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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−2/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−2/3
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第3章 古代戦艦修復計画・前編



 夜が空けて、今日も今日とて、戦艦島ドックにトンカチの音が響く。
 支倉 遥(はせくら・はるか)は甲板の上に大きな一枚布を敷き、なにやら紋章を描いていた。
 描いているのはロスヴァセ家の紋章だ。ペガサスのシルエットにハルバードが重なったものである。
「アーティフィサーとして来たのに、なんだかアナログな作業になってしまいましたねぇ……」
 そう言って、遥は汗を拭った。
 本当は光条兵器技術を転用してビームフラッグならぬ、光条旗を開発しようとしていたのだ。しかし、光条兵器技術は解
明されていない部分が多く、アーティフィサーと言えども理解する事が出来なかったのだ。
 そして、今、布に絵を描くという手法に仕方なく頼っているところだ。
「ねえねえ、ここはこんな感じで良いかな?」
 御凪真人のパートナー、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が声を上げた。
 アナログ作業になってしまった遥にとってありがたい事に、セルファが手伝いを申し出てくれたのだ。
「すみませんね、なんか手伝ってもらう事になってしまって……」
「気にしなくていいよ。真人は適材適所って言ってるし、人手のないところは手伝わなくちゃ」
「適材適所、ですか……、私より若干上手いですね……」
 セルファの描いている部分に目を落とし、遥は少しだけ悔しそうに口を歪めた。
「ところで、こっちにも旗があるけど、なに?」
 そこにはもう一枚、大きな布が置かれている。
 手に取って広げてみると、クィーンヴァンガードの紋章が大きく描かれていた。
「これって……?」
「ええ、一応作ってみたんですけど、まぁ、機会があれば使ってみれもらえれば、と……」
 どんな機会に掲げるのかはわからないが、一応、そこは空気を読むつもりの遥である。
 そんな二人の後ろの方で、ガヤガヤと騒ぐ声が聞こえた。
 遥のパートナーの屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)が通気口に挟まっているのが見えた。彼女には艦内の詳細なマップを作るように指示をしておいたのだが、こちらにお尻を向けて、足をジタバタさせている。
「……詰まった。この前まではこのくらい通れたのにぃっ!」
 どうやら胸が引っかかってしまったらしい。
「なんだ、それは……、私に対する当てつけか何かか?」
 同じくマッピングを担当していたベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は舌打ちした。
 と言うのも、胸なし・高身長・男前なルックスと、彼女はコンプレックスの三冠王なのである。
「にゃ〜、そんな事ひとっことも言ってないにゃ〜。それよりここから出して……」
「私は忙しいんだ、他を当たってくれ」
 そっぽを向いて行こうとすると、伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が肩をぽんと叩いた。
「そうきつくあたるなよ、ベアトリクス。いいじゃねぇか、胸がないくらい。死にゃしねぇよ」
 危険な目つきで睨む彼女を尻目に、正宗はかげゆの足を掴んで引っ張り始めた。
「ふん……。姿が見えないと思えば……、今までどこに行ってたんだ?」
「サボってたわけじゃないぜ。貴様らと同じく地図制作だよ。あとは艦内の巡回ってところだ」
「巡回だと……? これは5000年前の船だぞ? 何も潜んでいるわけがないだろう……?」
 ベアトリクスが眉を寄せると、正宗はニヤリと笑って、おばけのように手を下げてみせた。
「いや、わからんぜ。5000年前の戦没者の霊が夜な夜なすすり泣いたりとか……」
「と言うか、貴公も霊だろうが……」


