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リアクション
SCENE・1 光零の街中にて
人気のない光零の道では、セイバーのイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)と剣の花嫁のカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)がうろうろと歩いていた。
「なんだよ! 誰もいないじゃないか! せっかくあたしが考えた画期的な捜査方法が使えないじゃん!」
カッティはホーリーメイスをぶんぶん振り回しながら、大声で叫ぶ。声は静かな光零の道に吸い込まれているが、さっきからカッティの喚き声に反応してくれるのは、相棒のイレブンだけである。
「そうだな。最初の通行人が見つからなければ、カッティの考案したわらしべ長者式推理が使えないな」
「う〜……よしっ! 本当は怪しい人物を見つけて脅して、更に怪しい人物を聞き出そうと思ったけど、人がいないんじゃあしょうがない。とにかく! 怪しくなくても最初にこの道を通った人間を問答無用で襲って話を聞き出そう!」
カッティのかなり乱暴で明らかに逮捕されそうな案に、イレブンは大きく頷く。
「名案だ! ……ん? さっそく第一の容疑者候補たちが来たようだ」
二台のバイクが近づいてくる音がする。イレブンはカッティを連れて横道に姿を隠す。
「まずは足を止めないと話を聞けないな」
「そうだね! 逃亡の恐れもあるし……」
イレブンとカッティはニヤッと笑い、バイクがイレブンたちの前を通り過ぎる直前に、まきびしを撒いた。
「どわっ!危ねぇ!」
「誰だっ?」
バイクは急ブレーキを掛け、咄嗟にまきびしを避ける。バイクを降りて来たのは、ソルジャーのラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)とドラゴニュートのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)だった。まだ日が出ている時間だったので、まきびしが光り避けることができた。夕方なら見えなかっただろう。
すかさずカッティはホーリーメイスを片手に通りに出てくる。そして、ホーリーメイスの先をビシッとラルクとアインに突きつける。
「見るからに怪しい人物たちめ!」
「おいおい……お嬢ちゃん。まきびし撒いた挙句、いきなり怪しい人物呼ばわりはねえだろ。アインははともかく」
「オレが怪しいなら、てめえは犯罪者にしか見えねえだろ」
苦笑いで言うラルクに、ムスッとした顔でアインが言う。イレブンはカッティの後ろから現れ、視力は全く悪くないが、伊達眼鏡を掛けてラルクたちを見る。
「……君たちはここの住民……には見えないな」
「別にどっちでもいいよ! 大人しくネルソン失踪事件について、知っていることを吐いてもらうか、知らないならキミたちよりも怪しい人物を紹介してもらおう!」
カッティの言葉に、ラルクとアインはやっとイレブンたちが自分たちと同じ事件の解決に動いていることを理解した。
「なんだ、仲間か。それにしても、何であんなに乱暴なことをしたんだ?」
アインは首をひねって尋ねると、カッティはわらしべ長者式推理の説明をする。
「……ネルソンを見つける前に、てめえらが警察に捕まるぜ」
アインは呆れて言うが、ラルクはニヤニヤ笑って面白がる。
「面白そうじゃねえか! 俺たちも捜索してたんだが、人には会わなかったな。どっか近くの店に入った方がいいんじゃねえか?」
アインは心の中で「本当は迷子で彷徨っていたんだがな」と呟く。
イレブンとカッティはラルクの提案に同意し、一緒に行動することにする。ラルクはバイクに跨りながら言う。
「さっきチラッと『夜華』っていう看板を見たからよ。とりあえず、そこで聞き込みをしようぜ」
イレブンとカッティも軍用バイクに跨り、『夜華』を目指して走り出した。
イレブンたちとは離れた場所にある道には、プリーストのメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と剣の花嫁のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)がいた。メイベルは青楽亭の主人に描いてもらった地図を見ているが、セシリアは横から覗きこんで言う。
「この地図には空白が多いね」
