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二日目 後編


 そしてホテルにバスが辿り着き、その日も豪華な夕食に皆が舌鼓を打った。ハイコドも、夕飯のあいだには帰ってきた。
 ロゼたちはそれほどかからずに帰ってこれたとか。北海道の道は広くて走りやすいそうだ。


「ん? 男湯は清掃中?」


 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が言う。
 夕食後、温泉に向かったメンバーたちの目に入ってきたのは、『男湯は清掃中です』という看板だった。
「男湯だけかよ。あと15分だって」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が時計を見て言う。
「仕方ないね。こっちは先に入ってるからねー」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が言い、女性陣は温泉へ入っていった。
「あとでね、羽純くん」
「ああ」
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)に手を振る。
 昨日大浴場に入らなかったメンバーも、今回は大浴場に入ることになっていた。
「仕方ないね……15分くらいなら、待ってようか」
 弾が言い、男たちは少し待つことに。
 ちなみにリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ユウキ・ブルーウォーター(ゆうき・ぶるーうぉーたー)の三人は今度は混浴に向かった。
 神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 紫苑(かんざき・しおん)を寝かしつけるために神崎 零(かんざき・れい)といったん部屋へ。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)佐野 悠里(さの・ゆうり)もいったん部屋に戻った。


「む……あんたは確か」
「酒杜 陽一か……」
 そうやって待っていると、陽一が知った顔を見かける。バーストエロスこと、土井竜平だ。
「誰だ?」
 羽純が尋ねる。バーストエロスはいつものように名乗ろうとするが、ちょっと考えて普通に名だけを名乗った。
「バーストエロスか。たまにシェスカとも話してるよな」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は竜平を見て言う。
「あの女は妙な呼び方をする。苦手だ」
「はは、あいつが得意な男なんていないよ」
 竜斗はそう言って笑う。
「バーストエロス? 変わったコードネームだ」
 ジェイコブは竜平の肩を叩いて言う。
「なにをしている? 温泉は?」
 竜平は聞く。
「掃除中なんだって。あと10分くらいで入れるってさ」
 涼介が言う。
「掃除? こんな時間に?」
 竜平が疑問を覚えるが、「看板にそう書いてあったんだよ」と言われ「そうか」と頷く。
「あれー、みんな、なにしてるでありますか?」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がちょうどそこを通りかかった。
「男湯が掃除中なんだってよ」
 アンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)が言う。
「掃除? こんな時間に掃除なんてしないでありますよ?」
 吹雪が首を傾げた。
「え? っかしいな」
 シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)が立ち上がる。そして、温泉へと通じる道へと向かうと、
「あれ、看板がねえ」
 先ほどとの違いに気づく。
「手違いだったのかな?」
 冬月 学人(ふゆつき・がくと)が口を開き、「入れるなら入ろう」と、男たちが立ち上がった。
「ゆっくりしていってくれ、でありますよ」
 吹雪は彼らに手を振る。


