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リアクション
第1.5章 貴方と鐘を鳴らしたいんだけど……?
(アヤと優勝を目指したいのですが……)
クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はパートナーである神和 綺人(かんなぎ・あやと)と共に、優勝して鐘を鳴らしたいと願い、町を訪れた。
けれど、肝心の綺人はというと、ただ秋の味覚の並ぶ屋台を回って、食べ歩いているだけだ。
「ねえ、アヤ。優勝目指して鐘を鳴らしてみたりは……」
「別に相手がいないから、興味ないな」
綺人が買い物した屋台でスタンプを貰ったクリスは、ふと聞いてみた。
けれど、綺人から返ってきたのはその気のない答えだ。
「そ、そう……」
折角のチャンスだというのに、相手に興味なければ、鐘は鳴らせないだろうか。
そんな思いがクリスの中を過ぎっていく。
けれど、もしスタンプが貯まって優勝することが出来れば……と、淡い期待を持ちながら、綺人が買い物をする屋台でスタンプを貰っていく。
「あ、あそこの屋台、甘栗を売ってるみたいだよ」
屋台の1つを指差して、綺人が嬉しそうに告げる。
「買いに行きましょう?」
クリスがそう告げれば、綺人も乗り気で屋台へと足を向けた。
(……2人きりで出かけられたことに、満足するしかないですね)
少しはスタンプを集めてみようとも思うクリスであるが、鐘を鳴らすより何より、今、この時間を楽しもうと、綺人の後を追った。
(大食いはわらわの得意分野じゃからのう。こんなチャンスは滅多にないからなんとしても優勝して主様と鐘を鳴らすのじゃ)
食べることに関しては自信のあるセニス・アプソディ(せにす・あぷそでぃ)は、パートナーの黒霧 悠(くろぎり・ゆう)を誘い、町を訪れていた。
悠も食い倒れ祭りの名に、彼女らしいと思いながら誘いに乗ったのだが、町に着き、受付をしているセニスを待っていると、優勝者へ縁結びの鐘を鳴らす権利が贈られることを知る。
(そういうことか……)
彼女が自分へ好意を抱いているというのは薄々感じている。
けれど、今後、彼女との関係がどういう方向へ転じるのであれ、今はまだ、彼女の思いに答えることは出来ないのだ。過去に、恋人と死別した悠としては――。
もし優勝することが出来て、鐘を鳴らしたとしても、彼女が思いを打ち明けようものなら話を逸らそう。
そう思っていると、受付を済ませたセニスが戻ってきた。
「主様、これにスタンプを集めれば良いらしいのじゃ。食べて食べて、食べまくるのじゃ♪」
「そうか。たくさんスタンプが集まるといいな」
嬉しそうに話すセニスに、悠が答えれば、「早速食べるのじゃー!」と手近な屋台に向かって行く。
逸れないようにそれを追いかけながら、彼女の幸せそうに食べ物を食べる姿で楽しませてもらおうと思う悠なのであった。
(風恒と2人、鐘を鳴らすというのは、わたくしの思いとして妥当なものなのでしょうな……?)
先ほどからおかず系や軽食などの屋台を梯子している葉 風恒(しょう・ふうこう)の姿を見ながら、彼のパートナーであるダレル・ヴァーダント(だれる・う゛ぁーだんと)はそんなことを思っていた。
ダレルが風恒に対して抱いている思いが、恋愛感情としてのものなのか、そうでないのか、自分自身、分かっていないのだ。
(それ以前に、世間体にはどうなのでしょうな)
恋愛感情かどうかを考えていれば、ふとそんなことへと思い当たった。
自分も彼も男なのだ、と。
考えは纏まることなく、それを風恒に知られまいと平静を装いながら、彼の後を追う。
「この甘栗、美味いなー」
おかず系や軽食などを食べ、ケバブやタコスなど珍しいものなども味わった後、甘栗の屋台を見つけた風恒は笑顔で一袋求めて、それを抱えて歩いていた。
「ええ」
袋の中から甘栗を取り出しては、皮を剥き、風恒へと渡しているダレルの顔は時折怖ろしいものとなっており、彼らの周りに近付く者たちは居ない。
誰も近付かないことにも、ダレルが空返事をしていることにも気付かない風恒は、ただ渡された、剥かれた栗を食べていく。
集まらないだろうと思いつつ貰ったスタンプカードも気付けば、半分埋まっていた。
「そんなに食べられないだろうから、関係ないよねー」
スタンプカードが半分埋まっているということはそれだけ食べたということだ。
腹具合もほぼ満腹感を感じ始めている。
悶々と自問自答を繰り返すダレルと、それに気付かず甘栗を食べ続ける風恒は、並んで通りを過ぎていくのであった。
「縁結びの鐘にエメネアのちゅー、か。興味はないけど、秋の味覚をたくさん食べ歩く良い機会だ、コンプリートくらい目指そうぜ」
受付で、食い倒れ祭りの賞品を見た星野 翔(ほしの・かける)がパートナー2人にそう告げる。
「はい、頑張りましょう」
コンプリート=優勝すれば、翔と鐘を鳴らすことが出来る。
そう考えて、イリス・アルバート(いりす・あるばーと)はこくりと頷きながら答えた。
「おにーちゃんとはもうらぶらぶだから、鐘なんて鳴らさなくたって大丈夫なの!」
一方で星野 巡(ほしの・めぐる)は、そう言いながら、翔の右腕へと抱きつく。
「こら、危ないだろう?」
急に腕に抱きつかれて、驚いた翔は声を上げる。けれど、巡が離れる様子はなく、彼女がくっついたまま歩き始めることになった。
優勝目指して食べ歩くことにしたとは言え、イリスと巡はスタイルの気になる年頃の女の子だ。
食べすぎで太りたくない。そう思ったイリスは低カロリーそうなものを探してみた。こんにゃく、の文字を見つけて近付いてみれば、大きな鍋の中で、おでんがぐつぐつと煮えている。
「これなら食べられます」
頷き、イリスは1皿購入した。もちろん、スタンプを押してもらうのを忘れずに、カードを差し出す。
一方、巡はというと、スタイルが気になるとはいえ、太りたくない、というものではない。
彼女の視線の先にあるのは、イリスの胸部――形、大きさ、どちらをとっても申し分ない豊かな膨らみ、だ。
翔の腕に抱きついても何も反応されない自分の胸へと視線を落とせば、そのまま足元が見えるほど、膨らみがない。
身長も高くも低くもないイリスと比べれば、まだまだ小さく、どれだけ思いを寄せようとも、妹扱いしかされていないのも事実だ。
(何を食べれば、あれくらい大きくなるのかな?)
もう一度イリスの胸をじぃっと見て、辺りの屋台を見回す。
豊胸に良さそうな食べ物は分からないけれど、様々な屋台が巡を誘うように並んでいた。
「おにーちゃん、片っ端から食べて行こうよ!」
スタンプカードを埋めるということは大半の屋台をクリアしていかないからには、スタンプは貯まらないであろう。
様々な食べ物の中に、成長を促すようなものがあればと願いながら、翔の腕を引っ張って、巡は食い倒れに挑み始めるのであった。