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リアクション
●8:戦場は空中から船内へ
今やはっきりと、大空の戦いは冒険者側に有利に傾いていた。
空賊の駆る飛空艇は次々と落とされ、3隻の船はヴィルベルヴィント号に肉薄し、冒険者たちを船内に送り込む。戦いの場は大空から船上へとシフトしていった。
「……大半は出払っているようだな。だが、油断は禁物だ。『目標』の確保まで気を抜かずに行くぞ」
「了解です、若頭」
甲板に降り立った橘 恭司(たちばな・きょうじ)と黒服 琢磨(くろふく・たくま)が、光学迷彩を纏って甲板上を奥へと進んでいく。シュヴァルツ団は中堅の空賊であるとはいえ、その総勢は20名ほど。その大半が空戦に駆り出されたとあっては、船の警護を担っているのはごく数名に過ぎない。当然数名では全ての部屋を守れない。となれば、重要な『ブツ』がある場所に優先的に人員を配置するほかない。
「……向こうに人の気配が複数あるな。位置からして操縦室といったところか。できれば今はそこは避けたいところだが」
恭司の目論見は、事前に【目標】であるシズルを確保し、脱出を琢磨に託してから、自らはヴィンターリオ及びシュヴァルツ団を足止めにかかる、そういうものであった。ただし、そのためには操縦室を抜けてさらに奥に行く必要がある。
「抜けてしまいましょう。人ったって数名のはずですし、俺たちの姿は光学迷彩で映りにくいはずです」
琢磨の言葉に思案して、そして恭司がおもむろに操縦室へ近付いていく。開かれた扉を抜けさえすれば、後は船内へは一本道――。
「おっと、どこへ行こうとしているのかな?」
声が聞こえたのと、少し前方を走っていた琢磨がブレードの一撃を受け、着ぐるみの中身を散らして地面に伏せ、行動不能に陥らされる。
「琢磨! ……貴様は……」
琢磨を背後に隠し、もはや隠れるのを無駄と悟った恭司が、光学迷彩を解く。
「困るんだよねえ、勝手なことしてもらっちゃあ。シャノンの交渉が終わるまで、大人しくしててもらうよ!」
ブレードを構えたマッシュ・ザ・ペトリファイアーが、目にも留まらぬ斬撃を恭司に浴びせる。
(くっ、何という太刀筋――)
数回は受け流すことに成功するが、やがて斬撃をまともに受け、武器を弾き飛ばされた恭司は、懐にブレードの一撃をもらって呻き声をあげ、地に伏せる。
「そこで二人、仲良く眠っているといいよ」
動かぬ恭司の身体を蹴り飛ばして、先に倒れる琢磨の上に恭司を乗せる。
「今の騒ぎは……!」
戦闘の音を聞きつけたか、その場に現れた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が倒れ伏す二人の姿を認め、結果をもたらしたと推測される人物、マッシュに険しい表情を向ける。
「あんたもこいつらと同じ目に遭いたいかい? 遭いたければご自由に、そうでなければさっさと消えな」
「勝手なことを……っ!」
先手を取って、翡翠が対象を恐怖と混乱に陥れる術をマッシュへ向けて放とうとする。
「おっと、あんたがそうするってなら、俺も同じ手を使わせてもらおうか」
「何だと……く、うわあぁぁ!!」
マッシュの声が響いた直後、世界がぐにゃりと歪み、そして目の前のマッシュが数倍、いや数十倍にも大きくなって、世にもおぞましい凶悪な表情でこちらを見下ろしていた。
「アッハッハッハ、何を見ているかは知らないけど、そのまま恐怖に悶え苦しむがいいさ!」
高笑いを浮かべるマッシュの感覚が、自らを狙う殺気の存在を感知する。その場から飛び退いたマッシュの先程までいた場所が、ミサイルの爆風で吹き飛ぶ。
「マスター!」
翡翠の傍に降り立った蘭華・ラートレア(らんか・らーとれあ)が、レールガンをマッシュに向けて放ちながら、翡翠の様子を伺う。頭を抱えて身体を震わせる翡翠は、現時点では戦力を喪失しているようだった。
