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魂の欠片の行方2~選択~

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魂の欠片の行方2~選択~

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 地下1階を調査している環菜達は、通路を歩きながらこれまでの成果を話し合っていた。
 成果といっても、現時点であまり収穫はないのだが。
「このフロアでは機晶姫の付属部品を作っていたようだな。しかし、武具ばかりでファーシーには使えないであろう」
「劣化も激しかったし、役に立ちそうにないわね」
 輪廻の言葉に、環菜が淡々と答える。
「以前彼女は『マスターを待っていた』とそう言っていた。なら彼女は生きて真実を知るべきだと思う。これだけ広い遺跡だ。どこかに手掛かりは必ずあるはずだ」
パートナーにいなくても、涼は機晶姫に対して人間と同じく知識を得て成長する者だという認識を持っていた。人間と同じ見方、考え方をした時に行き着く答えは1つだ。
「彼女には生きていて欲しい。真実が最悪の結果であっても、俺はそれを知って欲しいんだ」
 その為にも、今回の調査にはまだまだ念を入れる必要がある。
「博識で解読した設計図にはモデルとかサンプルとか書かれたから、本番に使う機体がどこかにあるんじゃないか? 下への階段も近いようだし、ガラクタだけなんてことはないだろう」
 翔が言う。彼らは、環菜以外の3人が持つ博識と銃型HCのマッピング機能を使って、この1階の構造をほぼ把握し終えていた。通っていない通路についても、もう1組からの情報で補完されている。正面の通路を行ったチームは、現在資料庫にいると報告を受けていた。
「あっちには機晶姫に関する資料があるだろう。俺達もこんな所まで来たんだ、何も見つかりませんでしたなんて恥ずかしすぎていえないぜ。絶対にファーシーやルミーナさんの為に何か見つけてやる」
諦めなければきっとなんとかなる、そう信じて行動するのみだった。そして、地下2階への階段を降りた時――
「何か、臭くないか?」
 彼らの前に、へどろんが現れた。

 遺跡の資料室の書物をアームを使って引っ張り出して開き、明は片っ端からチェックしていた。
「随分と熱心ね、明」
「我輩が何故樽の姿で作られたのか、知りたゐからな。ゐや、樽の姿に不自由してゐるわけではなゐが、人間型でなかった理由が書かれたものがあるのなら、読んでみたゐではなゐか」
 樽型機晶姫である明としては当然だろう。彼は、当時に非人間型機晶姫がどの程度作られたのか、その割合にも興味があった。
「なんだ、ファーシーの手掛かりを探しているんじゃないのね」
「勿論、最も優先されるべきわファーシーの為のボディ探しだ。修理方法も探してをるわ。しかし、このフロアには物騒なものが沢山あったな」
「ええ。戦争中だったわけだし無理もないけどね」
 付属武器ばかりが転がっていたことが祥子は残念だった。
 いまなお生き続ける5000年前の機晶姫、ファーシー。
 時の流れから隔絶されていただけにこの後きっと避けがたい、耐え難い苦悩が待っていると思う。だがその時、自分自身の身の処し方を自分のしたいようにできるように。選択ができるように、代わりのボディやパーツ類を見つけておきたかった。
(……何かをするにしても今の銅板のままじゃ不便だしね。それに、この時代に根付こうとする時に自分自身でなにもできないんじゃ可哀想だもの)
 絶対に何かがあるはずだ。地上にも大きな製造所を有していながら、地下にこれだけの規模の施設を作るなんて、何かを隠しているとしか思えない。
 そして明と同様に、壮太も真剣に資料を当たっていた。博識を持つアーキスに手伝ってもらいながら、機晶姫の不具合についての本を探す。
 人型機晶姫の修理について書かれた本を脇に挟みながらも、彼はその手を止めようとはしなかった。
(壮ちゃん……)
 フリーダは、壮太が自分の不具合を直すための本を探しているのだと気付いていた。大昔に作られた彼女は、その手掛かりを得ることなど霞をつかむようなものだと思っていた。この製造所にしても、フロアを周ってきた限りでは管轄が違うような気がする。
「ん? この一角には非人型の資料があるみてーだな」
 何冊か中身を確認して壮太は言った。書物には特殊な形をした機晶姫の絵が描かれている。しかし、それらは種類を記録するだけのもののようで、文字が圧倒的に少ない。
「ダメか……」
 他の本も似たようなもので、非人型に関する書類は数自体も揃っていなかった。
「その気持ちだけで十分よ。だからお願い、そんな顔しないで」
 悔しそうにする壮太に、フリーダは声を掛ける。
「ごめんな。いつか必ず、元気にしてやるから」
「母様、みなさん」
 その時、本棚を探っていた静かな秘め事が全員を呼んだ。
「そういえば、さっきから無闇に棚を触っていたようだが……何をしていたんだ?」
「この本棚が不自然に浮いているようだったので、調べていたのですわ。他の本棚と同じはずなのに高さが揃っていませんでしょ?」
 静香はアーキスに言うと、本棚の境目に手を当てる。
「もしかしたら、隠し扉かと思ったのですが……スイッチがありました」
 書物を取り除いた壁に微細な溝が見える。円を描くそれは、確かに釦のようだった。静香が釦に触れる。
「――待って!」
 いきなり殺気看破が反応し、祥子は慌てて静香を止めた。回転扉のように動いた本棚の先には――
 機晶姫や所員の遺体らしきものと、大量のへどろんの姿があった。
 壮太が左手を後ろにまわす。フリーダに、壊れた機晶姫は見せたくなかった。