 ◇◇◇


 一方その頃、船底では、朝野未沙がアサノファクトリーを総動員して作業に当たっていた。
 昨日のうちに連絡を入れ、パートナー達に必要な資材と工具を持ってくるように頼んでおいたのだ。修理を仕事にしている彼女たちなので、その手際はよく、まるで町工場の流れ作業を見ているようだった。
 まず、彼女たちが用意したのは大量の『ひび割れた装甲板』である。
 勿論、このままでは使いものにならないので、未沙が火術で装甲板を焼き直し、戦闘に耐えうる装甲板を作る。これで各破損箇所を埋めるというわけである。破損箇所に合わせ、それぞれに微妙に曲げているあたり、プロの仕事だ。
「……で、マスターの作った装甲板に、未亜が穴を空けるわけなんだよっ」
 説明的に呟き、朝野 未亜(あさの・みあ)は光状兵器のレーザーガンでリベット用の穴を空けていく。
 四隅と辺の中点、計8箇所だ。
「その次は、私の仕事になりますぅ〜。この装甲板を打ち付けていくんですよぉ〜」
 またも説明的に語ると、朝野 未那(あさの・みな)がリベットガンで破損箇所を塞いでいく。
「こう作業をしているとですねぇ〜、破損箇所の隙間から中が見えるんです〜」
「何が見えるのかなぁ?」
 ふと、未沙が質問した。
「電気系統の配線とか、その他の配管ですねぇ〜。これが破損してるとコワイのでぇ〜、直しちゃいますぅ」
 断線箇所をリングスリーブで圧着し、感電を防ぐためビニールテープを巻いて絶縁を施した。
「……うん、完璧だよ。その調子で作業を続けてね」
 そう言って、未沙は撮影していたカメラのスイッチを切った。
 彼女は、今、監視カメラの起動確認を行っているところだ。たくさんのカメラが床にズラリと並べられている。
「そんなにたくさん、何に使うつもりなんですぅ〜?」
 尋ねたのは、桐生ひなだった。
 彼女はロープでぶら下がりながら、船体に塗装を施している。彼女なりに考えて、色彩の主題に『騎士道』を選んだ。清楚で堅実な雰囲気、どこかフリューネをイメージさせる色彩なのかもしれない。
 白をベースカラーにして、黒と黄をアクセントカラーに添える予定だ。
「これはね、船内のお部屋に監視カメラを設置しようと思ったの」
 見上げながら、未沙はさらりとアブノーマルな発言をする。
「えっ?」ひなは言葉につまり「えっと……、のぞき的なご趣味なのですかぁ?」
「ち……、違う違う。あたしメイドだから、自分の部屋で他の部屋の確認ができると助かるんだよ」
「なんじゃ、つまらんのぅ。おぬし、道具の使い方をいまいちわかっておらんなぁ」
 ひなの相棒、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がミシンを走らせながら言った。
「そ、それじゃ変質者じゃないのよ……」
「言葉の悪い女子じゃ、そういう奴は『自分に正直な人間』と言うんじゃぞ……、っと完成じゃ」
 ナリュキは縫っていた服を広げた。それはまさしくフリューネが着ているものと寸分違わぬ衣装だった。
「フリューネさんと同じ服……? どうするの、それ?」
「戦艦といえば乗組員のユニフォームが必要じゃろ? そして、幸運な事に、妾はフリューネのオリジナルの服を持っておる。となれば、量産するしかないのじゃ。ほれ、なかなかよくできておるじゃろー?」
 未沙は服をまじまじと見つめ、じゅるりとヨダレを拭った。
「あのこれ、一着もらっても……」
「ふっふっふ、早まる出ないわ。ちゃんと全員分用意するつもりじゃ!」
 全員分……、つまり男性用のサイズもちゃんと用意するとの事。何か大変な事になりそうな予感である。
 とそこに朝野 未羅(あさの・みら)がとてとてと駆けてきた。
「おねーちゃーん。あのねあのね、水道のところが壊れててね、えっとえっと……」
 口ではうまく説明出来なかったので、未羅はメモリープロジェクターで破損箇所の映像を投影した。
 未沙はふむふむと頷くと、未羅の言わんとしている事を理解した。
「このひび割れを埋める部品が欲しいのね?」
「そうなの」
「わかったわ。今作ってあげるからね」