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夏休みを取り戻せ!(全2回/第1回)

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夏休みを取り戻せ!(全2回/第1回)

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第3章 暴走するジャックに協力したり、止めたりするのこと

 「ファイヤー! ファイヤー! 町の雪を全部溶かしてやるぜっ!」
 魔法学校の熱血男子生徒、ジャック・サンマーは、腕をぶんぶん振り回して雪原の上を走っていた。
 「待ってください、ジャックちゃん!」
 そんなジャックの前に、30代半ばくらいの外見の男が立ちふさがる。房総 鈍(ぼうそう・どん)であった。
 「な、なんだ?」
 驚くジャックに、鈍は、まくしたてる。
 「炎で全部雪や氷を溶かそうとしているなんて、あなたは魔法使いなんですね! 実は私も魔法使いなんです。純情のまま30歳を過ぎたら魔法が使えるようになったんです。魔法が使えるということは、もちろんジャックちゃんも純情なのですね」
 「な、なんなんだよ、魔法が使えるのと純情かどうかとか関係ないだろーっ!? あと、俺はまだ16歳だし、普通だろっ!?」
 鈍のボケ倒しに、ジャックは本気でツッコミを入れる。
 そこへ、鈍のパートナーで腰に新聞紙で作った刀をぶら下げたモヒカンな猫のゆる族、猫又 人寺(ねこまた・ひとてら)もあらわれた。
 「房総殿の疾風怒濤のボケには圧倒されるばかりでござる。ところで、ジャック殿の行動はあまりに早急に成果を求めすぎているでござる故、ジャック殿を武力・暴力的な手段で強引に止めようと思っている方も居てもおかしくないでござる。そうなった際にはボクと房総殿はジャック殿を守るでござる。房総殿はジャック殿と友達になりたがっているでござるからな。でもすぐに行動せずに少し冷静に待ってみぬか?」
 人寺は、パートナーをフォローしつつ、ジャックを説得する。
 「うーん、でも、炎の魔法を使うのが、事件解決には一番手っ取り早いんじゃないのか?」
 手のひらに小さな火の玉を出して、ジャックが答えると、鈍は、ジャックの前に進み出た。
 「そんなことしたら、周囲が大洪水になってしまうじゃないですか。どうせ洪水させるなら、周囲の女性が水着……特に白いスクール水着を付けてからにしてください。ドキ、スクール水着だらけの水泳大会の開催を激しくキボン。もっとも私は泳げないんですけれども。どうせ溺れるなら女性の愛で溺れてみたい。なお、私の守備範囲は外見年齢10〜99歳までです。ストライクゾーンはかなり広いので、ジャックちゃん、女性を紹介してください。ジャックちゃんは『俺たちにできないことはないぜ!』と言っていましたが、それは熱血ではなく単に無謀なだけ。女性を紹介してくれるまで、街を燃やさせはしません。むしろ私の心を燃やさせる女性紹介希望」
 「いやいやいや、意味がわからないから!」
 さすがのジャックといえど、鈍のボケ倒しには度肝を抜かれたらしく、たじたじとなっているところへ、やんちゃな声が響いた。
 「ぼさっとしてるんなら、俺のほうが先に魔法を使うぜ! 悩んでる暇あったら、寒い原因をとりあえずフッ飛ばせばいいんじゃねーの?」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいぶす)が、火術をどんどん使いはじめる。周囲の雪が、水蒸気を上げて溶け始めた。
 「うおおお! 負けてられるかあ! ファイヤー!」
 ジャックも、ウィルネストに続いて、火術を放ち始めた。
 「おらおらーっ、目立ってモテるのは俺だあ!」
 ウィルネストは、ジャックと競うように炎を放ち、周囲の雪がどんどん溶けていく。
 「ジャックちゃん、ダメだと言ってるじゃないですかー!」
 鈍と人寺の声は、もはや、ジャックとウィルネストには届かない。
 そこへ、鳥羽 寛太(とば・かんた)も、ジャックに加勢しはじめた。
 「あなた一人で全部雪や氷を溶かすなんて無理です。僕も手伝います!」
 寛太は、ジャックを助けようという善意から、ガンガン火術を放つ。完全に善意が空回りしていた。
 「助かるぜ! 一緒にファイヤーだぜ!」
 寛太にジャックは笑顔で答える。
 爆炎が轟く中、ウィルネストのパートナーで、守護天使のヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)は、一人つぶやいた。
 「誰か、ウィルたちを止めてくれないだろうか……。しかし、アイツは、俺の言うことなど聞かないだろうからな」
 ヨヤが、誰か止める人はいないだろうかと周囲を見渡すと、空飛ぶ箒に乗った深見 ミキ(ふかみ・みき)と目が合った。
 ミキは、ジャックを止めるために、上空から捜索していたのであった。
 「ジャック様、町を火で覆いつくすのはやりすぎでございます。道路などを暖めて町の皆様が生活できるようにいたしませんか? そちらの方が皆様から感謝されると思いますよ!」
 ミキが、上空から必死に叫ぶが、爆音がうるさすぎて、ジャックやウィルネスト、寛太の耳には届かない。
