空京

校長室

創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション



おもてなし(1)

「はわわ、どーしましょー、どーこーしましょー」
 パニック寸前なのは土方 伊織(ひじかた・いおり)、場所は校舎の中庭「おもてなし会場」だ。
「落ち着いて下さい、お嬢様。それから、どうもこうもしないで下さい」
 パートナーのサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)がすかさずフォローした。
「慌てれば慌てるだけ余計な失敗をするものです。落ち着きましょう」
「でもでも、もうすぐ鳥さんが来ちゃうみたいだし。でもまだ全然準備できてないから……」
 鳥人型ギフトへの「おもてなし」。温泉の次は食事の予定になっている。二人はその食事会の会場作りをしているのだが―――
「大丈夫ですよ。もうすぐお湯から出る、と言われたのでしょう? まだ時間はありますよ」
「そうなの? 本当にそうなのかな?」
「お風呂上がりには扇風機にあたるでしょう? 牛乳も飲みますでしょう? マッサージもしますでしょう?」
「はっ!! なるほど」
 目から鱗……そんな顔をしていた。
「そうだね! まだ時間はあるね! よし、張り切ってやりますですよー」
「えぇ、その意気です」
 ホッと胸をなで下ろす。まずは一安心、しかしそれでもサーには伊織のこと以上に心配な事がある。それは「食事会で提供する料理」に関してだった。なにしろ食材を狩りに向かった一行がまだ戻っていないのだから。


