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リアクション
マルクトと刀真は機材設置を既に始めたメンバーのところへ駆け寄る。
「皆既日食を一緒に見るとパートナーとの仲が深まるね…わざわざ見なくても十分深いと思うんですけど…あっ、マルクト、今の聞こえました? 月夜には内緒にしておいて下さいね、少し恥ずかしいので」
「うん。君たちは仲が良いんだね」
「ケテルさんとマルクトも、充分仲がいいじゃないですか。あんなふうに言い合える姉弟って羨ましいもんですよ。さあ、高性能天体望遠鏡を設置し直しましょう!」
刀真の言葉に、マルクトは笑顔で応えた。
『星見石』に向かったメンバーとは別に、キャンプ地に居る生徒たちも、それぞれに観測の準備や場所取りを始める。
午前11時。空がざわっとし、鳥が鳴く声が聞こえ始め、山々の木々がざわつき始める。明らかに、さっきとは空気が全く違う。
「いよいよね」
環菜が呟くと、空の様子が変わり始める。どんどんと夕暮れに近くなり、幻想的な世界に迷い込んだような感覚を見る者すべてに与えてくる。わあっと歓声があがったが、すぐに静かになってしまう。あれだけの人数が居るはずのキャンプは誰も声を発そうとはしない。
そんな美しいエクリプスの最中に、良からぬことをしているのが、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)だった。
いつもはそのナイス・バディを余すところなく見せている魅世瑠だったが、今回は目立たないように地味だと本人は思っている、マイクロビキニ風に改造したツナギを着込んでいた。
生徒たちは夢中で空を見上げている。
「ふふふ。チャンス到来! こんな時こそ盗みに盗んじゃうよ」
エクリプスに乗じて、予め複数のカップルに目星を付けておき、「隠れ身」を使いながら、自分の世界に入っているカップルたちの荷物をせっせと置き引きしていたのだった。それをパートナーのフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が草むらでピックアップし、金目の物を選んでいく。
「フル、そっちはどう?」
「今のところは、大丈夫よ」
「そこで何をしている!?」
警戒にあたっていた清泉 北都とクナイ・アヤシが魅世瑠を見つけ、駆けつけてくる。
「やべ! 見つかった!」
「パラ実の生徒だね!? ちょっと変わった服装だから、警戒していたんだ」
「なんだよ、人の服装にいちゃもんつけるのかよ〜それにパラ実生は『かいきにっしょく』も見ちゃいけねぇってのかよ!」
「君がやっていることは、エクリプス・ハンティングではなくて、盗みだよね」
「ぐ! そう言われちゃったらどうしようもないわな。ええ、盗賊バカ一代、というかバカ盗賊一代ですみませんってか?」
「魅世瑠! 助けに来たわよ!」
その時、フローレンスが出した光条兵器で魅世瑠が北都に目くらましを浴びせ、ダメージを負わせようとした。
「こんな所で、無粋だね」
しかし北都は禁猟区を張り、デリンジャーで応戦する。ぴりぴりとした気迫がぶつかり合う。
「ち! 逃げるが勝ち、ずらかるぜ、フル!」
「OK、魅世瑠!」
二人は再度、光条兵器を使い、そのままキャンプから凄まじい勢いで遁走していった。
「あーあ! せっかくのチャンスだったのに! ねえ、フル・モンティ」
「その名前で呼ぶのは止めてよ」
「じゃあ、『Steel Stripper』か、『ロバート・カーライル』」
「誰も意味がわからないと思うんだけど。でも追っ手も来ないようだし、魅世瑠、ちょっと遠くからだけど『かいきにっしょく』とやらを見ていこうじゃん」
「そうだね。フルとの思い出になるしね! ところで『かいきにっしょく』ってなに?」
「北都、追わなくて良いのですか?」
クナイ・アヤシが慌てて北都にヒールを施そうとしたが、それを北都は断った。
「ああ、僕は大丈夫。それに彼女たちは草むらに金目のものをおいていったから、被害はないよ。それに追いかけるのは、もったいないよ。せっかくのエクリプスだ。クナイと一緒に見たい」
