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リアクション
第八章 VS室長
戦闘からだいぶ時間が経ったゴーストコントロームルーム。
激しかった攻防も、敵の数が減ってきたことによって次第に優勢へと向かっていた。
そんな中、洋たちより遅れて入ってきた霧島 春美(きりしま・はるみ)は、ゴーストが監禁されている部屋を探していた。
超感覚を使っているため、頭部からうさ耳が生えるというキュートな姿になっていたが、割と真面目に調査をしている。
「くぅ〜! 鋭い推理力を持ったこの霧島春美が、一番乗りを逃すなんて……。こうなったら、ゴーストさんたちへの道は意地でも見つけるんだから」
誰もいなくなった最下層のフロアから伸びる通路。二つあった道のうち、左へとその足を進めていた。
と、曲がり角で、二人の人物と出会った。
泣きそうな顔で周囲を警戒している陽と、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)であった。
「あっ、春美おねえちゃん!」
「ふぁっ!」
「もしかして、二人とも、ゴーストさん探してたりしてる?」
疑問を投げかける春美。
「ボクは敵を追跡しつつ、内部構造を調べるためがんばってここまでは来れたものの……怖くて怖くて……」
尋問の後、陽とテディはゴーストコントロールルームの奥へ向かった。道は二つあったが、内部構造を調べると言って、あえて陽は別行動を取っていたのだ。
「そんなとき、陽おにいちゃんと出会ったのです」
ヴァーナーが言葉を繋ぐ。
(なにこれ……ビビリショタっ子に純粋系アイドルっ子? モエス! テラモエス!)
不謹慎な妄想をする春美。
と、そこに、
「なっ! 侵入者かっ!? 死ねぇっ!」
銃を構えたテロリストが現れた。
「っ――危ないっ!」
超感覚で敵の奇襲を感じ取ると、二人を抱きかかえるように床に押し倒す春美。
すかさず指を弾いて炎を放つ。ピンポイントで銃を叩き落した。
「痛っ、くそっ……」
「待ちなさい!」
空飛ぶ箒に跨る春美。
「陽ちゃん、ケガしてる。回復してあげますね」
転んだときに出来た擦り傷をナーシングで癒すヴァーナー。
「あ、ありがとうヴァーナーさん」
「二人とも準備はいいかしら?」
返事も聞かず春美はそのまま追跡をはじめた。
「わわっ……。ボクも行きます〜」
「ひ、一人にしないで〜」
陽とヴァーナーも必死でそれに続く。
数分ほど走っただろうか。テロリストを含めた四人は、一つの小部屋の前まで来ていた。
扉を開けると、掘って作ったような竪穴があった。煙突のような形をしたそれは、中に梯子が取り付けられている。
「はは〜ん……わかった。テロリストは、ここから来てるんだわ」
「えっ、どうしてわかるんですか?」
「考えてみて。こんな非常事態にも関わらず、ゴーストコントロールルームに多くの敵が押し寄せてきたのよ。常時待機してるって理由じゃ納得できないほどに。じゃあどうしてテロリストたちはあんなにいたのか。それはね、この通路を伝って降りてきていたのよ!今入っていったテロリストを見て確信したわ」
「なるほど! すごいです。さすがマジカルホームズ!」
「ふっふっふ……さて、んじゃこの梯子を壊しちゃいましょう。そうすれば解決よ。おそらく地上から伸びてるんでしょうけど、無理して降りてこようとすれば、ぐちゃり、よ」
「うっ……」
落下して死体になった人間を想像して、陽は眉を顰めた。
春美は、竪穴に入ると、火術を使い、梯子を壊した。
「よし。これで敵は来れないはず。あとは――」
「ゴーストさんたちの救出です」
「そうね。こっちじゃないってことは、たぶんもうひとつのほう。ラジオがあるから、電波の乱れとかを頼りに探しましょう。たぶん反応する……はず」
「ボ、ボクも一緒に行きます。パートナーにここの構造を教えないといけませんから」
三人は、ラジオの曲に導かれるように先を急いだ。雄々しいアップテンポの曲がノイズ交じりに流れ出した。
春美たちが再び動き出したころ、彼女たちよりさらに奥へと至っていた洋、みと、波音、アンナ、ララ、北都、昶、クロス、テディは、残り少ない敵を減らしていた。
「クロスさん! そいつで最後です」
「わかりました! はっ!」
北都の言葉を受け、クロスが大鎌を振る。目の前にいたテロリストは、武器ごと切断され、血を噴出して倒れた。まるで死神に魂を狩られたかのように。
「片付いたか……」
「そのようですわね……」
安心のため息を零す洋とみと。
数秒間、静寂が流れる。
本当に、数秒間だけだった――
「ぬわっはーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
部屋の壁を突き破って、大音声と共に、巨大な影が現れた。
「きゃうっ!」
びっくりして尻餅をつくララ。
視線の先には、美術館にあるような西洋の甲冑で身体を包み、両拳に分厚い鉄鋼をはめた、スキンヘッドの巨漢がいた。
「室長、さあああああああんじょおおおおおおおおおおおおううう!!!」
再びの大声。
「なっ……この人が、室長……?」
「いや、なんつーか、想像の斜め上を行ったな。そうそう、フルメタルな錬金術師に出てくる筋肉マンみたい」
北都と昶もまた、驚きを隠せない。
「よくぞここまで来たな。だがここまでだ。ここから先に行きたければ我輩を倒してからいくのだああぁぁぁっ!」
いきなり走り出す室長。
