|
|
リアクション
第3章 秋の味覚を楽しもう!
「収穫祭かぁ〜。ホントは祭りっていうより採ったばかりのものを使って料理したいんだけど、まぁ今日はお客って事で♪」
料理をするのが好きなミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)としては、素材を手に入れて、自分で料理をしたいところである。けれど、今日ばかりは他の人が作る料理を楽しもうと、エルデの町へやって来た。
今後、自分で料理するときのことを考え、変わったものを食べようと、屋台を見回す。
秋野菜を使ったスープや串焼き、祭りの屋台らしいたこ焼きやアイスクリンなどが並ぶ中、タコスやケバブ、チヂミの文字をミルディアは看板に見つけた。
「おすすめのタコス、1つください!」
初めに向かったのはタコスの店。いろいろ種類があるようだが、まずは店主のお勧めするものを食べてみようと、そう言って注文する。
「お勧めはノーマルなこれだな」
そう答えて店主が出したものの具は、ロンガニーサと呼ばれるソーセージにシラントロ、タマネギをトッピングした、シンプルなものだ。
「ありがとう」
代金を支払うと、店主はそれを受け取った後、スタンプを手にする。
「おや、カードはいいのかい? 優勝すれば縁結びの鐘を鳴らせるよ?」
「え? 縁結びの鐘? そんなん関係ないよ! ただただ美味しいものが食べれればそれでしゃ〜わせだし♪」
首を傾げる店主に、ミルディアが答える。
「それは珍しいな。でも、作ったもんを食べて、美味しいって言ってもらえるのはありがたいこった」
店主はスタンプを置きながらそう告げる。
「うの〜♪ 美味しいね〜♪」
聞いてたのか聞いてなかったのか、買ったタコスへと噛り付いていたミルディアはそう声を上げるのであった。
「皆さん、がんばりますねぇ〜。これも、若さですかねえ……」
スタンプを集めている様子の祭り客を目に、藍乃 澪(あいの・みお)は呟いた。
「嬢ちゃんは若くないっていうのかい?」
そんな言葉を聞いて、彼女と向かい合っている屋台の店主が首を傾げる。40は越えていそう店主から見れば、澪も充分若いだろうに、と。
「あ、いや、先生も若いですよ?」
癖で自分のことを『先生』と呼びながら、澪は慌てて、訂正する。
「そうだろう。若いのに、中身だけ老いてたら、人生つまんねえぜ? はい、お待ち!」
頷く店主が澪へと差し出したのはリンゴや葡萄、みかんなど、秋の果物を使ったフルーツパフェだ。
「わあ、美味しそうですね。ありがとうございます」
代金を支払う澪は、スタンプは遠慮して、それを手に歩き始める。
参加している学生たちがたくさん居るのであろう。彼らを応援するために。
「ごっはん、ごっはん♪ 美味しいご飯♪ 食べちゃうよー、食い倒れちゃうよー。めざせっ、全店制覇だよっ!」
フィーニ・レウィシア(ふぃーに・れうぃしあ)は早速両手に食べ物を持ちながら、歩き始めた。
「フィーニったら、お行儀悪いですね。他の人に迷惑かけなきゃ、いいんですけど」
その様子を見て、リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)がぼやく。
「まあまあ。今日はそういうものにも寛大だよ、きっと」
祭り客にも屋台の店主にも笑顔が溢れている。
それを見て、七瀬 瑠菜(ななせ・るな)はリチェルを宥めるようにそう告げた。
「そうですか?」
「そうだよ」
それでも首を傾げるリチェルに、瑠菜は頷きながら答える。漸く納得したようで、リチェルは果物を取り扱っている屋台へと足を向けていった。
「いつも作る方ばかりだけど、今日は食べる方に回ろうかな」
瑠菜は言いながら辺りを見回した。様々な屋台が並んでいる。
彼女は適当に屋台へと近付くと早速1つ注文して、食べてみた。
