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リアクション
戦闘狂、業魔 1
一方、奥へ奥へと進んでいくネフェルティティ一行。
入り口から大分離れたせいか、徐々に亡者や死霊の姿が増えていた。その対処をしながらしばらく進む。
前方に、エギルが待ち構えていた様な開けた空間があるのが見える。その空間へと足を踏み入れた瞬間、
――――キンッ!
ネフェルティティの足元に、刀が突き刺さる。突然の出来事に身構える契約者たち。
「よお、お気に入りとその他、会いたかったぜ? 結局、女王様はそいつになった見たいだなぁ?」
口の左端をくいっとあげて、ニタリと笑うソウルアベレイター。そして刀を投げた張本人。
――――業魔。
「さぁてと、ここで戦う奴以外はさっさと進みやがれってな。うだうだしてると、全員食っちまうぜ?」
脅しではないだろう。食おうと思えば、本当に食う。そういう相手だ。
「ここは我らに任せて欲しい」
「業魔と言えばわっちたちでありんす!」
馬場 正子(ばんば・しょうこ)とハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)が前に立ち、業魔との戦いを引き受け、ネフェルティティたちに先へ進むよう促す。
「御武運を……」
二人と他の契約者たちが無事であるように祈り、頭を下げた後にネフェルティティたちは更に奥へと進んでいった。
「エギルもおぬしも道を譲る、しかし亡者たちは進路を阻む。一体何が目的でありんすか?」
「そりゃあいつにしかわからん。まっ、俺だったら亡者程度すら退けられないよえぇ奴の話を聞くのは、嫌だがな」
ハイナの問いかけに業魔が曖昧に返す。一方、正子は床に突き刺さった妖刀を抜く。
「……妖刀か」
「ああ、それな。お前らにやるよ、頑張った御褒美ってヤツだ」
「ほう。で、今度は何が目的だ?」
正子がきっぱりと業魔へ言い放つ。この妖刀という土産の裏に、どのような真意を隠しているのか、と。
「はっは! お見通しってか。……何のことはない、前の話の答えを聞きてぇだけさ。
お前らには力ってもんがある。それなのに、このまま光条世界と、その野郎が作った世界に従い生きるのか? そりゃもう生きてねぇ、死んでるのさ。
だからよ、こっち側につけ。そうすりゃ更に特別な力をくれてやるからよ」
「……それの裏づけ、証拠。妖刀を見舞ったのはそういうことか」
「しかし、その『特別な力』とはなんでありんすか?」
誰もが気になる『特別な力』についてハイナが切り返す。しかし、業魔はおどけたように肩をすくめるだけでその詳細を語る事はない。
「それは、こっち側についた奴だけに教えてやるしくれてやるもんだ。そうでない奴にゃ、お教え出来かねるねぇ。
だが、今以上に強くなれるとだけは言っておくぜ。んで? どうするんだ?」
業魔が答えを要求する。果たして、正子のハイナの答えは――?
「面白い提案だ、と思ったことは事実。――だが、つけと強要されればされるほど、そうはしたくなくなるのが人情。交渉が下手だな、業魔」
「むしろ、業魔が仲間になればいい。今なら葦原明倫館の生徒として迎えてやるでありんすよ?」
二人の出した答えは、ノー。ハイナに至っては業魔を生徒として勧誘する始末。
「はーっはっは! やはり断られたか……まっ最初はそんなもんさ。まだこれからがある。……しかし俺がお前らの仲間に、ねぇ。そいつも面白そうだ!」
話はここまで、と言わんばかりに業魔が構える。
「しかし、俺を仲間にしてぇなら……この俺を倒してみせろよ!」
「ハイナ殿、これを受け取れい!」
「かたじけないでありんす!」
正子から投げられた妖刀を受け取ったハイナが、業魔の攻撃をその妖刀で受け止める。
「……ほう?」
「この刀、すごいでありんすなぁ……!? はあ!!」
あの業魔の一撃を易々と受け止め、更には追撃する。だが妖刀の切っ先に、蛇刀が喰らいつく。
「そいつは名無しだが、使用してる奴の強さに比例して強くなる性質をもってる。その分、そいつの力を食らうがな」
「なるほど、まさに妖刀。だが、それも上等!」
鍔迫り合いをしていた二人だが、強引にハイナが妖刀を振り抜き、業魔を後ろへ吹き飛ばす。
「おーおー、そいつも喜んでるみてぇだな。名前はつけてやってくれていいぜ。……それじゃ、改めて始めるとするか!」
