|
|
リアクション
第2章 皆で雪合戦、困っている町の人を助けるのこと
一方そのころ、冬になってしまったルクオールの町の広場では、町の人たちを心配した有志による炊き出しが行われていた。
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、町の広場に設置されたテントに、町の人を案内する。
「皆、足元に気をつけて、ゆっくり歩いてくれ。私のパートナー達が暖かいスープを用意しているから、雪かきで疲れた身体を温めてくれよ」
涼介の言葉に、町の人たちから歓声が上がる。
それに対して、メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、食料などの物資運搬係を買って出ていた。
「これで、ルクオールの町の人に恩を売ることができるわ。町長や別荘を持つ貴族から、お礼がもらえるかもしれないわね……」
下を向いてくすくすと怪しく笑うメニエスに、食事を準備していた渋柿 咲都(しぶがき・さくと)が、怪訝そうな視線を送る。
「メニエスさん、どうしたんでしょうね……」
そう言いつつも、家事の得意な咲都は、てきぱきと大人数のスープを作っていった。
「気にしないでください、咲都様。いつものことですから」
メニエスのパートナーである吸血鬼のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が、苦笑する。
「そうですか……。温かいパンとスープで、町の人たちを元気づけましょう。ミストラルさん、クレアさん、もう一息、頑張りましょうね」
「わかりました」
「はーいっ」
ミストラルはにっこり微笑み、涼介のパートナーでヴァルキリーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が元気よく返事をする。
ちょうど、焼きたてのパンとスープをテントに運び入れたころ、涼介が町の人たちを大勢連れてやってきた。
「おにいちゃん、おつかれさまっ。寒かったでしょう」
「ああ、クレアたちも食事の準備ありがとうな」
クレアのねぎらいの言葉に、涼介は笑顔でこたえる。
ルクオールの町の人たちは、口々に感謝の言葉を述べた。
「いやあ、夏なのにいきなり雪が降ったから、かき氷食べれてラッキー、とか思ってたけど、やっぱり、冬になったからには温かいスープが食べたいよね。皆さん、ありがとう」
「そうそう。夏の間、貴族様たちが避暑に来てくれないと、町にお金落としていってくれなくて困るなあ、と思っていたから、タダでごはんを作ってもらえるのはうれしいよね」
実際には、学生達が心配していたよりも、町への被害は少ないようであった。町の人たちも、のんきなもので、突然変貌した気候にも順応しているらしい。
「何か、不足して困っている物資はない? 届けてあげられると思うけど」
メニエスが、町の人たちに訊ねると、恰幅のよい中年男性がスープを飲みながら答える。
「うーん、食糧なんかは備蓄してあったものでまかなえてるから、大丈夫だよ。ありがとう。でも、いきなり寒くなったんで、ルクオールの町の特産品のシャンバラ山羊のミルクが取れなくなってしまったんだ。シャンバラ山羊が季節はずれの雪にびっくりして乳を出さなくなってしまってね。このままじゃ収入が減ってしまってちょっと困りそうだなあ」
シャンバラ山羊とは、ルクオールで多く飼われる山羊の品種で、ミルクは濃厚で香りが高く、ルクオールの特産品となっているということだった。
一条 ましば(いちじょう・ましば)とシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は、町の人の誘導を手伝いつつ、元気のありあまった子ども達と一緒に雪合戦をしていた。
「そーれっ、お姉ちゃん達を集中攻撃だーっ」
わんぱくな子ども達が、ましばとシャーロットに、雪玉をどんどん投げつけてくる。
「わぷっ、よーし、負けないぞー。勝負はこれからだよっ」
薄茶のセミロングの髪をゆらし、顔面に雪玉を直撃されつつも、ましばは元気に答えて、雪玉を握りしめた。
「ましば様、私が雪玉をたくさん作りますぅ。どんどん攻撃しちゃってくださいねぇ〜」
シャーロットは、雪合戦にあるまじきロリータファッションで、せっせと雪玉を量産した。シャーロットの爆走する乙女チック街道に妥協の二文字はないのである。
「うん、がんばろーねっ」
ましばは無邪気な笑顔で答え、両手で雪玉を投げ始めた。
ライナ・アリエル(らいな・ありえる)とパートナーの機晶姫レムリア・グローリィ(れむりあ・ぐろーりぃ)は、町の雪かきを行いながら、広場に巨大雪だるまを作っていた。
町の人に雪かきした雪を集めてもらい、巨大雪だるまを作るという計画である。
「レムリアの調べた魔法で、この巨大雪だるまを動かして、氷の城の襲撃がしたかったが……、さすがに無理みたいだな」
長い金髪をかきあげて、ライナがスコップを手につぶやく。
「そうですねー。でも、雪だるまさんかわいいですー」
「ああ、雪かきもできたわけだし、これで困ってる町の人の助けにもなるだろ。ま、いっか」
にこにこ笑うレムリアの笑顔を見て、ライナの顔にも微笑が浮かんだ。