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第四章  アーリアと共に

【アーリア護衛班】がヴォル遺跡のある山のふもとで仮設テントを張る【通信班】のところにたどり着いた。【通信班】といってもそのメンバーは実は二人しかいない。そのうちの一人、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が駆け寄ってくる。
「あなたがアーリアさんですね! 私は有栖っていうの。はい、あ〜くしゅ!」
「え? あ、はい! よろしくお願いします!」
 有栖が少し戸惑っているアーリアの手を取り、上下にぶんぶんと振る。
「ごめんなさい、アーリアさん。本当は私も一緒に行ってあなたを守りたかったんだけど……」
 有栖の表情が曇る。そんな彼女をある人物が後ろから抱きしめた。その豊満な胸が有栖の背中へと押し付けられる。【通信班】のもう一人、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)だ。
「きゃっ。ミルフィ?」
「いけません、有栖お嬢様! お嬢様は極度の方向音痴! 遺跡は罠も多いと聞きますし、もし迷われでもしたら……迷われでもしたらっ。わたくし生きてはいけません!」
 ミルフィが身もだえしながら有栖に頬ずりをする。
「有栖さん、その気持ちだけで嬉しいです。それに【通信班】だってすごい仕事じゃないですか。私は田舎者だから機械なんて全然わからないもの。尊敬しちゃいますよ。今度教えてくださいね」
 アーリアがにっこりと微笑む。
「アーリアさん……」
「そーゆーこと。アーリアのことは俺たちに任せときな、有栖ちゃん。絶対に守ってみせるからよ」
そう言って犬神 疾風(いぬがみ・はやて)月守 遥(つくもり・はるか)が現れる。
「そうそう。遙だっているんだから百人力だよ!」
「いや、それは戦力ダウンだろ」
「な、なにおー!」
 遙が疾風に殴りかかる。しかし頭を押さえつけられてしまい、彼女の拳がむなしく空を切った。
「ぬー!」
 それでも諦めない遙を軽くいなしながら疾風が有栖に尋ねた。
「それで他の班の様子はどうなんだ?」
 疾風たちのやりとりをにこにこと見守っていた有栖がはっとした表情になった。

「なるほど。【先行班・地上】の考察からは正面からの進入は厳しいと。そして【先行班・地下】は通信が途絶えてしまっているということですか」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が眼鏡のブリッジを中指でくいっとあげた。
「そんな……。それじゃあ遺跡の中に入れないってことじゃないですか。どうするんです?」
 影野 陽太(かげの・ようた)が不安げな表情を浮かべる。
「ボクは地下から行けばいいと思うな! ほら、もしかしたら通信機の故障とかで連絡がつかないだけかもしれないでしょ?」
「そんな明確な理由も無いもの却下に決まっているでしょう。ヨツハ、君は少し慎重さに欠けていますよ。すみません、今のは聞き流してください」
「あう……」
 パートナーである二本のアームが特徴の機昌姫ヨツハ・イーリゥ(よつは・いーりぅ)ライ・アインロッド(らい・あいんろっど)がたしなめる。
「俺はアーリアを置いて地上班と同じルートで行くことを推したい」
 そう言うのはイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)だ。
「勘違いしないでもらいたいが、これもアーリアのためだ。やはり彼女の同行は危険すぎるからな」
「俺は反対だ。アーリアは行きたいと言っている。俺は彼女の意見を尊重したい」
イーオンに葉山 龍壱(はやま・りゅういち)が異論を唱えた。それに空菜 雪(そらな・ゆき)氷見碕 環生(ひみさき・たまき)も賛同する。
 そのとき、アーリアがおずおずと手を挙手をする。一同の視線が彼女へと集まった。
「遺跡の入口なんですが、もう一つだけ心当たりがあります」

 その後の話し合いでアーリアの意見を尊重することになり、新たな進入口へと向かうことになった。
一行はアーリアの案内でヴォル遺跡の外壁を【先行班・地下】とは反対へと進む。すると山林の中に小さな洞窟を見つけた。その洞窟を進んでいくとごつごつとした岩肌がなくなり、滑らかが石造りの部屋のような場所へと出る。そこは壁が淡く光ってうすぼんやりとしていた。
ヴォル遺跡だ。
遺跡へと進入した一行はアーリアを中心に前衛と後衛に分かれ、罠やモンスターに注意を払いながら奥を目指した。
「疲れてないかい、アーリア?」
「いえ……」
「喉は渇いてないかい、アーリア?」
「いえ、それも大丈夫です」
 先ほどから執拗にアーリアの世話を焼きたがるこの男は大草 義純(おおくさ・よしずみ)だ。クリスティア村の怪異現象に立ち向かおうとするアーリアの心意気に惚れたらしい。とにかく彼女の役に立ちたいと思っている。
「お腹は空いてないかい? あ、それともお風呂に――ぐはぁ」
 そこまで言ったところで義純がうつ伏せに倒れた。後ろから現れたのはナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)とだ津波った。
「乙女の敵、成敗ですわ」
「大丈夫ですか、アーリア。怖かったでしょうに」
「いえ、そんなことはなかったんですが。いいんですか? あの方倒れたままみんな知らん顔してますが」
「大丈夫! 義純くんなら犬でも食べませんから!」
「夫婦喧嘩じゃないんですから……」
「それよりもアーリアは危険とわかっていて何故同行を希望したのです?」
「私は消えてしまうことを心のどこかでもう認めているんです。だったらせめて村のためになにか残せないかな、と。消えていくことの意味もまだわからない子たちもいます。あの子たちには消えて欲しくないですから」
 アーリアが寂しげに笑った。
「はう〜、私とても感動しましたぁ〜」
 感動してぼろぼろ泣いているのは何故かメイベルだった。
「アーリアちゃんは絶対に私が守りますぅ。ああっ、いてもたってもいられません〜。私、前衛の方たちのお手伝いをしてきますね〜」
 メイベルがぽてぽてと走っていく。
「あれはまずいっ」
 それを不安な表情を浮かべセリシアが追った。

「ここは罠があるっと」
 スプレーで危険な場所にチェックをしているのは久世 沙幸(くぜ・さゆき)だ。
「真面目に働いてる姿も可愛いですね〜。食べちゃいたいくらいですわ」
 そう言って後ろから首に手を回し、沙幸の耳に息を吹きかけている魔女は藍玉 美海(あいだま・みうみ)だ。
「ちょっとっ、ねーさまっ、やめてっていつも言ってるじゃないっ!」
「すみませ〜ん。なにかお手伝いすることあります――きゃあ」
 こちらへと走ってきたメイベルが足をもつれさせ転ぶ。そして先ほど沙幸がチェックしたところへと手を付いてしまう。
「あ」
 その瞬間、魔法陣が浮かび上がり巨大な穴を生み出す。そして前衛の人たちがそれに呑み込まれてしまった。
 こうして【アーリア護衛班】は二つに分断されてしまったのであった。