年達に提供した。
「いや、腹についた脂肪で、女の子を怪我なくキャッチだぜ!」
「そんなすぐに腹に脂肪つかねぇって、女の子の前でゲロ吐くのがオチだって」
「ぎゃははははっ」
 明るく笑う少年達に、レンは穏やかな笑みを向ける。
 彼らが学生らしく過ごしていることを、嬉しく思っていた。
 利用されてばかりと思えた頃があったから。
 数年、前のことを思い浮かべる。
 ヴァイシャリーで、騒ぐ彼らを見守っていた時のことを。
「あの時も、夜遅く前遊んで楽しかったです。変わらない、ですね」
 楽しそうな彼らを見て、メティスはそう言った。
 自分のような機晶姫に綿菓子やの看板娘が務まるのかどうか不安だったけれど……。
 レンに大丈夫だと言われて、メティスは浴衣を纏って売り子をしていた。
 結果、綿菓子だけではなく、彼女自身も大人気でこうして誘われては客の相手をしていた。
「変わらないな。彼らの笑顔は。……おまえは少し変わったがな」
 レンはメティスにも穏やかな目を向ける。
 メティスは軽く首を縦に振った。
 以前よりも彼らにも近づけた気がした。

 リーア・エルレン(りーあ・えるれん)は隣で屋台を行っているメティスからの勧めで、桃色の浴衣を纏っていた。
「いらっしゃいませ〜。ジュースはいかが?」
 十代半ばに見える普通に可愛い少女だ。見た目だけなら。
 彼女を知っている人も、知らない人も、彼女や取り扱っている飲み物に魅かれて、屋台へ立ち寄っていく。
「リーア! その格好は……魅力的でございます。わたくしも一緒に着たかったです」
 連絡くださればよかったのにと、友人の邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)(壱与)は、羨ましそうにリーアを見る。
「壱与はいつでもお似合いの服、着てるからね。でも今度のお祭りでは、一緒にハッピでも着てみる?」
「それは……ぱっぴぃになる服でございますか?」
「うん、そうよ〜」
 それなら一緒に着たいと、壱与はリーアと笑い合う。
「それにしても今回は屋台どすか。毎度変わった事してはりますなぁ」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、屋台のメニュー……変わった飲み物の名前を見て、軽く首を傾げた。
「あ、これ差し入れどす」
 紙袋をリーアに差し出す。
 中にはお手製の羊羹が入っている。
「ありがと〜。早速いただくわ! お茶を淹れないとね」
 包みを開けて、羊羹を取り出して。
 るんるん華を飛ばしながら、リーアはお茶を用意する。
 2人にリーアが淹れようとしたのは、なんと……。普通の緑茶だった。
「ありがとうございます。ですが、わたくしはこちらで十分です」
「あ、それは……ま、美味しいと思うわよ」
 壱与はキャンセル分の刺激的なアイスティーを貰って飲むことにした。
「凄いイベントが行われとるようどすなぁ」
 淹れてもらった茶を飲みながら、エリスが打上げ華美の方に目を向ける。
「……エリスもエントリーすべきでございます」
 アイスティーを飲み干した壱与が、突然そんなことを言いだした。
「はは、やめておくれやす。無理どす〜」
「駄目でございます」
 笑いながらエリスは答えるが、壱与は何故か真剣だった。
「エリスは幾ら以前よりも前向きと言えどもまだまだ奥手過ぎるのでございます。ここらで大きく一気に跳躍すべきなのでございます」
 言って、壱与は何かいい方法はないかと、リーアに目を向ける。
「あの大人し過ぎる感情をもっと過敏にして解放させて、深層心理の欲望に忠実にできないものでございますか?」
 そう小声で尋ねると。
「うーん、これなんかどうかな」
 リーアはミックスジュースをエリスに勧めた。
「ようわからへんけど、戴きます」
 小食ということもあり、沢山は飲めないが、エリスはリーアがくれたジュースを半分くらい飲んだ。
「……さ、飛ぶ気になりましたでございますか?」
「え……うーん、飛んでも……ええかいな」
「そうと決まりましたら!!」
 壱与はエリスの腕を引っ張って、打上げ機へと連れていく。
「いぢめはだめよ〜。楽しく飛んでらっしゃい。どんなに怖い思いしても、このコカ茶で元気になれるから大丈夫大丈夫」
 リーアはそう2人に声をかけた。

「ひ、ひぅええええええええーーーーー」
 そして、エリスは流れ星になった。
 普通の女の子である彼女には、打上げは衝撃的過ぎて。
 落下時は発狂気味で、キャッチされた後はただ茫然としていた。
「は、はうう……」
 その間に、彼女を奪いに集まったパラ実生達の手でもみくちゃ……というより、もみもみされてしまったという。