 蘭華・ラートレア(らんか・らーとれあ)が加速ブースターを使ったおかげで、移動時間はかなり短縮できた。
 イルミンスールの面々と合流して機晶都市へ向かうと、入口に立っていた教導団員が歩いてくる。栗色の髪を単発にした、きりりとした印象の女性だ。
「蒼空学園から連絡があった、技師と話をしたいというのはあなた達ですか?」
 諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)は、彼女に丁寧に礼をした。
「環菜殿の使者として参りました。身体を必要としている機晶姫がいるのですが、彼女のことについて私達は知識を持ち合わせておりません。それについてのお知恵と、できれば協力をご依頼したいのですが」
「わかりました。こちらになります」
 彼女は、11人を招き入れて歩き出す。孔明の隣に並び、正面を見据えたまま口を開く。
「金団長から話は聞いています。先日、巨大機晶姫が出現してツァンダを襲おうとしたことは全学校が知っているでしょう。私もヒラニプラに住む者としてアレには非常に興味がありました。アレが助けを求めている。この解釈で合っていますか?」
「大体は間違いありません。彼女が助けを求めているというよりは、私達が自主的に助けたいというのがより正確ですが」
 孔明は後方を確認した。蒼空学園の生徒を前に、後ろではサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)がヒラニプラの街並みに好奇心一杯の目を向けていた。機械産業の活気と教導団の厳粛さを持ち合わせたこの街は異国情緒に溢れている。一度は観光に訪れたい。ヒラニプラは、そう思わせる雰囲気を持っていた。
「機晶姫の歴史とか、何か物語が聞けるといいですねっ!」
 小声で言うサクラコに、白砂 司(しらすな・つかさ)はやはり小声でつっこみを入れる。
「遊びにきたんじゃないぞ」
「わかってますよー。もう、自分だっていろいろ質問したいくせにー。物語は良いです。人の揺れ動くのってすっごく素敵じゃないですか。まーあ、にぶーい司君には理解しにくーいお話でしょうけど」
 一方、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、明るい表情の中に神妙な色を滲ませて歩いていた。隣のジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は黙したままだ。
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に頷いて位置を交代する。優斗と浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が彼女に事の顛末を説明した。機晶石であった頃のファーシーを直接見ている翡翠が中での出来事を話し、優斗はついでに、内部を歩いた時の構造を簡単に説明した。若干、目を輝かせているような気がしないでもない教導団員は、巨大機晶姫が崩れていることを知ると残念そうな顔をした。
「そうですか。これからの発展に役立つものがあったかもしれないのに、残念です」
「今は環菜会長が、その跡地で調査をしています。先程、地下が見つかったと報告がありました。研究に役立つ何かがあるかもしれません」
「地下ですか。是非一度、この目で見てみたいですね」
 影野 陽太(かげの・ようた)が言うと、教導団員は本気とも社交辞令ともとれる答えを返した。やがて一軒の家の前に立つと、ノックも何もしないままに扉を開ける。
「さあどうぞ。ここが私の――あたし、モーナ・グラフトンの工房だよ。とりあえず中に入って適当に座って。散らかってるのは勘弁ね」
 彼女はさっさと奥へ行って姿を消すと、またひょっこりと顔を出して手招きした。
「ほら、こっちー」