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リアクション
SCENE・4 別荘にて
街外れにある別荘に向かった一行が、別荘に着いたのは夕暮れ時だった。
ちょっとした木々に囲まれた別荘は簡素な一階建になっており、別荘の傍には蓋のしまった古井戸があった。人の気配はない。
「それがしは外を見張りましょ。家の中までは少し抵抗が……」
セイバーの宮本紫織(みやもと・しおり)は燕に言う。二人とも軍手、サングラス、スカーフを着用している。一応、変装用に紫織が自分で用意したのだが、蒼空学園の制服を着用しているので、意味があまりないなと後悔した。
「相変わらずお固いどすなぁ。時にはルールを超えることも大切やと言うてはるのになぁ」
紫織と同様に抵抗感がある者がいた。ナイトの空井雫(うつろい・しずく)も本当は入るのを躊躇っていた。
「不法侵入……ですよね?」
しかし、相棒でヴァルキリーのアルル・アイオン(あるる・あいおん)は全然気にしていない。そもそも別荘に誘ったのはアルルだ。
「こういうのって、一度やってみたかったんだー」
「不法侵入を?」
「違うって! もうっ! 細かいことは気にしないの! 大きな悪事を暴くのに、小さな悪事なんか気にしちゃダメ!」
メイドの日奈森優菜(ひなもり・ゆうな)とウィザードの春告晶(はるつげ・あきら)は、パートナーであるプリーストの柊カナン(ひいらぎ・かなん)とナイトの永倉七海(ながくら・ななみ)と打ち合わせをする。
女性のような容姿のパートナーのカナンと七海は、携帯を出しながら確認をする。
「じゃあ、俺とカナンちゃんは外で見張っているから、アキと優菜ちゃんは中の捜索をしっかりね」
「……ん。……ナナ……も」
七海の言葉に晶は真剣な顔で頷く。優菜は心配そうに言う。
「兄さんたちも気を付けてください」
カナンは笑顔で頷く。
「大丈夫、大丈夫。いざとなったら色仕掛けでもして誤魔化すよ」
ローグの瑞江響(みずえ・ひびき)は、扉の前で作業をしていた。鍵穴に細い針金を刺し、細かく指を動かしていく。
カチャカチャ……カチッ
何度か引っかける音が聞こえ、最後に錠が外れる音がする。
「おい、開いたぞ」
響が振り返ると、
「おお! さすが俺様のパートナーだぜ!」
吸血鬼のアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)は嬉しそうに抱きしめようとするが、響はするりと横にかわし、後ろで待っていたセイバーの和佐六・積方(わさろく・せきかた)、雫とアルル、バトラーの清泉北都(いずみ・ほくと)を呼ぶ。
「アイザックは見張りを頼む」
「おうっ! 俺様に任せときな!」
響の言葉にアイザックは胸を張って応える。響にあっさり抱擁を無視されてちょっぴり寂しかったが、そんな事を表に出すことはアイザックのプライドが許さなかった。
「一応、用心の為に僕が『禁猟区』を使って先頭を行くよ」
そう言って北都は『禁猟区』を発動させ、先頭を歩いて行く。
別荘の外では、ウィザードのカイン・ファーレンハイト(かいん・ふぁーれんはいと)が用心深くまわりの様子を確認していた。
「勝手口はないのか」
いざという時の脱出口として期待していたが、出入り口は正面玄関しかないのにがっかりする。
「ねえ! 手伝ってくれない?」
大声でカインを呼んだのはウィザードのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だった。カレンは石でできた古井戸の蓋を外そうとしていた。傍にはカインと同じく脱出口を確認していたローグのガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と機晶姫のシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)がいる。
ガートルードとシルヴェスターは覆面をしている。
「ずいぶん重い石蓋じゃけん、わしらだけでは動かせんのぅ」
「あ、ああ、確かに重そうだな」
カインはシルヴェスターの言葉遣いに戸惑いながら頷く。パートナーのガートルードはともかく、カレンはシルヴェスターの口調など全く気にしていない様子で話している。
井戸の蓋を見ると、奇妙な紋章のような図が描かれている。
ガートルードは石蓋の縁に手を掛けながら、不安そうに言う。
