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リアクション
2.それぞれの思惑
生徒たちが、それぞれの思惑や欲望を抱いていることなど構うものかとばかり、プラティコの装置本体は、イルミンスールの大図書館めがけてスピードを上げていた。
「おお! すごいな。おっと、感心している場合じゃない。タイミングを見計らって突入しないとな」
そういったのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)と、彼の肩に乗っかっているドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)だった。
クロセルが取り込もうとしているのは・・・・・・そう、イルミンスールナンバーワンのグラビア雑誌!
これを見てニヤニヤと卑猥な笑いを浮かべている変熊 仮面(へんくま・かめん)と鳥羽 寛太(とば・かんた)に、クロセルは言い訳ならぬ「意気込み?」を見せる。
「・・・・・・なんだか、こんなのも持っていたら女性陣からの人気が著しく下がるような気がしてならないのですが・・・・・・あ、でもいっときますが、これは年齢制限がかかるようなシロモノじゃないですからね」
「いや、クロセル、グラビア片手に装置を追いかけまわしている時点で最早手遅れだよ」
2人からの突っ込みに、クロセルは少し恥ずかしいと思ったようだ。
「で、では、本屋さんの紙袋に入れていくとしましょう!」
そういうと、グラビアを突撃するタイミングを待っていた。
一方のマナ・ウィンスレットはきょとんとした表情で、自分が用意した「おすすめスイーツ」という本を取り込ませるタイミングを見計らっている。
マナはまだ、クロセルがプラティコ装置に何を取り込ませようとしているのか、知らないのだ。
「へへへ、クロセルも面白そうなことをしているな。だが俺は貴様とは似ているが正反対のことをやってやる」
変熊 仮面(へんくま・かめん)はそういうと、持ってきた雑誌『超淫乱・・・・・・』のページをパラパラとめくってみせた。
そこに描かれていたモノはといえば・・・・・・
・・・・・・全裸の相撲取り、髭面褌おやじ、お色気ポーズの男子柔道部員・・・・・・
これを見たクロセルは、納得の唸りを漏らした。
「確かに、俺が目論むグラビアアイドルとは似て非なるものたちですね・・・・・・」
「やれやれ、彼らはどうしてああなんだろうね・・・・・・さて、ワタシたちはワタシたちの捕獲作戦を展開するよ」
変熊 仮面たちの行動に少々眉をひそめていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、パートナーたちと準備したものを確認しあった。
佐々木 弥十郎が用意したものは・・・・・・料理の本、通販のカタログ、電話帳、鎧や甲冑などの美術書といった類の書物だった。
「やっぱり、プラティコをおびきよせるためには囮が必要だからね。でも、実体化させたら途端に暴れだすようなものは危険だからよくない。その点、ワタシの準備した本なら危なくないでしょ。これで装置をおびき出しましょう」
「さすが貴公の考えることは、計画的ですね・・・・・・それにしても、このプラティコ、貴重な本を取り込んで、その情報を実体化させるとは、なんとも破廉恥な装置だといわざるを得ませんね! 錬金術の研究成果という意味では、評価できる部分もありますが・・・・・・だからといって、あんなものを考えた人間は、ひとつお灸をすえてやらないといけませんね」
仁科 響(にしな・ひびき)はこういって、騒動の元凶を作り出したテスタ・ヌオーブを批判した。
仁科にとって書物とは、頭の中に情報を蓄積し、そこから色々な想像をしたり、それらを組み合わせたりして新しいものを生み出すというためのものなのだ。
だから、本の実体化というのは仁科 響にとって許せないのである。
熊谷 直実(くまがや・なおざね)は、黙って作戦に加わっている。
彼も、仁科の考えに同調しつつ、彼女の作戦が、戦術観点からも面白いものだと感じていたから、協力を惜しまない心積もりなのだ。
餌となる本を用意して、装置をおびき寄せ、そして捕獲しようという点では清泉 北都(いずみ・ほくと)も同じだ。
「さて、どんな本を用意すればいいのかな? なんでもよければ鞄に入っている教科書や参考書でも大丈夫だろうし・・・・・・あとは温泉の本やぬいぐるみの本なんかでもOKなのだろうかねぇ?」
北都がそうつぶやいていると、パートナーの白銀 昶(しろがね・あきら)がネットをかついでやってきた。
「ふう、このネットは魔法学校の体育倉庫から借りてきたぜ。さあこれで準備はOKさ。
