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リアクション
第6章 害虫汁?いえ・・・薬の煮汁です
「まき寿司が戻ってきたようだね・・・」
食べ残された寿司を見て、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は悔しそうに睨む。
「何がいけなかったんだろうな。ん・・・何か入っているね、紙・・・?」
片付けようとすると、その中に何かが入っている。
取り出してみると紙に何か書かれていた。
「牢獄の天井にレンズをつけて、魔力を収集しているみたいだね。なるほど、集めた魔力でウイルスを作っているのか・・・」
手を使わずに無理やり書いたガタガタの文字を目を凝らして読む。
「魔力を逆流させて水竜に?うーん・・・難しそうだね。そんな粗雑な作りをするような、ヘマするとは思えないし」
せっかく吸い上げた魔力が逆流してしまうような作りはしていないだろうと呟く。
「さて、そろそろ食事を作らないと」
もらったメモをポケットの中にしまい、昼食の準備にとりかかる。
メインの黒い生き物、Gが入った瓶を棚から取り出す。
「うわ・・・生きてるね」
ガサガサと瓶の中で蠢く虫を見て顔を顰める。
「動いてるわね・・・。逃げ出したら大変よ」
様子を見に来たリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が眉を潜める。
「とりあえず鍋で煮よう。逃げられたら増えそうだから」
弥十郎は逃げ出されないように、1匹ずつGを瓶から取り、メスとオスを別々の鍋に入れる。
「一応・・・・・・食用だよね?」
家庭内の害虫か、食用なのか煮ながら見つめる。
「そんな料理法、何か見たことあるの?」
傍で見ている仁科 響(にしな・ひびき)が聞く。
「しゃこはこんな感じだね。G・・・しゃ虫は今回はじめてだけど」
「ふぅん〜そうなんだ」
響は関心したように言う。
「これを瓶に詰めてっと・・・」
引き出しから空瓶を取り出した弥十郎は、Gの煮汁をお玉ですくい瓶の中へ注ぐ。
「見た目があれですから、なんとか工夫しないと」
茹でたGの足を取って殻を剥き、海苔に挟んで形が崩れないようにご飯でつなぎ油で揚げる。
出来上がったのを皿に盛り、響に手渡す。
受け取った彼はゴースト兵と食事しようと持っていく。
「前々から気になっていたんだけど、ここでなんか変なもの作ってるんじゃない?」
「変なものって何だ?それだけじゃ、何のことだかさっぱり分からないぞ」
聞き方が悪かったのか、兵に聞き返される。
「何だったかな、忘れちゃった。思い出したらまた聞くよ。(あー・・・もうちょっと、直接的に聞いた方がよかったかな)」
しまったと思い、笑ってごまかす。
おかしなやつだなと思われ、兵に笑われてしまう。
「あっ、そうだ思い出した!施設で魔力が溜まっている個所がないかな?」
別の質問に切り替えようと、響は思い出したフリをして聞く。
「そりゃ上の階層だな」
「上・・・?」
「資料室がある上の方にあるようだ。その上の階層にいる兵だけが、部屋を開ける鍵を持っている」
「それがあれば、いつでも入れるわけ?」
「いや、時間ごとに鍵が変わる」
「へぇーそうなんだ」
それほど厳重に管理されているんだと頷く。
「えっと、じゃあもう1つだけ聞きたいことがあるんだけど。ここにいる皆・・・つまりゴースト兵の方たちは、なんで食事をするのかな?」
「そんなことか。まぁ・・・死んでいても腹は減るようだ」
質問に答える彼に、響はふぅん〜と頷く。
「ちょっと牢に届けに行く用事を思い出したから、また後でね」
それだけ言うと食器を片付けるために調理場へ戻り、皿を流し台に置く。
瓶を入れた紙袋を抱えて、響は地下牢へ向かった。
「油・・・サラダ油くらいしかないわね」
リカインは兵の目を盗み、サラダ油とボトルを天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)が隠れている棚の戸を開けて入れる。
「これを入れればいいんですね?」
ボトルの中に油をドボドボと注ぐ。
「いつ使うんですか」
「弥十郎くんと相談して決めるわ。他の人を巻き込むわけにはいかないからね」
「そうですよね。全員脱出してないのにそんなことしてしまったら、施設と共に海へ沈んでくださいって言ってるようなもんですし」
「まぁ、そういうことね」
棚の傍でヒソヒソと話し、いつ実行しようか決めようと、リカインは弥十郎の傍へ行く。
「見たところ、この施設って消火機能がなさそうよ」
「誰も侵入出来ないと思ったからそんな作りなのかもね」
「経費をケチッたわけじゃないのね」