「へぇ、こんな料理もできるんだね。今度作ってみようっと」
流石は料理人というところか、何を食べても次に自分で作るために味を分析しようとしてしまう瑠菜。
「あ、こっちは隠し味にハーブを使ってあるのかな」
細かなことにも舌が働く。
「あのー、すみません。これのレシピってどうなってるんですか?」
瑠菜の言葉に得意げになる店主も居れば、味を盗まれないかと睨んでくる店主も居た。
前者は簡単なレシピを教えてくれるけれど、後者はあっちいけと言わんばかりに無視を決め込んだり、次の客が居るからと追い払ったり。
それでもめげずに、瑠菜は様々な屋台を回る。
果物を求めたリチェルは、様々な秋の果物を楽しんでいた。
「リキュールとかにするともっと美味しくなりますよね」
そう呟いたところでワインの店はないのだろうかと思い当たり、探して会場を彷徨う。
一方、早々に駆け出していったフィーニは、片っ端から順に食べ回っていた。
既に制覇した屋台は十数軒。
新米のきりたんぽ、栗ごはん、秋刀魚の塩焼き、松茸と銀杏の茶碗蒸し、小鯵の南蛮漬け、鰹のたたき、鮭とジャガイモのコロッケ、サツマイモのミルク煮、鯖味噌煮、茄子の田楽、肉じゃが、里芋の煮っ転がし、レンコンとサツマイモのカレー揚げ、などなどだ。
その小さな身体の何処に入っていっているのか、周りで見ている皆が疑問に思っている。
「そういえば、一緒に来た瑠菜とリチェル、どこ行ったのかな?」
ふと同行者のことを思い出し、フィーニは周りを見渡す。
すると、屋台の中に居る瑠菜を見つけた。
「……あれ、どうしてそっち側にいるの?」
「フィーニ! えっとね、おばちゃんが味教えてくれるっていうから、お言葉に甘えて」
訊ねるフィーニに、瑠菜が照れながら答える。
「お嬢ちゃん、良かったらこの子がさっき作ったの、食べてみて。素質が良いみたいで、すぐに私の味を覚えたみたいでね、おばちゃん、びっくりよー」
店主の女性は、にこやかにそう告げた。
差し出されたのは、トン汁のようだ。豚肉の周りに、秋野菜がごろごろと入っている。
「わあい、いただきまーす!」
受け取ったフィーニは早速食べてみる。店主が作ったというものも食べ比べてみると、確かに、味にほとんど差がなかった。
「すごいね、瑠菜。それじゃあ、ボクは次の屋台、行くから」
ごちそうさま、と手を合わせたフィーニは足早に次の屋台へと向かっていく。
「ヤバイ、太るよ!」
スイートポテトにリンゴ飴を手にしたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は声を上げた。
「それなら妾が食べてあげるのじゃ」
そう言ってミア・マハ(みあ・まは)は、レキの手にしたリンゴ飴に噛り付いた。
懐事情も考えて、食べ物は2人で1つ。半分こしているつもりなのだが……。
「ちょっとミア、取り過ぎ!」
代金を支払っているのは自分のはずなのに、取り分はパートナーの方が多い気がする。
そんな風に嘆きながらレキはスイートポテトの残りを口へと放り込んだ。
「スタンプを集めるには数をこなさねばならぬのじゃろう? ならば、2人で分け合った方が早い。妾はその手伝いをしてやろうと言うのじゃ、喜べ」
尤もらしい理由を述べるミアが悪びれる様子はない。
「レキ! 次はあの店なのじゃ!」
言いながら駆け出すミアをレキは追う。
「何か納得いかないよ……」
それでもレキは代金を支払い、カードにスタンプを押してもらっていった。
「ゲームは勝たなくちゃ意味ないもんね」と、自分に言い聞かせながら。
その後も魔力を操るのに精神力がかかり、栄養補給には甘いものだというミアの言葉の元、2人は甘味、菓子を中心にスタンプを集めて回った。
時には見た目がチャレンジ精神に溢れているものもあったけれど、ミアはそれも気にせず食べていくのであった。