業魔の声に反応してか、それまでいなかった亡者たちが契約者たちを取り囲む。
「マム! 業魔以外の敵は私たちが相手にしていくから、マムは業魔を!」
「私たちにはこれくらいしかできませんが、あなたの勝利を願いこの剣を振るいます」
「心得た。我が拳で奴を倒すよう、努力する」
布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が正子へと近づく亡者たちを睨みつけ、正子の護衛となる。
「マムの邪魔をするなら許さないんだから!」
にじり寄ってくる敵で一番近い位置にいる相手に狙いを定めて、二本の矢を放ち左右から攻撃を行い逃げ場をなくし、敵を迎撃する佳奈子。
遠距離攻撃に反応してか、距離を詰めるべく亡者たちが刀を構えながら走り寄ってくる。
「この剣は、馬場校長を守る剣。その馬場校長に近寄ると言うのならば、この剣で払うわ!」
密集して走ってくる亡者たちめがけて、ウイングソードから轟雷を撃ち放ち、敵をよせつけないエレノア。
だが、その側面から忍者が現れ、エレノアを闇討ちしようとする。
「これしきっ!」
寸での所で攻撃に気づいたエレノアが忍者の急襲を剣で受け止め、逆に一閃し反撃。だが、闇の中にはまだまだ多くの忍者が潜んでいる。
「忍者とは、その隠密能力と機動力が脅威。ならばその片方をそいでやれば戦力は半減くらいはするだろう」
―――ドサ。
突然、一体の忍者が倒れる。同時に、闇の中から影月 銀(かげつき・しろがね)が姿を現す。耳を澄ませば、闇の中から忍者たちのうめき声が聞こえる。
「しびれ粉をまかせてもらった。亡者といえど多少は効くだろう」
しかし、まだ亡者侍は健在。複数の侍が銀を取り囲むようにして迫ってくる。
それに対し銀は煙幕フェンデーションで煙幕をはり、その姿を煙の中へ隠す。
侍たちは無謀にも煙の中へと飛び込むが、銀の姿を見つける事はできない。
「煙……! 攻撃はあそこにすればいいんだね!」
天女が織ったと言われる美しい羽衣を纏ったミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)が、煙幕を見つけてその上空へと急ぐ。
徐々に煙が晴れていき、煙の中に敵の姿があることを確認したミシェルが、煙幕目掛けてバニッシュを放つ。
バニッシュにより煙は光に払われる。同時に敵も神聖な力をその身に浴びて、次々と地面に倒れ伏す。
「よし、ばっちり!」
「よくやった。馬場校長の守りはあの二人に任せて、俺たちは前で戦い続けよう」
「わかったよ!」
以降も銀が敵を集めて煙に巻き、ミシェルがまとめて照らし撃ち払う戦法を駆使し、亡者たちを退け続けた。
と、同じ戦場の傍らで、ひたすらに塩を巻きまくる上條 優夏(かみじょう・ゆうか)と、その側で冷静に戦うフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)がいた。
「清めの塩や! 塩を使えば邪悪なもんは退散するって言ってたんや!」
「そんな楽ならここにいる人たち全員塩装備できてるわよ」
「ああ! あかん! なんか近寄ってきた! ああ、近くに! 近くに!」
未だ混乱から立ち直れない優夏だが、近寄ってくる敵に身につけていたブレイブの剣技を無意識かで使いこなし、三連続攻撃で敵を倒す。
さらには自身の前に扉を出現させ、そのドアを開けると当たりは闇に包まれる。と思った次の瞬間には光があふれ出し、敵に攻撃させることなく相手を倒していく。
「混乱してるほうが真面目に戦っているような……」
「塩やー! もっと塩もってこーい!」
「やっぱダメね。いい加減、落ち着きなさい!」
フィリーネが優夏の頭を軽くはたいて突っ込むと、優夏がハッとしたような顔でフィリーネを見る。
「俺は一体何を……?」
「まあまあ、細かい事はいいから。目の前の敵を倒しちゃいましょう」
闇に潜む忍者たちを火であぶりだした上で、エネルギーを凝縮して作り上げた太陽でその忍者を焼き尽くしていくフィリーネ。
「……せやな。働いたら負けやけど、安心してHIKIKOMORIするためにも、ここは戦わなあかん! 空気でわかるで!」
「その調子その調子、優夏がマトモに人生送ってくれる世界を守る為にも頑張らないとね」
動機が若干自由すぎる気もするが、それ以上に亡者たちを相手取ってくれるているので問題はないだろう。