驚いて動けないララに狙いを定める。岩のような拳が猛スピードで迫る。
だが、攻撃は、クロスによって防がれた。
ディフェンスシフトで強化された防御力を使って、ララを庇ったのだ。
「はやく、逃げてください」
咄嗟に動いた波音が、ララを引っ張ってその場から離れる。
「あなたみたいなビジュアルの人が、ララさんに襲い掛かったら犯罪ですよ。このロリコン!」
「なっ……。我輩はただ、正々堂々と勝負をしたかっただけで……その……」
クロスの容赦ない言葉に室長は気まずそうに視線をそらす。
戦闘への意識が、一瞬だけ消えた。
その隙を逃さない。
北都、昶、テディ、洋、みとが襲い掛かる。身体検査で弱点を見つけた北都が、四人に指示を出す。
「みんな、室長の弱点は、鎧の隙間、間接部、そして頭部ですぅ」
「わかった。いくぜ。テディ!」
昶は持ってきていた小袋を取り出し、中のものを掴むと、室長へと投げつけた。室長の動きが止まる。
彼の手から飛び出したのは、細かい砂。目潰しの効果が期待できると持てきたが、なるほど、実際効果はあったようだ。
「ナイスアシスト。あっきー! 喰らえ! 名付けて、ダブルチェインスマイト!」
繰り出される鉄甲と忘却の槍による、双撃。
ただ二人でチェインスマイトを繰り出しただけだったが、ダメージは大きい。
右腋に刺突、顎に文字通り鉄拳を受け、室長は呻吟した。
「くう、しまった。油断したっ! ぬぇえええいい」
ダメージを受けながらも、横薙ぎの手刀を放ち二人を吹き飛ばす。床に転がる二人。
戦闘の連続のためか、二人の身体は悲鳴を上げていた。
「りゃあああああっ!」
「ええいっ!」
二人の穴を埋めるべく、洋とみとが、それぞれ交互に攻撃して時間を稼ぐ。
波音たちはSP回復を行っている。攻勢に転じるのはもう少し後だろう。
「まだまだ……行くぞおおおっ!」
構えなおした室長が、突進を開始する。
再びクロスが防御態勢で割り込むが、果たして耐えられるかどうか。
まっすぐに向かってくる室長。
ある程度の覚悟を決めたとき、急に室長の進行方向が変わった。
いや、強制的に変えられたと言っていい。
進行方向の横から飛び出した人物、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)とデュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)の同時攻撃によって。
「……」
「ふう。何とか間に合ったって感じですか」
彩蓮は包帯を顔中に巻いているため、素顔は見えない。隣で光学迷彩を解除したデュランダルは、黒騎士の風貌を周りに放ちながら、今振った処刑人の剣を構えなおす。
「あなたはまさか、志々雄ま――」
「あっ! 『夕べのロース売れんかいなぁ!』って悩んでる肉屋の販売員!」
「えっ! マジで!? 地獄から戻ってきたかと思ったら、そこの黒騎士と一緒にパラミタを国盗りしちゃうのか?」
勝手なことを言い始めるクロス、昶、テディの三人。
「ああ。誤解させてごめんなさい。私はそんな幕末の人斬りじゃありませんよ」
するすると包帯を取っていく彩蓮。
「ピンチそうだったので、助太刀致しました。では、永太さん、デュランダルさん、ここはお願いしますね」
ブラックコートと光学迷彩で姿を消すと、デュランダルに指示を出し、そのまま戦線を離脱する彩蓮。
「よっし! 永太もがんばります」
神野 永太(じんの・えいた)が、戦線へと躍り出た。
「先にいきますね! デュランダルさん!」
「くううっ! お、おのれぇぇぇっ! 我輩は負けんぞぉ!」
ガシン、と音を立てて立ち上がる室長。
瞬間、速攻で永太が走り出す。怪力の篭手から繰り出されたのは、大振りのパンチ。俗に言うケンカパンチである。
戦闘に携わる人間ならばかわせるその攻撃を、しかし室長はかわせなかった。回避という言葉が似合わないほど、彼は大柄だったのだ。
さらに、全身が鎧だったのも不利に働いた。
具体的には、重さのあまり、頭で考えるより遅く身体が動いてしまったことと――
もう一つは、鎧を伝達して、大きな衝撃が伝わってきたことだった。
「うおりゃああああああああっ! 抉りこむように――打つべしっ!」
打撃を続ける永太。
「ぐうっ、ああああああ!」
後ずさりし、たたらを踏む室長。
弱点を攻める北都たちと違い、ゴリ押しによる攻撃だったが、思いのほか効果があったようだ。
「……」
攻撃は終わらない。
「よくもさっきはララにひどいことしたわね! いくわよ。サンダーブラストッ!」
回復した波音が、キレたのである。
室長の頭上から、電撃が生まれ、稲妻となって降り注ぐ。
「あああああああ、がががががががっ!」
全身が鎧であることで不利に働いたことが、もう一つあった。
ほとんどの金属は、伝導体である。室長の鎧も、その例に漏れていない。
ぷすぷすと身体から煙が立ち上る。
「っ……」
そこに、疾走するデュランダルが、ぐるんと剣を回転させて脇腹に斬撃を滑らせた。
ガギン、という金属音を響かせながら、室長は倒れた。
「ふう……。倒したかな……。さてと」
永太は日本酒を取り出し、大きく呷った。
「ぷはーっ! デュランダルさん、一緒にどうです? あれっ?」
いつの間にか、デュランダルの姿は無かった。ガチャガチャという音だけが、聞こえた。
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