地図には複雑な道筋が丁寧に描きこまれているが、全く描き込まれていない空白の部分も多かった。
「仕方ないですよぉ。その場で描いてもらいましたし、青楽亭の主人さんも行ったことのない地区があるって話ですし」
「ん〜、でも、肝心の地下水路の入り口も描いてないよね。これじゃあ、犯人たちが地下水路にやってくるのを監視できないよ」
「そうですねぇ〜困りました。もしもの時の為に、カメラも用意したんですけど……。管野さんにも異変があったらお知らせすると言ってしまいましたし」
メイベルたちは管野葉月と情報交換をする約束をしていた。管野葉月は黒喜館の情報をメイベルに教え、メイベルは今夜は新月だから地下水路で何か起きる可能性を気にして、異常があれば管野葉月に教える約束をしている。
「どうしよっか……あれ?」
メイベルたちが悩んでいると、マンホールをいじっている二人組を見つけた。プリーストの四方天唯乃(しほうてん・ゆいの)と魔女のエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)である。四方天がマンホールをチェックし、エラノールがメモをしている。
二人はメイベルたちに気づき、四方天が軽く手を振る。エラノールは軽く会釈だけする。
「こんにちは。もしかして、あなたたちも地下水路を見張る気なの?」
メイベルの手にしたカメラを指差す。メイベルは頷き、困った顔で言う。
「そのつもりだったんですけどぉ……地下水路の入口らしい場所が分からなくて」
「そっか。私達の方はマンホールの位置と施錠を確認しているんだけど、マンホールが幾つかあって、どのマンホールを見張るか迷っているのよ」
四方天は溜息を吐く。エラノールはメイベルたちをじっと見つめ、自信無さそうに小声で言う。
「あのぅ〜前回の地下水路事件の関係者ですかぁ?」
セシリアは驚きながら頷く。
「そうだよ。よく僕たちが関係者だってわかったね!」
「本当。よくわかったわね」
四方天も相棒の言葉に驚くが、エラノールは自分の記憶が合っていたのにほっとして、はにかみながら言う。
「さっき青楽亭で地下水路の話をしているのを聞いたからですわぁ」
「あっ! それなら、前回の事件で使用したマンホールがどれか覚えてる?」
四方天を手を打ち、眼を輝かせる。メイベルは四方天の持っているマンホールの位置を描き込んだ地図を見て、一か所を指差す。
「えっと、確かここですぅ。ねぇ、セシリア」
セシリアも頷く。
「やっぱり! ネルソンさんのマントが見つかったマンホールと一緒ね。きっとこのマンホールが一番施錠が弱いんだわ。
見張るポイントはここに絞るわ!」
四方天は駆け出す。エラノールは慌てて後を追いかける。
「ゆ、唯乃ッ……! 待って欲しいのですよぅー!」
メイベルたちも慌てて追いかけた。
「やっぱり歴史を感じさせる建物も多いですわ! ねえ、カズマさんもそう思いませんか?」
プリーストの小鳥遊歌戀(たかなし・かれん)に同意を求められた吸血鬼のキサラギ・カズマ(きさらぎ・かずま)は、憂鬱そうに溜息を吐いた。「はぁ、迷子になったのをごまかすんじゃない! だから言ったじゃん! 地図もらおうって!」
「うっ……でも、何事もパッションが大切ですわ! それに、こうやって歴史ある街を散策するのも楽しいですわ!」
歌戀は無理に盛り上げようとするが、カズマは歌戀の声だけが響く静かな街に不気味さを感じていた。
「……まだ日が出ているっていうのに、誰もいねぇっていうのが不気味だよな」
カズマの言葉に歌戀も心細さを感じて、そっとカズマに寄り添おうとするが、
「おっ! 可愛いお嬢さんたち発見! おまけに胸も大きいお嬢さんが!」
「えっ?」
歌戀が何かを言う前に、カズマはマンホールに集まっていたメイベルたちへ走って行ってしまう。
カズマはまっすぐ胸の大きいメイベルに声を掛ける。メイベルたちは突然のカズマの登場にかたまっている。
「お嬢さん! 僕の名前はキサラギ・カズマといいます。一緒に街を散策……」
バシッ!
「いてぇっ! 歌戀! 何をって……どわっ! 落ち着け!」
日傘を握り絞めた歌戀が、怒りに震えながら仁王立ちしていた。
「カズマさん……今日はもう許しませんわ!」
悲鳴を上げて逃げるカズマに、歌戀は日傘を振りまわしながら追いかけて行った。
「……な、なんだったのでしょうねぇ?」
メイベルの言葉に、他のみんなも首を傾げた。
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