北都、オレは隠れ身で待機している。それで、装置がおまえの用意した囮の本に興味を示して近づいてきたら、このネットをかぶせて捕まえてやるんだ。あるものは有効的に使わないとな・・・・・・恐らく、いろんな人間がこの装置の悪用を考えてるだろうから、うっかりそいつらに奪われないようにしないと大変なことになるぜ」
そういうと、2人はそれぞれ配置についた。
清泉 北都は、作戦遂行に緊張しながらも、プラティコがどんな本でも実体化するという話に興味がないわけではなかった・・・・・・。
「確かにこれって危険な装置だけど・・・・・・もし、誰かのアルバムを取り込んだら、中の人たちも全部出てきちゃうのかなぁ? 校長先生のアルバムがあったら凄い事になりそうだ。いや、でも作戦が優先。捕まえなければ!」
清泉 北都のつぶやきを聞くともなく聞いてしまった葉 風恒(しょう・ふうこう)は、興味深そうに話しかけた。
「北都さん、あなたなかなか面白いことを考えるね。実は僕も、難しい本を取り込んだらどうなるか見てみたいんだよ」
そういって、葉 風恒は小難しい本の名前を次から次へと口にした。
「紀元前中国の官制が書いてある『周礼』や『礼記』、あるいは歴史書なんかを突っ込んだら古代王朝の様子が再現できるのだろうか?」
「デカルトやらフッサールやらニーチェやらの難解な哲学書を取り込ませたら何が出てくるのだろうか?」
「相対性理論の論文をプラティコに放り込んだら、ブラックホールが出てきちゃったりするんだろうか?」
「そしてそして、もしかして聖書とかコーランとか入れたら神が出現したりする!?」
「ちょ、風恒さん、もういいですよ。全然わからないよぉ」
清泉 北都に制止されて、ようやく葉 風恒は弁舌を止めた。
『風恒さん、ものすごくわくわくしてしゃべっているけど、けっこう地味に危険なことを考えているなぁ』
「え、なんかいった? さあ、本を取り込ませに行こう!」
焦る北都のことなどお構いなしといった感じで、葉 風恒は小難しい本を山のように持ち出し、装置のある場所へと向かっていった。
装置を止めるというよりもむしろ、装置を襲いかねない勢いを北都は感じていた。
葉 風恒に負けず劣らず、スゴイものを取り込ませようとしているのは朝野 未沙(あさの・みさ)だ。
彼女が実体化させようとしているのは、なんと戦車。
しかも、既刊の本を取り込むのではなく、自分で戦車の製造方法を調べ上げ、本を作るという入念さ。
「うふふ、この自作本を装置に取り込ませたら、どんなものができるのかな? すっごく楽しみ。ぜひ見届けなくちゃね」
そういうと、朝野 未沙は本をプラティコの来そうな場所にばら撒き始めた。
その数およそ20〜30冊ほど。
とにかく、大量に取り込ませるつもりらしい。
その頃、絹屋 シロ(きぬや・しろ)は道に迷っていた。
「あれ、こっちが大図書館だっけ? うーん、わからなくなっちゃった。やっぱり魔法学校の地図を持ってくるべきでした・・・・・・」
「図書館はこっちだよ。プラティコはおそらくこの通路を走って図書館に行くだろうよ」
シロに助け舟を出したのは夜薙 綾香(やなぎ・あやか)だった。
「あ、ありがとうございます、夜薙さん。私、プラティコの話を聞いて、その装置に音楽の楽譜を取り込ませてみたいと思ったんですよ」
「へぇー、楽譜とは意外なところを突いてくるな。でも、なんかそういうのロマンティックでいいね。みんな、グラビア雑誌だの戦車だの、ロクでもないものばかりを実体化させたがっているから・・・・・・楽譜を取り込むってのはいい発想だと思うよ。これなら取り込んでも害になるどころか、人類を益するものだからね」
「夜薙さんにそういっていただけてうれしいです。で、キミは何を取り込ませるつもりなんですか?」
「え、私? そうね、まずは手元にある魔術書とクトゥルフ神話関係の書物かな」
「神話かぁ、素敵ですね」
「そう? ありがとう。でも、概念だけのものなんかも実体化できるのかしら?」
「それはどうでしょうね? やってみないとわかりません」
「そうだ! やっぱり大量の本を取り込ませるなら、装置を図書館へ誘導するしかないわね。メーガス、行くわよ」
「え? 夜薙さん、まさかプラティコを図書館に入れるつもりじゃあ・・・・・・」
夜薙 綾香を制止しようとする絹屋 シロを、メーガス・オブ・ナイトメア(めーがす・ないとめあ)が遮った。
「我は装置移動中は綾香と連携して、諸々への対処をしよう。それで、追撃者も増えてきたら、いよいよアレをやる時だな。」
メーガス・オブ・ナイトメアはこういうと、不適な笑いを浮かべて、何かが書き込んである本を大事にしまいこんだ。
これをみたマシュ・ペトリファイア(ましゅ・ぺとりふぁいあ)は、不思議そうに尋ねた。
「メーガス殿、その本はいったい何?」
「ふふふ、ひ・み・つ。それよりマシュ・ペトリファイア、あなたは何を取り込むつもりなの?」
