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潜入、ドージェの洞窟!

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潜入、ドージェの洞窟!

リアクション

「しっかし、危ない地形だよね〜、こっち。もうすぐなのかな〜?」
 右側のルートに入ったメンバーの一人、佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)が踏んだ先で割れた足場をみてつぶやく。
「えぇ。この距離なら5分もしないうちにつくと思いますよ?」
 とは義純。
「う〜ん……。なんも落ちてないな〜……」
 と、どこか不満げな声が一つ。蒼空学園のウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)である。
「ヒカリゴケ以外になにか特別なものでもあるのですか?」
 と、そんな彼に興味を持ったのか同じく蒼空学園の橘恭司(たちばな・きょうじ)が尋ねてみる。
「あ、いや。昔っから色々冒険じみたことをやってましてね。ここは元ゴブリンの住処だったというじゃないですか」
「あぁ。ドージェ・カイラスがそいつら一人で撃退したんだっけか」
 と、インスミール魔法学校の緋桜ケイ(ひおう・けい)思い出したように言葉をつなぐ。
「えぇ、ドージェの奇跡なんて呼ばれてたりするそれです。ですから、なにか残された宝の一つや二つないかな〜と」
「成程。確かに宝の残りがあってもおかしくはないですね」
「けれど、ドージェの奇跡からはかなり時間もたっていますし、既に持ち去られた後かもしれないわ」
 と、釘を刺そうとするのは恭司のパートナークレア・アルバート(くれあ・あるばーと)
「まぁ、もっともな意見ですが」
 だが、ウィングはまた辺りを入念に観察し始める。
「そういった思考をもとより振り切ってるから冒険ってのは楽しいのさ」
 そういって笑った彼の顔は、子供のように明るく、なにより楽しそうであった。
「ですね。急がないわけにはいきませんが、こういうのも冒険ですよね」
 と、逆に乗り気になったのか、薔薇の学舎のイシュトヴァーン・ヴァイス(いしゅとう゛ぁーん・う゛ぁいす)も同じように辺りをつぶさに見ながら歩を進め始める。
「おっと! けど、本当にこっちは地盤がもろいなぁ……」
 壁の一部が触ったとたん崩れだし、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が冷や汗をたらす。
「そうですね。足元も崩れている所もありますし、人力で崩せかねませんね。せめて着くまでは落盤などしないと嬉しいのですが」
 とは火術を明かりとして掌の上にぷかぷか浮かべているリアトリスの相方、パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)
「へう……。それ絶対死亡フラグだよ……!」
 と、妙に反応するウィングの相方ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)
『死亡フラグ?』
 聞きなれない単語に周りの人間が首をひねるが、一人反応をしたのが、
「聞いたことがある……」
 シャンバラ教導団のイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)であった。
「東洋に古来よりある伝説のことで、それを言ってしまうと必ず何かしらか不幸なことが起こるといわれる言霊というエレメンタルな事象。有名なものに『こんな人殺しのいる部屋でいられるか! 俺は自分の部屋で寝る!!』等がある」
「そうそう! 落盤なんか起こらないっていったら、本当に……」
 ファティがそこまで言ったところで、

