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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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 婆やにつれられ、真珠の部屋の前にやってきた漸麗たち。
「…真珠様、起きていらっしゃいますか? 漸麗様や、虹七ちゃんがおいでですよ」
「真珠ちゃん、僕の独り言と思ってきいてくれないか」
 漸麗は筑を打ちながら「独り言」を呟く。
「真珠ちゃん、起きてるかな。聞きたくなかったら、耳を塞いでくれてもいいよ、これは僕の独り言だから。君は、お姉さんが必要なんだよね? お姉さんにとっても君が必要なんだって、言ってたよね。お互いに必要として、必要とされて……なのに、どうして君の綺麗な銀細工は…中身が空っぽなんだろう。空っぽなその場所に、君は本当は…何が欲しいの?」
 しばらくの沈黙の後、真珠がドアをあけた。
「虹七ちゃん、アリアさんに…漸麗さん、静麻さん、黒龍さん…」
 明らかにやつれた感じの真珠の姿に、さすがにみんな、驚いてしまう。

 それでも真珠は気分がその日は良かったのか、庭に降りた。漸麗の「独り言」が効いたのかも知れない。
 婆やが手塩にかけて育てた花畑が春を前に、芽吹きはじめている。
 虹七と漸麗と手を繋ぎながら、花畑を歩く真珠。
それを婆ややアリア、黒龍、静麻そして静麻のパートナー、レイナがそっと遠くから見つめていた。

「こうしていると、お父様とお母様といたことを思い出すの。私が虹七ちゃんで、お母様が私、そしてお父様が漸麗さん…」
 真珠はぼんやりと春の風を受けながら、いきなり虹七を抱き締めた。
「虹七ちゃん、漸麗さん、みんな、私を忘れないで」
 と、つぶやく真珠をみんな見つめるしかなかった。

 静麻や黒龍、そしてアリアたちはその後、真珠の体調が急に悪くなったので、藤野家を後にすることになった。漸麗は黙り込み、なんとなく、空気が重い。
「ひっく、ひっく」
 虹七が急に泣きじゃくりはじめる。
「どうしたの、虹七ちゃん。おなかでもいたいの?」
 アリアやレイナが声をかけると虹七はアリアとレイナに抱きついた。
「違うの…これは…ことちゃんの涙なの…。ことちゃんが…泣いているの…」
 虹七の言葉に、漸麗も似たような感覚を感じていた。
(真珠ちゃん…君の心の中の空虚さは「家族がいないこと」だけではないよね…辛いよね…僕がなにかしてあげられたらいいのに…!!)



☆    ☆    ☆

「そうだったんですか…ぎっくり腰ですか」
 高村 朗(たかむら・あきら)も爺やは剣で挑みに来たのだったが、すでに爺やはぎっくり腰で居間で寝ている状態だった。
 気が抜ける朗だが、以前から顔見知りだったので、不思議と爺やとは話が弾んだ。
 爺やの武勇伝などを聞かせて貰う朗。
 その話の数々にすっかりと朗は魅了された。
「すっかり暗くなりました、婆やさんの部屋に行ったままのパートナーとそろそろ、帰ります」
「そうですか。お名残おしい。また、某の話相手になってくだされ」
「勿論です」
 ニコっと笑う朗に爺やは頼もしさのようなものを感じた。
「朗殿、なにとぞ、赫夜様と真珠様の友達でいてやってください」
 という爺やの背中を、朗は小さいと感じた。

 朗のパートナールーナ・ウォレス(るーな・うぉれす)が、グッズを持って婆やの部屋へいくと、すでにブロマイドだらけ。真珠が既に寝込んでいるので、婆やが自室に招き入れたのだ。
 サン・イ・サクや、日本のアイドル「ライト・ザ・サン」「ムサシ・アンド・コジロウ」のグッズに混じって、ひきつった笑顔の静麻と黒龍、漸麗と一緒にとった写真がすでに飾られている。
「真珠さんの具合はいかがですか? そしてどうして、あのようなことになってしまったのでしょうか…」
 ストレートな物言いをするルーナに、以前にもあったことがあるので、婆やも喋りやすいのか
「ルーナ様。あの二人は二人で一人なのです。真珠様が赫夜様を頼っているように見えますが、実はその逆なのです…なにとぞ、赫夜様のこと、真珠様のこと、お願い致します」


 朗とルーナは帰り道、それぞれにあったことを話合った。
「どちらにせよ、爺やさんも婆やさんも、あの藤野姉妹が大切ってわけだ」
「それは、友達の私たちも一緒よ」
「そうだな」

☆    ☆    ☆


 つつつっと、黒い影が藤野家に走る。黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)であった。
 深夜、真珠のもとにニンジャとしてお見舞いにやってきたのだ。
 そっと何かを真珠の部屋のベランダに置こうとする時、たまたま、しゃっとカーテンが開いて、真珠と鉢合わせしてしまう。
「にゃん、丸、さん?」
「ち、違うんだ、あの、不法侵入とかじゃなくて…真珠、具合は?」
「少し調子を崩して…みんな来てくれたんだけど…でも、ちょっと気分転換に夜風に当たろうと思ったら、にゃん丸さんが…それ、スミレの花?」
 にゃん丸の手には、小さなスミレの花が不器用に蝶々結びで束ねられている。
 野に咲いていたすみれの花をつんできたにゃん丸の手を、一瞬戸惑ったが思い切って真珠は握る。
「男の人の手って、こんなに大きいのね」
 と、微笑んだ。
 かああああっとなるにゃん丸。
「わたし、にゃん丸さんに嫌われているとおもっていたの。時々、私をにらんでいたでしょう?」
 と言う真珠に「ち、違うんだ」と慌てるにゃん丸。
(真珠、君を見つめていただけなんだよ…!!)
「でも違うのね。…良かった。スミレの花、貰ってもいいの?」
「と、とうぜんだ!」
「今日は色んな人がきてくれたの。みんな、なぜ、こんなに優しくしてくれるのかしら…私みたいな人間に」
 ふと暗い影がさす真珠に
「ち、違う、みんな、真珠が好きなんだ。真珠のこと、友達って思っているんだ!」
「にゃん丸さん」
「遅いから、俺、これで!! は、早く学校、こいよ!」
 ばっと飛び去っていくにゃん丸。それをずっと見送ると、真珠は周が持ってきてくれた菜の花、月夜がくれた花束に、並べてスミレの花も花瓶に入れた。
 真珠の心はみんなの温かい気持ちで満たされようとしていた、その時だった。
「あう…!!」
 頭を抱え、ベッドに倒れ込んでしまう真珠。
「ねえさま、みんな、ごめんなさい…でも、ねえさま、お願いだから死んで…ああ、私はどうなってしまうの!? こわい、こわい…!!」
 真珠は涙を流す。