|
|
リアクション
第4章 氷の城、探索のこと
羽瀬川 セト(はせがわ・せと)とパートナーの魔女エレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)の先導で、冬の女王を説得に向かうグループは、空飛ぶ箒で氷の城へ向かっていた。
セトたちは、ロープでお互いの身体を結び、はぐれる人がいないよう気をつけながら、怪我を避けるために低空飛行を行っていた。
ナイトであるセトは、前衛として、メンバーを守るために警戒するように飛行する。
「気をつけてくださいね。ミアは軽いから、突風で飛ばされてしまうかもしれません」
「何を言っておるのじゃ! 本職の魔女である、わらわをあなどるなよー」
パートナーのエレミアを気遣うセトに、エレミアは赤いポニーテールを揺らして笑顔で答える。
セトたちは、慎重に飛行したおかげで、安全に氷の城の入り口へとたどり着くことができた。
一方、徒歩のメンバーも、渡辺 鋼(わたなべ・こう)とパートナーのシャンバラ人セイ・ラウダ(せい・らうだ)によって、お互いをロープで繋いで迷子を防ぎ、助けあいながら氷の城に向かっていた。
スノーシューやピッケルなどの登山道具を用意し、コンパスを見ながら、鋼たちは慎重に歩を進める。
「それにしても、すごい雪やな。皆、気をつけて歩いていこうな」
「今はそれほどでもないけど、いきなり吹雪くことがあるからね。疲れてる人がいたら無理しないでね!」
鋼とセイが、仲間達に注意を促しながら先導する。
そして、防寒と迷子対策を徹底したおかげで、鋼たちも、ほどなく氷の城に到着したのだった。
氷の城は、まるで、真っ白なガラスでできたような外見で、その姿はとても優美だった。
城といっても、戦争の拠点ではなく、王侯貴族の住居といった雰囲気である。
入り口の大きな扉は、意外なことに、手で押すだけで簡単に押し開けることができた。
城に入るなり、八雲 瑠輝(やくも・るき)とパートナーの吸血鬼双海 詩音(ふたみ・しおん)は、片っ端から扉という扉を開けては閉める、という行動を始めた。
「ふふふふ、絶対、お宝を手に入れてやるぞ。ん、瑠輝! 何をしているのだ!」
コンピューターRPGの主人公よろしく、部屋を隅から隅まで調べていた詩音は、瑠輝が扉を閉めて回っているのを見て、叱咤の声を上げる。
「だって、オラ、調べるにしても、扉は開けたら閉めるのが常識だと思うんだよ〜」
瑠輝は困ったような顔を浮かべながら、のんびりと答える。そして、急にその場でがくがくと震え始めた。
「ど、どうしたのだ、瑠輝!」
「さ、寒いよぅ……」
瑠輝は能天気なことに、防寒対策を行わずに、氷の城に来てしまったのだった。
「あ、アホかおまえはー! なんで今まで平気だったのだ!」
「わ、忘れてた……」
キレる詩音に、瑠輝はてへっ、と笑って答える。
「大丈夫か? 自分ら、予備の防寒着持ってるから、よかったらこれ着ててな?」
鋼は、予備のコートを瑠輝に渡す。
「あ、ありがとう〜」
コートを羽織る瑠輝に、ハティ・チェンバレン(はてぃ・ちぇんばれん)も、自分の装備を差し出す。
「ボクも、滑らない靴とか、ロープ、松明、お酒なんかを持ってきてるんだ。よかったら、これで温まってよ」
ハティにお酒を手渡され、瑠輝は笑顔を浮かべる。
「ありがとう、皆、しっかり準備してるんだねぇ」
「おまえがしっかりしなさすぎだっ!」
瑠輝を叱り飛ばす詩音の声が、氷の城にこだまするのだった。
四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)とパートナーの魔女エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)も、氷の城の部屋の探索を行っていた。
唯乃の目的は、部屋を涼しくするため、魔法の氷を持ち帰ることだった。
金色の瞳を好奇心に輝かせながら、小柄な唯乃は、小動物のように走り回る。
「きれいな調度品! これ、全部、氷でできてるのね」
「ゆ、唯乃ッ……! 待って欲しいのですよーぅ……」
唯乃より、もっと小柄なエラノールが、一生懸命パートナーについてまわる。
