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リアクション
ライトブレードを構えて獣達と対峙する美央は、実は少し困っていた。
元々、彼女は、花粉症の原因である百年草を絶滅させるため、悪魔に魂を売るかの如く、禁断のマスクを被ったのだ。
それが、今や、生徒達を守る正義の味方になってしまっている。
誰かに呼ばれたわけではないが、迂闊に飛び出ると失敗する。そんな教訓を彼女は後悔と共に学んだ。
「コー、シュコーッ(困りましたね、こんなに邪魔をされちゃ、ゆっくり百年草の伐採をできません)」
踊るようにライトブレードを振るう美央。もちろん剣の出力を最低にまで抑えているので、一度剣を当てた獣も、すぐに復活してしまう。
「コー、コホー(キリがないです、やむを得ませんね)」
美央がライトブレードの出力を上げようとした、その時、
「美央さーん!!」
ズドドドドッと、派手な音と砂煙を上げ、猛烈な勢いでこちらに走ってくるのはルイである。
獣達を素手で殴り倒しながら、ブルドーザーのような勢いで突進してくる。
「ホー、ホァー!?(ダディ!?)」
「逆だろ!? いや……合っているのか?」
美央の言葉に、謎の発言が生徒から飛び出すも、彼女は気にしない。
ルイに気を取られた美央の隙に、熊が腕を遠慮なく振り下ろす。
――ガッ!!
鈍い音を立て、高々と空へ打ち上げられる美央の防毒マスク。
空中でクルクルと回り、地面へ落下する。
「あっ!?」
生徒達が思わず息を飲む。
素顔になった美央が、儚い笑みを浮かべた後、涙を流しながら倒れこむ。
「美央さん!? 美央さーんっ!!」
美央を抱き抱えるルイ。
ルイに向かって微笑む美央。
「これが百年草です」
美央に百年草を見せるルイ。
「私、重度の花粉症だから、受け取れませんよ?」
「いいんです。美央さんに、マスク越しじゃなくて、ちゃんと見てもらえれば……」
「ル……ダディ……どうして、人は花粉症になるんでしょうね? こんな苦しみがなければ、私は……ベ、ベイダーになんて……」
ガクっと力なく崩れる美央。
ルイの見開かれた目に涙が溢れてくる。
「美央さん……美央さん……ミオさあああぁぁぁんっ!!」
生徒に呼ばれた毒島がやってきて、ルイの丸太のような腕でギリギリと抱きしめられた美央を覗き込む。
「うむ。眠っただけだな。大方徹夜であのマスクをこしらえていたのであろう。まぁ、このままでは死ぬがな……」
一方、坂の上から駆け下りて行ったルイを見送ったエリザベート達は、まだ状況を測りかねていた。
生徒達の間で、
「カンナの罠だ」
「今助けに行かないのは、人として間違いだ」
「あたし、人じゃないもん」
「うるせー、黙れ」
と、いった類の議論が喧々諤々の状態で行われていた。
ルイに続いて駆け出して行ったのは、囲まれた生徒の中に、いちるを発見したギルベルトと元親であった。
鼻の2つの穴に丸めたティッシュを詰め込んだ元親は、文字通り決死の表情で、冷めたままのギルベルトの首根っこを掴んで坂を駆け下りていく。
「ディオ、行こうか?」
と、春美がディオネアを伴ない、坂を下ろうとするのを、エリザベートが止める。
「ま、待つですぅー!? 何で行くですかぁ?」
きょとんとした表情を浮かべた春美が、ディオネアと顔を見合わせて、
「争いなんて関係なくみんなを直すのが、春美ですから」
えっへんと、二人して胸を張る。
エリザベートが、プイと横を向き、
「アスカ」
「なぁに?」
「た、助けにいくですぅ」
「誰を?」
エリザベートにニッコリと笑う明日香。
明日香の顔を、困惑と照れが混じった複雑な表情で見つめるエリザベート。
「み、みんなを……ですぅ」
「でもぉ、環菜さん達を助けたら、百年草の取り合いに負けちゃうんじゃないかなぁ?」
「……」
言葉に詰まるエリザベートに、軽く舌打ちするエヴァルト。
「それでも……」
皆がエリザベートを見ている。
「それでも、行くのですぅ!!」
エリザベートの叫びに、腰を下ろしていた生徒達が一斉に立ち上がる。
「はぁい! ノルンちゃん、夕菜ちゃん」
ブライトシャムシールを抜いた明日香の傍に、ノルニルと夕菜がスッと立つ。
その後方では、あんこやエヴァルト、煌星の書を抱えたみらび等を始めとして、生徒達が各々の武器を用意している。
「行くですよぉ?」
明日香の声に、力強く頷くイルミンスールの生徒達。
ブライトシャムシールをかざす明日香。
「それでは、突撃ぃぃーっ!!」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉおおっっ!!!」
鬨の声をあげた生徒達が、一気に坂を駆け下りていく。
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