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第5章 現実と悪夢
「(十天君の狙いは、いったい何なんでしょうね)」
オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の能力をアウラネルクに聞こうと、御堂 緋音(みどう・あかね)は地下を目指す。
「オメガさんの能力って・・・・・・人に夢を見せること?考えてもしかたありませんね、じかに聞きにいきませんと」
「アウラネルクさんどこに行ったのかしらね・・・」
禁猟区で周囲を警戒しながら、シルヴァーナ・イレイン(しるう゛ぁーな・いれいん)が呟く。
「止まって、近くにトラップがあるわ」
危険を感知した彼女が緋音を止める。
「こっちは?」
「そっちも危険よ、真ん中の道がいいわ」
シルヴァーナの注意に頷き1階へ進む。
「見張りがいますね」
緋音は光術を放ち、兵たちが目を閉じている隙に地下1階へ降りる。
「ここが動力水路・・・明かりが点いていないわね」
シルヴァーナは廊下の奥を睨むように目を凝らす。
「これじゃあディテクトエビルやシルヴァーナの禁猟区でも、どこにゴーストが潜んでいるか正確に分かりづらいですね」
「気をつけて進むのも大事だけど、SPをきらせないようにしないと」
「えぇ、分かっています」
彼女の言葉にこくりと頷き、足場の台を通り、薄暗い道を進み始めた。
「下の階へ行く階段はどこにあるんですか。そっちの道はどうでしょう・・・」
ゴミ置き場から出たメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は階段を探す。
「向こうの通路にはありませんわ」
先に探し始めているフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、来ようしているメイベルに首を振り、見つからなかったと仕草をする。
「あったよ!」
廊下の奥からセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が手招きをする。
「では、わたくしが先に進みますわ」
足音を立てないように、フィリッパは1段ずつ降りていく。
「今のところゴーストはいないようですわね」
「もう降りても大丈夫みたいですねぇ」
メイベルはフィリッパから携帯にかけてもらい、バイブ音を2度鳴してもらった。
電波の届きにいく地下でも、彼女たちの絆の力でかけることができたのだ。
そんな場所で電話をかけることができたのは、まだそんなに深い階層へ降りていないからという点もある。
ゴーストたちに気づかれにくくするために、3人は携帯電話をマナーモードにしている。
「あの道は危険ですわ・・・」
避けた心臓から酸を噴出す、生物兵器の姿を見つけたフィリッパは、メイベルの携帯にかけ数回鳴らす。
「2回以上ていうことは、その道は危ないってことですね」
彼女はセシリアと共に別の通路へ向かう。
「階段があるよ」
「わたくしが先に行って見てきますわ」
階段付近にゴーストが潜んでいないか、セシリアに見つけてもらった階段をフィリッパが先に降りる。
「いますわね・・・それもかなり沢山・・・・・・」
亡者たちが天井や床を這い回る音を聞きいたフィリッパは、メイベルに携帯を鳴らす。
捕縛された生徒を助けにきた一輝たちを捕らえようと、ゴースト兵に放たれた亡者がフロア内を這い回っているのだ。
「下の階にゴーストがいるようですねぇ」
「なんか鳴りっぱなしだけど大丈夫かな?」
鳴り続ける携帯を見つめながらセシリアが首を傾げる。
「どうしたんですかぁ?」
メイベルは戻って来たフィリッパに声をかける。
「残念ですけど、強行突破しないと無理みたいですわ」
「えっ、ここまで慎重に来たのにですかぁ!?」