 そして、温泉へと通じる廊下には、皆口虎之助……ハイパーエロスがいた。
「土井先輩、僕が、あなたのなかにある性欲を、」
 彼は女性陣が入って行ったあと、男湯と女湯ののれんを取り換えていた。
「呼び起こさせてやる!」
 言い、隠れる。少しすると、男たちがやってきた。
「ん? 昨日と違うな」
 陽一が気づき、そう口にする。昨日入った温泉とは男女が逆になっていた。
「日替わりとかじゃないですかね」
 貴仁が言い、のれんをくぐる。他のメンバーも疑問を持たず、そのまま入っていった。
「………………」
 竜平だけがなにかを考えていたが、そのまま中へ。
 更衣室はロッカーだ。女性用の下着でもあれば状況を理解できたのだが……あいにく、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がまたしても更衣室を綺麗にしていったおかげで、女湯だと気づく要素は何一つなかった。
「今日は夕飯までじゃないから、ゆっくりできるね」
 涼介が服を脱ぎながら言う。
「ずいぶんロッカーが埋まってんな……混んでんのか?」
 ダリルはロッカーを眺めて言う。
 竜平はいち早く服を脱いで、タオルだけを巻いて温泉へと続く扉を開ける。
 俺たちも行くか、と、他のメンバーも向かおうとすると、勢いよくドアを開けて竜平が戻ってきた。
「どうした、エロス」
「……ハメられた」
 竜斗が聞くと、竜平はすぐに答える。
「こ、ここは女湯だ!」
「はあ?」
 シンがなにを言っているんだ、みたいな顔をする。
「バカ言え、のれんが換えられたわけでもなし、ここが女湯なわけ、」
 ガラガラ、と扉を開いて中へ。そして、湯船に浸かっている影を見て、大慌てで戻ってきた。
「本当だ! ここおおお女湯だぜ!」
 シンが叫ぶ。
「おい……まずいじゃねえか、とりあえず出るぞ!」
 アンタルが叫ぶと、皆が頷いて更衣室を出ようとする。
「お母さん、早くいこ!」
「悠里、慌てないのぉ」
 そこへちょうど悠里とルーシェリアが入ってきた。男たちは慌てて、浴場近くのサウナへと駆け込んだ。
「ん? 今誰か入ってこなかった?」
「え? ボクは見てなかったよ?」
 室内にいたのはクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)神月 摩耶(こうづき・まや)、それに桜月 舞香(さくらづき・まいか)だ。運のいいことに、ほとんどは外にいるようだった。
「ど、どうする!?」
 陽一がサウナの中で尋ねる。
「昨日みたいに露天の壁を破るか!?」
 涼介が言い、アンタルに視線を向ける。
「ダメだ……聞いた話だと、昨日の騒ぎで、吹雪さんが壁を鋼鉄製にしやがったんだ」
「くう……できる女だな!」
 皆の頭の中で吹雪の顔が浮かぶ。「てへぺろ♪」と舌を出していた。
「高さは?」
 羽純が聞く。
「ジャンプしても縁まで手が届かねえくらいだ。一人で超えるのは無理だな……」
 シンが答える。
「仕方ないね、佐野親子が入るまで待って、それから出よう」
 学人の提案に、皆が頷く。
「ちょっとだけ、ボクのぼせちゃったよ、更衣室で休んでるね」
「あら? じゃああたしもそうしようかしら」
 が、摩耶とクリムが移動したせいでそれも無しになる。
「ダメだ! こうなったら露天を飛び越えるしかない!」
 ダリルが言う。「どうやって!?」と貴仁が声を上げた。
「数人がかりだ。足場を作って、それを元に飛び越える。それならなんとか越せるはずだ」
 ダリルの提案に、なるほど、と皆が頷く。
「よし、そうしよう……しかし、どうやって露天まで行く?」
「これを使え」
 ハイコドが言うと、ジェイコブはダンボール箱を取り出した。
「いいな。これなら隠れられる!」
 陽一が頷く。
「これに隠れて露天へ。光術で目くらましをしているあいだに、全員で飛び越える。いいな?」
 涼介が作戦をまとめた。皆が頷く。
「よし……」
 サウナの入り口からジェイコブが覗き込み、
「今だ!」
 外に出てダンボール箱を広げた。皆がそれを頭に被り、隠れる。
 そして、そろそろと歩き出した。

