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リアクション
続けての最高評価に、『Flower』のライバル的存在として位置づけられていた『JEWELS/RAW』のメンバーにも、大きなプレッシャーがかかっていた。
出演前は、自分に似合わないからと衣装を嫌がるのを半ば強引に着せられたり、そんな光景に微笑を浮かべたりとしていたメンバーたちも、いよいよ出番が近付くにつれ、ありありと緊張の色を浮かべていた。
「みんな、ここまで一緒にやってきたことを思い出すんだじぇ!」
メトロの声が、皆に今日までのレッスンの日々、衣装合わせ、たまの休日の買い物の光景を思い起こさせる。
その中には辛く、苦しい思い出もあったかもしれない。
だけど、それらは皆原石――JEWELS/RAW――として、メンバー全員の心の内に持っている。
原石は、宝石として輝く時を待っている。
そして彼女たちも、自らの殻を破り、新たなステージに立つ時なのだ――。
既に日は落ち、ライトの落とされたステージは、暗闇が支配していた。
『JEWELS/RAW』の登場を待ちわびていた観客は、ステージに蠢く複数の人影を目ざとく見つけて期待を膨らませる。
(さあ、上手く行ってくれよ……せっかくここまで来たんだ、いい気分で帰りたいからな)
ロックウェル・アーサー(ろっくうぇる・あーさー)が見守る中、一筋のライトがステージの中心を照らし、そこに5つの影を映し出す。メンバーが全員お揃いの灰色のブレザーとプリーツスカートを纏い、唯一異なる五色の宝石をつけ、じっとその時を待つように佇む彼女たちに、観客は何が起きるのかと固唾を飲んで見守る。
そして、真ん中の少女が手を空に向ければ、夜空に流れ星が瞬き、直後、まるで星が落ちてきたかのように強烈な光が、ステージを包み込む。
突然のことに文字通り目を奪われた観客は、光が晴れたステージの先に、宝石と同じ五色を基調にしたアイドルコスチュームに着替えた5人の姿を見つけた。
「ご存知、無限の愛のパワーストーン音姫、クンツァイト!」
桃色のスポットライトに照らされた『クンツァイト』、霧島 春美(きりしま・はるみ)が5人の中心でいかにもリーダーと言わんばかりにポーズを取る。主の晴れ舞台を、ステージ脇でディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)がぴょんぴょんと嬉しそうに跳ね回る。
「せ……っ、静寂なる安らぎを呼ぶ瑠璃色の風、ラピスラズリ!」
次は瑠璃色のスポットライトに照らされ、『ラピスラズリ』、伊礼 悠(いらい・ゆう)が照れから顔を真っ赤にしつつ、懸命にクールらしさを感じさせるポーズを取る。
(ゆ、悠……)
そして、彼女の普段見慣れない姿を目に止め、ディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)も悠と同様に顔を赤くして見惚れていた。
「太陽のようにやさしく包むアンバーの輝き、コハク!」
黄色を帯びたあめ色のスポットライトの中、『コハク』、小林 恵那(こばやし・えな)が癒し系オーラを振りまいてポーズを決める。ひとまず上手くいったようだな、と恵那を見てロックウェルが呟く。
「……深き闇の知性と強き意思っ……! ……ブラックオニキス……!」
縞状の黒色フィルターをかけたスポットライトを受けて、『ブラックオニキス』、黒代 九十九(こくしろ・つくも)が知性を感じさせるポーズで観客に応える。
「いいわ、九十九……今日のあなたはとびきり可愛いわ……」
ステージ脇では、メトロの助手としてこれまでグループを支えてきた月代 由唯(つきしろ・ゆい)がサングラスをかけた顔を恍惚に染めていた。
「月夜に輝く紅玉の瞳……! ルビーっ……だにゃん♪」
紅色のスポットライトの中、『ルビー』、北郷 鬱姫(きたごう・うつき)が悠同様、顔を真っ赤にしつつちょっぴりえろいポーズを決める。
「流石我が主! どうじゃ可愛かろう! ほれそこのおぬし、もっと気合を入れて応援するのじゃ!」
観客席ではタルト・タタン(たると・たたん)が、特別に用意したらしきグッズを配りながら、応援に力を入れていた。
「五つの原石(いし)の輝きが集いし時、『想い』を伝えるメロディが生まれる……
我ら『JEWELS/RAW』、オン、ステージ!!」
響く音楽と同時に、全員で決め台詞を合わせた5人が散開し、彼女たちをやはり五色のスポットライトが追う。
他のメンバーにアイコンタクトで応える春美を中心として、彼女たちは今日のために用意された唄、「Shining☆jewels!」を熱唱する――。
私の中の ちょっとカタチの変な原石(いし)
あなたの声で少し研がれた
指先が触れて 転がり出して
抱きしめられると カッと熱くなって光りだした
知ってましたか?