「先に進んだ生徒たちを捕まえようと放たれたのが、そのまま地下3階のフロアにいるのかもしれませんわね」
「遭遇しないで進めるほど甘くはない、ってことですねぇ・・・」
ウォーハンマーを握ったメイベルは深くため息をついた。
「先に轟雷閃を使って道を作りますわ」
フィリッパは鞘から高周波ブレードを抜き、轟雷閃でゴーストの腕を切断する。
彼女の後に続きメイベルとセシリアが通路を進んでいく。
「急がないと彼女に追いつけなくなっちゃいますぅ!」
アウラネルクと合流しようと息を切らせながら走る。
「深夜にゴーストが突然現れるなんて、どういうことだ!?」
七枷 陣(ななかせ・じん)は怒りながら、キラーパペットにファイアストームを放つ。
「しかも1時すぎだよね?」
傍でリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が欠伸をしながらゴーストを見る。
「牢に捕らわれている生徒を助けに行くって話し声が聞こえて、その数分後に現れたな」
柱の陰に隠れながらエル・ウィンド(える・うぃんど)が言う。
「もうすぐ3時だよ・・・。夜中のオヤツの時間だよ」
リーズが携帯の時間を確認する。
「そんなこといっても、この量じゃ倒していかないと進めないんだっつーの!」
「大変だね」
「ちょ、おまっ!?そう思うなら手伝えっ」
「そうしたいんだけど、この後の作戦でSP温存しておきたいから」
「んなこといったら、オレだって!」
「陣くん後ろ!」
「へ・・・おわぁっ!?」
天井に潜んでいるゴーストの爪が、陣の顔面へ迫る。
術を放とうとするが間に合わない。
とっさに顔を両腕でガードするように隠した瞬間、ベシャァアッと赤黒い血がかかる。
目を開けるとそこには、ハンマーを手にしている見知った顔の少女がいる。
「やっと追いつきましたぁ〜」
陣はメイベルのおかげで助かったようだ。
彼女の足元には頭部を破壊され、動かなくなったゴーストの身体が転がっている。
「あ、いた!」
「合流出来てよかったですわ」
術の爆音を聞きつけたセシリアとフィリッパが駆けつけてきた。
「いろいろと話しを聞きたいところですけど、ここから2つ下の階へ降りてからにしましょう」
「そうしたほうがよさそうだな。また他のゴーストが来るかもしれないし」
メイベルたちと合流した陣たちは、新たな亡者どもが来ないうちにひとまず地下へ行こうと走っていく。
「この階段を降りれば、牢屋があるフロアか」
ゴーストに気づかれないように通路を進む。
「生徒さんたちが残してくれた目印を頼りに進んだら、牢屋の近くまで来てしまいましたねぇ」
光精の指輪の明かりで目印をたどっていくと、メイベルたちは牢屋の近くまでやって来た。
「ここを進まないと行けそうにないですねぇ・・・」
「そんじゃちょっとオレが対処するか。聞かなきゃいけないこともあるからな」
陣はSPリチャージし、その身を蝕む妄執で見張りの兵に、自分が姚天君だと思い込ませる。
「ねぇ、水竜のところへ行くんだけど。どこだったかしら?直接水竜の様子を見に行こうと思ったんだけど、考え事してたらど忘れしちゃった。水竜の居場所教えなさい」
「は?忘れたんですか・・・?」
姚天君が忘れるはずがないと、幻覚でその姿になりすましている彼を、兵は訝しげに見つめる。
「あ、ごめん。聞き方を間違えちゃった。近道を聞きたかったの」
「近道ですか・・・。最下層までは、得になかったはずですけど」
「(最下層?そこにいるんか)」
目的の居所を聞き出した陣はニヤリとした。
「たしかパスワードがないと、水竜のいる場所には入れないのよね」
「えぇそうですけど。本当に直接、見に行くんですか?」
「そうよ、どうしたのそんな顔して」
驚いた顔をする兵に、陣が首を傾げる。
「氷もすでに溶けてますし・・・弱っているとはいえ近づくなんて危険ですよ!」