火事が起きた時に消化対策として、スプリンクラーが設置されてない天井を見上げる。
「術だけで消せるからいいと思ったのかしら?」
「あちこっちで放火されたら、対応しづらいとは思うけど。何人も兵がいるからね」
「わざわざつけなかったのはそのため?」
リカインは考え込むように首を傾げる。
「ここを壊すにしても、皆が無事に脱出出来そうって確認してからだね」
「じゃあ私たちが最後に施設から出るような感じかしら」
他の生徒が脱出した後に出るのかと、首を傾げて聞く。
「うん、そのほうがいいかも」
「目安として・・・何時くらいになるからしらね」
「皆のいる場所によるけど・・・夕方・・・。早くても午後2時くらいかな?」
「そうね、それくらいがいいわ。2時だって」
時間の目安を聞いたリカインは、隠れているルナミネスに伝える。
「了解しました」
近くにいる2人に聞こえる程度の、小さな声で言った。
「董天君か・・・なかなかイイ女だったな・・・」
床にゴロゴロと転がりながら、李 ナタ(り・なた)が呟く。
彼の呟きに同じ牢に捕まっている2人は、驚きのあまり目を丸くする。
「ナ、ナタクさん!?正気ですか!?」
ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)の声が牢獄内に響く。
「ナタク・・・他人の好みをとやかく言いたくないが・・・。正直・・・お前の正気を疑う・・・」
ため息をつきグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、ぼーっとしているナタクに向かって言う。
いくら強いヤツが好きで、しかも自分を負かした相手だからとはいえ、非道な董天君とイイ女という彼が理解できないという顔をする。
「いくらなんでも、あのような乱暴で、下品で、性格が悪そうで、女性なのに男性みたいで、理性の欠片も無さそうで、もうどうしようもない人を『イイ女』というには流石に無理があります!」
大声でこれでもかというほど、ソニアが相手に対してボロボロに言い放つ。
「・・・ソニア・・・その・・・気持ちは分かるが・・・流石にそれは言い過ぎだ・・・」
「あっ、・・・・・・・・・そのっ」
グレンや他の生徒の前で言ってしまったソニアは、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
「はぁ〜二人とも分かってねぇな・・・まず外見、特にあの鋭い目つきがイイ。あのハスキーな声も俺の好みだったな。まあ性格はちょっとキツイみてぇだがあれはあれで悪くねぇ・・・。一番よかったのは自分を着飾らねぇで、ありのままの自分を出してるところだな・・・」
天井を見上げながらナタクは、彼女の姿と声音を思い出しながら言う。
「なあ、お前らもそう思うだろ?」
牢を見張っている兵に声をかけ、董天君がイイ女かどうか聞く。
「そうだな・・・ぶりっこな女よりずっとイイかもな」
「だろ!?やっぱそう思うよなー」
兵と話すナタクの方へ顔を向けたソニアは、彼が“あの時、董天君に踏みつけられて、変な事に目覚めたかもしれない”と、疑いの眼差しで見つめる。
「(ま・・・まさかそんなはずないですよね)」
自分の考えすぎかもしれないと、思うことにした。
ナタクの方は彼女が思っていることと違い、アレに目覚めたわけではない。
「でもやっぱり、乱暴な董天君がとてもイイ女には見えません」
「まだ分かってないようだな〜。いいか?ああゆうタイプはそういないぜ。ただ、敵同士ってのが残念だな」
「それと2人共・・・盗聴器が仕掛けられている事・・・忘れてないか・・・?」
グレンの言葉に2人はそうだったと思い出し、うっかりしていたと表情をして口を閉じた。
「くぅ・・・もっと戦法を考えればよかったですね。でも・・・次こそは・・・」
赤羽 美央(あかばね・みお)は負けた悔しさで後悔するより、次に出合った時上手く戦える方法を考えようと小声で呟く。
「あれほど口を酸っぱくしてSP管理をしなサイ!と言ってるのに、いつも聞かないからこうなるのデス!」
無茶をした彼女に向かって、ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が怒鳴る。
2度も捕縛されてしまいギチギチに縛られた彼女は、そんな趣味はないと喚きながら転がる。
「うるさいやつだ、ほらメシだぞ」
昼食にGの丸焼きを、ゴースト兵に差し出された。
「なっ、何デスカッ・・・これハ〜!?」
10cmくらいありそうな黒い虫の丸焼きを見て、ジョセフは驚愕の声を上げる。
「美央が来た途端料理の質も、下がってるではありまセンカ!下の下の下もいいとこデスッ」
こんなゲテモノとても食べらないと、首をブンブンと左右に振る。
「美央の所為デース!美央の所為デース!」