「あんたもそこに転がってるモノになりたくなかったら、さっさと逃げた方がいいんじゃない? 俺は容赦するつもりなんてないよ」
「…………失礼します、マスター」
マッシュから視線を逸らして、蘭華が翡翠を背に乗せ、ブースターを吹かしてその場から撤退を図る。
「……さて、と。シャノンはそろそろ交渉を終えた頃かな?」
「ヴィンターリオ、この場から逃がす代わりにフリューネ・ロスヴァイセの連絡先を教えてもらおうか。……条件を渋れば君の命がないことくらい、分からない君ではないだろう?」
シャノンの物言いは、ヴィンターリオがフリューネの連絡先を知っているという自信に満ち溢れているようだった。
「……俺にあるのは情報という武器だけだ。そしてこの武器は、必ず当てなきゃなんねぇ。外れる可能性が1%でもあるんだとしたら、俺は武器を振れない。お前とお前の連れが、腕が確かなのは分かる。それでも俺は、俺の安全が確保されるまでは、お前に情報は教えられない」
言い放つヴィンターリオ、散々情報に掻き回された彼ではあるが、使い所は心得ているようである。
「シャノン君! 君の行いは風紀を乱してるよ! 風紀を乱す人は、風紀指導委員会会長の僕が許さないよ!」
「まぁ、そういうことだから、さっさと立ち去りなさい」
そこへ、商船に偽装した船からヴィルベルヴィント号へ乗り込んだ大神 理子(おおかみ・りこ)が、【風紀指導委員会】として会員である朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)と合流し、シャノンを指差して敵意を向ける。
「ててて……ずっと荷物ん中いたから身体が固まってやがる。ま、とりあえず早く終わらせて飯でも食うぞ。……おいディオ、ヘタな真似したら蹴り飛ばすからな……ディオ?」
かったるそうに、自らの光条兵器である紅い十字架状の剣を携えた闇咲 阿童(やみさき・あどう)が、甲板で待機しているはずのディオライオス・クレーター(でぃおらいおす・くれーたー)を呼ぶが、返事が帰ってこない。
「……ワ、ワレハ、ワレハ……」
「アッハッハッハ! でかい図体して、気は弱っちいんだねえ」
ディオライオスは、マッシュに幻惑を見せられてその巨体を震わせていた。既にこの時点で一人、戦力を喪失させられる結果となっていた。
「邪魔が入ったようだ。少しの間時間をいただこう、それまでに良い回答を期待しているよ」
不敵に微笑んで、シャノンがおもむろに手をかざし、立ち塞がる者たちへ氷の嵐を見舞う。
「理子!」
「千歳さん!」
理子を庇うように立った阿童、千歳を庇うように立ったイルマ・レスト(いるま・れすと)が、氷の嵐の直撃を受けて船外に放り出される。幸い船が近くにあったことで、地球に落下することだけは避けられたが、これでまた戦力が二人喪失という結果になる。
「……さあ、回答は?」
「……空賊は裏切りが常かもしれねぇ。だが俺は、お前のような人間にはなれねぇ」
それが、ヴィンターリオの回答だった。
「そうか」
それだけを言い残して、シャノンが掌に魔力を込める。発動されようとしていた魔法はしかし、光り輝く一撃によって阻止される。
「……おや。君は私やマッシュと同類だと踏んでいたのだが」
「友人に協力を頼まれたからにはね」
銃を構えた桐生・円に微笑んで、シャノンが興味を無くしたとばかりに部屋を後にする。
「……なるほど。お前たちが一本筋の入ったヤツらだというのは分かった。だがまだ人質は俺たちの手の中にある。お前たちの仲間とやらが人質を取り返すまでは、俺は俺のやりたいようにさせてもらうぜ」
ヴィンターリオの言葉に、七瀬・歩が神妙な面持ちで頷いた。
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