「(ほぅ・・・水竜が出られないほど、頑丈な場所に閉じ込めているんだな?)」
口元に片手を当て考え込むように心の中で呟く。
「で、パスワードは何だったかしら」
「―・・・さっきから変ですよ。いくら作業でお疲れだからといって、そんな重要なことをお忘れになるはずがない」
「(うっ、感づかれたか!?)」
まずいと思い、リーズが隠れている方へ視線を移す。
「(はぁ・・・まったく、何やってんだか)」
ため息をつきながらもピンチな状況の陣を助けようと、彼と会話している兵をソニックブレードで、頭部と無線機を持つ手を斬り落とす。
「最下層にいるんでしょ?だったらもっとこの下だよね」
刃にべったりとついた血糊を落とそうとライトブレードを振るい剣を鞘に収めた。
「そうみたいだ、行こう」
陣たちは下の階層へ向かおうと全速力で走る。
「階段はどこでしょう・・・」
緋音とシルヴァーナの2人は数十分間も、地下2階へ降りる階段を探している。
「他の通路の先は行き止まりだったわ」
「こんなところに目印がありますね?」
クマラがチョークで柱につけておいた目印を見つけた。
光術の明かりで確認しながら目印を探して歩く。
「ありました、階段です!」
「兵が追って来たみたいよ、早く降りよう」
フロア内に響く階段をドタドタと降りてくる足音を聞き、シルヴァーナは緋音の腕を掴み走った。
施設にやってきた侵入者を捕縛しようと、兵たちが地下へ駆け降りてくる。
「―・・・はぁ、はぁ。しつこいやつらね・・・こっちよ」
目印通りに進み、地下3階へ降りる。
「おっと、何か滑るわね・・・」
「どうしたんですか」
床に何かあるのかと、緋音が光術で彼女の足元を照らす。
「血・・・みたいですね。そこにゴーストの身体があります。ここを通った生徒が倒したんでしょう」
緋音はフィリッパが倒した亡者を見下ろして言う。
「術に反応しないから大丈夫みたいね」
「ひょっとしてアウラネルクさんは、他の生徒たちと一緒なんでしょうか?」
「もしそうだとしたら、このフロアよりもっと下の階層にいるかもしれないわ」
「だったら地下4階より下にいそうですね」
チョークで書かれている道順をたどりながら進むと、牢のある階の階段までやってきた。
「問題はここから先、どうやって進むか・・・」
シルヴァーナは見つからずにどうやって進むか考え込む。
「たしか捕らわれている生徒がいるんですよね?助けに行く人たちに紛れて進みましょう」
「そうね・・・少し待たなきゃいけないかもしれないけど。それしか方法がなさそうだわ」
緋音の提案に頷き、救出に向かう生徒たちを待つことにした。
「とりあえずこの辺りで来れたけど。この先、どうやって進めばいいもんか」
地下5階へ進み、さらに下の階へやってきた陣は黒髪をぐしぐしと掻き悩む。
「ベルトコンベアか・・・これを通らないと、次の階へいけそうにないね」
リーズはずっと奥の方にあるドアを見て言う。
「よし、通れるか試してみるか!」
陣はベルトコンベアに乗り、進めるか試してみる。
「オメガちゃんが人に夢を見せる能力を持っていたらしいってことを、ハロウィンパーティに参加した生徒から聞いたことがあるけど。それとオメガちゃんが悪夢を見ることが何の関係が・・・」
同行している仲間がベルトコンベアに流されている間、エルはオメガと悪夢の関係について考えてみる。
「もしオメガの能力で酷い悪夢を見せられたら、現実と夢の区別がつかなくなって発狂してしまうのではないだろうか?―・・・だけど、それに利用価値はあるんだろうか」
利用価値がなさそうだと、別のパターンを想像してみる。
「あの夢とドッペルゲンガーの森へ引き込まれたのと、何か関係があるのか?そもそも、あの場所はいったいどういう原理で存在しているんだ・・・。オメガちゃん自身と関係があったりするのか?」