「(―〜・・・っ、さっきから言いたい放題。ここから開放されたら覚悟しておくといいです!)」
ギャァギャァと喚き散らす彼女に対し、美央は牢から出たらお仕置きの1つや2つしようと苛ついた。
「(すぐに出られるようにしておかないと・・・)」
愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)は兵に気づかれないよう、術で鎖を溶かそうと考える。
「シーちゃん、ちょいお耳プリーズ」
すぐ隣で縛られている何れ 水海(いずれ・みずうみ)に声をかける。
「耳はあげられないのだよ」
「本当に千切って貸してもらうわけじゃないって。ちょっとこっちへ来て」
「なんなのだ?」
耳を貸してと言われ、彼女の方へ耳を近づける。
ゴースト兵の気を引きつけるために、2人で歌おうと話す。
気づかれないようにミサは、歌いながら鎖をアシッドミストで溶かそうとする。
「(うぐぅっ、手が!)」
酸の影響で手に火傷を負ってしまう。
痛みに耐えようとするが、ガシャガシャッと鎖の音を立てしまい、物音に気づいた“兵が何をやっている!”と怒鳴った。
「なっ、なんだよ。歌っているだけじゃない!」
しまったと思い、ごまかそうと歌い続ける。
「暇なんだもの!いいでしょ歌うくらい!董天君も何も教えてくれない上に、あんたたちまでけちんぼなの?!」
ムッとした表情で文句を言う。
「せめて俺だけ!・・・でないとシーちゃんにもう1回歌ってもらうよ」
「うるぇせ小娘だ。撃つぞ」
「やれるもんならやってみなよっ」
ハンドガンの銃口を向ける兵に怯まず、負けてたまるかとミサは大声で歌う。
「黙らせるぞ!」
ミサと水海を黙らせようと、ゴースト兵は彼女たちの牢に向かって銃弾を放つ。
「わぁあっ、本当に撃ってきたーっ」
それでも負けるものかと歌い続ける。
「(身体に力が入らない・・・。演技じゃなくて・・・本当にヤバイ状況だな、これは・・・)」
死んだフリをしようと氷術で、自分の身体の温度を無理やり下げようとした椎名 真(しいな・まこと)は、凍傷になりかけている。
それに加えて天井につけられているレンズに魔力も奪われてまともに動けない。
生きようとする気力だけで、意識を保っているのだ。
「その丸焼きじゃ食べづらそうだから、こっちのと交換してあげるよ」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)はGの丸焼きと、弥十郎が作った料理を交換してやる。
「凄い香ばしい匂いがするね・・・」
10cmくらいありそうな黒い虫の丸焼きを見つめる。
「こんなのでも食べないと、あとでバテそうだからしょうがないけどさ」
かぶりつくと口の中にモソモソと小さい虫が入り込む。
噛み砕くとプチッという音がした。
「変わった食感だね」
メスのGの腹にいる子供たちを食べていると気づかず、食べきってしまう。
「―・・・なぁ、ここの兵になる前は何をしていたんだ?」
交換してもらった料理を食べ、少しだけ喋れる状態に戻った真が兵に聞く。
「大工だが、それがどうした」
「そうなのか・・・。君は誰に殺された?」
以外とあっさり答えた彼に驚きながらも、真は質問を続ける。
「別に・・・誰かに殺されたわけじゃないが。何でそんな聞き方をするんだ」
「いや、ちょっと気になってな」
逆に問い返され、返答に悩んでしまう。
「現場で150m上から転落しただけだが、それがどうした?」
何でそんなことが気になるのかと、顔を顰める。
「死因を聞いてみたかっただけだ」
「まぁ、今となってはどうでもいいことだがな」
「(死ぬ寸前のことなんて普通、思い出したくもないと思ったけど。生きているヤツと死んでいるヤツの考え方って、違うところがあるんだな)」
質問に答えた亡者に対して真は、生きている者と死んでいる者では若干、考え方が違うのかと思った。
「あのさ・・・この前から気になってるんだけど。エネルギーはどこにいくんだ?」
「そんなこと知ってどうするんだ」
「あー教えねえんじゃなくて教えられねえんだろぉ?下っ端だもんなあお前。大した情報も与えられず使い捨てー憐れだねえ」
真の隣にいるカガチが兵を挑発するように言う。
「貴様らのようなやつらが知る必要はない」
「違うのー?じゃあこのレンズの仕組みくらい把握してんだよなあ下っ端チャーン♪」
「そんな安っぽい挑発で聞きだせると思っているのか?」
「挑発?さぁてねぇ。ただ知りたかっただけさ」
「何のために?」
「強いて言えば、信じている仲間のために・・・かな」
「―・・・・・・」
兵は言葉を返さず、牢の見張りに戻った。
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