「あ、俺はコカトリスさ。魔物図鑑のコカトリスのページを切り取って、白紙のノートに張り付けたんだ。こうすれば必要なものだけ実体化できるでしょ。石化のできるコカトリスを実体化させて、俺自身の使い魔獣にしたいんだ」
これを聞いた夜薙 綾香が横槍を入れてきた。
「ふーん、石化かぁ。君自身が石にされないように、せいぜいがんばることね」
「大丈夫。その辺にぬかりはない。絶対にヤツの目を直視しないように気をつけるし、また、コカトリスが吐くブレスが届かない距離にいるからさ」
マシュ・ペトリファイアの話を遮るように口を開いたのはヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)だった。
「コカトリス? そんな鳥を出したところでなにが面白いのかしら♪ 世の中お金が全てよ! 」
ヴェルチェは、その妖艶な雰囲気をプンプンと匂わせながら、さらに続けた。
「装置で実体化するものですって? 世界のお宝が載った本なんかいいわね。近代兵器のマニア本なら、武器商人になってシャンバラ教導団を相手に儲けるってのもひとつの手かも。そうすれば、パラ実を牛耳るカギになるかもしれないわね」
「ヴェルチェ・クライウォルフ殿は、装置を金儲けに利用するつもりなのか? そう簡単にプラティコが捕まえられると思っているのかい?」
「あら、マシュちゃん。別に、プラティコそのものを確保しなくたって、設計図が手に入ればかまわないわ。だって、パラ実にも、他の学校を追い出されてやってきた優秀な技術者がいるかもしれないでしょ。だから、テスタ先生の研究室に忍び込んで設計図をいただいちゃうのよ。ええ、あたしのトレジャーセンスがあればテスタ先生にみつからずに設計図を失敬するなんて簡単だわ。ついでに、もっていけそうな研究品があれば、一緒にいただくつもりよ♪」
「ヴェルチェ殿にはかなわないねぇ・・・・・・」
こうやって、捕獲を目論む生徒たちは、各々の思惑を秘めながら、またおおっぴらにしながら、装置へと向かっていった。
※ ※ ※
装置を破壊しようと考える生徒たちも、十人十色の考え方があった。
水神 樹(みなかみ・いつき)は、愛用のハルバードを携え、
秀真 かなみ(ほつま・かなみ)と一緒に装置を破壊すべく、進んでいた。
「かなみ、私一瞬ね、古代の神話に出てくる武器の本を装置に取り込んでみようかなって考えたんだけど、やめることにしたの。だって、騒ぎを収めるために私たちは動いているのに、そんなことしたら火に油を注ぐ結果になるでしょ」
「さすが師匠! 考えがしっかりしてるね。あたしも本当は船の本を取り込ませてみたいなーなんて思ったんだけど・・・・・・海賊を自称してるのに、あたしは自分の船を持ってないから・・・・・・でもやめる。ううん、全然大丈夫だもん。船はいつか自分の力で手に入れるから」
「うん、かなみは偉いね。でもね、えへへ、私、この動物の本を取り込んでみようと思うの。ほら、犬や猫やうさぎが載ってるでしょ。これだったら実体化しても害はほとんどないと思うから」
「それはいいねー。うん、やっぱり師匠は頭がいいや!」
朱宮 満夜(あけみや・まよ)も、本の中身を実体化するなどという危険な装置は、壊すに限ると信じていた。
好奇心ほど危険なものはないということを、満夜はよくわかっているからである。
「みんな、自分の欲望のため、モンスターを実体化させようとしてるわ。でも、それって元はといえば、本なのよね。ということは、弱点は炎じゃない? だから、私が炎術の魔法で攻撃すれば、実体化が阻止できるかもね。これ、ミハエルはどう思う?」
「満夜のアイデア、いいと思うよ。我輩も、古紙を燃やして機械に食べさせる方法を考えていたところなんだ。こうすれば、実体化が阻止できるし、装置の内部からダメージを与えられるでしょ・・・・・・とにかく、あの機械は壊しつくさねばならんね。生徒たちのなかには、邪な目的、特にえっちな方面での利用を考えている連中がいるようだから・・・・・・」
水神 樹のほかにも、動物の本を実体化しようと考えたのは
七瀬 瑠菜(ななせ・るな)だった。
「装置にはなにを投げ込もうかなぁ? 教科書投げ込むと、悪い夢見そうだし・・・・・・そうだ、可愛い動物の赤ちゃんの写真集なんていいかもね。そう思うでしょ、フィーニ」
「うん、そういうことなら、あたしもどんどこ投げ込んじゃうよ! お菓子の本とかぬいぐるみとか・・・・・・そういうのだったら悪いことなさそうだもん。ね、リチェル」
「私は、ラドゥさんのところの『鬱屈たる夜の調べ』なんて、興味あります。これを取りこんじゃうと、どうなっちゃうんでしょうね? そんなわけで、はい、フィーニ、これもお願いね!」
リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)はそういうと、
フィーニ・レウィシア(ふぃーに・れうぃしあ)に本を手渡した。