「どうしたんじゃ?」
考えながら呟くエルに、アウラネルクが声をかける。
「えっと・・・オメガちゃんのことで、ちょっと考え事をしててさ」
「ほぅ、そうなのか・・・」
「アウラネルクさんに聞きたいことがあるだけどいいかい?」
「何じゃ?」
「―・・・さっき、ボクが呟いていたこと聞いた?」
エルは疑問に思っていることを妖精に聞こうと話し始める。
「あぁ・・・なにやら聞こえておったぞ。昔レヴィアからオメガに夢を見せる能力を持っていると聞いたことがある。だが、現実と夢の区別がなくなって発狂するということはない」
「それじゃあ質問を変えよう。レヴィアさんにはどんな能力があるんだい?」
「水を操る能力じゃな」
彼が住んでいるとこからして、エルはなるほどと頷く。
「一説によると海を司り硬い鱗と、巨大さからいかなる武器も通用しないみたいだけどそうなのかい」
「竜の形態の時はそうじゃな」
「悪夢と水竜の力と生物兵器、連想されるのはクトゥルフや半漁人かな?」
「おぬし・・・ドッペルゲンガーの森にオメガを助けにいったのでは?やつと会ってはおらぬのか」
妖精がエルの問いかけに眉を潜める。
「他の生徒たちと同行していたようだから、会ってないな」
「ふむ、そうなのか。レヴィアはエルが思っているような姿ではない。竜の姿から人間と変わらぬ姿になることが出来るのじゃ」
「てことは半漁人ってわけじゃないのか」
予想とは違ったが、納得したようすで頷く。
「そうじゃな。祭りを見に行く時に、人の姿になって町中にいることもあるようじゃ」
「(へぇ、それは以外だな・・・)」
ひょっとしたら館に閉じ込められる前に、オメガちゃんも一緒に行ったことがあるのかな、と想像してみる。
「やっぱり無理かー。流れ早すぎだっつーの・・・この先にいかないと、目的の場所へ行けないんだよな」
エルと妖精が話しを終えた後、ベルトコンベアから陣が流され戻って来た。
「もしかしたらレバーで流れを切り替えないと進めないんじゃ?」
リーズがレバーを指差す。
「そうなんか?」
「ボクが操作しようか」
陣はリーズにレバーを操作してもらい、もう一度ベルトコンベアに乗る。
「行くよ陣くん」
流れを切り替えてみるが、別のベルトコンベアに飛び乗るタイミングを逃し、地下6階のドア付近へ戻されてしまった。
「―・・・・・・流れて戻って来たようじゃな」
「な・・・なんスかそれ、人をそうめんみたいに言わないでくださいよ〜」
アウラネルクに流しそうめん扱いされ、陣が悲しそうな声で言う。
「(流れる陣くん・・・)」
その会話を聞いたリーズは、流れるプールの方を想像した。
「他のベルトコンベアに飛び乗れたとしても、リーズがオレんとこに飛び乗るタイミングが遅れたらどうしようもないし。はぁ〜、こりゃ上手いことタイミング合わせないと無理みたいだな」
「ここを進むには、2組が協力し合わないと進めそうにないよ」
「(レバーと進む人で協力ってことは、どうしてもアウラさんがあまるのか・・・)」
どうやったら下の階へ全員進めるのか、陣は考え込んだ。
一方、オメガを心配して3人の生徒たちが屋敷内に残っている。
「答えられる範囲でいいんですけど、聞いていいです?」
桐生 ひな(きりゅう・ひな)はオメガの方を顔を向けて聞く。
「何ですか?ひなさん・・・」
「このお屋敷で生活することになったのはなぜです?」
「―・・・・・・」
「えっと、答えたくなかったらいいんですよ!」
黙り込む魔女に慌てて言う。
「屋敷にいる前は・・・。イルミンスールの森の近くにいましたわ」
「どうしてそこにいたか覚えています?」
「いいえ、気づいたらそこへいましたわ」
オメガは首を左右に振り、どうしていたのか分からないと仕草をする。
「わたくしを育ててくれた方が言うには・・・魔力の結晶が集まって出来た存在らしいですけど」
