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「高みへと押し上げてくれる、ですか。あながち間違いじゃないかもしれませんね」
 そう呟いた真人にセルファが訊く。
「あながち間違いじゃないってどういうこと?」
「このゴーレムたちは先ほどの魔法陣で俺たちを投影したんです、あの時のね」
「あの時の?」
「ええ。彼らはあの時点までの俺たちの動きは再現できるけど、逆にそこまでしかできないとも言えるんです。つまり俺たちがあの時点にはなかったイレギュラーな行動をとればゴーレムは反応できないということなんです」

「それは試してみる価値はありそうですね」
 匡が楽しそうに微笑む。辺りを見回すとライとヨツハがいた。
「ライさん。ヨツハさんにそのアームで攻撃してもらうことできますか? 合わせようと思います」
「……なるほど、わかりました。私も手伝いましょう」
 ライがすぐに匡の意図を汲み取る。
「ヨツハ、今から目をつむって十数えたらその場で例のやつをやってみてください」
「え!? あれやっていいの? いつもは駄目って言うくせに」
「なんです? 嫌なら別にいいんですよ」
「わー、やるやる! じゃあ数えるよ! 一、二、三、……」
 ヨツハがわくわくしながら数え始める。その間、匡とライは二人で三体のゴーレムを相手することになる。
 二体のゴーレムが匡へと向かう。これは自分二人と戦っているようなものだ。二体のゴーレムの手刀が匡のわき腹を掠める。
「大丈夫ですか!」
「ええ。わざとですから。それより用意は?」
「問題ありません」
「「では」」
「きゅーう、じゅう! いっくよ、必殺ぱいるあっぱー!」
 ヨツハがパイルガンの備え付けられたアームを天に向かって突き出す。そこにちょうど匡とライが投げ飛ばしたゴーレムたちが重なった。クリーンヒット、ゴーレムたちが空中でばらばらに砕けた。
「これはこれは、すごい威力ですね。ライさんが禁止するのもうなずけます」
「きっもちいい! あれ? でも何かに当たったような?」
 ヨツハがきょとんとしながら小首を傾げた。

「あんた、ワタシなんでしょ?」
 レベッカがナイフでつばぜり合いをしているゴーレムに言った。
「もし勝てない相手にぶち当たったら、ワタシはどうすると思う?」
 そう言いながら手榴弾を取り出し、口で栓を外す。
「ぺっ。死んでも負けない!」
 レベッカが目をぎらつかせ獣じみた笑いを見せる。ゴーレムも手榴弾に合わせたものを生み出す。
「わかってるね。さあ、派手にいきましょ」
「おい!」
 手榴弾が爆発する直前、イーオンが割ってはいった。そしてレベッカを抱えバーストダッシュでゴーレムから距離を離した。その際に彼女から手榴弾をもぎ取りゴーレムへと投げつける。
 二つの爆弾によりゴーレムの上半身がはじけ飛んだ。
 転ぶようにして着地する二人。
「おまえ馬鹿か! 死ぬ気だったろ!」
「賭けてたんだ……。誰か来てくれるってさ」
「……まったく呆れた度胸だな。だがあれを見ろ。おまえが何をしたのかよく考えることだな」
 イーオンが視線で示した先には、レベッカの行動に腰がくだけてしまいアルゲオに肩を抱かれるようにして歩いてくるアリシアの姿があった。その瞳からは大粒の涙がこぼれている。
「……やれやれ。この手はもう使えないね」

 一流の使い手になると、死の臭いというものが分かるという。薫とゲッコーは今、それが自分から放たれていることを嗅ぎ取っていた。
「拙者、ずっとゲッコー殿に言っておきたかったことがあったでござるよ。これが最後かもしれないから、いい機会なのでよろしいでござるか?」
「偶然でござるな。拙者も薫殿に話があったでござる」
「ゲッコー殿のござる口調って少し使い方がおかしいでござるよ。時々『え? そこ、ござる?』ってところがあるでござる」
「……あ、そう。ふーんでござる。じゃあこっちの番でござるが、薫殿のござる口調って時々イントネーションおかしいでござるよね。『八重歯』と同じイントネーションになってて超違和感でござる」
「「……」」
 不気味な沈黙が訪れる。
 沈黙。沈黙。沈黙。沈も――。
「……オカマ」
「……つるっぱげ」
 そしてののしり合った。
「はあ!? はげてねーよ! これは剃ってるんだよ!」
「なんだよオカマって! そんな気ねーし! 女の子とか大好きだし!」
「馬鹿! 俺のほうが絶対好きだね、女!」
「俺に決まってるだろ!」
「やるか!」
「上等!」
 白熱する二人にゴーレムが挟み込むようにして襲い掛かる。
 しかし。
「「邪魔すんな!」」
 二人の絶妙に息のあった攻撃がゴーレムに直撃、崩れ落ちた。その光景に二人が目を白黒させる。
「……とりあえず休戦するでござる」
「……異議なしでござる」 

 周りがそれぞれ活路を見出しているころ、時枝みこと、フレア・ミラア、加賀見はるな、アンレフィン・ムーンフィルシアのグループは未だ苦戦を強いられていた。この四人は普段から仲がよく、一緒に稽古をしている。それが今回はあだとなり、ゴーレム同士の連携もバリエーションに富んだものとなってしまっていたのだ。
「みことさん、危ない!」
 はるながことみを庇う。引っ込み思案で普段は他の三人に助けてもらってばかりのことみだったが、この劣勢のなか一番の頑張りをみせていた。
「はるな、無理をしないで! もうぼろぼろじゃない!」
「大丈夫だよ、アン。わたしはナイト。みんなを守るのがわたしの役目」
 はるなが笑ってみせる。
その懸命な笑顔がみことには痛かった。はるながあれだけの成長を見せているのに、何もできないでいる自分に腹が立って仕方なかった。
「はるな!」
 アンレフィンが悲鳴のような声をあげる。ついに限界にきてしまったはるなが倒れてしまったのだ。
 膝をつくようにしていたみことが立ち上がる。
「大丈夫よ、あなたなら出来るわ」
「……フレア。ありがとう」
 みことは剣を中段に構えた。そして爆炎波のスキルを発動する。剣の切っ先に炎が集まりだした。
みことはその炎を放つのではなく、手のひらで刃をなぞるようにしてまとわせる。強力な磁石同士が反発しあっているかのように剣が暴れた。剣がすっぽ抜けないよう必死に柄を握る。その手が血で染まっていく。
「大人しくしろぉ!」
力は段々と収まっていき、みことはなんとか炎をとどめることに成功した。
「いくぞ!」
 ことみがゴーレムに横薙ぎの一撃を繰り出した。先ほどまでが嘘のようにすうっと刃がとおり、ゴーレムの上半身と下半身を分断した。その切り口は非常になめらかだ。
 続けざまに二体のゴーレムが襲ってくる。みことはそれも分断し、残る四体目も難なく切り伏せた。
「すごい、みことさん! いつの間にそんなこと出来るようになってたの!?」
「いや必死だったからオレにもさっぱり。あ――」
 みことの剣が折れてしまう。おそらく負荷に耐え切れなかったのだろう。
「どうやらまだまだ課題は多そうね」
 フレアが肩をすくめるようにして言った。

 その後、一行は劣勢をくつがえし、見事ゴーレム軍団を殲滅した。