「……ん? なにあれ?」
 体を洗っていた舞香は立ち上がってダンボール箱を見る。ダンボール箱は露天へと続く扉を開け、そのまま外へと出て行った。



 そして、露天風呂。
「さすがに懲りた? アゾート」
「さすがにね……同じ轍を二度踏むボクじゃないよ」
 ルカルカが指摘して、アゾートは息を吐いた。今日の彼女は水着を着ていない。バスタオルで体を隠してはいるが。
「あなたも慣れたみたいね」
「……まあ、少しは」
 夏來 香菜(なつき・かな)の発言に、衣草 椋(きぬぐさ・りょう)は遠くを見ながら言った。
「自分の体だって女だろうに。普通は自然に慣れるだろう」
 そう言うのは朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。
「あんたみたいなおおっぴらな人がいるからだよ!」
 椋は返した。垂は相変わらずタオルすら巻いていない。ナイスバディーがそのままでんと座っていて、椋は正面からその姿を見ることができなかった。
「垂さん……素晴らしいスタイル……いい」
 レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は相変わらず女性の体を眺めて息を荒くしている。
「むぅ……」
 香菜も彼女の体を見てうなり声を上げた。
「どうしたら、そんなふうに胸が大きくなるんですかあ?」
 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は隣にいるルカルカに聞く。
「大きくなる方法? うーん、適度な運動かなあ。筋肉じゃないけど」
 ルカルカはそう言って、周りを見た。
「わ、わたくしは別に、これといったことは……」
 ルカルカと目が合った泉 美緒(いずみ・みお)が、少し恥ずかしそうに言う。
「私もです」
 ラナ・リゼット(らな・りぜっと)も言う。
「遠野歌菜ちゃん、あなたはどうなの? アイドルとして、スタイルを維持する方法」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が歌菜のほうを見て聞く。
「へ? 私?」
 いきなり話を振られて歌菜は変な声を出した。が、皆の注目が集まっているからか、うーん、と、一応考える。
「……恋、かなあ」
 そして歌菜が口にした言葉に、皆が騒ぎ出した。
「恋だって! やだー、歌菜ちゃん」
 ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)が言って、ばしばしと歌菜を叩く。
「そういうことを口にしてみたいです。羨ましい」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)も言う。
「ちょ、痛い、痛いって」
 歌菜は少しだけ顔を赤くしてアリアクルスイドから離れる。
「恋をすれば胸が大きくなるって、アゾートちゃん?」
「……どうしてボクに言うんだい」
 エイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)がぐふふ、と笑いながらアゾートに言う。
「昨日も一緒にお風呂入ったんでしょ? みんないるのに、積極的だわ」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)も言う。
「あーもう、なしなし! 今のなしー!」
 歌菜は真っ赤になって反論する。
「理沙ちゃんは?」
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)に視線が向けられる。
「やっぱり、『見られてることを意識する』かな」
 なるほどねー、と声が響く。
「さゆみちゃんは? コスプレアイドルとして」
 詩穂は今度は綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)に視線を向ける。
「そうね……まあ、運動はするわよね、ランニングとか。あと、食べるものはしっかり考えて」
 さゆみは淡々と答える。
「なによ、普通ねえ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が言う。
「普通が一番大変なんだからね」
 さゆみは、筋トレとかもするんだから、と付け加える。
「さゆみは隠れて努力するタイプですから」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が解説した。「秀才タイプー」「やるー」みたいな声が響き、さゆみは少し恥ずかしそうにする。
「もっとも、最近は盗撮されたりして大変なのですが」
 あはは……とさゆみは笑う。
「えっと、昨日は、兄さんがごめんなさい」
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)がぺこりと頭を下げた。
「デスストーカーくんの分も、ごめんなさい」
 ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)も言う。
「いいのよ……二人は何も悪くないしね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が息を吐いて言った。
「アンタルがごめんなさい」
「それはまあ」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)がそう言い、セレンが答えると笑い声が響いた。
「お兄ちゃんはひどいです……しばらくは口もきいてあげないですっ」
 荀 灌(じゅん・かん)が膨れて言う。
「まあまあ。アンタルさんも、わざと覗いたわけではないですから」
「そうですけど……そうですけどぉ」
 秋月 桃花(あきづき・とうか)が言うが、荀灌は表情を変えない。
「インキーしてごめんなさい」
「それは許さないから」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が言うが、斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は即答した。「えー」とロゼは不満を口にする。
「ふう……明日はもう帰らないといけませんね。あっという間でした」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)が紅葉を眺めながら言う。
「そうですねー。大尉、帰ったらご指導お願いいたします」
「ええ」
 セレンが言い、ゆかりは頷いた。
 フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)も、ゆかりに「お願いいたします」と声をかける。
「そういえば理沙さん、今日は撮影はいいんですか?」
 黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)が理沙に声をかける。今日は彼女はカメラを回してない。
「映像はだいぶ取れたからね……あとは編集するだけ。帰ってからの作業ね」
 理沙は紅葉を眺めてくつろいでいた。
「理沙が脱がされるシーンとかも、放送しましょう」
 セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)が言う。「それはダメー!」と理沙が言うと、皆が笑った。



「よし、行くぞ」
「ああ」
 そうやって話していると、露天の扉が開いた。
「ん?」
「なに、あれ?」
 それに気づく数名。ダンボールはそろそろとゆっくり進んでいって、男湯との境界に……

「ねえ、なんか変なのが入っていかなかった?」
 舞香が露天のドアを開いた。
 男たちは反応し、立ち上がる。
「うわあああぁぁぁぁ!」
 ジェイコブが叫び、
「【光術】!」
 数人がスキルを使う。光に目がくらんで、女性陣は目元を隠す。
「今だ!」
 数人が境界上に並んで壁に手を置く。その背中に男たちが乗って跳び、境界を越えてゆく。
「なんなの……」
 女性たちはまだ目が潰れている。
 やがて、男たちのほとんどが壁を越えると、並んでいた男たちが一人ずつ足場となって男湯へと飛び込む。
「よし、みんな行ったね。じゃあ誰か、足場を……」
 そして、弾だけが残った。
 あれ? と弾は振り返る。女性たちは目くらましの効果もなくなっていて、タオル一枚で女湯に立ち尽くしている弾の姿がはっきりと目に入る。

