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【十二の星の華SP】女王候補の舞

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【十二の星の華SP】女王候補の舞
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第6章 ティセラの誘惑

 ヴァイシャリー家のダンスホールに集った契約者達は、落ち着きを取り戻しそれぞれダンスを踊ったり、隅に集い飲食や会話をしている。
 もちろん気を抜けない状態であることに代わりはなく、奏でられている優雅で柔らかな音楽とは違い、会場内には緊張感が漂っている。
 時折休憩を挟みながら、十二星華のティセラは契約者達の誘いに応じて、ダンスを踊り続けていた。
 少し離れた位置で、イルミンスール魔法学校の瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、パートナーでシャンバラ古王国時代、女王の騎士であったマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)と踊り始めた。
 ここは踊る場所だと誘ったのは、マリザの方だった。
 パンツスーツ姿のコウは訝しげな表情を浮かべている。
「ヴァイシャリーに王宮が造られるということは、ティセラが女王となった場合、離宮の騎士であったマリザ達は王都や王宮の守護騎士ということになるのだろうか?」
 コウの問いに、マリザは少し考えた後首を左右に振った。
「5000年以上前の立場だもの。もう時効よ」
「そうか。……それはティセラを護る騎士にはなりたくないとういう意味か?」
 マリザは男性と踊るティセラをちらりと見た後、軽く頷いた。
「気が進まないわ。アムリアナ様のことは良く思い出せないけれど……あの剣の花嫁であるティセラが言っているような人物ではなかったはずよ」
「ティセラ達のことは何か覚えているか?」
 マリザとコウに、イルミンスールの高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)と踊りながら近づく。
「そう、女王の血を引くという十二星華の本質とは何だろうか? 特別な光条兵器「星剣」を持つ意味は?」
「……」
 青いドレスを纏ったアメリアは、楽しんでいた舞踏会の雰囲気を壊したティセラに、時折不機嫌そうな顔を向けている。
 近づいた2人に、かるく会釈をしたあとマリザは踊りながら頭を巡らせていく。
「覚えてないのよね……。ヴァイシャリーには騎士の橋っていう橋があるじゃない。私達の仲間の多くもあそこに刻まれているんだけど、十二星華については一切彫られてないし。強い力を持っている女王の血統であるなら、リーダーのティセラくらい刻まれててもいいはずなのに」
「それは、十二星華は存在しなかった可能性もあると?」
 芳樹の問いにマリザは曖昧に首を左右に振る。
「多分、接点がなかっただけなんだと思う」

「おーほっほっ! 美しいですわ。まるであそこだけ別世界のようですわね!」
 百合園のロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)は、ソファーに腰掛けて、優雅に踊るティセラを眺めていた。
「……」
 うっとりとティセラに見とれているロザリィヌを振り返り、ちょっと恨めしく思いながらパートナーのシュブシュブ・ニグニグ(しゅぶしゅぶ・にぐにぐ)は、光学迷彩で姿を消した状態で、ティセラの撮影を続ける。
 シュブシュブは黒山羊の格好をしたゆる族だ。ビデオカメラを身体にくくりつけた状態で、四足で歩き回っている。
「……!」
 時折ダンスに慣れてない契約者の動きが予測できず、蹴られたり踏まれたりしながらも、耐えて。ややローアングルでティセラの際立つ美しい動きを撮り続けていく。
 現在、彼女と踊っているには、タキシードを着て、前髪をきっちり纏め上げた端正な顔立ちの男――蒼空学園の東條 カガチ(とうじょう・かがち)だった。
 少し離れた席では、ジュースを飲みながらパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が2人を眺めている。
「『今日は戦いしない』って言ってたから心配ないかな?」
 少しだけ心配そうな目を向けるも、なぎこは2人の姿に微笑みを浮かべていく。
「タキシードのカガチもすごくかっこいいし、ティセラおねえちゃんも凄くキレイ。ほんとの王子様とお姫様みたい」
「たしかにきれいだな」
 なぎこの言葉に、ウサギのぬいぐるみを抱きしめている少女――エネット・クイン(えねっと・くいん)がうんうんと頷く。
「あっ、でもカガチはティセラおねえちゃんにあげないよ、なぎさんのだんなさまだもんね!」
 旦那様をとられないよう、ちょっとだけ警戒しながらなぎこはカガチ達を見守るのだった。