 食材が無ければ調理することは叶わない。
 未だ食材が届かないことに「調理場」こと校舎一階「食堂」はさぞかし混乱している―――かと思いきや、
「そういえばあの鳥さん、鍋の中でも満更でもないって感じだったよね」
 シュリ・モーリア(しゅり・もーりあ)がのんびりした声で言った。手を滑らせて皿を割りながら。
 これに応えるは要 順二(かなめ・じゅんじ)、彼もまた、
「確かに。出汁とられてる鳥にしか見えんかったなぁ」
 なんて言いながら手際よく野菜やら肉やらを切っている。
 ななな一行の狩り組は確かに戻ってないが、それ以外の食材ならパラミタから持ち込んだ分がある。メインはなななが宣言した鳥鍋という事になるのだろうが、それ以外の料理ならば十分調理は可能なのである。
「つか、そもそもよぉ、ギフトって食事するんか?」
「んー、普通に生きてるっぽいし、食べるんじゃないかな?」
 既に温泉で「鳥皮酢」やら『謎料理』やらを食べているのだが、ずっと調理場に居た二人がそれを知るはずもない。
 シュリは手を滑らせて皿を割りながらにギフトの様を思い出して言った。
「あれはやっぱりメカだよね。オイルとか混ぜてみる?」
「おぉ! せやな! 良いアイディアや。ん、いやでも待てよ、メカ言うてもアレは明らかに「鳥」なわけやろ……それやったら「木の実」入れたら喜ぶんやないか?」
「いいねいいねっ! 特別な鍋の完成だねっ!」
「当たり前や。おもてなし料理なんやからな、普通の奴は食べんでええ、つーか食えるかぁ、んな料理」
「そうだよねー」
 アハハハハ、アハハハハなんて笑いあう。二人ともに悪気はない、もちろん何度も皿を割っているのもただの不器用だ。しかし不幸な事にこの会話が―――
「我輩専用の鍋とは。なるほどなるほど、それは楽しみだ」
「げっ!」
 鳥人型ギフトの耳に入ったようで。
「つか! 何でもう来てんだよ!!」
「様子を見に来たのだ。待ちきれなくてな」
「……待ちきれなくてな、じゃねぇよ」
 順二たちを含め、調理担当になった者や教導団員たちの料理もまだ何一つ完成していない。というより呼ばれてから来るのがマナーだろう。
 どうするんだよ……という空気の中、
「カクテルはいかがですか?」
 誰よりも早くに酒人立 真衣兎(さこだて・まいと)が動いた。「料理ができるまで今しばらくかかるようですから、その間に一杯、いかがです?」
 ナイスタイミングのナイスフォロー。ギフトも「カクテルとな。なるほど、悪くない」と食いついた。
「では少しばかりお待ち下さい。ただいまお作りしますので」
 客の要望通りに作る、またはその客に合ったカクテルを提供するのがバーテンダーの仕事。真衣兎ギフトを観察しながら、どのカクテルを作ろうか考えていると、
「なぁ、真衣兎、ワイン出してみたらどうだ?」と今度は曾我 剣嗣(そが・けんじ)が提案してきた。
「ワイン? カクテルじゃなくて?」
「そう、ワイン。んで、『ルネッサーンスっ』って言わせてみたら―――」
「待って。そのネタはマズい、色々とマズいわ」
「そう? ぴったりだと思うけどな」
 鳥でシルクハットで我輩口調、そこにワインとくれば……確かに『ルネッサーンスっ』だろうか。いやしかし、さすがにやはりマズいだろう。バカにしてる感がハンパない。まぁ本人は元ネタを知らないだろうけど。
「………………あー。でも剣嗣のおかげで、作るカクテルは決まったわ」
 ワイン、それからギフトのキャラが決め手だった。
「どうぞ」
 物珍しそうにグラスを見つめるギフト真衣兎は「オリジナルカクテル『カーディナル』です」と話して出した。
「『カーディナル』は「枢機卿」という意味です。私たちに力を貸す為にわざわざ舞い降りて下さった貴方のような、まるで「枢機卿」のように崇高な方にはぴったりかと」
「ほぉ。悪い気はしないな。味も実に良い」
「ありがとうございます」
 シルクハットのメーターが二つほど積み上がってゆく。よほど口に合ったのか、それとも特別なカクテルが気に入ったのか。
 なんにせよ喜んでくれて良かった。
 これを傍で見ていた剣嗣は「嘘も方便、なんて言うけど……やっぱ口うまいもんなんだな、バーテンダーって」なんて思ったそうだが、調理場に居たフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、
「あの堂々とした言動、きっとこの地では偉大なお方にちがいありません」
「いや、絶対アイツ偉くも何ともねぇだろ!?」
 と互いに正反対の印象を口にしていた。
「私達も是非とも最高のおもてなしを―――」
「いや、つーか、あのまま鍋料理の食材にしておけば良かったんじゃねぇ?」
 ベルクがそうボヤいた時だった、
「たーだっいまー!!」
 調理場の奥まで聞こえるような……というのは不適切。声の主であるなななは調理場裏の勝手口から入ってきた。その手には「大甲殻鳥」の尻尾を鷲掴みにしている。巨鳥の本体はもちろん校舎の外だ。
「なんだそりゃ、やけにデケェな―――」
「ほぉ、大甲殻鳥か。これまた立派な大甲殻鳥だ」
 ギフトの言葉がベルクの言葉を遮った。
「こんなデケェのは要らねぇんだよ、ったく、何枚に卸せってんだ、こんなもん―――」
大甲殻鳥は体の大きさと味の濃厚さが比例する種である。何の知識も無しにそれを求めるとは……実に良き本能だ」
「………………じゃあ捌くからよ、こっちに寄越せ―――」
大甲殻鳥は丸焼きが美味であるぞ。強い火力で一気に焼くが正解―――熱っ!! 熱っ!!!」
 何度も言葉を遮られ、あげく否定を繰り返されたベルクは思わず、
「あ。悪ぃ。手元が狂った」
 大甲殻鳥に向けるべき『ヴォルティックファイア』を鳥人型ギフトに向けて放っていた。
「ちょっ!! ベルク何やってんのさ!!」
「いや。丸焼きにしろって言うから」
 あれ? 犯行認めた? フレンディスは慌ててギフトに水をかけて消火した。
 幸いにもこんがりするほど焼けてないが、こんな扱いを受けたのだ、シルクハットのメーターはすこぶる下がっていることだろう―――
「……あれ? 上がってる?」
 完全にやらかしたと思ったのに。メーターは下がるどころか二つも積み上がっていた。
「どうして……?」
「いや驚いた」ギフトは顔の水を拭いながらに、
「いや、実に新しい。皮膚を焼かれるという刺激もなかなかにゾクゾクしたぞ、クセになりそうだ。もう一度お願い出来ぬか?」
「ドMの方でした?!!」
 途端に距離を置きたくなった、というより怖かった。ギフトのリクエストもベルクの「なんならやってやろうか?」なんて発言も却下して、フレンディスは一目散にギフトを食事会場へと引きずっていったのだった。