 「うーん、言葉だけの説得では無理のようですね。仕方ございません」
 ミキは、一緒に空飛ぶ箒でやってきていた遠野 歌菜(とおの・かな)と、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と顔を見合わせた。
 「そんな事したら、雪崩が起きて大変な事になるんだよ! そんなことするくらいなら、冬の女王を直接止めた方が絶対ヒーローになれるよっ」
 歌菜は、空飛ぶ箒の上で拳を握りしめ、ジャックに突撃する。
 「熱い正義の炎は、雪や氷なんかより巨大な悪にぶつけるべきよ!」
 美羽は、ダッシュでジャックに近づくと、蒼空学園制服スカートを超ミニにした、あらわな脚線美から繰り出される悩殺かかと落としをジャックにお見舞いした。
 「ぐはあっ!」
 歌菜の空中からのスピードを乗せたパンチと、美羽のかかと落としを同時に食らい、ジャックは雪原にめり込んで気絶した。
 「よし、じゃあ、こっちに誘導してね」
 「まったく、手間かけさせる奴だな」
 フランシア・ローエン(ふらんしあ・ろーえん)が、歌菜のパートナーで守護天使のブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)と協力して、雪の巨大滑り台に、気絶したジャックをずるずる引きずっていく。
 このボブスレーコースは、フランシアたちが、ジャック輸送のために雪や氷を溶かして作っていたものであった。もちろん、ジャックたちのように乱暴な方法は使っていない。
 フランシアは、御宮 万宗(おみや・ばんしゅう)が製作した、スノーボードの上にジャックを乗せた。
 「じゃあ、万宗さん、よろしくね」
 「わかりました」
 フランシアの言葉にうなずくと、万宗は、町の真ん中の広場に繋がっているボブスレーコースに、ジャックを乗せたスノーボードを流す。
 「今から大きな秋刀魚(さんま)を流します。調理はそちらで、お気に召すまま」
 万宗が、雪合戦と炊き出しを行っているチームに携帯で連絡するのと同時に、ジャックはジェットコースターのようなボブスレーコースを流れていった。
 「なんだ、急に静かになったじゃないか……ぐあっ!」
 ウィルネストも、歌菜と美羽の本気パンチと悩殺かかと落としで、気絶させられる。
 「わー、やめてください、暴力反対です!」
 寛太も、フランシアとブラッドレイに捕まり、止められてしまった。
 「はいはい、さらに2名追加しますね」
 万宗は、ウィルネストと寛太の二人も、スノーボードで広場行きのボブスレーコースに流した。
 「よかった、これで被害が広がらずにすむな。ウィルも、頭を冷やすだろう」
 ヨヤは、パートナーのウィルネストを止めてくれる人がいたことに胸をなでおろす。
 「むむっ、ジャックちゃんたち、美味しいことをしてずるいのです! オレも流れます!」
 鈍は、自分からボブスレーコースに突っ込み、頭から流れていく。
 「……あ、きれいな人発見! 飛びついちゃうよ〜、どんどん飛びついちゃうよ〜」
 「きゃーっ、何このモヒカン猫?」
 「私の脚線美はおさわり禁止だからね!」
 飛びついてきた人寺を歌菜と美羽は引き剥がし、ボブスレーコースに流した。
 やっと騒ぎが集結し、静かになったと思われたが、万宗のパートナーで守護天使のジェーン・アマランス(じぇーん・あまらんす)は、鈍の言葉を聞いて逡巡していた。
 「ジャック殿たちが『美味しいこと』をしているのでありますか? この滑り台を流れると、自分も美味しい食べ物が食べられるということでありますか?」
 ジェーンは、盛大な勘違いをしていた。
 「万宗殿! 自分も流れるであります!」
 「え、ジェーンさん!?」
 ジェーンも、頭からボブスレーコースに突っ込んでいき、万宗はそれを呆然と見送った。
 滑り落ちていったジャック、ウィルネスト、寛太、鈍、人寺、ジェーンは、町の広場で空中に放り出された後、ライナとレムリアが町の人と一緒に作った巨大雪だるまにぶつかった。雪だるまにめりこんだおかげで、雪がクッション代わりとなって、全員、怪我をしないですんだ。
 「こらーっ! せっかく作ったのに、穴が開いちゃったじゃねえか!」
 ライナがスコップを振り回して怒鳴る。
 「まあまあ、皆さん無事でよかったじゃありませんの」
 「そりゃそうだけどよ」
 エレート・フレディアーニ(えれーと・ふれでぃあーに)の言葉に、ライナは肩をすくめた。
  エレートは、目を回しているジャックを起こすと、説明を始めた。
 「炎の魔法で無理やり雪を溶かせば、雪が緩くなって、雪崩が発生する危険がありますわ。さらに、大量の水蒸気が昇って、厚い雲が発生して大雨になり、家屋などが浸水してしまう危険性もあります。下手したら、土砂災害も起こりますわ。それに、道が冠水したら、排水溝が凶器と化してしまうんですのよ。ですから、雪は雪かきするのが一番なのですわ」
 今更ながら、エレートは理路整然とした説明を行う。
 「そ、そうだったのか……。なんで最初に言ってくれなかったんだよ……」
 「ジャックさんは聞いていらっしゃらなかったのではなくて?」
 うなだれるジャックに、エレートは苦笑した。