メギィッ

 と、壁から音が響いた。
「え?」
 全員の動きが止まった。嫌な予感とはなぜかよく当たるもので。それがどれだけ作為的なものだったからといっても、起こるときにはあっさりと起こってしまうものだ。どこぞの学者がいらん時に来、いる時に来ないことをなんぞの法則と論文にするほどに。
 時に人はこれを「死亡フラグ」やら、「物欲センサー」なんぞと呼んだりもする。
「よくもやってくれたねぇ……。人の縄張りでずいぶん好きに動いてくれたじゃないか、え?」
 後ろで、須兵乱華亜所属弁天屋 菊(べんてんや・きく)の拳が、洞窟の壁に突き刺さっていた。体から、蒸気のごとく赤いオーラが噴出し、彼女の怒りと呼応するかのように猛っていた。
(ドラゴンアーツ……!?)
 彼女が何をしているのか、何をしようとしているのか分かった時には、既に遅く。
「憤ッ!!」
 地面を蹴り抜き、体を軸に回転させ、爆発的に増加した運動エネルギーを寸勁として放ち、浸透勁として伝達されたエネルギーがあっさりと、洞窟の均衡を破壊する。
「あぁ、彼女の言霊がこの死亡フラグを立ててしまったのですね。わかります」
 イレブンが、崩落してくる天井を眺め、他人事のように呟いた。
「へぅッ!? これ私のせいなの!?」
「いいから、逃げろぉぉぉ!!!」
 弥の叫びを皮切りに、全員が落石から逃れるため、入り口方向に向けて走り出す。
「あ〜ぁ、もう少しだったんですけど……ッね!」
 一人、崩落を回避しつつ剣撃を放つ者が。蒼空学園所属、出水 紘(いずみ・ひろし)である。
「やってくれんじゃねぇか……!」
「はッ! 人の縄張りに入り込んでおいてよくも言う!」
 振り下ろされた片手剣に掌底を叩き込み、無理やり斬撃を殺し菊が吼える。
「ハッハーッ! いいねぇ、やる気満々じゃねぇか!!」
 菊のさらに後方、アサルトカービンを構えた男一人。秋岩である。
「上手くよけろよ? そのほうが愉しいからよぉ!?」
「光条兵器展開ッ!!」
 叫ぶ。生き残るために叫び、武器を持ち、
「どっせぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は手にした光条兵器で地面を抉り取る。
「おぉ?」
 吹き飛ばされた石つぶてが、アサルトカービンが弾を吐くよりも早くその銃身を明後日の方向へと吹き飛ばす。
「もう一丁ッ!」
 気合一閃。地面を踏み抜き、秋岩を自分の間合いぎりぎりの位置に捕らえるまでに一足で踏み込む。
「ふはッ!? いいな、お前!」
 だが、秋岩は一歩逆に踏み込む。
「なッ!? うそ?!」
 一瞬の狼狽。勝負は決したも同然であった。
「接近戦じゃな、剣すら遠距離武装なんだよッ!」
 ズンッと、美羽の腹に秋岩の拳が食い込む。
「うぐ……ッ!?」
 臓腑に食い込む衝撃に、美羽の体勢が完全に崩れ、片膝を付く。
「んじゃ、バイバイっと」
 カービンを構えなおし、銃身を頭部へと向ける。一切の迷いなく。
「させませんよ」
 だが、イレブンの剣があっさりと割り込む。スッと切られたことを秋岩に感じさせることなくアサルトカービンを上下二つに裂く。
「おいおい、気配消しすぎだろ……!」
 驚愕なのか、歓喜なのか。自身の腕を斬られることなく行った早業に、秋岩の声が震える。
「ありがとうッ! 助かったよ!」
 一呼吸でダメージを飲み込んだ美羽が、崩れた体勢を利用し、カポエラよろしく大地に体を押し付け、その反発力で蹴りを放つ。
「っと!?」
 なんとか腕を十字に交差し、吹き飛ばされるような形でダメージを軽減する。
「まずい……!」
 義純の言葉が、洞窟内に染み入るように反響した。
「僕たちの足止めが二人だけとは思えない! 涼子さん達が危ない!!」
「あらら、確かにそれはまずいよね……!」
 弥十郎が走り抜けたスピードをそのままに、一気に洞窟の分岐点へと向けて走りぬけようとする。が、
「残念だねぇ。三人なんだよ」
 ヌッと、それまで物陰に隠れていた小柄なドラゴニュートが、選考していた弥十郎の足首をつかみ、振り上げる。
「うわぁッ!?」
「ま、ガガと菊はさっさと帰ってもらいたいだけなんだけどねぇ〜っとッ!!」
 ガガと名乗った菊のパートナーガガ・ギギ(がが・ぎぎ)は、振り上げた勢いのままに弥十郎を後続のメンバーに向けて投げる。
「ぐうぅ!?」
 たとえ小柄でもドラゴンの子。膂力は人間を二、三人吹き飛ばしても余りある。だが、何とか回避した人影一つ。蒼空学園のノーマン・ダン(のーまん・だん)である。
「このぉッ!!」
 アサルトカービンをフルオートで発射し、ガガの足元を狙って動きを牽制する。
(テレサ、こいつらを無視して突破するぞ)
 手話で手早く相方のテレサ・エリスン(てれさ・えりすん)に手話で合図を送る。
(よいのですか? 殲滅も不可能ではないと考えますが?)
(俺たちの目的はヒカリゴケの採取だ。ここで余計な労力を裂くのは割に合わん)
(了解しました)
「はぁッ!!」
 状況を打破するために、体勢の崩れている秋岩にダメ押しと、テレサが追撃の蹴りを放つ。
「ぬぅ!? ったく、即席のくせに、いいコンビネーションしてんじゃない……!」
「いえ、別にそういうわけでは……」
「みたか! この必殺のこんびねーしょん!!」
「…………。」
 自信満々に応える美羽。だが、一見押しているようにみえるが、時間を消費しているだけで劣勢に追い込まれている彼らは、内心焦っていた。ゆえに、
「まずい……、この三人を抜くのは少々骨だ。ケイ!」
 シャンバラ教導団のセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が、箒に乗って浮遊していたケイに向かって叫ぶ。
「先行して涼の護衛にいけ! このまま手を打てないのではジリ貧だ!!」
「合点! 死ぬなよ!!」
 短い受け答えに信頼を込め、ケイが洞窟天井をぎりぎりに滑空してゆく。
「って、いかせないよ!」
 地面を踏み抜き、天井へ向けて跳ぼうとガガが足に力を込めた瞬間、
「!?」
 セオボルトの槍が空気を突き破り、奔る。
「こなくそ!」
 自分を狙って一直線に飛んでくるそれに、上へ跳ぼうとした力を横向きに変え、地面を転がるように回避。薄皮一枚でなんとかかわしきる。
「骨が折れるとは言ったが、倒せんとは言っていない……!」
 静かに気合を込め、持ち手の後ろに下方向へ力を込め、てこの要領で柄尻を回転。回避先のガガを更に狙う。
「くぅ!?」
 ランスの直進力を生かした二連撃に、もはや追撃の姿勢はとれない。
「上等じゃないか……!」
「こっちの台詞だな。戦力差は圧倒的だぞ?」
「そらどうかな!!」
 ドンッと空気を突き破り放たれた足刀蹴りを槍の腹で受ける。
 乱戦の模様を呈してきたドージェの洞窟右ルート。しかし、左はそれ以上の混戦に陥りつつある事を彼らはまだ知る由もなかった。