「あんたは、どうして女王になりたいんだ? 何を目指してる?」
 カガチは踊りながら、そうティセラに尋ねた。
「鏖殺寺院といったテロリストなどに屈しない強固な軍事国家を作りたいからですわ」
 カガチはダンスは多少習っただけの付け焼刃だが、ティセラのリードで人並みに踊れていた。
「建前じゃなくて、あんた自身の考えが聞きたい。国じゃなく、自身はどうなりたい、どうしたんんだ?」
「わたくしはシャンバラの女王になり、この地を治めたいのです。強固な国を作り、2度とあのような――5000年前のような、敗北をすることがないよう、女王となるわたくし達自身もいかなる時も強くあり、その力を常に知らしめていたいと思いますわ」
 知られていない5000年前の十二星華の戦い。
 その戦いが今の彼女の想いを作ったということだろうか。
 ミルザムと違い、確固たる意志を感じる女性だった。
「一曲お相手願えませんか、ミス・ティセラ?」
 曲が終わると直ぐに、次の契約者がティセラに手を差し出してきた。
 恭しくお辞儀をするその少年は、イルミンスールのウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)だ。
「なんかあったら、エネットがたすけるからな!」
 パートナーのエネットは、なぎこの隣でウィルネストの帰りを待ちながら心配そうにしていた。
 『ティセラが貴族を懐柔するのを阻止しろ』と言われていたけれど、殆どの貴族達は避難しており、ティセラも必要以上に貴族を煽ろうとはしてこない。
「しっかり、ウィルネスト」
 いつでも駆けつけられるように、ちょっと腰を浮かして、エネットはウィルネストを見守り続ける。
 ティセラがウィルネストの手を取り、踊り始める。
「うん、近くで見ると殊更見目麗しいなー」
「ありがとうございます。あなたもとても魅力的ですわ。潜在能力を感じます」
 ウィルネストの魔術師としての力を感じ取ってか、ティセラは目を細めて微笑んだ。
「サンキュ」
 へらりとウィルネストが笑う。
「……けど、外見からじゃ中身までは見えないんだなぁ?」
 そして、目をきらめかせて言葉を続けていく。
「アンタ、女王になって何したいのワケ?」
「シャンバラを強固な軍事国家にしたいのです」
「うん、それは何度も聞いた。女王になる、強い軍事国家作る。で、そのアトは? 『女王』はただの通過点だろ、俺は終着点を訊きたいんだよ」
 にっこり笑みを浮かべる。
「まさか、それっきりなんて薄っぺらさじゃないよな?」
 ティセラは微笑み返してこう答えた。
「わたくしが軍事国家としての基盤を作り、パラミタの各国と同じ席につき対等に渡り合える国にします。シャンバラが永久に繁栄し、国民1人1人も怯えることなく強い意思を持ち、戦いだけではなく何事にも前向きに立ち向かえる、そんな国にしたいですわ」
「うーん……」
 ミルザムも好きにはなれない。
 ティセラはもっとヤベーと思っていたウィルネストだが。
 シャンバラの未来については、どうもティセラの方が考えているように見えた。
「次は僕と踊っていただけますか?」
 続いて現れたのは薔薇学のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)だ。
 パートナーのサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)は、エネット達と同じように隅に待機している。
「よろこんで」
 次のワルツを、ティセラはクライスと踊り始める。
「軍事国家にすると仰りますが、その為に必要な戦力の調達方法についてお聞かせ下さい」
 共に優雅にステップを踏みながら、クライスが問いかけた。
「それは指示していただける方次第ですわ。6都市、6首長全てがわたくしを指示し、支援していただけるのなら、全ての家の力を借りて軍を編成したいですわね」
「強引に女王となったのなら、どの家も協力をしないかもしれませんが……その時は?」
「その場合はまずは十二星華で隊を結成し、一般人からも軍所属志願者を募ることになると思いますわ。軍所属者は一番に生活が保証されますから、所属してくださる方は沢山いると思いますわ」
 徴兵制などは今のところ考えていないようだった。
「僕は薔薇の学舎の生徒なのですが……。僕達契約者はどうなさるおつもりですか? もしシャンバラの民を護る為に僕達の力を使うのなら、僕は喜んで協力しますけど……あくまで、護る為に、ならですけれどね」
「ありがたいお言葉ですわ」
 ティセラは慈しみを込めた目で、クライスを見つめた。
「シャンバラの民のためと言っていただける方には、是非助けていただきたいですわ。各々信念もありますものね。配属の自由は出来るだけ認めるようにしたいですわ」
「……はい」
 噂に聞いていたほど、むちゃくちゃな人物には思えず、クライスは軽く戸惑いを覚えた。