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リアクション
「ずいぶんと崩れてるね。まあ、今は人が住んでないし仕方ないのかな」
「これだけ残ってるってすごいと思うけど。5000年も大昔の遺跡だよ? もっと風化しててもおかしくないし」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の感想に、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はきょとんとする。そして、発言した直後に失敗したと思った。後ろを振り向くと、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が静かに不機嫌オーラを醸し出している……気がする。メシエは、遺跡を大昔、とか過去のものとか言うとこっそりと不機嫌になるのだ。
(実際、俺達には大昔の事だしなぁ)
「エース」
「何?」
「ここには地球人には理解できない貴重な資料やら何やら、沢山眠っているはずだ。短絡的に機晶姫の生産方法など、目先の利益につられて他にも沢山地球人が着そうだが、私にとっては生まれた頃の懐かしい文化を感じさせるものが沢山残っているに違いないので、そういう部分に着目して跡地をじっくり調べたい」
「分かってるよ。だからここまで来たんだろ? クマラもうるさいし」
「うるさいってなんだよー」
「それならエース、当然、君が助手だということも分かっているね。物品の収拾などを手伝ってくれたまえ」
「だって、以前の機晶姫建設地ときいては、オイラは黙っちゃいれませんよ。仲良しさんが機晶姫だし。修理は出来ても本格的な調整とかは以前のようにはいかないし?」
口々に好き勝手なことを言う実態高年齢コンビ。
「とにかくしっかり調査だ」
「調査だよ!」
「あー、やっぱりうるさいうるさい」
そう流しつつ、エースは持ってきた荷物を確かめる。そこには、画像資料をなるべく沢山作れるように、デジカメやハンディカメラ、メモリ・バッテリー等がどっさりと入っていた。彼も、5000年前の人々の生活などには興味があった。ロストテクノロジーの技術的な知識を求めるっていうのではなく、製作地で暮らした人達の跡を探していきたい。書籍や当時の社会情勢・情報などを知る手がかりなどもあればいいと思っていた。
「完全に大学系調査班な雰囲気ですね」
微笑ましげにエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が言う。
「まあ、僕としても古の世界の文化とかには興味もあるので、自分達剣の花嫁もこういう部分から生み出されてきたのかな……と、ちょっと感慨に耽る部分もありますね」
この地に住んでいたファーシーとルヴィを想像し、エオリアは先程エースと交わした、ファーシーについての会話について思い出す。
大切な人がこの世に居なくなったても、それでもやっぱり未来に向かって生きていくべき。その人の代わりに世界を感じ続けていく事は、この世に残された者の勤めであるということ。死んだと壊れた、表現はどちらでも構わないけれど、亡くなった者が二度と戻ってこない事はファーシーに教えてあげる方がいい。
そうでなければ『生きている』という事の理解も出来ない――
2人は、そういう結論に辿り着いていた。
「ここで機晶姫作成に携わっていた人達にとって、機晶姫は『隣人であり友人』なのか。はたまた『兵器であり道具』だったのか。どっちの考え方が主流だったのか興味あるね。オイラは前者だけどメシエは後者。どっちが多かったんだろう」
「さあ……でも、一概には言えないんじゃないかな? 技師個人個人で違うと思うし」
「それでも、興味あるんだよー。あ、メシエ、このポスター見てよ。覚えてる?」
近場の移動に使う乗り物のポスター(皮紙製)が壁に張られているのを見て、クマラは目を輝かせた。