「エル、ほら、これ見て! とっても綺麗ね」
唯乃は、壁の一部を削った氷の欠片を、エラノールに見せる。
「わあ……」
エラノールは、小さく感嘆の声を上げる。
氷の欠片は、唯乃の手の中できらめいていたが、体温によってだんだん溶けているようであった。
「部屋を涼しくするのは無理みたいね。じゃあ、後でかき氷にしようっと」
にっこり笑って、唯乃は氷をさらに削りはじめるのだった。
冬の女王を説得するメンバーにくっついて来ていた暁 晴謳(あかつき・せいおう)は、観光気分で氷の城を見学していた。
「すごいなあ。こんな光景、めったに見られないよ。来てよかったなあ」
晴謳は、すべてが氷でできた大広間やシャンデリア、ソファや窓などを見て、黒い瞳を細める。
一方、晴謳のパートナーでヴァルキリーのフェイル・ファクター(ふぇいる・ふぁくたー)は、氷の城の脅威から、晴謳を護衛するために全力で警戒に当っていた。しかし、特に危険は感じられなかった。
「どうやら、罠や攻撃してくる相手はいないようですね。晴謳様に危険が及ばなくてよかったです」
そうつぶやきながら、フェイルはパートナーの横顔を見つめた。
セイバーの十倉 朱華(とくら・はねず)は、「禁猟区」で、危険がないかどうか警戒をしていた。しかし、特に反応はなく、害をなす存在は迫っていないようであった。
リカ・ティンバーレイク(りか・てぃんばーれいく)も、城の構造を調べながら、アーデルハイト捜索に当っていたが、罠や兵士などは見当たらず、敵意のようなものは感じられなかった。
「城に入ったら、「冬の女王」が攻撃してくるかと心配してたけど、今のところ、そういう気配はないみたいだね」
「そうですね。迷いやすい構造にもなっていないですし、順調に進んでいますね」
朱華の言葉に、リカは手書きの城の見取り図を見せながら答えた。
「うん、これで、救出がうまくいけばいいんだけど」
朱華は優しそうな赤褐色の瞳で、城の奥を見つめた。
そんな中、水神 樹(みなかみ・いつき)とパートナーの剣の花嫁カノン・コート(かのん・こーと)は、罠を全力警戒しながら、氷の城を走っていた。
「女性を人質に取るなんて、許せないわ!」
武術道場を営む家に生まれ、武士道を重んじる樹は「冬の女王」の行動に憤りながら、ガンガン進んでいく。
比較的、穏やかな性格のカノンは、樹の剣幕に少し驚いていたのだが、一緒に警戒態勢で進んでいた。
(寒いから帰りたいとか言ったら怒るんだろうな……)
カノンは、樹の横顔を見ながら、やはり怖いので言い出せないな、と思った。
百合園女学院の生徒のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も、健脚を活かして、城の中を突っ走っていた。ミルディアはアスリートなので、特に足元の防寒対策は万全であった。
ミルディアのパートナーの守護天使和泉 真奈(いずみ・まな)は、チームの連携や電話連絡など、ミルディアのサポートに集中していた。
「アーデルハイトさんはどこにいるんだろうね。やっぱり、お城って言うだけあって広いんだね」
「まだ、発見したという連絡は来ていませんわね」
ミルディアは、無造作に束ねた赤いロングの髪をなびかせて走る。
そのやや後ろから、真奈はチームメンバーの様子に注意を配りながら、パートナーを追っていた。
蒼空学園の生徒荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、アーデルハイトは城の中の暖かい場所にいると予想して、捜索を行っていた。
「あの扉の向こうはどうなってるのかしら。少し、光がもれてきていますわ」
さけは、ひときわ豪華な装飾が施された扉を指さした。
「よし、踏み込むわよ!」
樹は、扉を両手で思い切り開いた。カノンと、ミルディア、真奈、さけが、それに続く。
そこでは、アーデルハイトが、コタツに入ってアイスを食べていた。
「うむ、やはり、冬はコタツでアイスにかぎるのう」
樹とミルディアは、そのまま盛大に部屋の中にスライディングしていき、カノンと真奈とさけは、呆然とした表情で、満面の笑みをたたえるアーデルハイトを見つめるのだった。