校長室
エロブック伯爵の大いなる遺産
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第二章 衝撃! 秘宝の正体 「むっ……またこの魔操兵とかいうやつか!」 大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)は、刀を納めて後ろへと下がる。 雑魚に負ける気は無いが、全身鋼鉄の魔操兵だけは苦手だ。 「よし……やるわよ、剛太郎!」 「了解であります」 鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)と大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は銃を構えると、魔操兵を掃討するべく射撃を開始する。 機敏な金属ゴーレムなどというものに、もとより弾薬を惜しむつもりはない。 用意した弾を装てんすると、剛太郎達は魔操兵達を掃射していく。 「うむ、片付いたのう。じゃあ先に進むかの」 実のところ、藤右衛門としてはあまり二人についてきてほしくはなかった。 嬉しいことは嬉しい。 嬉しいのだが……エロ本を探しに行くのについてこられるというのは、ちょっと微妙な気分であった。 実のところ剛太郎も気になっているし、望美がそれを見通しているなどということは、気付く由もない。 「ひゅー……っとぉ!」 と、そこに天井に空いた穴からアーシアが落下してきて剛太郎達の前に着地する。 「おや、どっかで見た顔。こんにちは、みんなのスーパーアイドル、アーシア先生だよー」 長い黒髪を整えると、アーシアはそう言って快活に笑う。 と、その瞬間。剛太郎達の居た横の壁が、強い力で叩き割られて穴が空く。 「よし、これで開放感ってのか? 出たな。どうせ遺跡っても歴史的な遺産って感じでもないだろ……違うのか?」 「違うに決まってんでしょーが。でも先生、そーゆー無茶な子も嫌いじゃないかなー」 穴から現れたのは、楮 梓紗(かみたに・あずさ)だった。 どうやら罠や魔操兵にウンザリしたあげく、壁を無かった事にして進むことに決めたようだ。 呆れたように肩を竦めるアーシアを見つけると、梓紗はズンズンと近寄っていく。 が、そこに更に二人の人影が別の方向から現れる。 「不用意に周りを触らずにじっと救助を待てと言ったはずだが……」 「やだって言ったもの。こう見えて先生は、あの悪魔ロリ以外の言う事を聞いた事が無いのが自慢なのです。えっへん」 「悪魔ロリって……エリザベート? そのエリザベートからの依頼なんだけど」 それは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。 「で、何か見つけたのか?」 色々と言いたい事はあるが、どうせ帰ったらエリザベートに叱責されるのだろう。 そう考えたダリルは、そうとだけ問いかける。 「んー、予想よりも防衛機構が強いかな。罠自体は致死性じゃないからいいけど、魔操兵は厄介ねー。新入生に対処できるかは不安材料かも」 「秘宝はいいの?」 ルカルカの言葉に、アーシアは心外だ、と言いたげな顔をする。 「あんなもんいらないってば。なんかめんどくさそうなのもいたし」 その言葉にルカルカとダリルが顔を見合わせると、更に二人の姿が現れる。 「見つけたわ。あれがアーシア先生ね」 「さあ、戻りましょう。先生の身の安全確保と、この遺跡からの速やかな脱出が優先。『好奇心は猫を殺す』……この諺の通りに、ここは先生の好奇心には封印をしていただきます」 それは、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)とロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)。 強硬手段も辞さないつもりの二人ではあったが……意外にも、アーシアはあっさりと快諾する。 「うん、いいよ。もう調査は済んだし。ここがどういうものかは判断ついたもの」 「どういうものなの?」 「遺産でしょう?」 ルカルカとアリアンナの言葉に、アーシアは首を横に振って否定の意を示す。 「ここはねー、男のアホな夢の宝箱。タイムカプセルってとこかなー」 顔を見合わせる二人を他所に、アーシアは地上へと向かって歩いていく。 「……怪我もされてないようですね」 「まぁねー」 アリアンナの言葉に答えながらも、アーシアはロレンツォの肩にぴょんと飛び乗る。 「ちょっと先生、何を?」 「えー、無理矢理にでも連れ帰るつもりだったんでしょ? 結果が同じなだけじゃない。運んでって?」 そう言うと、アーシアはロレンツォの服をがっしと掴む。 思わずロレンツォがアリアンナや……ルカルカ達に振り向くと、誰もがめんどくさい人だよね……と気の毒そうな顔をする。 いわば、絡まれたのがロレンツォの不運といったところだろうか。 そんな彼女達とは違い、ついに最深層へと辿り着いた者達もいる。 