「私はローグなので魔術に詳しくありませんが、何かの魔除けや魔封じのようにも見受けられるのですが……」
ウィザードのカレンとカインは顔を見合わせるが、カレンは笑顔で請け負う。
「大丈夫! 魔法のエキスパートのボクが保証するよ!」
カインは蓋の図柄に見覚えがないため、何も言わなかった。自信たっぷりに保証するカレンは、図柄の意味を知っているのだろうと思ったからだ。シルヴェスターはガートルードの肩をバシバシ叩きながら言う。
「親分、細かい事を気にしていたら、大物になれんのぉ。こういうときはドーンといったれ! 勢いが大切じゃけん」
「……わかりました」
「じゃあ、みんなでいっせーの!」
カレンの掛け声とともに重い蓋が少しずつ動いていく。
別荘の中は、普通の家と変わらないようだった。ソファがありキッチンがある。絨毯をめくったり壁を調べるが何も見つからない。「あれ?」
その時、奥の寝室を調べていた和佐六は、床が奇妙に凹む場所があることに気づく。一緒に寝室を捜索していた北斗は、小柄なせいか歩いても凹まないが、巨漢の和佐六が何度かそこを往復すると、明らかにそこだけ凹む。
「どうしたんだい?」
北都が和佐六の様子に気づき声を掛ける。和佐六は自分が立っている床を指差し、体を揺らしてギシギシッと床が凹むの見せた。
「この下は空洞か!」
北都は急いで他のみんなを呼んで、床板をはずし始める。
床下には階段が続いていた。響はもしも襲撃があった時の事を考え、全員降りるのは危険だと判断する。
「襲撃があった時の為に俺はここで見張っていよう。他に残ってくれる者がいれば、心強いんだが……」
「自分は体型的にこの階段は狭いから……残ります」
和佐六は自分の腹と狭い階段を見ながら言う。
「……私も残ります」
優菜がそう言うと、晶は目を丸くして優菜の服を強く掴む。
「……やだ……よ。ゆっち……残る……なら、ボク……も……」
優菜は困ったように晶に微笑み、優しく頭を撫でながら言う。
「私はメイドですから、もしダンロードさんが別荘に入って来たら、メイドとして雇われたってちょっとの間だけだけど、時間稼ぎができるって思うんです。晶くんはウィザードですから、きっと地下で魔法が必要となった時に活躍できるでしょ?」
「……ん」
晶は目を潤ませながらも頷いた。
その頃、外はすっかり日が暮れていたが、見張りをしていたカナンたちは焦っていた。
暗がりの中、複数の明かりが近づいてくる。
「あ〜あ、よりによってたくさん引き連れているよ。仕方無い。カナンちゃん、時間稼ぎに行こうか?」
「そうだな。遭難中の女の振りでもして、わざと倒れてやろうかな」
七海とカナンは出来るだけ別荘の中の人たちが逃げれるように、複数の明かりの集団に向かって駈けて行く。
七海たちに連絡を頼まれた紫織とアイザックは、お互いのパートナーの携帯へ掛けた。
しかし、すぐにアイザックは舌打ちをする。
「くそっ! 電波が届いてねえじゃねえか!」
「それがしの携帯も駄目です。直接、呼んで来ます!」
紫織は別荘の中に入っていく。カナンたちは何か大声を上げていたが、すぐに駆け足で戻ってくる。カナンと七海は顔を引きつらせている。カナンは息を弾ませながら言う。
「やばい! ダンロードのやつ、俺たちが別荘を捜索していることを知ってる。早く出て行かないと、全員警察に突き出すって。携帯に電話した?」
アイザックは首を横に振る。
「ダメだ! 電波が届かないぜ! 今、呼びに行ってる」
響たちが出てくるが、地下に行った燕達は紫織が呼びに行ったが、まだ出てこない。
ダンロードが別荘の前にやってくる。日が暮れ暗くなっているが、周りの傭兵達の明かりで姿がはっきり見える。ダンロードは唇の端をげ、響たちを見下すように言う。
「学生は大人しく勉学に励んでいればいいものを。学校では勉強しか教えないのか? 勉強の前に常識を覚えるのが先だな……」
ダンロードはふいに眉をひそめる。
「あともうちょっと!」
場違いな元気な声がしてくる。カレンたちは正面から死角になっているせいか、まだ危機に気づかず一心不乱に石蓋を動かしていた。ダンロードはカレンたちのほうに顔を向け、目を大きく見開き悲鳴を上げた。
「ひぃ! やめろ! あけるな! そこは……!」
声に驚いたカレンたちは、石蓋から手を放してダンロードのほうを振り返ったが、石蓋は横に滑り落ち完全に井戸が開いた。
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