「き、きゃあああぁぁぁ!」
「だ、弾くん!?」
 誰かが叫び、アゾートが名を呼んだ。
「ちょっと待って! この計画ダメだよ! 最後に誰か取り残される!」
 弾が壁を叩きながら口にした。そのあいだにも女性たちが放つスキルやら投げた石やらが弾に向かって飛ぶ。
「弾! 跳べ!」
 ハイコドが境界から身を乗り出して手を伸ばした。
「よかった、見捨てられたかと思った……」
 弾はぴょん、とジャンプするが、ぎりぎりハイコドの手まで届かない。
「タオルを使え! そうすれば届く!」
「そうか!」
 弾は腰に巻いていたタオルに手をかけ、
「って無理でしょ!? この状況でタオルを外せと!?」
 自分が今なにをしようかとしているのかに気づいた。
「仕方ないだろ! 早くしろ、殺されるぞ!」
「もう社会的に死んでるけど!?」
 とはいえ今の状況なら仕方ない……弾は泣きそうになりながら、覚悟を決めた。
「見ないでくださいね!」
 弾は勢いよくタオルを外す。
「あ」
「あら」
「可愛い」
「ね?」
 と後ろからいろいろな声が響くが気にしない。ジャンプして、タオルをハイコドの手に。
「腰巻いてたタオル掴みたくねえなあ」
 が、ハイコドはそう言ってタオルを掴まなかった。弾はそのまま着地する。
「いや掴んでよ! こっちはもう必死なんだから!」
 弾が泣きながら懇願する。
「しゃあねえなあ」
 次にタオルを振り回すと、ハイコドがしっかりとそれを掴み、弾は男湯へと引っ張られていった。
 最後に「ごめんなさいーっ」と弾の声が響き、その場に静寂が訪れた。




「なにを考えいるんですか!」
 そして、昨日と同じく香菜のお説教タイム。今日もすごい人数だ。
 ちなみに香菜が説教をしているのは陽一、貴仁、ハイコドの三人。

「お兄ちゃん!」
「涼介兄ぃ!」
「……兄さま」
「……ごめんなさい」
 涼介はクレアたちが、

「羽純くん!」
「はい……」
 羽純は香菜が。

「ダーリールー!」
「いや、いろいろあってな……」
 ダリルはルカルカ、

「ジェイコブ」
「あなた」
「……悪かった」
 ジェイコブにはシャンバラ教導団の方々が指導に入り、

「アンタルあなた……一度ならず二度までも!」
「最低です!」
「いや……ははは、」
 アンタルは再び郁乃たちの指導を。

「学人、シン?」
「言い残すことは?」
「あの……」
「説明するってよ……」

「竜斗さん!」
「フィリス。あなた、子供だからって許されないこともあるのよぉ?」
「はい……」
「うう……」

 みんなそれぞれ、自分のパートナーたちから教育的指導をされていた。

「あんたねえ……少しは見直したと思ったら!」
「最悪ですわ」
「……く」
 竜平はさゆみたちから指導を受けていた。


「弾くん……君という人は」
「ごめんなさい」
 そして弾にはアゾートが指導を。アゾートはどことなく顔が赤く、弾の顔というよりかは下のほうに目線が動いては逸らしている。
「ま、まあ事情はわかったから、あまり強く攻められないものの、さ、さすがに女性たちの前でタオルを外すのは……信じられないよ」
「仕方なかったんだよ……それしか方法がなかったから」
 弾が顔を上げる。アゾートと目が合うとアゾートの顔は真っ赤に染まって、
「とと、とにかく今後は気をつけたまえよ!」
 そう言い残して去っていった。
 なにをどう気をつければいいんだ、と弾は息を吐く。
「いやあ、災難だったわね」
「エイカ……」
 弾は息を吐く。
「恥ずかしくて死にそうだよ」
「そうでしょうね。女湯で、腰に巻いたタオルを外すなんて、普通の人にできることじゃないわ。ぷぷ」
 エイカはそう言って笑う。
 なんとでも言ってよ……と弾は落ち込んだ様子で言って、ふらふらと歩きはじめた。
「ねえ弾、あなたに一つ、どうしても言いたいことがあるんだけど」
「なにさ……お尻どうこうのコメントは飽きたよ?」
 息を吐いてエイカのほうを向く。エイカは楽しそうにくるりと回転しながら弾の耳元に口を寄せると、

「弾って、意外と大きいのね」

 そんな発言をした。
「は……? ……はあっ!?」
 意味を理解した弾は顔を改めて真っ赤に染めた。そうして、「じゃあねー」と楽しげに笑いながら去るエイカを見送る。
 どうも、最近はいろいろな弱み(弱み?)を握られているような気がするが、その中でも核爆弾並みに強力なものを握られたような……そんな気がした。