彼女を生んだ親の存在がいないという点を考えて、ひなはたぶんそうなのだろうと頷く。
「その方が・・・何も知らないわたくしを見つけて、言葉や読み書きを教えてくれましたの」
「優しい方に育てられたんですねー」
微笑む彼女の表情を見て、いい相手に拾って育ててもらったのだと思った。
「あの人たちに会うまでは・・・とても幸せでしたわ」
「―・・・あの人たちって、誰です?」
「分からない・・・・・・どうしても思い出せないませんの。でも、とても怖くて・・・」
恐怖のあまり相手の顔を覚えていないと首を振る。
「何て・・・言われたんです?」
「わたくしが・・・わたくしが危険な存在だからと追いかけられて・・・」
「どうしてそんなことに・・・」
「力の使い方を知らない魔女、お前が触れるもの全て壊れる。お前は存在してはいけないとか言われて・・・、気づいたらここへ・・・」
町や人さえも、壊してしまうと何者かに言われたのだ。
泣き出しそうになったオメガは、ひなから顔を背ける。
「だから私たちと触れるのが怖いんですね・・・。でも、他の人と触れても大丈夫でしたよ?」
ひなは館でオメガが他の生徒とほんの少しだけでも、触れ合うことが出来た瞬間を見たことを言う。
「―・・・あの時はそうでしたけど。いつ傷つけしまうかと思ったら、不安で・・・」
「そうだったんですか・・・。(それにしても妙ですね。危険だからとオメガさんを閉じ込めれていることと、悪夢を見ることが関係あるんでしょうか)」
閉じ込められていることと、悪夢を見るように仕掛けているような十天君とどう関係あるのか考え込む。
「(もしかしたら十天君がオメガさんの能力を利用しようとして、ここへ閉じ込めたんです?だとしたら暴れて抵抗されないように閉じ込めたという理由が考えられますね)」
屋敷から出られない理由を考えながら、悲しむ魔女を慰めようと優しく髪を撫でてやる。
「(それに1人ぼっちにすることで、悪夢を見やすくする環境にもなります。偶然ここへ訪れた誰かと契約して出ようとしても、拒否されたと思わせてさらに不の感情を生み出すことが出来るんですね。仕掛けた相手にとっては何倍も得する、とても嫌な方法です・・・)」
ひなはどうしたら彼女の孤独を癒してあげられるか考え込んだ。
「なんだか・・・、だいぶまいっているみたいだね」
ソファーに座って項垂れているオメガの様子を見て、神和 綺人(かんなぎ・あやと)は心配そうな表情をする。
「誰かに術で契約が出来ないのでしょうか?それとも・・・孤独にするためだけに、そんなことを仕掛けたのでしょうか・・・」
クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は屋敷内の様子を見ようと歩き出す。
「1人で生活するには困らないように、必要な環境はだいたい整ってはいるようですが・・・」
魔女が住んでいる館には、綺麗に片付いているキッチンや寝室、その他にも生活に必要な道具が揃っている。
「そもそも誰がこの環境を整えたのでしょうか」
そう考えながら、クリスは寝室の窓を開けた。
「閉じ込めて利用するために必要だから・・・?」
考えるように呟き、綺人たちがいるリビングへ戻る。
「館の中を調べてみたんですけど、誰が用意したのか分かりませんでした・・・」
「―・・・そうか。(オメガさんの生い立ちについて、ひなさんが話していた会話の中で聞いたし・・・。夢の能力について聞いてみようかな)」
誰が用意したのか分からなかったとしょんぼりするクリスに頷き、気になっている別のことを質問しようとオメガの方へ視線を移す。
「ねぇオメガさん、夢の能力ってどんな能力なんだい?」
「人に夢を見せる能力ですわ」
「夢を見せることが出来るって・・・どういう風に?」
その言葉に綺人は不思議そうに首を傾げる。