この光は現在(いま)出来たわけじゃない
初めて逢った時にくすぶり出した私の原石(いし)を
宝石(光)に変えたのはあなた
きらきらの輝きを あなたの胸に届けたい
強き意思と強き思いで Shining☆jewels!
唄は終わっても、曲はまだまだ終わらない。5人がそれぞれ、各自の宝石に似た色のキャンディーを観客席へ放るパフォーマンスで応える。
「ふにゃん……なぁんかいい気分だにゃん」
「わ、ちょっと、駄目です、そこは……!」
まるで、猫がマタタビに“酔った”ようにしなだれかかるルビーにあちこちまさぐられ、ラピスラズリがさらに顔を赤くして悶える。その光景をコハクがおかしそうに笑いながら見守り、ブラックオニキスも本来はメンバーの抑え役ながら、特に止めようともせず見守る。
「よーし! このまま一気に、エンディングまで突っ走っちゃうよー!」
クンツァイトの呼びかけで、左から『TTS』、右から『【M】シリウス』が登場し、他の出場したアイドルも加えて、ステージはその終焉へと向けて加速する。
曲は、この場に集ったアイドルたちの応援歌、『THE AKIHABARAM@STER』。
(凄いな……僕、この中で歌って踊って、争ってたんだ……なんか、それだけでも自信になるし、みんなとも仲良くなれた気がする!)
ステージに上がった柊 連(ひいらぎ・れん)が、そうそうたるメンバーの輪の中で、今日という日を大切にしようとする。
「さぁ、ラストは貰ってしまうぞ! 来たい者は皆来い……ってのわぁ! ……さ、流石に全員来るとなるとそれだけで様になるのぉ」
ソロパートを熱唱していたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が、複数のアイドルたちに押し込まれそうになりつつも、こうして全員でラストを迎えられたことを喜びながら、声を張り上げる。
「連、楽しそうだな。よかったな、連!」
「まぁ、皆が楽しんでいるようだし、エクスも満足そうだしな」
観客たちも一体となる中、白菊 輪廻(はくぎく・りんね)が連の楽しそうなのを、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がエクスの楽しそうなのを素直に喜ぶ。
「あーあ、タンタンが眠っちゃったから、本線には出場できなかったじゃない。……まぁ、あの盛り上がりっぷりじゃー、ちょっと勝ち目無いかもねー」
雅が見守る中、タンタンは自らのパーツを外して踊っていた。流石にあれを単体でやられると観客は不気味がるだろうが、この集合の場であれば誰かの装備ということでごまかしが利く。
「キャンディーをプレゼントしていたそうなので、ワタシはお団子をプレゼントなのですよ」
タンタンが超能力で団子を観客席に放ることで応える。
「ちょっと、わたくしのオンステージはどうなってしまいましたの?」
(すみませんお姉さま、私にはこれが限界です……)
出番がいつの間にか終わってしまったことを悔しがるネネへ、こっそり順番を飛ばしてもらうよう策を弄したモモが申し訳なさそうな表情を見せる。
「今日のところは引き分けゆーことにしといたるわ。ま、次に勝つのはこの俺と『Flower』やけどな!」
「寝言は寝てから言っとくんだじぇ。今度こそあたしの『JEWELS/RAW』が勝つんだじぇ!」
「あ、あはは……まあ、ひとまずはめでたしめでたし、なのかな?」
ステージ脇ではメトロと社が互いを労いつつ争う姿勢を見せ、イヴァンが苦笑いを浮かべる。
「どうかしら? あなたはまだ表舞台から去るには早いのではないかしら?」
「ティセラさんにそのようなことを言われるとは思いませんでした。……そうですね、ではそちらが『歌って踊れる魔法少女』なら、私は『歌って踊れる国会議員』でもやってみましょうか?」
ティセラとミルザムの、そんな話が交わされる。
「AKIHABARAM@STER!!」
打ち上げられる花火の中、『AKIHABARAM@STER』、通称『アキマス』を作り上げた皆が一つとなって、今日という日を思い出に刻んでいた――。
『AKIHABARAM@STER』 完
……え、結局優勝者は誰かって?
それはね、参加したみんなが一番!