「ああ、この頃に発売されたんだな。そういえば最近は見ないな。この前まで皆こぞって利用していたものだが」
(この前って……どれだけ前なんだろう)
そう思いながら、エースは請われるままにデジカメでポスターを撮影した。またメシエが不機嫌になるから、口にはしないけれど。
「これ、まだその辺に残ってないかな? 久しぶりに乗ってみたいね」
「住居区に行けばあるかもしれん。他にも雑誌などもあるだろう」
「読んでみたいな。オイラ、あの子が好きだったんだけど、ほら……」
「む? そいつは知らないな。彼はどうだ? なかなか演技派のやつで……」
(何千年も前の事を『この前』と称する時間感覚は俺達と違うよなー)
2人は、すっかり昔話に花を咲かせていた。クマラやメシエって本当は何歳かはっきりと知らなくて、千歳ぐらい? とか思ってるけど、やっぱり懐かしいものなんだ。
「僕にも教えてください。当時はどんなものが流行だったんですか?」
「うーんとね……」
話はしばらく、尽きそうにもなかった。
村長宅裏の工房。
「村長〜そこのハンマーとって下さいよう〜」
「お、おお、これじゃな」
譲葉 大和(ゆずりは・やまと)に頼まれ、ゴン・ドーは棚の上からハンマーを取って放り投げた。それをキャッチして、大和は器状になった銅板の形を整えていく。
ごんごん。
ごんごんごん。
ちなみに、銅板を器状にしたのはカーラである。寛太が火術でいい感じに熱した所を鉄甲で叩き、底の周囲を比較的キレイに曲げていた。その2人は現在、村長の身体からガラクタを見繕っていた。脇には日曜大工セットが置かれている。
「鍋には取っ手も付けないといけませんよね。うーん……これは合わないなあ」
「こっちは小さすぎますね。村長、めぼしいもの投げすぎです」
「正真正銘のガラクタしか残ってませんよ? あ、これはいいかもしれません」
「いや待つのじゃ! それは拾ったばかりの新品で……」
「拾ったという時点で新品ではないです」
「鍋とガラクタ、どっちが大事なんですか!」
村長から細長い銅製の棒を引っこ抜くと、寛太達は早速取っ手への加工を始めた。最終的になんだか共闘じゃない気もするけど、鍋の為には仕方がない。
「それにしてもこの鍋、さっきから全然しゃべらんのう」
大和の所へ戻って覗き込む村長。すでに鍋呼ばわりである。いやそこじゃない。言及すべきはそこじゃない。
「もう鍋になったらしゃべりませんよ〜。ほら村長、仕上がりも近いです。手伝ってください! 鍛え上げられた二人の肉体から作り出される鍋は、きっといい値で売れるに違いありません!」
「おうおう、その通りじゃ! 仕上げはわしに任せるがよい! ひゃっはっは!」
「火の加減はこんなもんですかね?」
……そろそろ説明しよう。あの時――ミサイルにより爆炎が巻き起こった時、大和は吹っ飛ばされた3人に近付いて銅板を見せた。「その身を蝕む妄執」で、その辺の適当なガラクタを銅板に誤認させたのだ。
「あの方々の相手を律儀にしなくても、さっさと鍋にすればいいんですよ?」
と。村長の意識を逸らしているうちに、取り返そうという作戦である。今頃は他の生徒達が、ラスの説得にあたっているだろう。ファーシーを助けるには、まず強敵の村長を引き離す必要がある。
生きる事は死ぬよりつらい。それでも、ファーシーに生きて欲しかった。もちろん、肉体を持って。今すぐに答えを出さなくてもいい。ただ、その答えを探すために生きて欲しい。見つけるために、体を持って欲しい。
そう、思っていた。
「この鍋の輝き……見てください! 間違いなく高値で売れますよ!」
取っ手も付けて完成した鍋を掲げ、大和は満面の笑みで村長と肩を組んだ。鍋は、ぴかぴかと美しく輝いている。
「おお〜、素晴らしい鍋です。5000年前の銅を使っただけはあります」
「いくらで売れるか楽しみですね!」
その鍋を木箱に入れて蓋をして、喜ぶカーラと寛太に渡す。そして大和は、村長の肩を改めてガッツリと揉んだ。些か硬いのは、長年の苦労の所為……いや。
