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花粉注意報!

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 あんこやエヴァルトから少し先の山道では、パラミタベア数匹と、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)率いる百年草の採取に向かったイルミンスール魔法学校の生徒達が激しい戦いを繰り広げていた。
「てぇいやああぁぁっ!!」
 白い猫耳尻尾姿の神代 明日香(かみしろ・あすか)が、エリザベートを庇いながら、襲いかかってくる熊にブライトシャムシールを振りかざし、爆炎波を放つ。
「アスカ! もう熊は放っておいて、先に進むですぅー」
 明日香の袖をクイクイと引っ張るエリザベート。
「でもでも、この子たち、必ず私たち追いかけてくるよー? エリザベートちゃん?」
「う……知らないですぅ! ウチの生徒はそんな事くらいで負けない……はず」
「ぬわああーっ!」
 エリザベートの目の前を、熊パンチで吹っ飛ばされた生徒が飛んでいく。
 思わず頭を抱えるエリザベート。
「ああっ! 何故私はあのデコ女とこんな犠牲の多い勝負をしてしまったのでしょう……」
 マスクとゴーグル姿で遠距離から熊を星輝銃で攻撃している神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)とマスク姿で成功確率1/4程のファイアストームを連発するノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、二人揃ってエリザベートをチラリと見やる。もちろん悪意はない。
「大丈夫だよー! 私が守るからねー?」
 見た目と身長は一緒くらいだが、年齢差が2倍ある生徒の明日香に慰められる校長で年下のエリザベート。
「アスカ……ありがとうですぅ」
「でもぉ……環菜さんのキスは断固拒否だけどぉ、エリザベートちゃんのなら、ちょっと欲しいかなぁ」
「はっ!? ……な、何をい、言うですかぁ?」
「嘘、冗談冗談ー」
 笑いながらもかなり真剣な目で、エリザベートを見つめる明日香。
 エリザベートがボソッと呟く。
「やっぱり、先に手を打っておいて正解だったですねぇ……」

「それにしても……」
 銃を手にした夕菜が呟く。
「え? 何か言いました夕菜さん?」
「マスク越しだと、喋りにくいんです……」
「取ったら……?」
 ノルンの提案を華麗にスルーして夕菜が続ける。
「何でこの季節に冬眠中のパラミタベアがいるのか、不思議だと思いません? ノルンさん」
「あ……そうですね」
 一旦は、炎や攻撃に怯えて後退する熊だが、中々、森の中へまでは帰ってくれない。

 明日香達と同じく熊を撃退するため、火術を使っていたウィザードの宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)は、花粉症の影響で見当違いの方向へと飛んでいく火術に、困り果てていた。
 そんなみらびを見かねた宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)が、雷術を使いサポートしている。
「ひいいいいん 煌おばあちゃああん 当たらないようううう」
 手作りの可愛いマスクを装備したみらびが泣き言を言い出す。
 みらびは先程、空を飛んでいた生徒の箒に火術を放った前科があるせいか、少し皆が距離を置いている。
「しっかりしなよッ! 百年草欲しいって言い出したのはみらびじゃん? それとももう帰る?」
「嫌! だって、煌おばあちゃんに花言葉を教えてもらって俄然ヤル気になったんですもの」
「花言葉? ああ、誰かにあげるつもり?」
「セ、セイ君に……」
 小声で呟くみらびに、熊がゆっくりと近づいていく。
「だ、だから、怖くても負けませんんんっ!」
 熊に火術を唱えようとするみらびに、溜息をつく煌星の書が
「ふぅ、仕方ないね」
 と、魔道書の姿に戻りみらびの手に収まる。
「全く、その性格は誰に似たのか……ほら、コントロールはボクがする! 一緒に魔力集中しな、みらび!」
「うん!」
 魔道書の姿に戻った煌星の書を持ったみらびが魔力を集中させていく。
 魔力が溢れ、放電したようなプラズマがみらびの体を包み込んでいく。
「いっけぇぇぇーっ!!」
 周囲が激しく発光し、近くの熊を2匹まとめて、雷がなぎ払う。
「おおおぉぉ!!」
 その光景に戦闘していた生徒達が歓声をあげる。