「たしかハロウィンパーティーで望む夢を見せてくれるんでしたよね」
オメガの隣にいるひなが言う。
「楽しい夢を見た生徒さんたちが沢山いたのですよ」
「へぇーそんな能力を持っているんだ」
そんな能力があるなんて初めて知ったと、綺人は目を丸くする。
「じゃあ、それと同じようなことは出来たりするかな」
教えてくれたひなからオメガの方へ視線を移す。
「悪い夢を見たことある?」
「―・・・悪い夢。冷たく暗い・・・場所にいる夢を見たことがありますわ」
「そこに・・・何かいたりしたかい」
綺人は自分たちが知っている存在がいるかどうか聞いてみる。
「怖い幽霊がいましたわね・・・。不気味なモンスターのようなのも・・・」
「―・・・怖い・・・幽霊?」
まさかと思い聞き返す。
「えぇ、そうですわ」
「(もしかして・・・僕たちがいったあの場所と関係があるのかな。オメガさんが見た悪夢が実体化してしまうとか?まさかそんな・・・)」
彼女の能力と悪夢について考えた綺人は、最悪な状況を想像する。
「(だけど十天君たちと、彼女の関係を考えると納得がいくんだよね。なんであいつらが悪夢を見せたがっているか)」
オメガを見ながら十天君とのことを考え、魔女の能力をどう利用しようとしているのか、頭の中で情報を整理する。
ここへ閉じ込めたのがやつらだとしたら、どんな利点があるのか。
「(そうだとしても、いったいどうしてそんな大掛かりなことを・・・)」
ゴーストタウンで見て知った情報、そして今回知ったことを考えてみるが、まだ分からないことがあるようだ。
「外にやつらの見張りはいないようだけど・・・。いつどこで聞いてるか分からないね」
近づく怪しい者がいないか、窓の外を見て警戒する。
「えーっと、たしかオメガの家ってこの辺りかな?」
メモを頼りに十六夜 泡(いざよい・うたかた)はオメガの屋敷へ向かう。
「あっ、ここね!」
魔女が住んでいる館を見つけて全速で走り、ドンドンッとドアを叩く。
「誰だい?」
ドアの向こうから生徒の声が聞こえる。
「えっ、そこに誰かいるの?」
「オメガさんが心配でちょっとここにね」
「そうだったの。私も気になって来たのよ」
十天君の手の者じゃないと分かり、綺人がドアを開ける。
「オメガ、大丈夫?元気にしてる!?」
館に入ると泡はオメガの方へ駆け寄っていく。
彼女の向かい側のソファーに座ると、これまでの話しを聞いた。
「なるほどね・・・オメガ、怒りの感情は確かに大切だよ。でもね、必要なのは“誰かを大切に思う”からこその怒りで“誰かを憎む”ための怒りじゃないんだよ。憎しみの怒りに呑み込まれちゃ駄目だよ!」
悲しい表情をする魔女を元気づけようと声をかける。
「そ・れ・に」
彼女の傍へ行き言葉を続ける。
「皆が頑張っているんでしょ?だったら、オメガは皆を信じて待って、皆が帰って来た時に笑顔で“お帰りなさい”って迎えなくちゃ!」
優しく喋りかけ、ニッコリと微笑む。
「そう・・・ですわね」
「あ、そうだ!折角だから、またパーティをしようよ!」
オメガの手をそっと握り、明るく元気に振る舞う。
「パーティーですか?」
「いいですね、皆でやるですよ♪」
ひなも泡の提案に賛成する。
「うん、決定!!さぁ、オメガ、どんなパーティにしようか!」
「鍋とか楽しそうですわね」
「分かったわ、鍋ね。寒い時期にピッタリだし、皆で一緒に食べよう」
どんなパーティーがいいか聞いた泡は、どういう鍋にしようか考えてみる。
「何鍋が食べたい?」
「そうですわね・・・。皆で楽しくお話しながら食べられる美味しい鍋がいいですわ」
「うーん美味しい鍋ってどんなのかしら・・・」
普通の鍋じゃつまらないだろうからと、どんな鍋にしようか泡は考えてみることにした。
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