そこは、大きな扉で封印された場所。 碑文が置かれ、資格のない者を拒絶しようとする。 この扉の前に立つ者よ。 世俗で認められる価値を求めるならば、ここより上の階へ行くが良い。 だが、そうでないならば扉の前に立つが良い。 汝等には、果たして資格はあるのだろうか。 数々の財宝の誘惑よりも、我が秘宝のみを目指す者だろうか。 そうであるならば、どうか。 汝等が世俗の欲とは異なる視点を持った者達である事を望む。 そして願わくば、我が秘宝を受け継ぐ者であらん事を。 我はただ、それのみを望み、ここに碑文を残す。 その碑文を読み、五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は扉の前に立つ。 「解る人にしか解らない至高の宝!? それは究極のメイド衣装セレクションカタログ! 衣装でもいいのよ? ゴーレム「僕のアルティメットメイドさん」でもいいのよ?」 「理沙……その、秘宝をコレと決めつけて行くのはどうなのかしら。そして女の子としてその発想もどうかと……」 セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の言葉は、すでに理沙の耳には届かない。 理沙の頭の中にあるのはすでに、メイドパラダイスなのだ。 「よしその至高の宝、私が継承するにふさわしいわ。取りに行くわよ!」 そして理沙は、一気に扉を開ける。 「凄くくだらない物の予感しかしませんわ……。エロ本とかは駄目ですわよ、理沙」 セレスティアはそう言って、理沙の後に続いて大部屋の中へと入る。 そこには、山のように詰まれた本の数々。 そして、その複数の山々の1つに腰掛ける、少女の姿。 「ここにあるのは人生をかけて収集された逸品にして、世俗的にはくだらないゴミの数々。ようこそ、秘宝の間へ。亡き伯爵に代わって、皆さんを歓迎しましょう」 それは、少女。いや、魔道書だ。 メイドさんのうっかり御奉仕事情、とか書かれた肌色の多く使われた本をその辺に閉じて山に投げると、少女はそう言って薄い笑みを浮かべる。 「自己紹介しましょう。私は伯爵の……ん?」 そこで、魔道書の少女は自分に向けられた妙な視線に気付く。 「この地に眠る秘宝、私の直感は正しかった……あれは禁断の秘儀書『ウ=ス異本』と見た!」 「は!?」 それは夜薙 綾香(やなぎ・あやか)。何やら、感極まった顔をしているのが分かる。 いや、それだけではない。 何やら、呪文のような薀蓄を大声で語り始めている。 「エレメントや風水などと異なる属性区分を持ち、数多の魔法使いたちがその秘儀の粋を競い合う祭典に収められたという魔道書だ……持ち帰って堪能するしかっ!」 「お前というやつは……あれだけ魔道書を蓄えて、まだ欲するのか……まぁ、30まで修練を積んだ魔法使いどもの妄執の産物やもしれん物だ。興味を引かれるのも分からんでも無いが……」 メーガス・オブ・ナイトメア(めーがす・ないとめあ)と綾香の会話に、魔道書の少女は口を呆然とした顔をしている。 「ちょ……こらぁ! 人に勝手に妙な名前を……ていうか、あのバカ伯爵とソックリなオーラ出すヤツばっかり集まって! なんなんですか、外はどうなってんですか! 世紀末!?」 「うっふっふ〜…・・・百合とか触手属性のロリ娘本だと嬉しいな〜……じゅるり」 「寄らないでください、この新世代のヘンタイ! 私を読もうとするなんてっ!」 追いかけっこを始めた綾香と魔道書の少女を他所に、メーガスは足元に転がってきた本のタイトルを読む。 「「魔道書といっしょ!」か……」 読む気も起こらんな、と。遠い目をしてメーガスは呟く。 さて、実のところ。 今回、パートナーであるルイ・フリード(るい・ふりーど)や林田 樹(はやしだ・いつき)に内緒でこっそりと遺跡にやってきた者達もいた。 その名を新谷 衛(しんたに・まもる)、緒方 太壱(おがた・たいち)、ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)。 秘宝を求めて互いを犠牲にしながら疾走する、浪漫溢れる面々である。 「エロブック遺跡の導きにより集った仲間よ。我らはこれより運命共同体……そう、ソウルブラザーズとなる! 一人は皆の為に、皆は一人の為に! 共に秘宝(おかず)の為!どの様な苦難の道が有ろうと諦めてはならぬ! 共に輝ける明日を迎える為!」 「同志たいっちー及びのーるんよ! 我らが秘宝の為に、ついにここまできたんじゃーい!」 「おうさ、パパさん、ガジェットの兄さん! 秘宝のためなら、例え火の中水の中ってなぁ!」 ここまで、互いを罠に突き落としながらも最奥までやってきたガジェット達。 ならば、何故ここで気合を入れなおしているのか。 それは、自分達の頭上……遺跡の入口のほうから、ただならぬ気配を感じるからだ。 そう、例えば。 「ガジェットさん貴方の修理費・メンテナンス費用どれだけかかると思っているのかしら?」 