「そ〜んちょう! ここ……気持ち良いですか?」
「ん? うむ……?」
機晶姫だからである。
「このノスタルジックな退廃感……ゾクゾク来ますね」
環菜達に遅れることしばし。開いた入口から階段を降りた赤羽 美央(あかばね・みお)は、きょろきょろしながら正面の通路を歩いて手近な部屋に入った。
「でも、5000年前……なんて言われてもピンと着ませんねえー」
その辺の壁や床を触り始める美央に、ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が光術で周囲を照らしながら言う。
「美央、何か良い情報無いかを調べるなら、製造所に縛られず『図書館』のような場所を探せば良いのデハ無いでしょうカ」
『遺跡です! ジョセフも遺跡好きでしょう』と猛プッシュされ、確かに好きなのでついてきたジョセフだったが、彼にはどうにも、美央が調査以上の何かに期待しているように見えて仕方がなかった。
(美央は歴史的なものの価値とか意味とか全く知ってそうに無いデスガ、それにしても、デスね)
室内には倒れた机があり、金属加工用の道具や鎧、組みかけの銃器などが転がっている。戦闘は好きじゃないし、念のためにディテクトエビルをかけてから、博識で代わりに調べてみる。これは、機晶姫に装備させるために研究していたもののようだった。近くに皮紙が落ちている。
「何でしょう。……モデル……?」
床を触りながら、美央が言う。
「トレジャーセンスはこの辺を指している気がするのですが。殺気看破も反応してますけど何もないですね」
「いえ、なかなか興味深いものモ……って美央? 何処デスカ?」
目を向けると、忽然と美央の姿が消えている。その代わりにあるものは、先程まで無かった妙に深そうな裂け目と、立ち上る煙――
どぉん!
「……アウチ!」
爆発に押されて、ジョセフは尻餅をつく。美央は高周波ブレードを手に持っていた。これで床を傷つけたらしい。
「……あれ、ジョセフいたんですか」
「な、何当然のように床を破壊しているのデスか!?」
「金属なのは表面だけで普通の土床で良かったです。穴が開きました」
「良くないデスよ! 遺跡はもっと丁重に……」
「ふっふっふ、何処からでもかかってこいです、モンスター! 斬って蹴って吹き飛ばしてやります!」
「え、ええっ! 今何ト!?」
驚くジョセフを無視して、美央は穴に飛び込んでいく。
「……って、勝手に先に進まないで下サイ!」
慌てて後に続くジョセフ。飛び降りた瞬間に、ディテクトエビルが顕著に危険を知らせる。顔を上げた彼の目に映ったのは、不定形に蠢くゼリー状のモンスターだった。3メートルはあるだろうか。鼻が曲がるような異臭を放っている。油とヘドロの混じった匂いだ。へどろんと呼ぼう。
「何やら微妙に見たことがあるような……いえ、もうすこし小さくて可愛らしいやつを」
美央は高周波ブレードでモンスターを斬りつけた。
ぱっくりと割れた部分が瞬く間にぷるんっとくっつく。
「むう……ジョセフ、氷術です」
「は、ハイっ!」
ジョセフは温度を極限まで下げた氷術を放つ。凍ったモンスターに、美央がチェインスマイトをしかけた。へどろんは哀れ4分割される。天井から落ちた瓦礫を使ってそれを粉にしながら、美央は言った。
「くさいですね。こう、前のようなゴーレムとかが出ると思ったですが……」
「み、美央っ!」
ジョセフがわなわなと指差すので振り返ると、ちょうどゴーレムが突進してくるところだった。ご期待に応えて出てきました、ではなく、へどろんの声無き悲鳴に反応したのだろう。
突進には突進である。ランスバレストを使い、美央は見事一発、ゴーレムを倒した。
「こうじゃないと面白くないです」
通路に出ると、角からへどろんがやってくるのが見えた。
「エンカウント率が高いですね……」
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