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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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「お次は誰かな」
「お願いします」
 諸葛涼 天華も、爺やに自分の人間性を見てほしくて戦いを挑みにきたのだ。
 八相に構え、機を窺い、後の先を取り構えた木刀を振り下す天華。
 明鏡止水の心持ちで剣を振るった。それが爺やに対する自分の本当の心を見せることだと信じたからだ。
 爺やにもそれが伝わったのか、二人は木刀で何度か打ち合いをしていくうちに、心が通じる瞬間があったらしい。
「この辺でよかろう、天華さん。あなたの想い、某には届きましたぞ」
「…はい、ありがとうございました!」


 赤嶺 霜月は心の中で思っていた。
(自分も真珠さんを疑っていた人間の一人。もう直球で爺やさんに真珠さんについて聞くために剣で挑むしかない…!!)
 ただ、霜月が得意としているのは居合であった。丁度爺やが「一人一太刀」と決めていたので、居合いで切り込んでいく。
「はあ!」
「むお!」
 霜月の居合いを爺やが一瞬のうちに食い止めてしまうが、爺やの木刀にはひびが入った。
「さすが、居合いの達人ですな」
「いえ、爺やさんの腕には感服しました…」
(この吉備津なる爺様、かなりの腕、そして、歴戦の勇者だ…)

 霜月のパートナージャンヌ・ダルク(じゃんぬ・だるく)は、霜月と爺やの戦いを見て、西洋と東洋の剣の違いを分析していた。


 樹月 刀真は木刀を持つと爺やに真摯な眼差しを向けた。
「蒼空学園所属 樹月刀真、推して参る」
 と、木刀で爺やと斬り結ぶ。
「むむ!」
 爺やも力を木刀に入れ、二人は対等に斬り結んだ。
「俺は護りたい人を護る為に、叶えたい願いを叶える為に、進みたい道を切り開く為に剣を取りました。『己の我を通す』その為の剣です、詳しい話はこの剣をもって聞かせてもらいます!」
「よろしかろう! その意気、買った!」
 爺やは本気になったのか、刀真ともう一度だけ、斬り結ぶと、木刀を収めた。


「よっし、次は俺の番!」
 周がぶん! と木刀を振り上げる。
「ほっほっほ、なかなか活きのよい小僧じゃな」
「じーさん、俺が勝ったら赫夜ちゃんと真珠ちゃんのデートを認めるんだぜ!」
「ほほう、そのスケベ魂、過去の某にそっくりじゃ! では参るぞ!」
「いくぜー!!」
 その時だった。
「ぐあ!」
 グキっと言う音がして、爺やがバターンと道場の床に倒れてしまう。慌てる生徒達。
「ど、どうした爺さん!」
 周はびっくりして駆け寄る。
「ぐ、ぐぐ、こんなときに」
「どうした、辞世の句でも詠みたいのか!!」
「違うわ! …あいてててて、持病のぎっくり腰が…」
「なんだよ、それ!」


☆    ☆    ☆


 周に背負われて、居間に寝かされた爺やをそれぞれ生徒達がかいがいしく世話をする。
 アリア・セレスティが爺やにナーシングをしながら、
「さすがに、お爺さん、お疲れのようですね?」
「はは、あなたのようなお嬢さんに心配して貰えるなど、この吉備津、光栄ですぞ」
「若者と同じ気持ちで戦おうとするからですよ…」
 婆やが嫌みを言う。
(私が考えなければいけないのは、赫夜さんに言われた「人を活かす剣」…「活人剣」…お爺さんと戦うだけでは、私には意味がないわ…誰かの力になりたいから剣で力を示す。これも『人を活かす剣』なのかも…そうか!)
「お爺さん、今度、私と戦って下さいね」
「いいですとも。ただ、あなたが考えていらっしゃることは、この爺めはよく理解しているつもりです」
「…というと?」
「赫夜様は恐らく、あなたの優しさ、そして人を活かす能力を見込まれ『活人剣』をおすすめになったのでしょう。そして、あなたもそれに応えようとしている…しかし、それは充分、剣を通さずとも、今の某には伝わっておりますよ。それに一緒にこられた小さなお嬢ちゃんと一緒に真珠様を見舞ってやってくだされ」
「まあ…」
(さすが、赫夜さんを育てただけのことはあるわ…)
 アリアは剣を志すものとして、この吉備津 彦助なる爺の存在に頼もしさすら、覚えたのだった。