にっこりとほほえみかける北都にクナイは心を打たれる。
「北都…」
「また次に見られる時が来たら、その時も一緒に見ようね」
「是非、また」
360度に渡り地平線のあたりだけが、うっすらと明るくなる。やがて昼間とは思えない涼風が吹き込んで、今までとは違う空気が忍び込んできた。それとともに空が青から黒へと変色していくと、徐々に太陽が月にすっぽりと隠れはじめる。
「エクリプスの始まりだ」
誰かのつぶやきが聞こえた。
分刻みで太陽は月によって侵食され三日月型になり、さらに細く新月型に太陽は形を変えていく。ざわめきは完全に無くなり、生徒たちは言葉を失っていた。どんどんと光はこの大地から失われて、闇が世界を支配し始める。そして、体感温度はますます下がる一方だった。
冷戦中だったベアとマナは先ほどのケテルとマルクトのやりとりを見たあと、反省しきりだった。そして二人はそっと寄り添いあい、空を見上げる。
「マナ、ごめんな…」
「私の方こそ…ごめん。素直じゃなかったね」
「仲直りだ」
「うん、仲直りしよう。大好き。ベア」
「オレも」
由香とルークは機材を守りながら、ダイアモンド・リングを見つめていた。
「由香、オレ、すぐにデカくなってやるんだからな! 見てろ! エクリプスもみてろよー! オレの成長を!」
「うん、楽しみにしてるよ、るーくん」
文乃はぶつぶつと「どうか、どうか良い人と出会えますように」と願いを繰り返し呟き、その横には苦笑いする真彦がいる。
東條 カガチと柳尾 なぎこも空を見上げている。
「謎肉、売れたなあ…なぎさんのおかげだよ」
「だって、カガチのお嫁さんだもん! 当然です」
ミルフィと有栖もうっとりとした雰囲気に浸っている。
「…お嬢様…日食、綺麗ですわね…」
「…はい…」
ミルフィは、有栖をふわりと後ろから抱きしめたが、有栖も嫌がるそぶりは見せず、頬を赤らめつつミルフィにその身を委ねていた。
「ねえ、ミルフィ…」
「はい?」
「ずっと…、ずうっと私の傍に、いて下さいね」
「はい…ずっと、お嬢様のお傍に…」
ミルフィはいっそう有栖を抱きしめた。
御厨 縁と、サラス・エクス・マシーナ、葉月 ショウと葉月 アクアも美しい天体ショーに見入っている。ウィングは愛美をそっとエスコートし、空を見上げた。
佐々良 縁と、佐々良 皐月も同様だった。
「これからも縁と仲良くいられますように…」
そっと、皐月はお祈りする。
楓耶はエクリプスを眺めながら、側にはいないパートナーに思いを馳せた。
「どうしているのかな…一緒に見たかったなあ」
ゆうはカティアと空を眺める。
(ゆうは私にこのエクリプスを見せるため、プロジェクトに参加してくれたのね…ありがとう、ゆう)
カティアは日食グラスを通して、一生懸命、空を見上げるゆうの横顔を見つめた。
沙幸と美海はラブラブでくっついて空を眺めていた。
「私はねーさまと一緒にいられれば、エクリプスなんてどうでもいいの。ねーさまとずっと一緒にいたい」
沙幸の言葉に、美海も笑顔を浮かべる。
「もちろん。わたくしと沙幸さんとの絆は十分強いですものね」
緋音と、ひなもうっとりとエクリプスを見つめていた。
「エクリプスを通して大好きなひなとの絆がもっと深まりますように…。そして、これからも一緒にいられますように…」
そんな緋音を、ひなはこっそりとビデオで録画保存していた。
「緋音ちゃんのナイスショット、いただき」
ロイとミリアもうっとりと空を見上げている。
「柄にもなく、感動しちまうぜ。ミリア、一人でも来るつもりだったのか?」
「ええ。でも、ロイ、あなたと見られて本当に良かったです…」
ユニはクルードの腕に掴まり、エクリプスを堪能している。
「良かったな、ユニ。エクリプスが見られて」
「はい! クルードさんとの思い出が出来ました。もちろん、恋愛運アップにもバッチリ…」
「何をぶつぶつ言ってるんだ、ユニ」
「なんでもありません。ただ、クルードさんとこんな素晴らしいものを見られたのが嬉しいのです」
「そうか。ユニがそういうのなら、ここに来て良かった」
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