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瘴気の霧の向こうから

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瘴気の霧の向こうから

リアクション


プロローグ

 鬨の声と破砕音が森の奥から聞こえ始める。不思議と恐怖や苦痛の絶叫は聞こえない。異形の者らの咆哮はその音を取り囲み、程近い位置にも敵の蠢きが感じ取れた。
 アクリト・シーカーは片手を上げて全員を止め、呼ばわった。
「手筈通り突入、遊撃、捜索を行って欲しい。残りはここで非戦闘員の救護と、敵の調査のための拠点を作る。始めよう」
 各々が各々の返事を返し、爆音を上げて遠ざかる一台の自動車に突撃要員が続き、それとは行く先を別にする者らが散った。残った者達はテントを広げ、バリケードを構築し、水回りの整備を始める。
 アクリトはそれを見回しながら確認していたが、ふと一本の木に目を留め、歩み寄って樹皮に触れる。と、弾かれるように離れ、深く身をかがめた。その木から突然に巨大な棘が伸び、アクリトの頭上を通り過ぎる!
 目の前の樹木がばきばきと樹皮を破りながら膨張し、枝を急成長させながらアクリトに迫る。既にここは敵の渦中だった。音に驚いた契約者たちが闘う構えを取る。と、それらに先んじて涼やかな声が響いた。
「動かないで」
 ごう、と赤々とした炎がアクリトの背後で上がる。その輝きに恐れを為したのか、樹木の化け物は根を引きずり出しながらアクリトから離れようとする。
 アクリトが魔道銃を引き出すのとほぼ同時に、シュリー・ミラム・ラシュディ(しゅりー・みらむらしゅでぃ)がアクリトを守るように立ちはだかった。
「逃がさないわよ」
 短くインドラの名を唱えると、両手のカタールの間でスパークが起る。それを阻止しようと振り下ろされた枝にシュリーの背後から幾つもの雷撃が降り注ぎ、一瞬その動きを鈍らせた。
 直後閃光が瞬き、カタールのスパークが数倍にもなって樹木を襲う。樹皮が弾け、焦げ臭い匂いがあたりに漂う。その次の瞬間には、宙に躍り出たシュリーが枝という枝を払い落とし、幹を中ほどから断ち切っていた。
 シュリーが着地して後、アクリトはしばらくもがくその化け物を見つめていたが動かなくなったのを確認し、警戒していた周囲の契約者に声をかけた。
「無力化した。作業を続けてくれ」
 再び拠点にざわめきが戻る。アクリトが魔道銃を戻して見やると、シュリーは既に自分が断ち割った樹木の化け物にもう一度刃を入れ、その組織を検分していた。
「助かった。礼を言う、同郷の」
 アクリトが短く礼を言うとシュリーは振り返り、こちらも短く答えた。
「こちらこそ」
 雷術の隙間を埋めるための支援射撃をを言ったのだろう。アクリトは頷くと、検分していた植物組織を一瞥した。その視線を感じ取り、シュリーはもう一度それに視線を戻した。
「膨張がまだらで、一部組織を破壊しながら異常組織が増殖しているわ。どうしてこんな……」
「良い観察だ」
 アクリトが遮ると、シュリーはアクリトを振り返ってまじまじとその顔を見た。
「それについての仮説はあるが、まだ確証に足るサンプルがない。検分を手伝って欲しい」
 シュリーがそれに問いを重ねようとしたとき、力強い風が吹き付けてきて、あわてて髪を押さえた。
「援軍か」
 アクリトが呟き、見上げた蒼天には、空賊旗を船体に描いた空中戦艦が浮かんでいた。ほどなくしてそこから流星のように、いくつものペガサスが飛び出してくる。中でも二騎が、恐るべきスピードでまっしぐらに村へ突撃していった。