 後方で、戦闘で怪我をした生徒の治療にあたっていたウィザードの霧島 春美(きりしま・はるみ)とブリーストの獣人ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)も、その光景を見ていた。
 春美の側には、焦げて半分に折れた箒っが置いてある。
「すごいですね、ディオ。なんだか、イルミンスール魔法学校の底力を見た気がします」
 素直に感動の言葉を口にする春美に、ディオネアが言う。
 鼻がつまり、獣人としては戦闘に参加しにくいディアネアは、春美の横で、別の生徒にヒールをかけている。
「ねぇ 春美、百年草なんか採ってきたってあげる相手もいないでしょ?」
「百年草のことはバイト先の花屋さんにないかと問い合わせを頂いた事もあったし、私も華道する位、花が好きなので興味があるんです」
「育てるの? でも花が咲くの百年に一度なんでしょ? 花が咲くころには、春美がおばぁちゃんになっちゃうよ?」
「いいんです! 東洋魔術学科のみんなにもあげたいし」
 プンとそっぽっを向き、生徒に包帯を巻く春美。
 生徒が自分の腕の倍ほど巻かれた包帯を黙って見ている。
「ま、いいや、つきあったげるよ。ボクもアニマルワトソンの名に恥じないよう、マジカルホームズをサポートしなきゃね」
 耳をピョコピョコと小刻みに動かすディオネア。
 軽いとはいえ、先程の雷術で火傷を負ったパラミタベアの様子を見に行く。
「それにボクらは敵味方関係なく治してあげないとね。おーい! キミ、大丈夫?」

 エリザベートとイルミススール魔法学校の生徒達が、熊をあらかた追い払った頃、ウィザードの東雲 いちる(しののめ・いちる)が、フェルブレイドのギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)と英霊のバトラーの長曽我部 元親(ちょうそかべ・もとちか)と共に山道を登っていた。
「ズズズ……ヘゥシュンッ!!」
「いちる、貴様、本当に大丈夫なのか?」
 いちるの目の前に、ティッシュの箱を差し出す元親。
「ほら、いちる。鼻かんで、ちーん」
「あひがふぉ……ちーん! はぁ」
「困った者達だ。それをツァンダで買いに行ったから、校長達から遅れたのだぞ?」
 やれやれと、髪をかき上げるギルベルトを恨めしそうな目で見る元親。
「あのな……おまえもいつか絶対なるんだぜ?」
 空になったティッシュの箱をたたみ、素早く新品のティッシュをリロードする元親。
「花粉症ってのはな、こうコップに水が溜まっていって、溢れたらかかるものなんだよ」
 元親を見て、フッと笑うギルベルト。
「ありえんな」
「何ぃー」
 いがみ合う二人を見て、いちるがパンパンと手を叩く。
「はいはい。ほら、もうすぐエリザベート校長に追いつきますよ」
 地面を指差すいちる。恐らく火術で焦げたであろう地面がある。
「しかし、何故、花粉症をおしてでも、百年草なんか採りに行くのだ? 貴様、地雷原に突撃するのが趣味ではなかろう?」
 ギルベルトの質問に、思わず答えに詰まるいちる。
 額に手を当て、溜息をつく元親。
「2人で行かせても進展はないだろうなーとか思ったけど案の上だな」
「元親さん!」
 いちるが顔を赤らめて、元親をポカポカと叩く。
 笑っていた元親だが、急にシリアスな顔になり、
「いちる! 俺から離れろ!!」
 元親の口調に、ドキリとするいちる。
「え? ど、どうして?」
 元親、顔を抑えていたが、
「ヘ……」
 と、言うと、体を反り返らせる。
「え?」
「ん?」
「ヘッゥショオオォォーンッッ!!」
 元親のこの日一番大きなくしゃみが、突風となって、いちるとギルベルトに襲いかかる。
「きゃああぁぁーっ!?」
 小柄ないちるの体が、枯れ葉の様な勢いで空に舞い上がる。
 もの凄い勢いで飛んでいくいちるを見送るギルベルトと元親。
「あーっ!! やってしまったああぁあっ!!」
 頭を抱える元親の横で、目を閉じて胸の前で十字架をきるギルベルト。
「さらば……いちる。俺が愛した女性よ……」
「バカ! そういうのは過去形で言うんじゃない!! さっさと追いかけるぞ」
「……そうだな」
いちるの落下点に向けて、全力で走り出すギルベルトと元親であった。