そんな殺し文句を用意しながら待ち構えているシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)とか。 「覚悟は、出来ておろうな?」 そういう、文字通りの殺し文句を携えている樹とか。 そういう気配が、バリバリにするのだ。 「どんなにお互いを牽制しようと最後は……一緒に秘宝を手にしよう。それだけは約束であるよ」 「よし、じゃあ帰りはオレ様が先頭を行くよ!」 「パパさんが行くンすか? イヤイヤイヤ、この俺が!」 「そなたの勇気は忘れぬっ!」 「チッ!」 罠にかからなかったか、という顔をする衛と太壱。 どうやら、まだまだ足を引っ張り合う気は満々のようであった。 「あのお三方もなかなかエロ……いや業が深いようですが」 そして、その三人を狙うのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。 「業の深さでは自分の方が上なのであります」 秘宝を目の前に、業の深さを競い合う衛、太壱、ガジェット、吹雪。 秘宝を持ち帰らんとする三人と、それを奪おうとする吹雪という構図。 この三人と吹雪が遺跡の入口に辿り着くまでに展開する笑いあり、涙ありの群像劇。 壮大な物語となるそれではあるが……今は、語るべきではない。 「いや……これはアカン」 欲望の終着点で乱舞する数々の姿を見て、フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)は呟く。 その背後にはスパイハット、ベルフラマントで気配を隠し、更にはダンボール箱で完全に気配を断ったと自負できるベイリン・サヴェージ(べいりん・さべーじ)の姿。 この欲望の数々は、後世に残すべきではない。 むしろ、今ここで消し去るべきではないのだろうか。 そう考え火を放とうとしたフィーアを、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が押し留める。 気配を隠していたベイリンが動こうとするが、それをフィーアは押し留める。 「エロ本だったとしても大昔のモノでしたら何かしらを紐解く情報があるかもしれませんね」 「……この「怖がりな姉の眼鏡は夜に輝く」とかいう本が?」 「ええ、古代から眼鏡は存在したという証拠になりますね」 よく分からない理屈をこねる貴仁に、フィーアは脱力する。 貴仁が言っているのは、どうでもいい薀蓄にすぎないということは分かっている。 確かに、どんなものにも歴史は存在する、存在するのだが……。 こんな遺跡を残したエロブック伯爵なる人物は、どんな人物だったのか。 実のところ、その真実に辿り着いた者が一人だけいた。 そこは、エロブック伯爵と呼ばれた人物が遺跡の中に残した私室。 ベットの下、引き出しの奥、分厚い在り来たりの書物の間など。 思春期の少年がちょっと親に見せられないエッチな本を隠す場所を重点的に探していたのは神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。 「いったい如何様なものなのでしょうか」 言いながらも明日香はあちらこちらを探していく。 「エロブック……エロ……ブック。エロ……BOOK……? まさかね……」 比較的真実を突く明日香。しかし、そのようなものはこの部屋には存在しないようだった。 そこには、エロブック伯爵の自筆と思われる本が隠されていたのだ。 我が理想、と書かれた本を持って、明日香は伯爵の私室を出る。 「興味があるような無いような。隠された価値があるかもしれませんので持ち帰って調査しなければいけませんね〜」 明日香の手に持たれた本は、実に立派な装丁だった。 我が理想。 それは実のところ、エロブック伯爵の理想の嫁について、詳細なイラスト入りで描かれた壮大な設定集である。 出会いから幸せな生活まで、あらゆる理想を詳細に詰め込んだ本。 そして、その理想を如何に体現するかまでも書かれている。 そんな理想を追求した伯爵がどんな生涯を送ったのかは、現在に残された資料は何も語らない。 だが、この本を読めば誰もがこう思うだろう。 ああ、きっと生きてるだけで幸せだったんだろうなあ……と。 これは、そんな男が残した遺跡と……それを巡る、夢追い人達との物語である。 大切なのは、大勢に認められることではない。 人間が人間として生きるために本当に必要なことは、自分を認めさせることなのだろう。 それこそ何十年、何百年、何千年かかっても。 エロブック伯爵の遺跡は、それを現代に伝え続ける貴重な遺跡なのである。
▼担当マスター
相景狭間
▼マスターコメント
こんにちは、相景狭間です。 皆様、おつかれさまでした。 なんと言っていいのやら。 皆様の想像力は、常に私の上を飛び越えていくようです。 執筆していて、とても満足でした。 今回の冒険、お楽しみいただけたなら幸いです。 それでは、また次の冒険でお会いしましょう。